第198話 Q&A

「さて、色々と話したり見せたりしたわけだけど、質問はあるかな?」


 一通りの説明が終わったので、ここからは質問タイムとした。

 八木達に掛けられている〝魂縛〟に関しては、この後に解く予定だ。

 ただ、ミリア達の同伴ではあるが。

 そこだけは、どうしても譲れないらしい。

 ミリア、リーゼ、ナユの三人は、今後の為の勉強と言っていたが、半分は建前だと思う。

 俺って、そんなに信用が無い……若干、流される様に増えた婚約者もいるから、何も言えないな。

 多分、そういう所なんだろうなぁ。

 そんな風に考えながら質問を待っていると、早速手が上がった。

 多分リーゼだろうと思って確認すると、意外にもシアが一番手に上げている。

 一番手は予想外だったが、シアも質問はすると思っていたので、内容を聞く。


「では、一番手のシアは何が聞きたいのかな?」


「はいです。ラフィ様は今のお話をして、どう動くのかを知りたいです!」


 まさかの質問に、全員の顏に驚きが……。

 多分、考えている事は同じだと思われる。


 ――シア、なんて勇者なの!?――と。


 誰もが聞きたいが、その話は段階を踏んで最後にと思っていた内容だけに、ド直球で聞いて来たシアに心の中でサムズアップをしたに違いない。

 皆、そう言う雰囲気になっていたからな。

 で、そんなシアの質問に対しての回答だが、どう答えるべきか。

 本音は言うとして、建前まで話すべきか。

 少し悩んだ結果、嘘だけはつかない方向にした。


「シアの質問に対する答えだけど、色々と手順があるんだ。それを全て聞きたいのか、最後だけを聞きたいのか、どっちかな?」


「全部込々でお願いするのです!」


「……わかった」


 シアの答えを聞いて、俺は今後の話をしていく。

 まずは、建前で行ったダグレスト国内の調査報告。

 陛下に登城申請をしてから、許可が降りるまでに清書をしておくと話し、上との話合いをする。

 その結果次第、多分、シルの予想通りになる可能性が極めて高い事を話してから、式の延期を渋々受け入れる方向にする予定だと話す。


「受け入れるのですか?」


「渋々だけどね。正確には、受け入れざるを得ないってのが本音かな」


 シアは俺の答えに対して、首を傾げていた。

 聡い女の子ではあるけど、まだまだ勉強中なのもあるので、俺の代わりにリーゼがシアに説明をする。

 学校が無い時は、リーゼがシアの先生をしているのもあって、二人は仲が良いんだよな。

 リーゼに対するシアの印象は、何でも知ってる姉なのだろうな。


「シアちゃん、なんで受け入れざるを得ないか、一つ一つ紐解いていきましょうね」


「はいなのです! えーと、延期になる原因はダグレスト王国が原因で……」


 シアの考えを邪魔することなく、全員が静かに見守る。

 リーゼの教え方は、シアが回答を出すまでは自分から一切話しかけていない事だった。

 質問されたら答えるが、それ以外は一切答えないらしい。

 ちなみに、婚約者の中で一番頭が良いのがリーゼなので、分からない事はリーゼ先生に聞きましょうが、婚約者達の総意らしい。

 子供が生まれたら、学校に行くまではリーゼが全員分の子供の勉強を見る事も決まっているそうだ。

 尚、その話し合いに俺は参加していない。

 ちょっと悲しい……。

 そんな話をミリア達としてると、シアは自分なりの答えを出した様で、リーゼに答える様だ。


「わかったのです! 戦争に参加するからなのです!」


「うーん、それだと不正解ですね」


 シアの答えに、間違いだと言うリーゼ。

 ぶっちゃけると、ほぼ間違いなく駆り出されるだろうが、現状では確定事項ではない。

 故に不正解をリーゼは出した様だ。

 そして、リーゼはシアの言葉を繰り返しながら話して、何が足りなかを教えていく。


「シアちゃん、まずは現状確認しましょうね。シアちゃんの言った通り、原因がダグレストなのは正解です。そして、ラフィ様はこれから陛下にお話をし行きます。今の時点で、延期の話は出てますか?」


「出てないです」


「はい、正解です。次に、ラフィ様が陛下に話をしに行きます。会議の結果、延期がほぼ確定になるとラフィ様は考えています。何故でしょうか?」


 リーゼの質問に、必死になって考えるシア。

 だが、答えは出ない模様。

 実は、この質問こそが、リーゼが不正解を出した答えに繋がっていたりする。

 そして、どうしてもわからないシアは両手を上げてバンザイした。

 どうやら降参らしい。


「ふふっ。ちょっと難しいお話ですからね。簡単に言うと、ラフィ様は式を挙げる為の準備をしてますが、その過程で延期に出来るか、出来ないかの判断が出来るんです」


「戦争が原因じゃないのですか?」


「今はあくまでも、戦争になるかもしれない――状態なだけですね」


 リーゼはそう言うが、まず間違いなく戦争にはなる。

 これはもう確定事項と言って良いだろう。

 問題は、いつ開戦となるかだ。

 とは言え、現状の段階としては、その情報は出回っていない。

 そうなると、考え方としてはリーゼの方が正解となる。

 あくまでも、現実的な考え方を教えている様だ。


「わからないのです……」


 シアはまだ10歳――今年11歳――なので、当主関連の知識には疎い。

 リーゼはこの機会に、少し前倒しで教えている感じがする。

 それとなく視線を送ると、静かに頷いた。

 どうやら間違って無いらしい。

 なら、一つくらいヒントを上げても良いだろう。


「シア、一つヒントを上げよう。来年、ルナエラ姉様も式を挙げるんだけど、ルナエラ姉様の方は、余程の事が無い限り延期には出来ないんだ。何故か分かるかな?」


「ラフィ様の方は延期に出来て、ルナエラお義姉様の方は延期に出来ないのですか?」


「そうだね。流石に、戦争になったら延期になるけど、今はまだ、延期にしろとは言えないね」


 シアはまたも考えこむ。

 そのシアを全員が温かく見守る。

 尚、シアが考えている答えに関してだが、実は、俺とルナエラ姉の式の準備状況に関して明確に違う点が一つだけ存在する。

 そして、その違いが答なのだ。

 ただ、余程の事が無い限りは、父親か当主主導で行われるので、実は知らない嫡男とかも多い。

 当主であり父親でもあるので、結婚後に教える事もあるのが現状だ。

 だから答えられなくて当然なのだが、シアはこちらの予想以上に賢かった。


「あ、わかったかもしれないのです」


「え、マジで?」


「シアちゃん、答えを聞いても良いかしら?」


「はいなのです。答えは、招待状なのです!」


「うん……正解。マジで賢いなぁ」


「シアちゃん! 私と一緒にもっともっと勉強しましょう!」


 リーゼ、教育お姉さんになる。

 しかし、あれだけのヒントで良く答えに辿り着いたなぁ……とか思っていると、シアは分かった理由を教えてくれた。


「お父様に聞いていたのです。ラフィ様が出席者の選別で困っているなら、相談に来るよう伝えなさいって言われたのです」


「なるほどねぇ……。ただ、言われたことをきちんと覚えていて、学習できてるのは凄いな」


 そう言って、シアの頭を撫でる。

 撫でながら、俺は都合の悪い事は忘れるなぁ――なんて考えていたりもする。

 少しはシアを見習わないといけないかもしれない。


 で、シアに対する俺の回答だが、その後は状況によって変わると伝えておいた。

 まぁ、法衣貴族なので、在地貴族と比べると兵力と言う点では確実に負けるから、早々お呼びは掛からない筈。

 法衣貴族に求められているのは、金回りだからな。

 傭兵や陣借り者を雇って自身も参戦するか、後方支援の補給物資関連で貢献するか、少ない家臣を伴って参戦するか、全体的に足を引っ張ってくれるかのどれかだからな。

 前に陛下達と話した時に。愚痴を言われたので覚えてるわ。


「と言う訳で、開戦したらその時に考えるわけだが……」


「絶対に参戦させられるよね? 最悪、勅命とかもありえそう」


「やめろリア。本当に勅命とか来たらどうするんだ」


 まぁ、戦争になった時に備えて、色々と画策はしているので、陛下に奏上するタイミングだけなのは内緒である。

 何となく、ミリア達にはバレてそうだが、何も言わないので、とりあえずは進めておこう。

 そして、次の質問はやはリーゼであった。


「ラフィ様、次元震について教えてください」


「了解。ただ、分かりやすく説明するとだな――」


 次元震は簡単に言えば地震と同じである。

 違う所を上げるとすれば、被害の規模が違う位だろうか?


「どれくらい違うのですか?」


「自身の場合だと、震源地――地震が起こる原因の場所とその余波になるんだけど、次元震の場合は世界規模になる」


「被害の規模はわかるのですか?」


「うーん……酷ければ世界崩壊とかあるけど、そうならない為に調整するがいるからなぁ。何とも言えない」


 それだけ言うと、リーゼの質問は終わりらしい。

 次に誰か無いかと聞くと、ミリアが質問してきた。


「仮に参戦の要請があった場合、ラフィ様は誰を連れて行くのですか?」


「それなぁ……」


 ミリアの質問に言葉を詰まらせる。

 実は、何名かは確定で連れて行くのだが、ミリア達をどうするか迄は決めてない。

 現状での確定人物は、ゼロ、ツクヨ、ウォルド、神喰、八木の5名だけ。

 後は未定なのだ。

 それをミリアに話すと……あれ? なんか笑顔が怖いんですが?


「婚約者0人はいけません。何名かは参戦させてください」


「いや、それは……」


「奥さんが増えて行くのは、もう仕方ないと諦めてます。ラフィ様の立ち位置上、どうしようもありませんから。で・す・が、せめて仲良くなれる人が良いです」


「いや、もう一杯一杯なんで、流石に……」


「春宮さんと姫埼さんはどうするのですか?」


「なんであの二人がここで出てくる!?」


 いや、ほんと、マジで勘弁して欲しいんですが!?

 だが、ミリア達は確信している様だ。

 俺が二人を嫌って無い事は。

 そして、絶対こう思ってるはず。


 ――なし崩し的に、結婚する――と。


 ぶっちゃけ、無いとは言い切れないので反論できない。

 白状すると、姫埼の容姿に関してだけ言えば、超ドストライクなのだ。

 黒髪ポニテで身長もあまり変わらず、大和撫子と言われてもおかしくない位の顏に、戦艦級の胸。

 性格も知っている限りでは悪くない。

 春宮は……良い子ではあると思う。

 ただ、勇者(笑)に対して、イラっとした時に般若スタンドが見えた気がするので、ちょっと怖いという印象がある。

 そして多分、全て見透かされている。

 そんな事を考えていると、バ神喰バカ神喰が、隠していた爆弾を投下して、燃料をくべやがった。

 こいつ、マジでいらん事すんな!


「そういや、前世のお友達も転生転移してくるんだっけか? 案外、お前に惚れてた奴がいたりしてなぁ」


「ちょっ! この馬鹿!」


「ら・ふ・ぃ・さ・ま?」


「いや、そのな……」


「後でお話があります」


「はい……」


 ミリアの凄味がある笑顔に完敗する俺。

 その後、どうなったかは言うまでもない。

 あ、お話し前に、3人の〝縛魂〟は解呪しておいたぞ。

 そして、みっちりお話した後、神喰にはOSIOKIを敢行した。

 八木が決死の覚悟で止めに入ったが、OSIOKIは完遂され、神喰は暫く使い物にならなくなった。


 そして、登城申請してから5日後、清書した資料を持って、陛下達との会議に臨むのであった。

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