第177話 スライムの集落

 翌朝、厨房を借りて朝食を作り、朝食を食べながら本日の段取りを話していく。

 荷物番は、昨日と変わらず神喰。

 昼の探索は全員なのだが、問題は今日で目標地点まで行けるかと言う事であった。


「ペースを上げる?」


「リュールの意見が正解なんだが、そうなると……」


「私が足手まといになりますよね」


 スキル、魔法系統が大図書館によって壊滅なリーゼが申し訳無そうにする。

 リュールも悪気があった訳では無いのだが、言葉の配慮を忘れていたのを悟り、申し訳ない顔をする。

 こんな時はいつも、ミリアが率先して話題を切り替え、場の雰囲気を変える。

 今回も言うまでも無く、ミリアが先頭に立った。


「お二人共、そんな顔をしていては良い案も浮かびませんよ」


「ミリアの言う通りだな。リーゼの事は変えようのない事実なんだし、言い方ではなくて解決案を模索するべきだ」


「流石ラフィ様です。ですが、何か妙案があるのですか?」


「なくはないんだが……」


 言い渋る俺に、リュールとリーゼが食い付く。

 この二人も特別仲が良いよなぁ。


「ラフィ様、解決案を早く」


「私も聞きたいです」


「焦るな焦るな。解決案はあるんだが、不安要素もあるんだよ」


「「不安要素?」」


 リュールとリーゼが声を揃えて聞いて来た。

 ハモっているのがちょっとおかしくて、皆笑っている。

 本人たちはちょっと拗ねたりもしたが、不安要素の部分が気になるらしく、俺を急かしてきたので話を戻す。


「簡単に言えば、リーゼの筋肉痛問題だな」


「「筋肉痛?」」


「リーゼもそれなりに動きはするけど、冒険者並みの動きはしたことないだろ? そうなると、普段使わない筋肉をいきなり使って、最悪は酷使するから、疲労が蓄積しやすいんだよ。それが痛みになって現れる」


「筋肉痛になるとどうなるのでしょうか?」


「命に別状はないが、動けなくなるな。兵士とかがしごかれて、動けなくなっているのを見たこと無いか?」


 兵士たちが動けなくなっているのを何度か見たことがあるリーゼは、筋肉痛を素早く理解した様子。

 リュールも傭兵や冒険者に似たような感じの人達が居たのを思い出した様子だ。

 二人して嫌そうな顔をしている。


「因みに解決策と言うのは、リーゼの大図書館に身体強化を蓄積させて発動させることだぞ」


「うわぁ……ラフィも結構えげつないね」


「そう言うがな、解決方法何てこれくらいだぞ? リアが他に案があると言うなら聞くけど」


「担いで走る?」


「それも一つの手ではあるな。担ぐのはリアだけど」


 そしてまた笑い合う。

 そして結局、昨日と同じ形で進むことになり、夜間探索し終わった場所へゲートを繋げる。

 全員がゲートを潜り、再度探索へ。

 まぁ、昨日は昼からだったし、今日は昨日よりは深く進めるだろう。

 そう思って探索を始める。

 結論から言えば、日が落ちる少し前に目標地点へと辿り着いた。

 ただ、そこには何もなかった。


「ハズレだねぇ……」


「ハズレだなぁ……」


「どうすんだ?」


「どうしようか?」


 全員がハズレとこれからどうするのかを言い合う。

 作戦を練り直すにしても、領域内では危険だし、一度宿に戻る事にした。

 丁度、日も傾き始めるころだしな。

 ゲートで宿に戻り、夕食まで作戦会議となる。


「なぁ、ゼロも知らないのか?」


「んぁ?」


「……寝てんなボケ!」


「いってぇぇ!」


 作戦会議中に寝ていたゼロに鉄拳制裁を加える。

 皆真面目に考えてる中、寝てるのが悪い。

 文句を言ったゼロにそう返し、全員が頷く。

 ゼロに味方はいなかった。


「で、どうなんだ?」


「教えてやらねぇ」


「……ツクヨ」


「任せなさい。必ず口を割らせて上げるわ」


「ちょっと待て! そこでツクヨは反則だろう!」


「覚悟しなさいゼロ。たぁぁぁっぷりとお仕置きしてあげるから」


「待て! 話す! 話すから、ツクヨを止めてくれ!」


 だが、ゼロの悲痛な叫びも空しく、宿の外でお仕置きが執行される。

 戻ってきたゼロとツクヨであったが、ゼロはげんなりし、ツクヨは少しお肌が艶々していた。

 一体、どんなお仕置きを食らったのであろうか?

 こればかりは神のみぞ知る事案であった。

 ……あ、俺も神だったわ。


「知りたい?」


「遠慮しときまっす!」


 神でも知らなくて良い事もあると思う。

 俺はツクヨの問いかけに、全力でお断りを入れた。

 そして、お仕置きされたゼロは素直に話を始めた。


「はぁ、とは言ってもよぉ、俺も知らねんだわ」


「もったいぶってそれかよ。使えねぇ」


「ほぅ?」


 ゼロの目がピクピク動き、こめかみには怒りマークが幻視できた。

 この怒り方は、何か他に知っていることがある怒り方だ。


「何を知っているのかなぁ?」


「ぜってぇ言わねぇ」


「ツクヨの……」


「言う」


 ツクヨ効果は絶大だ!

 ゼロはまたも素直に話始めた。


「スライムの一部なんだが、ジェネスのガキが創造した魔物らしいんだわ」


「理由は?」


「知らねぇし、興味もねぇ」


「あまり使えない情報だなぁ……」


 最後の言葉に何か言いたそうなゼロであったが、今欲しい情報ではない。

 理由とかわかったなら、多少は使えたかもしれないが。

 と言う訳で、夕食後は出発前に俺とリーゼが話し合った事を全員でやる事になった。

 目標が定まっていても、そこに至る道が見つからないのではどうしようもないからな。

 女性陣が使っている大部屋で再度作戦会議を行う為、地図を広げて印をつける。

 付けた印は、最初の目標地点だった場所。

 そこに印をつけて十数秒後、全員がため息を吐いた。


「これで、情報は無しに等しくなったな」


「魔物は一部の例外を除き移動しない。その例外が集団暴走スタンビードなのですが……」


「3年前ので移動したとか?」


「そうなった場合、完全にお手上げなんだよなぁ」


 リエルを介して、RE・コードで調べる以外はになるがな。

 流石にヤバくなったら使う気ではあるが、まだ時間はあるのでギリギリまでは使用しない方向で行く。

 本当に、マジでヤバいってなった時は使わざるを得ないが。


「あの……前提条件として、この領域に本当に居るのでしょうか?」


 リリィの意見は尤もである。

 しかし、俺達の持つ情報は、過去に捕縛か目撃情報のあった場所しかないのだ。

 そこから推察して……。


「あー!!」


「いきなり大声出すな! で、どうしたんだよラフィ」


「そうだよ! なんで見落としてたんだよ!」


「だからなんだよ!」


「過去の集団暴走スタンビードの記録だよ! 最初に捕縛された後、集団暴走スタンビードが起こっていた場合、その後の記録と付随して行けば良いんだよ!」


「……そうか! 例外種かどうか見極める為か!」


「ウォルド正解! もし例外種なら……」


「この領域内に居る可能性が非常に高まる……いや、確定とも言えるわけか!」


 例外種。

 集団暴走スタンビードに乗らず、唯我独尊で我が道を行く魔物だ。

 かなり稀だが、存在が確認されている魔物が複数種いるので可能性はある。

 問題は一度帰らないといけない事だろうか?

 この場には歴史書などないのだから。


「いや、リエル使えよ」


「極力使わないようにしているんだが?」


「スキルは使ってこそだぞ? 殺人快楽の為に使うとかなら許容は出来ねぇが、今回は違うだろうが」


「あのなぁゼロ、なんでもスキルに頼るのもどうかと思うぞ?」


「わざわざ時間を無駄に使う事はねぇだろうが。……ならよ、多数決で決めようや」


 人の思考を読んで異を唱え、最後には多数決。

 そこは独裁制を保てよ。

 ……無理か。

 こちらにはゼロ特化最終兵器・ツクヨ様があるからな。

 ゼロの独裁制とか、一瞬で瓦解するわな。


「何か失礼な事を考えてないかしら?」


「何も考えてませんよ、師匠」


「師匠は止めて。年寄り臭いじゃない」


「イエッサー!」


 ツクヨ様を怒らせたら、この場にいる男性陣が割と本気になって取り押さえないといけなくなるので、機嫌を損ねない様に敬礼で応えておく。

 ついでに言っておくと、ヴェルグもツクヨと同等の扱いだったりする。

 まぁ、危険度で言えばツクヨの方がヴェルグよりも上だが。

 以前に一度だけ、ゼロに対してマジギレしたツクヨを止めたことがあるので、危険度はツクヨの方が上なのだ。

 そう考えると、ヴェルグって気は長いよな。


「ボクがキレるのって限定条件だけだし」


「だぁかぁらぁ、人の思考を勝手に読むな!」


「ごめんごめん」


 そして多数決の結果、時間が勿体無いと言うゼロの意見が通り、リエルの使用が決定した。

 さて、ここからは少しだけ割愛させて欲しい。

 一応、リエルから聞き出す事には成功したのだが、めっちゃ不機嫌で、聞き出すのに時間が掛かったのだ。

 愚痴から始まり、泣き始め、宥めて、また愚痴。

 質の悪い酔っ払いの相手をさせられてる気分だったとだけ言っておく。

 いや、素面な分、酔っ払いより質が悪いかもしれん。

 リエルからメンヘラ臭がしたのは言うまでもない。


「お疲れさん」


「マジで疲れたわぁ……」


「お前の神核、好きにさせ過ぎじゃね?」


「うーん……ただ、あまり制約を設けるのもなぁ……」


「お前のスキルだから、強制はしねぇがよ」


 ゼロの言いたい事は分かる。

 何時か暴走するんじゃねぇのかと。

 俺的には既に暴走しているのだが、ゼロが言った意味の暴走は無いと踏んでいる。

 俺至上主義の塊だからなぁ……。

 ラフィ教の教祖とか言われても違和感が無いのがリエルだし。

 ……いや、最後の考えは良そう。

 もの凄く危険な気がする。


「まぁ、必要な情報は聞いて来たから。今から纏めるぞ」


 俺がリエルから聞いて来た情報を話すと、リーゼのお目目がキラキラと輝きだした。

 リーゼって本当に好奇心旺盛だよなぁ。

 リエルから聞いた内容だが、結論から言えば例外種に当たる。

 但し、例外種中の例外種。

 きちんとした論文を纏めたら、賞を取れるほどの例外種で初発見の例外種でもあった。


「リエルの話だと、一定周期に集団暴走スタンビードを利用して領域を移動するそうだ」


「では、3年前ので移動を?」


「いや、してない。さっき一定周期で移動と言ったが、その周期がどれくらいか、ミリアはわかるか?」


「いえ……」


「実はな、初捕獲された時が領域を移動してきた周期だそうだ。で、その周期だが異常に長い」


「どれくらいですか?」


「千年単位だそうだ。初捕獲が500年前だから、後500年は移動しない」


「そうなると、この領域内に居るのは確定ですか?」


「確定。だが、領域の移動はしないだけで、領域内の移動はするそうだ」


「どっちにしても、この広い領域内の探索は必須なんだね……」


「リアの言う通りだな」


 と言う訳で、振出しに戻る。

 いや、領域内に居るのは確定した分だけ、前には進んだか。

 とここで、ゼロが噛みついてきた。


「おい、なんで場所の特定をしなかった」


「出来ないからだよ」


「どういう事だ?」


 懇切丁寧にゼロへと説明する。

 場所を偶々見つけたでは説得力に欠けてしまうのが大きな理由だ。

 過去の捕獲場所から割り当て、探索をしないと報告書で筋が通らなくなってしまう。

 依頼でないならば、報告書もそれなりで良いが、今回は王家からクランへの指名依頼である。

 流石に筋が通らない報告書は書けない。

 ある程度の探索実績は必要不可欠なのだ。


「事情は分かった。でもな、それを踏まえて聞いておいても良かったんじゃねぇか?」


「どっちにしても、ゲートではいけないからな。そこに至るまでの道筋は必要だ」


「ある程度探索してから聞くってか?」


「最悪はな。でもな、一番の理由は自分達で探し当てたい!」


「結局そこかよ!」


 ゼロが呆れかえったのは言うまでもない。

 しかし、俺の話に賛同する者は多い。

 結局、ゼロが折れる形となって、翌日からは怪しい所に目星をつけて探索する事になった。

 まぁ、結果としてはこれが大当たりであった。

 初日の探索から6日後、俺達はスライムの集落とでも言うべき場所を発見したのだ。


「これは凄いな」


「ノーマル種から危険種まで。多種多様なスライムがいるな」


「あのスライム、プルプルしていて可愛いのです!」


「あの赤い小さなスライムは何でしょうか? もしや新種!?」


「こら! リーゼ! 無暗に近寄らない!」


「ヴェルグに怒られるリーゼ。珍しい物を見たな」


「そうですか? 私達は結構目にしてますけど?」


「マジで? リリィ」


「大マジです」


 とまぁ、スライム集落の入り口で騒ぐ俺達。

 そこへやってくる一匹――匹で良いんだよな?――のスライム。

 大きさはノーマルスライムより一回り大きい。

 だが何より思ったのが、虹色に輝くスライムであった事。

 こんなスライムは見た事が無い。

 もしやこれがドリンクスライムなのか?


「お? ジェネスが創ったスライムじゃねぇか」


 ゼロの言葉に反応して、スライムは小刻みに震えて応える。


(あれ? もしかして、人語を理解してる?)


 いやまさか……とは思いながらも、否定しづらくもあった。

 なので、俺も話しかけてみる事に。


「えーと、俺の言葉がわかるなら、核を右に動かして欲しいんだが」


 スライムは俺の言葉に反応して、核を右へと移動させた。

 どうやら本当に人語を理解しているみたいだ。

 そうなると、むやみやたらに捕獲はしたくないなぁ。

 話せばどうにかなるのであろうか?


「ラフィ、テイム魔法を応用してみたらどうだ?」


「応用? ウォルド何それ?」


「知らねぇのか? 対話可能な魔物が居た場合、テイム魔法を利用して意思疎通を図るんだ」


「知らんかった。念話みたいな感じか?」


「それに近いらしいな。俺にはわからんけど」


 なるほど!と思い、ウォルドの指示通りにやってみる事に。

 とは言え、テイム魔法なんざほとんど使ってこなかったので、まずは念話にて接触をしてみることにした。

 すると、明らかに念話に応えて来たのだが、言語が良くわからないと言う現象が起きる。

 スライム語とでもいえば良いのだろうか?

 こちらに対して言葉を投げかけては来るのだが、何を言ってるのかさっぱりわからない。


(念話だけじゃ無理かー。……テイム魔法の応用ね。上手くできっかな?)


 次に、ウォルドから聞いたテイム魔法の応用を使いながら、再び念話を試みる。

 するとあら不思議。

 先程までわからなかったスライム語が人語に変換されるでは無いか。

 魔法って本当に不思議。


『ようこそ村へ! 今日は何の用事?』


『えーと、非常に言いにくい事なんだけど……』


 俺は虹色スライム?リーダースライム?に説明を始める。

 スライムは黙って聞き、説明が終わるまで一言も発しなかった。

 全てを聞き終えたスライムは、こちらに確認を取ってくる。


『それって、僕たちを最終的には殺すって事だよね?』


『殺さないで済む方法があるなら、そっちを取るけど?』


『本当に?』


『嘘は言わない』


 とここで、スライムたちが慌ただしくこちらへと逃げてくる。

 しかし、人間慣れしてないのか、俺達を見たスライムの半数が再び転身し、また転身を繰り返してパニックに陥る。

 一体何が起きたと言うのか?


『また来た』


『また?』


『僕たちの仲間に、全ての生物が美味だと感じるスライムが居て、魔物たちが襲ってくるんだ』


『いつもはどうしてるんだ?』


 スライムの答えは意外でもなかった。

 食われている仲間に気を取られている内に、他の無事な仲間と共に逃げる。

 戦闘力に特化したスライムもいるそうだが、多勢に無勢だし、護衛もいる。

 結果、後手に回り、数を減らし続けているそうだ。


『なら、俺達がその魔物を倒したら、少しで良いから信用して欲しい』


『……わかった。魔物を撃退してくれたら、お兄さんたちを信用するよ』


 話は終わり、俺達は先頭態勢に移行する。

 目標は襲ってきている魔物の殲滅とスライムの救出。

 リーダースライムが全スライムに人間へ攻撃をしない様にと通達も出してくれるそうだ。

 それだけでも救出はしやすくなるな。

 さて、それでは救出開始だ!

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