第197話 不機嫌の理由

 ミリアの機転によって不機嫌が少し治まった俺は、最初から話をし始めた後、夕食を挟んで、本題の話の一つ前になる戦闘の話を聞かせた。

 目を輝かせながら、ラナとシアが食い入るように聞き、時に質問も飛ぶのだが、話が進まないので後で答える様にして、いよいよ本題に入る。


「まぁ、先に結論から言うと、またこいつのせいだな」


 そう言って、神喰を指差す。

 本人は、知らんがなって顔をしながら、我関せずである。

 その態度にイラッと来たので、トラウマ結界を発動させようとしたら、八木が慌てて止めに入り、神喰は素早く土下座。

 素晴らしい連携であった。


「いつの間にか、随分と仲良くなったよね?」


「リア、お前の目は節穴なのか?」


「ボクもそう思うよ。特に――ねぇ……」


 ヴェルグは俺と神喰を交互に見ながら話す。

 どうやら、ヴェルグの目も節穴の様だ。

 しかし、嫁ーズの見解は一致している様で、リアとヴェルグによる言葉に反論は無い模様。

 全く持って心外である。


「まぁまぁ。それで、結果から話した理由は?」


「結果と言うか、原因を知った上で聞いた方が理解しやすいから」


 なるほど――と、全員が頷いて理解を示す。

 同意を得られたので、ここから先は実際に話した内容を記録した物を見せながら、分からない部分は答えて行く形で進める。


「つう訳で、質問は後でな」


 またも全員が頷いたので、映像記録水晶を再生して行く。

 ここから先は、あの後の話だ。






 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 時は遡って、戦闘を終えた直後に戻る。

 まずは男の情報からなのだが、結論からすると知らないであった。


「はぁ?」


「私がここに来た時には、既に部隊が展開されてましたからね。認識変換を使って、紛れ込んでいただけです」


「それを信じろと?」


「その話の信憑性を増すために、先程の薬を渡したのですよ」


 女が言うには、男の所属自体は知らないが、薬が何処で生産されて、どの国が関与しているのかは知っているそうだ。

 なので、薬に関しての情報を先に聞くとにした。


「で、何処のアホだ?」


「リュンヌですよ。ただ、一つだけ疑問が残った状態ですが」


「聞こうか」


 そもそも、強制限界突破をさせる薬自体は、過去に在ったそうだ。

 過去と言っても、古代文明期時代の話で、現在は失われた技術ロストテクノロジーに該当するとの事。

 次に、過去に出回った薬とは違い、副作用がおかしいそうだ。


「過去にあった薬にも、確かに副作用がありました。ただ、精神に異常をきたす物では無いですね」


「あれはやっぱり、精神汚染されてたのか」


「不明です。私は、異常をきたす――とは言いましたが、汚染されている――とは言ってません」


 こちらの上げ足を取る女だったが、これは割と重要な事らしい。

 神喰も話に参加しているわけだが、その神喰も女の言葉を指示したからだ。


「ラフィ、お前は勘違いをしてるようだから言っとくぞ。汚染されて異常をきたすのと、単に異常をきたすのとじゃ、大きな違いがある」


「違い?」


「単に異常をきたすだけなら、単体で終わる可能性が高い。だが、汚染となれば感染する可能性がある」


「精神的な話なのに?」


「お前なら、分かる筈だ。そして、俺の所にこの女が来た理由の半分は、多分、それが原因なんだろうよ」


 真面目口調の神喰に、若干の違和感を感じながらも、考察の方を優先する。


(俺なら分かって、神喰に原因があると思われる理由か……)


 後は女の言っていた過去の薬の副作用の違い。

 過去には無くて、今の時代にある異質となる要素。


「あ! 神喰の存在か!」


「正解だ。で、リュンヌの奴らが、薬に俺の因子を入れたんじゃないかって、この女は考察しているわけだ」


「正確には、神喰である貴方が関与しているのでは? ですね。リュンヌに寄ったことがあるからこその考察ですが」


「そうなのか?」


 俺の質問に、神喰は頷いて肯定した。

 ただなぁ……こいつがそんな事に自分から進んで関与するとは、到底考えられないんだがなぁ。


「まぁ、良いや。で、それだけで神喰に敵対したと?」


「あ、それは別件です」


「別件なんかい!」


 思わずツッコんでしまった。

 こう、何と言うか、この女、俺で遊んでないか?


「心外ですね。本来の用とは別ですが、これも大事な要素ではあるのですよ」


「はぁ……。で、本来の用件は?」


「そこが、話せない内容になっているのですが……」


 そして、沈黙。

 女は、話したくない――では無く、話せない――と言った。

 その言葉を信じるならば、誓約が課されている?

 じゃ、誰に?勿論、黒幕――又は使徒化させた主にだ。

 ただ、こうなると話が進まない。


(さて、どうしたものか……)


 一応言っておくと、強制的に話させることは出来る。

 但しその場合、女の精神に関しての保証はしかねる。

 女の裏に神が関与しているのは、今までの話で確定しているので、その上位神たる原初の俺が、誓約を破壊して話させるわけだが、神が施した誓約を無理矢理解除するのだ。

 当然、タダで済む訳がなく、精神に何らかの傷を負うのはほぼ確定。

 最悪、死に至る可能性もある。

 流石に寝ざめが悪いので、やるとしたら最終手段にしたい。


「せめて、後ろにいる神の名さえ分かれば、原初の名で強制的に降臨させれるのに……」


 そう言った瞬間、光の柱が二つ降りて来た。

 その中から出てきたのは、意外っちゃあ意外な神。

 時空神ジーラと全知神シルの二柱だった。

 そして、姿を見せた二柱の内、時空神ジーラが時空間魔法を行使。

 予備動作無しで行使されたので阻害できず、俺達は亜空間へと引きずり込まれてしまった。

 条件反射で戦闘態勢に入る、俺と神喰。

 そんな俺達を見たシルが慌てて仲裁に入った。


「ラフィ、待ってください。これは必要な処置なのです」


「いきなり別空間に引き込まれて、落ち着けってのは無理だと思うが?」


 この時点で、ちょっと不機嫌だったりする。

 わざわざ降臨する為の言鍵トリガーを仕込んでいたとか、いきなり別空間に引きずり込むとか、挙句に落ち着けって?

 俺は至って冷静で、十分に落ち着いて対処しているのだが?

 そう思っていると、ジーラが頭を下げてきた。


「いきなりでごめんなさい。他の神達にも聞かれたくない話ですので」


「謝罪は受け入れる。だが、戦闘態勢を解くのは、きちんとした説明がなされてからだ」


 俺はグラフィエルと言う一人の人間では無く、原初として振舞う。

 流石に今回は、ちょっと無礼過ぎるからな。

 ゼロなら、問答無用でブチキレてる案件だ。

 おや?俺の中のゼロが『そんなわけあるか!』ってキレてるが、間違って無いと思うんだがな。

 そんな考えの中、ジーラとシルが説明を始めた。


「まず、そこの使徒ですが、私の眷属です」


「それはわかってる」


 二柱が降臨した後、恭しく片膝をついて、ジーラに傅いたからな。

 俺が聞きたいのはその先だ。


「大前提として、この話を知っている神は少ない事をご理解して頂きたい」


「わかった。知っている神の名は?」


「ジェネス様のみです。そして、眷属が神喰に固執した理由もお話いたします」


「了承した。で、この場所に関しては?」


 俺の質問に、今度はシルが答えた。


「この場所は、私とジーラの密会場所の一つ。ラフィはジーラの神格について知っていると思うけど」


「理解はしている。だが、実際に見るのは初めてなんだが?」


「あれ? 見たことありませんでしたっけ?」


「神界での修練でも見たことないぞ? つか、ジーラに何か教わったっけ?」


 俺の言葉にシルは考え、記憶を振り返っている様だ。

 そして出た、素の言葉。


「あ、あれ? 私の記憶違い?」


 何とも気まずい空気が流れる。

 知っていたと思ってた人物が、まさか知らなかったとは……と。

 全員が沈黙した後、場の空気を変える為にシルが行った事。

 まさかのテヘペロである。

 全員、沈黙継続。


「あ、あれ? なんで?」


 シル、珍しく慌てる。

 慌てたシルを見た神喰は、息を殺しながら肩で笑い、ジーラとその眷属は溜息。

 それに釣られて、俺も溜息を吐いた。

 シルはもの凄く恥ずかしそうである。


「はぁ……、何をやってるんですか。一から説明しますので、とりあえず座りませんか?」


 ジーラの言葉に了承したいが、何処に座れと言うのだろうか?

 上も下も分からない空間なので、地面に座ると言った感じでもない。

 そう思ったのも束の間、何処からともなくテーブルと5つの椅子が出現する。

 ジーラの力なのだろうが、何処かで見た事のあるような感覚。

 何処だっけか?

 その答えは、話し合いの中で出て来る事となった。


「とりあえず、席に着きましょう。飲み物は……これで良いでしょう」


「またか……。しかし、似たような感覚を知っているんだよな」


「それはそうでしょう。この空間も、用意した物も、全て空間収納なのですから」


「ああ。だからか」


 俺が空間収納を使って、出し入れする時の感覚に似ていたのか。

 となると、ジーラが使う、特製の空間収納内と思った方が良さそうだな。

 流石は時空神と言った所かね。


「さて……。全員が席に座りましたし、話を始めましょうか。原初様は、何が聞きたいのかしら?」


「別に名前で良いけど?」


「あら、そう? それでは、ラフィ君と呼ばせてもらうわね」


 そして本題へ。

 まずは一番気になっている点について聞く。

 それは、何故、ジーラが眷属を使って、神喰の排除に動いたかだ。

 以前にジェネスを交えて、神喰に関する方針は決めた筈だ。

 方針が変わったのならば、連絡が来る手筈にもなっている。

 だが、連絡は来ていない。

 これはどういうことか?――と尋ねると、本気で呆れる答えが返って来た。


「そもそも、この子に言い渡していたのは、神喰の観察なのですよ。出来る事なら、身近にいて、色んなサンプルが欲しかったのです」


「まてまてまてまて。話が見えない。なんで今更、サンプルが必要なんだ?」


「えっ!? 聞いてないのですか?」


「知らん!」


 ジーラと俺の認識に齟齬が生まれる。

 これはどういう事だと、ジーラが眷属に訊ねる。

 その答えを聞いたジーラは、かなり呆れ返っていた。


「極秘任務だと聞いていましたので、詳細は話してません」


「私は、出来るなら協力しやすい関係を作りなさい――と、言った筈ですが?」


「極秘の方を優先しました。懸念事項も出来ましたので」


 これにはシルも呆れていた。

 ジーラの眷属が、ここまで融通が利かないとは思ってい無かった様だ。


「そもそも、懸念事項を生かしておく理由があるのでしょうか? 危険な物は、早めに刈り取るのが一番です」


「あなたはっ! ちょっとそこに正座なさい!」


 ジーラ、珍しくブチギレる。

 神界でも話し位はしているが、キレるような神ではない。

 それをキレさせるとか……。

 この眷属、意外と大物になるかもしれない。

 そんな事を考えながら、ジーラのお説教が終わるのを待つ。

 なんだろう……小さな子供を叱っているおばぁちゃんに見えるのは……。


「ラフィ、その考えは良くない。ジーラの心は少女のままだから」


「とは言ってもなぁ。絵面が完璧に、悪いことした子供と叱る祖母なんだが」


「見て見ぬふりをするのです」


 なんて話をしながら、ついでに中断になっている話もしていく。

 ジーラのお説教が終わるまでに、概要は知れるだろうしな。


「簡単に言うと、神喰の存在が引き起こしてる現象があるの。全てなのか、そうでないのかは、これから調べて行く必要があるのだけど、多少の影響は出てしまっているの」


「それはなんだ?」


「主に次元震。次元の歪みも観測されているの」


「ジーラの担当か。それで、眷属に調査を任せた訳か」


「その通りなのだけど、あそこまでポンコツだとは……」


「いや、神がポンコツとか言って良いのか?」


 事実なのだから、取り繕っても仕方ないと、シルは、はっきりと言った。

 シルも割と怒ってるらしい。

 因みに、武闘派の神の眷属がこんなミスをしようものなら、間違いなく、転生前に神界で見たモザイクになること間違いないらしい。

 尚、ポンコツな眷属は他にもいるらしく、商業神と創造神の眷属も、結構なポンコツ具合らしい。

 武闘派の神は一癖も二癖もある神なので、眷属の方がまともなのだと。

 それで良いのか?

 今後の神界の情勢が危ぶまれる。

 そして、どうやらジーラのお説教は終わったらしい。

 大分疲れた顔をしたジーラと、屁とも思ってない眷属。

 ジーラも大変だなぁ……。


「お待たせしました。この子は後で、お仕置きしておきます」


「まぁ、ほどほどに」


 そして、改めて、ジーラからの説明がなされる。


「シルから聞いたとは思いますが、最近、次元震が頻発しているのです」


「それで?」


「次元震の波長から、幾つかは神喰が原因と特定はしたのですが、それ以上に起こっているのです」


「だから、サンプル取りに眷属を使わせたと?」


「ええ。全く使い物になってませんがね!」


 ジーラ、割と根に持つ神らしい。

 こういうのは怒らせると面倒なので、続きを促す。


「まぁ、この子の言い分にも多少は理解できる所もありました」


「薬の件か」


「そうですね。ただ、それでもやりようはあったと思うのですがね」


「同感だな」


 お互いに溜息を吐く。

 そして、今後の話に移る。


「とりあえず、サンプルの確保はしたいのですが、ラフィくんもこの子を傍に置くのはどうかと思うでしょう?」


「まぁ……」


「ですが、次元震の観測なんて面倒な事もしたくないでしょう?」


「仰る通りで」


「なので、暫くの間、シルを傍に置いてもらえませんか? 費用は出しますから」


「費用って……。神は飲み食いしなくても大丈夫なのでは?」


「そこもジェネス様から許可を取って来てますから、説明します」


 ジーラの説明によると、シルの本体は神界に帰る。

 但し、意識を分割した分身わけみを残していくそうだ。

 分身わけみは、神の力を行使はできるが、制限は設けられるらしい。

 そして、一番重要なのは、人間と同じだと言う事。

 眠らなきゃぶっ倒れるし、喰わなきゃ死ぬ。

 要は客分として、暫くの間お世話になりたいと言う事。

 費用に関してだが、鍛冶神達の失敗作をくれるそうだ。

 失敗作と言っても、この世界だと国宝級どころの話ではない。

 神話級武具が、俺の所に集まる。

 それは非常にマズい気がするので、考えていた内容を話すことにした。


「俺、割とまだ自重はしてるんですよ。文化関連で」


「前世の知識を取り入れたいと?」


「あくまでも、俺しか作れない様な物は外しますが」


「それは許可などいらないでしょう。ジェネス様は、それも織り込み済みで転生させているのですから」


「しかし、神話級武具が集中するのは……」


 折り合いが合わない。

 とここで、俺が不機嫌になった一言が飛び出すことに。


「そう言えば、ラフィはもうすぐ結婚式を挙げるのですよね?」


「そうだけど……シル、何かあるのか?」


「9割方合ってるとは思うんですけど、多分、延期になりますよ」


「は?」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 ここで映像は終わる。

 なんでここまでなのか?

 俺がブチキレる映像が流れるからだ。

 先に言っておくと、正論パンチで説明されたが、俺も含め、皆が待ち望んでいた式が出来ないと言うのだ。

 当然、反論したし、回避する方法も模索して話した。

 それでも、延期になる可能性が高いと言われ、思いっきり不機嫌になったのだ。

 その延期の理由には、次元震の事も含んでいたりする。

 結果、話し合いは決裂した。

 その事をミリア達には口頭で説明する。

 映像で見せたら早いだろうって?

 ブチキレてる所なんて、早々見せられるか!


「えーと……お気持ちは非常に嬉しいのですが、それで良いのですか?」


「知らん。いざとなったら、神喰を生贄にすれば良いだけの話だしな」


「おい!」


 神喰が文句を言おうとしてるが、実はフリだったりする。

 勿論、神喰を生贄にする気など毛頭ない。

 ヴェルグも少しずつだが、和解しようとしてるからな。

 そんな気持ちを踏みにじるような真似はしない。

 ただ、今までが今までだったので、仲が悪い演技をしているだけだ。

 やっぱり似た者同士?

 気持ち悪いので、勘弁してくれ。


「それで、全知神様はどうなったの?」


「ヴァルケノズさんに預けて来た」


「教皇様、嬉しいやら、胃が痛いやら、大変でしょうね」


「一応、気が向いたら様子を見に行くとは言ってあるけど?」


「気が向かなくても行くべきだと思うよ」


 ティアの言葉に、この場にいる全員がうんうんと頷く。

 え?何か俺が悪い感じになってない?


「気持ちは嬉しいのですが、流石に、ねぇ……」


「じゃの。旦那様は剛毅じゃが、これはちと、のぅ……」


「俺に味方はいなかったか……」


 気持ちは嬉しい。

 でも、神の願いを無下にするのは違うらしい。


(信心深さの弊害か……)


 そう考えるのだが、顔に出ていた様で、それは違うと、ヴェルグと神喰を除く全員からダメ出しを食らった。

 怒ってはいないが、もう少し神様達にも優しさを上げてと言いたいらしい。

 こうして、不機嫌な理由の説明会は幕を閉じた。

 尚、後でゼロとツクヨにこの話をしたところ、ツクヨはミリア達と同じ意見で、ゼロは俺と同じ意見だった。

 そして、二人してツクヨに怒られるのであった。




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