第208話 メナトは真の苦労神

 夜が刻一刻と更けて行く中、未だ本題に辿り着かない話し合い。

 もう、手早く終わらせてしまおうかと考えていたが、本題の話を考えた時に疑問が浮かんでしまった。

 また脱線しそうだし、話すべきじゃないよなぁ……。


「魔力の扱いについてかい?」


「だから思考を……はぁ、もう良い」


 毎回、同じくだりをやるのも疲れたので、さっさと疑問点を話していく。

 その疑問についてだが、答えは簡単だった。


「初めからいる者と、途中から来た者。後は異物かな? 同じ条件下の筈なわけないじゃない」


「前提条件の違いか?」


「妊娠期からお腹にいる者と、中途の者。しかも、魔力と言う物に触れていないんだから」


「あー……そっちか。それと、幼少期の違いか?」


「そうだね。だから、彼らには必要な手順なのさ」


 そう言うと、メナトは話を終わらせた。

 まだ少し騒がしいが、本題に移るまでは話さない模様。

 俺も寝る時間を減らされたくないので……ん? なんだ? 今、下から、変な音がしたが……。


「どうやら、時間切れみたいだね。はぁ、本当に、何時、本題に移れるのやら」


 黙っていたメナトから、もの凄く深いため息が零れ落ちた。

 しかし、時間切れとは一体?

 だが、その答えは直ぐにやって来た。

 勢い良く扉が開かれ、そこに居たのは、まさかのセブリーとトラーシャ。


(時間切れってそう言う……。確かに、話が纏まらなさそうだよなぁ)


 何となく、がっくしと肩を落とす俺。

 メナトも同じ気持ちだったらしく、もう一度、深い溜息を吐いた。


「話しは終わったか?」


「終わって無いなら、俺らも混ぜてくれ」


 悪びれた様子もなく、自分達の要望を言い始める脳筋二柱。

 その脳筋の後ろには、結構ボロボロになったリアとリュールがいて、二柱を止めていた。

 正確には、止めたが止めきれず、服を掴んだ状態で、引きずられてきた――が正解みたいだが。


「セブリー様、僕もっと、色々と教えて欲しいな」


「トラーシャ様。手合わせ」


 二人して、どうにか気を引こうとしている様だが、脳筋二柱は聞いてすらいない。

 二人共、なんて不憫な。

 心の中で泣いておくとして、脳筋共はご退場願おう。


「セブリーもトラーシャも、邪魔だから出てけ」


「いや、ラフィ。そんなド直球で言わなくても――言わないと、あの二柱はわからないか」


「お前ら、酷くね?」


「どうせ、本題はまだなんだろう? 少し気になる事があるから、俺も混ぜろ」


 苦情と要望を言う脳筋二柱。

 とは言え、これ以上、かき乱されるのは御免被りたい。

 だが、俺の考えは読まれている様で、言葉にする前に先手を打たれてしまった。


「邪魔はしねぇ―って。それに、そこの3人には気になる事があるんだよ」


「セブリーもか? 実は俺もだ。ラフィ、俺達の気になる事は、本題にも大きく関わってるぞ」


「ちっ。余計な知恵を。メナトが原因か?」


「流石に、それは酷いと文句を言わせてくれないかな? 私だって、少し驚いてる位なのに」


「「だからお前ら、さっきから酷くね?」」


 脳筋共が異議を唱えているが、完全スルーしておく。

 だが、リアやリュールに、これ以上の負担はさせたくないのも事実。

 仕方なく、二柱の参加を許可する。

 って! 言ってる傍からはしゃぐな脳筋共!


「ラフィ、なんかすまない。ああ、頭が痛い……」


「その気持ちは良くわかるぞ。だが今は、本題が先だ」


 俺の言葉に頷いたメナトは、はしゃぐ脳筋共に拳骨を落として黙らせた。

 流石メナト、扱い方に年季が入ってるな。


「人を年寄り扱いしないでくれないかな」


「悪い悪い。じゃ、皆、座り直してくれ。この脳筋バカ共の面倒は、メナトが見るから」


 最後の言葉に、メナトはとても嫌そうな顔をした。

 だが、抑止力的な事を考えると、メナトしか適任がいないのも事実。

 メナト自身も分かっているからこそ、文句は言わずに受け入れて、傍に脳筋共を座らせた。

 俺とメナトは、静かに、素早く視線を交わし、軽く頷き合った。


 ――頼むから、大人しくしていてくれ――と。


 こうして、ようやく、本題へと突入する事に。

 あ、リアとリュールには、下で休んでおいてくれと、言っておいた。

 今頃は、ナユに回復魔法を掛けて貰っているだろう。

 二人共、本当にご苦労様だった!


「なんかラフィが感涙してるけど、とりあえず放置して、本題に進むとするよ」


「ラフィ様、始まりますよ」


「おっと。……お待た。じゃ、始めるか」


 こうして、ようやく、本題へと移った。

 さて、話をする前に、本題の内容について話す。

 俺やメナトが本題と言ってる話だが、簡単に言えばステータス全般に関してである。

 では、何故、召喚者組も? と、思うだろう。

 これは以前にも話したと思うが、ステータスの中でも、加護に関しては再確認する者はほとんどいない。

 何となく見てみたら、なんか増えたり減ったりしてるのが大半だ。

 その増えたり減ったりも、ほとんどの人が未経験である。

 そして、この世界の理にあるのなら、加護があって当たり前なのだ。

 しかし、八木達は少々事情が異なる。

 召喚者組は、その名の通り、召喚された者達だ。

 だが、神側の召喚ではなく、神喰の欠片を利用しての召喚である。

 そこで、ふと思い出したわけだ。

 以前にステータスの確認はしてあるが、加護の確認まではしてなかった事に。

 そうなると、加護は一体どうなっているのか?――と言う疑問が出て来た。

 結果、転生体組の確認もあるので、一緒に確認してしまおうと言うのが本題だ。

 事と次第によっては、処置が必要になるとも考えている。

 その事を話すと、八木達召喚者組は頷いて了承した。

 処置と言っても、死に直結する内容ではない事は、勿論だが話してあるぞ。


「……と言う訳で、まずは転生体組から問題が無いか確認して行く」


「質問!」


「どうぞ」


 美羽が手を上げて質問してきたので、答えられる内容なら答える。

 無理なら、ぼかして答えると伝えてあるので、それを了承しての質問だ。


「ステータスって、個人情報に近い?」


「あー、言われてみればそうかも」


「それを見せるの? 不知火君に?」


「うっ!」


 美羽の言う事は、ごもっともである。

 流石に、スリーサイズとかの記載は無いが、魂や体に刻まれた情報を見るのとほぼ変わらない。

 これは困った。


「私からも良いかい? えーと……美羽だったかな?」


「はい」


 今度は、メナトから美羽に質問があるらしい。

 何となく、ややこしくなりそうな気が……。


「神と神の資格を持つ者に見せるのは駄目なのかい?」


「駄目と言うか……自分も知らない事を先に見せるのに抵抗が……」


「ふむ……もう一つ。同性なら、問題無いのかな?」


 メナト、一体何を言う気だ?

 珍しく、心臓がバクバクいってる気がする。


「意図が分からないんですが?」


「これはすまない。簡単に言うとだね、一斉に見せて貰って、一つ一つ説明しようと思っていたんだよ。召喚者組は、その後だね」


「他の人にも見られるんですよね?」


「とりあえず、見るのは私とラフィだけだよ。この二柱は、口が良く滑るから。話していけない事は話さないんだけど、そうじゃない事柄は、氷並みに滑って話すからね」


 そう言って、脳筋二柱を睨むメナト。

 その視線に対して、二柱は吹けてない口笛を吹いて、顔を逸らしていた。

 メナトも苦労してるんだな――と、改めて思った。


「そうだ。一つ言い忘れてた。ラフィはね、別に見なくても裏技があるから」


「裏技?」


「あっ、このバカ……」


「とあるスキルで、情報を手に入れて来れるから、見ても見なくても一緒なんだよ。まぁ、極力は使わないようにしてるけどね」


 メナトを止めようとしたが間に合わず、隠しておきたい情報を漏らされた。

 一応、フォローは入れたのだろうが、何も嬉しくない。

 だってさ、え? うそでしょ?――ってみたいな目で見られてるんだぜ?

 その後にさ、個人情報を盗む犯罪者って目で見てくるんだぜ?

 メナトにキレて良いっすよね?


「そんな顔しない。ラフィがそれをする時は、緊急事態で、可及的速やかに、問題を解決しなければならない時だけだから。因みにさ、ラフィはどれくらい見たんだい?」


「メェナァトォ……ガチギレして良いよね? よね?」


 原初の気配を感じ取ったメナトは、冷や汗を流して弁明を開始。

 勿論、全員に分かるように弁明をしたのだが、脳筋二柱が有罪ギルティを出した。

 それにキレるメナト。

 場は一気にカオス状態に――ならなかった。


「ラフィ様、落ち着いて下さい。私達なら、いつでもお見せしますから」


 ミリアが俺を優しく抱きしめながら、見られるのに何も問題は無いと告げて、怒りの鎮静化に入ったのだ。

 そして、ミリアに続けと、この場にいる他の婚約者達も。

 メナト? 知らん。


「ふむ。やはり、ミリアは良い香りがする。鎮静効果は抜群だな」


「それは良かったです」


「ねぇ、私達は?」


「鎮静効果抜群だぞ。そして、イーファのモフモフは破壊力抜群だ」


「なんで妾だけ破壊力なんじゃ!」


 イーファだけが違う事に文句を言っていたが、これもいつものやり取りだ。

 尚、イーファからも良い香りはしているのだが、実は本人、とっても気を付けていたりする。


 以前、ヴェルグの何気ない『あれ? なんか獣臭がしない?』と言う一言がきっかけだった。

 実はヴェルグ、もの凄く鼻が良い。

 異常だと思うくらい良いのだが、俺達人族は勿論の事、同族すら気付かない僅かな匂いを察知したのだ。

 で、その人物がイーファだった。

 あの時のイーファの狼狽えようは、神獣の系譜とは思えない程であった。

 以降、イーファは匂いに関して、細心の注意を払うようになったのだ。


 閑話休題


 とまぁ、そんなわけで、俺は良い匂いのする美女に囲まれて、鎮静された。

 そして、それを見ている面々がいるわけで。


「ねぇ美羽ちゃん。これどうするのよ」


「そ、そんなこと言われても……」


「天音の気持ちはわかるけど、これって箒のせいか?」


「そうは言うけどよ、輝明。発端は美羽じゃね?」


「黙れ、変態」


「その変態の彼女な訳ですが?」


「……別れようかしら」


「わぁーーー! すいませんでした! だから別れるのだけはどうか!」


「あんたらも、ビミョーなピンク空間作ってんじゃないわよ!」


「悔しかったら、蛍も彼氏作るんだな」


「良く言ったわ。美羽、ぶっ殺して良いわね?」


「お好きにどうぞ」


「え? マジ? わっ、ちょっ! グーパンはダメだって!」


「がんばれー」


「輝明てめぇ! 他人事だと思いやがって!」


「だって他人事だし」


「ねぇ、それよりも、この状況どうするの?」


 雪代さんが言葉にしたこの状況。

 実は、メナトは今までの鬱憤が爆発したのか、脳筋二柱を正座させ、説教中であった。

 そして、俺はピンク空間形成中。

 確かに、どうするの?――と言いたいだろう。

 なので、鎮静化して落ち着いた俺がメナトに声を掛ける――前に、説教中のメナトに拳骨一発。


「ーーーーーっ! 何をするんだいラフィ!」


「さっきの分の仕置きだ。それで勘弁してやる」


 俺の拳骨で、お説教が中断した脳筋共はホッとした顔をしているが、すかさず絶望に落としておく。


「全部終わったら、一部屋貸してやる。そこで思う存分、説教したら良いじゃないか」


「本当だね?」


な。逃げた場合は知らんけど」


「わかった。では、さっさと済ませよう」


「「「「「「「「「決断と元に戻るの早っ!」」」」」」」」」


 尚、脳筋二柱が早速逃げ出そうとしたので、原初の権限で逃げられないようにしておいた。

 メナトって、苦労の絶えない中間管理職に見えて来たわ。

 前世で、仲の良かったお隣さんの親父さんが良く愚痴ってたのを思い出す。

 うん、全く同じだわ。

 上からの命令と、言う事聞かない部下や同僚。

 全く同じであったので、何故か同情してしまう。

 今度、酒でも飲み明かすか。


「さぁラフィ! さっさと終わらせよう! 美羽の質問は却下で、強制閲覧だ!」


「メナトがビミョーに壊れたな……。で、箒はそれで良いか?」


「モウナンデモイイデス」


「なんで片言なんだよ……」


 そんなわけで、メナトによる強制閲覧――ステータスは自分で開かせた――を執行する事に。

 まぁ、個人情報保護法なんて、この世界には無い……いや、罰則が無いだけで、あるにはあるのか。

 一応って注釈はつくけど。

 まぁ、その辺りは後回しにして、今は本題に取り掛かろう。

 その後は、ステータスにおかしい所が無いか見て行くわけなんだが……やっぱりやらかしてやがった。


「おいメナト」


「…………」


「なんなんだ、この魔力量はよお!」


 6人の魔力量。

 一番少ない数値でも、1億。

 尚、一番低い数値は輝明だった。

 対して、一番高いのは、まさかの潤である。

 その数値、まさかの28億。

 予想の斜め上過ぎて、何も言えねぇ。


「ひゃっほー! 魔法が使い放題だぜ」


「メナト、わかってるな?」


「ああ。彼の修練はスッペシャルでは収まらないようだね。ヘルで行こう」


「ごめんなさい調子に乗り過ぎました。だからどうか地獄モードだけは勘弁して下さい」


 超絶早口で、土下座をしながら、更に上の修練は勘弁して欲しいと願い出る潤。

 しかし、それを横から断る人物が。


「えーっと、メナト様? 地獄コースでお願いします。ついでに、変態も直してもらえませんか?」


「努力はしよう」


「決定事項ですか!?」


 潤の修練は、スペッシャルからヘルに変わった瞬間だった。

 尚、魔力量だけの順位と数値だが、潤が1位で28億、次点が雪代さんで16億、その後は、澄沢が14億、蛍が9億、美羽が6億、最後に輝明で1億だ。

 まぁ、輝明の1億でも、既にやらかし案件なんだけどな。


「さて、次は肉体の基礎値なんだが」


「そこは、この世界で生き抜くために必要な数値に設定しているよ。ウォルドを参考にさせて貰ってね」


「……嫌な予感しかしないんだが?」


 メナトの言葉を受けて、嫌な予感をしながらも見てみた。

 だが、特別高い数値では無かった。


「ウォルドが駆け出しの頃の数値を当て嵌めたんだよ。どう伸ばすかは、この子たち次第ってわけさ」


「魔法特化型ウォルドが出来上がる可能性もあるのか……」


「修練次第だね。暫くは滞在するから、よろしくね」


 どうやら、最後まで面倒は見るみたいだ。

 もしかして、シルやジーマも来たりするのかね?

 ……我が家は何時から、神の宿泊場になったのだろうか?


「深く考えない方が良いんじゃない?」


「元凶だろうが。まぁ、金はあるし、構わないけどな」


 ちょっと雑談してから、今度は魔法属性の適性を見て行く……見て行くのだが――。


「おい」


「これは……私にも予想外だった」


 二人して絶句している理由。

 なんと6人共、8属性持ちであったからだ。

 ただ、メナトの反応を見るに、予想の斜め上だったみたいだ。

 後、申し訳ない程度の時空間魔法も固定適性があった。

 時空間魔法に関しては、レベルが上がらないと言う事だ。

 こんな面倒な事をしていると言う事は――。


「絶対、ジーラやジーマが噛んでるだろう」


「だね。私にも知らせないとか、周到過ぎるね」


 メナトの言葉が一音低くなった。

 怒っているのとは違うようだが、思う所はあるらしい。

 とここで、脳筋の片割れ――トラーシャが爆弾を落とした。


「あ、いっけね。メナトに魔法関係話すの忘れてた」


「”あ?」


「メナト、どうどう」


 メナトさん、マジでガチギレ5秒前です。

 誰か、助けて下さい。

 その祈りが通じたのか、扉がノックされた。

 部屋の前にはナリアが待機しているはずなので、何かあったのか?

 いや、この際、場の雰囲気が変わるなら、多少の事には目を瞑るぞ!


「失礼し致します。お館様にお客様なのですが、その……」


 ナリアにしては、珍しく歯切れが悪い。

 面倒な客? 城からの使いとか? いや、陛下本人が来訪とか? ……最後のは時間的に無いか。


「で、誰なんだ?」


「私ですよ、ラフィ」


「そして、ワタクシもいますわよ」


「は?」


 なんと、来客してきたのはシルと、疑惑の神、エステスであった。

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