第178話 スライム? NO! スライミー!

「戦闘開始!」


 号令と共に前衛職が前に出て交戦を開始する。

 俺?今回は後衛職です。

 スライム達の保護と護衛もあるが、後衛職である婚約者達の護衛もしないと駄目だからな。

 戦闘力皆無のリーゼを筆頭に、未成年のシア、回復特化のナユ、前衛に不安があるミリアとリリィ、危険察知に長けたスノラ。

 あれ?こうしてみると、俺一人での護衛ってちょっと大変?


「問題ねぇだろ」


「そうよね。いざとなったらどうにかするでしょ?」


「そこの似たもの夫婦。こっちの考えをサラッと読むな」


 ゼロとツクヨに、なんか人外みたいなことを言われたので、ちょっとだけ逆撃しておく。

 ゼロは大笑いしながら前に行ったが、ツクヨは不服そうな顔をしていた。

 後でお仕置きされそうで怖い所ではあるが、常識人なのは認めているので、言い訳に組み込んでおこう。

 後で何もありませんように……。


「ほらっ! こっちこっち!」


 お!リアが接敵した様だ。

 相変わらずヒット&アウェイの攻撃で、魔物を翻弄しているな。

 その隙に、喰われそうになっていたスライムは退避して、どうにかこちらへと避難してきた。

 避難してきたスライムはプルプルと震えながら、リーダースライムにへばりついている。

 よっぽど怖かったのだろう。

 あ、シアがスライムを撫でてあやしている。

 なんとも微笑ましい。


「ピギィー!!」


 シアがあやしているのに気を取られていると泣き声が。

 鳴き声の方に顔を向けると、スライムが魔物に噛みつかれていた。

 身体は既に欠損しており、辛うじて核の破壊を免れている状況だ。

 流石にあれは間に合わないと考えていると、ヴェルグが速度を上げて突っ込んでいき……は?何してんのあいつ?


「いっただっきまーす」


 ヴェルグは口を開け、何も無い空間で租借をする。

 するとあら不思議。

 魔物もスライムも消えたでは無いか。

 多分、空間魔法の応用だと思うのだが、保護対象迄喰ったらダメだろ。


「おいヴェルグ!」


らいひょーふはよ大丈夫だよ


 ヴェルグに対して怒ろうとしたのだが、ヴェルグは口をもごもごさせながらスライムを吐き出した。

 欠損部分を修復して……。


「これで大丈夫だね。仲間の所に行っておいで」


 ヴェルグの言葉に対して、スライムは身体を震わせて応え、一目散にこちらへと来た。

 こちらに来た後、震えていたのはヴェルグのせいじゃないよな?

 尚、ヴェルグが助けたスライムについてはリーゼが優しく撫でていたりする。


「邪魔」


 リュールの戦斧が風を起こす。

 うむ、良い風である。

 その風に巻き込まれたのか乗ったのかは知らないが、複数のスライムがこちらへとやってきた。

 やって来たスライムの大半が欠損していたので、ミリアとナユが治癒を施していく。


「ラフィ様。ちょっと多い」


「こっちに回しても良いぞ」


「ん。そうする。リリィの弓に期待」


「え? 私に無茶ぶり?」


「期待している」


 そう言ってリュールは、こちらへ数体の魔物をわざと通した。

 対するリリィは、無茶ぶりと言っていたにも関わらず冷静に対処する。

 弓に矢を当て、魔法を付与し、魔物の眉間を一撃で射貫く。

 風魔法を付与させ、矢の速度を上げている様だ。

 ついでに、雷属性も付与して、万が一仕留め切れなかった保険として麻痺も付与させている。


「へぇ、複合魔法か」


「これくらいできませんと、ラフィの傍にはいれませんから」


 こちらの言葉に応対しながらも、次々と矢を放ち、一撃で絶命させていくリリィ。

 スナイパーリリィ、ここに爆誕!なんちゃって。


「ラフィ。今、変な事を考えたでしょう?」


「いや、何も。強いて言うなら、二つ名?」


「やめてください。二つ名とか恥ずかしいですから」


 おい……蹂躙者って二つ名のついてる俺は、恥ずかしい部類に入るじゃないか。

 素で心にダメージを入れてくるのは勘弁してくれませんかね。


「ラナさん!」


「大丈夫よミナさん。疾風石牙!」


 ミナとラナは二人で組んで討伐中か。

 ミナが牽制や囮で、ラナがトドメ役か。

 とはいえ、少し捌ききれていないか?

 だが、ラナの戦闘能力が爆上がりしてるから、上手くミナをフォローしているな。

 あれなら心配ないと思うが、一応こちらにも流すか。


「ラナ! ミナ!」


「「了解!」」


 声を掛けただけで、瞬時にこちらの意図に気付く二人。

 先程と同様に数体の魔物をわざとこちらへと流す。

 それを瞬時に射るリリィ。

 さて、問題……いや、問題があるわけでは無いのだが、ウォルドが面倒を見ていなければちょっと危なかった二人だな。


「ティア嬢、前に出過ぎだ! ヴィオレ嬢はもう少し踏みこめ!」


「後退したら、戦線が押されちゃうでしょ!」


「私はちゃんと踏み込んでましてよ!」


 思わず頭を抱えそうになった。

 二人の言ってる事は間違ってはいない。

 いないのだが……そこは、ウォルドの言い分を聞くべきだろう。

 俺達が産まれた頃から冒険者として第一線を張って来た者としてさ。

 ウォルドの言う事も、決して間違ってはいないのだから。


「おーい! 手伝おうか?」


「必要ねぇ!」


「そうだよ!」


「そうですわ!」


 三者共に同じ返事が返ってくる。

 なんだかんだ言って、相性は悪くないのかね?

 まぁ、一番数が多い場所を担当してるのもあるから、余裕が無いだけかもな。

 いや、ウォルドにその言い訳は無理か。

 もう一度見たら、二人にわざと動かせるようにして手を抜いているのだから。

 そして、それは当然ナリアにもバレている。

 さっきから雰囲気がおっかないんだよなぁ。


「お館様」


「何?」


「ちょっと旦那様を激励に行っても宜しいでしょうか?」


「あー……。程々にな」


 許可を出すと、素早くウォルド達の持ち場迄駆けて行き……あ、ウォルドの後頭部に手刀が入った。

 かなり痛かったみたいだが、悶絶している暇はない様で、魔物の相手をして行くウォルド。

 明らかに動きが良くなったので、少しは本気を出すみたいだ。

 旦那のやる気を上げる――物理――ナリアは流石であった。

 そして最後に、イーファとリジアに目を向ける。


「イーファ、弾幕薄いよ! 何やってんの!」


「リジアよ。キャラが変わっとらんか?」


 木馬の艦長みたいな言葉で、発破をかけるリジア。

 一体どこで覚えて来たんだ?その台詞。

 戦闘でちょっと高揚したのかねぇ?

 対するイーファは冷静に、リジアへと向かう魔物へ、魔法で足止めをして行く。

 二人のコンビネーションは流石の一言であった。

 あったのだが……。


「イーファ! 右が遅い!」


「何を言っとるか! お主が早過ぎるんじゃろうが!」


 ちょっと口喧嘩に発展しそうである。

 止めた方が良いかとスノラに視線を向けると意外な言葉が。


「あの二人、訓練でもあんな感じですから」


「マジで?」


「意外ですよね。私も、初めて見た時はびっくりしました」


 良く3人で仲良くしているスノラですら、初めの頃はびっくりしたと言われる。

 そりゃ、初見の俺はびっくりするわな。

 だが、二人の奮闘のおかげか、幾つかの戦闘場所は間もなく終わろうとしている。

 後は、ウォルド組とイーファ組の援護に入って終了かな?

 だが、そうは問屋が卸さなかった。

 一際でかい咆哮が鳴り響くと共に地響きが起こる。

 これは……ちょっと不味いか?


「ラフィ」


 こちらへと戻って来たヴェルグが、状況変化を名前だけで告げる。

 続いてリアもこちらへと戻って来る。


「これはちょっと不味いかも」


「予想は?」


「主か、それに準ずる強さを持った魔物」


「やっぱりかぁ」


 さてどうしようか?

 そこでちょっと閃いてしまった。

 めんどそうな奴なら、あいつを呼ぼうと。

 そう言う訳で、ゲートを展開。

 呼び出したのは神喰。

 だが、呼び出した神喰は爆睡中であった。

 イラっとする俺と止めに入る婚約者一同。

 しかし、イラっとした俺の代わりに動いた人物が一人。


「何寝てんの? このダメな大人の見本!」


 そう言って、顔面を思いっきり踏みつけるヴェルグ。

 神喰から出た声は、蛙が踏みつぶされた様な声だった。

 後、もの凄く顔を抑えて悶えている。


「いきなり呼び出して、この仕打ちはあんまりだ!」


 至極ごもっともである。

 だがな、こっちは戦闘中だったんだ。

 なのに呼び出したら爆睡中とか、戦闘してた奴の気持ちも考えて欲しい。

 言葉にはしないが、俺からの視線で悟ってしまった神喰。

 ペインプリズンがトラウマな神喰は、即座に正座をした後、土下座し始めた。

 婚約者のみならず、スライム達までドン引きである。

 いや。実際にドン引きしているのかはわからんが、少なくとも後退りはした。

 こいつ……マジでいらんことしかしねぇ。


「ラフィの苛立ちは分かるけどさ、先にあれをどうにかしてからじゃない?」


「……ちっ!」


「うわぁ……本当に苛立ってるねぇ」


 リアの言葉に渋々だが了承し、とりあえずは問題の対処に当たる。

 俺が出れたら問題無いのだが、護衛が前に出たら、誰が守るんだって話だからな。

 仕方ない……ここは大きな器を見せようじゃないか。


「神喰」


「へい! なんでしょうか!?」


「何でそんなに遜ってんだよ……。はぁ、まぁ良いや。仕事だ」


「へい! 喜んで!」


 どこぞの居酒屋で聞いた掛け声みたいな返事をして、直立不動で立つ神喰。

 うん……さっきまでの苛立ちが加速しそうなんだが?


「どうどう」


「大丈夫だ、リア。俺は冷静だ」


「その言い方が、既に冷静じゃない気がするんだけど?」


 リアのツッコミは置いといて、神喰に仕事を言い渡す。

 因みに、スライム達に被害が及んだ場合、その痛みの分×5倍だと伝えておく。

 当然、ペインプリズン使用で。

 神喰は震えあがってから、即座に魔物を討伐しに行った。

 こちらに、確実に被害が出ない様に、かなりの距離を開けて。

 結果としては、希少魔物の討伐に成功するのだが、神喰からしたら討伐成功よりも、被害無しの方が大事だったみたいだ。


「お疲れさん」


 全員に労いの言葉をかけ、スライム救出大作戦は幕を閉じた。

 あ、神喰だけは、ねぎらいの言葉を言う前に強制送還した。

 一応、荷物番だし。


「ラフィさ、もう少しあいつの扱いを良くしてやっても良いんじゃね?」


「愚問だな。俺はこれでも良くしているんだが?」


 ウォルドの言葉に真っ向して反論する俺。

 ゼロもツクヨも俺の言葉を支持している様子。

 俺の言葉に頷いてたからな。

 だが、待遇改善を考えないわけではない。

 ある人物の許可が出ればではあるが……。


「あれで良いんじゃない? 調子に乗らせたら暴走しそうだし」


「ヴェルグからのお言葉が出たので、待遇改善は見送りです」


「あいつ、マジで不憫だな……」


 こうして俺達は、スライムの探索を終えた。

 一応、目的のスライムが居てるのは確認してるぞ。

 じゃないと、終われないからな。



 まだ陽は高かったが焦る必要は無いなと思い、宿で一泊して、翌日に領主の元へ報告に行く。

 依頼完了までに倒した魔物の成果の2割と言う話だったので、2割に当たる魔物の素材を庭へと出したのだが、それを見た領主の顏が引くついていた。

 約束通りの数なのだが、何か問題でもあるのだろうか?


「これほどとは……。その、申し訳ないのですが、約定の一部を変えて貰う訳には……」


「理由次第ですかね」


 理由を聞けば納得できる内容ではあった。

 だが今更、はいそうですかと飲めるわけがない。

 そんな事をしてしまえば、他貴族に舐められてしまう。

 約定を変えるのなら、相応のリスクは必要なのだ。

 それすらも行わないのなら、冒険者ギルドに報告して、ブラックリストに登録するがな。

 貴族からは村八分で、冒険者ギルドからはブラックリスト。

 そうなったら、この領地は終わるのが確定しそうだな。


「実はですね、先の冒険者達はそれほど成果が多くなかったので、こちらで運んだりしたのですが……」


「ああ、見誤ったと?」


「お恥ずかしながら」


「そうなると、約定の変更は現金化してから2割ですか?」


「それは流石に虫が良過ぎますので。上納金は1割5分でどうでしょうか? それと、宿代に関しては全てこちらが負担いたします」


 正直、宿代をチャラにして貰ってもたかが知れている。

 だが、当初の利益を少なくしても換金を願い出た部分に関しては考慮しなければいけない。

 問題は、換金までにどれくらいの時間が必要なのかわからんところだな。


(駆け引きするのも面倒だし、素直に話すか)


 領主に、現金化までの日数が不明だと伝えると、どちらにするのか尋ねられた。

 このまま領内で換金が終わるまで待つのか、一度帰宅してから詳細を持って再訪問するか。

 前者を取った場合、宿代は領主が持つらしく、金銭的被害は無いが時間を浪費する。

 後者は時間的被害は無いが、書類を整えて再訪問となるので、面倒な手間が増える。

 必然的に面倒にならない方を選ばざるを得なくなってしまった。

 まぁ、仕方ないと割り切ろう。

 と言う訳で、王都……ではなく、次に大きな冒険者ギルドがある辺境伯領――要は実家――に出向き、現金化の手続きをして戻る。


「この量ですと、3日以上は掛かります」


「なるはやで」


 それだけ言い残して、皆の待つ宿へと戻ったのだが、その間に用件を一つ済ませることにした。

 領主の了解を貰ってはいるが、現在の宿には内も外もスライムだらけだったりする。

 問題とは、スライム達の寝床をどうするかであった。

 魔物たちから救ったのがわかっているのか、全スライムが好意的……いや、何故か神喰とヴェルグは避けられていた。


「何故だ!」


「ほんと、なんで? このお馬鹿は分かるけど」


「おまっ! 仮にも生みの親だぞ!」


「もう楔は抜けてるから。ボクの親はいない」


「ラフィ! 何とか言ってやってくれ!」


「親子の問題なので。自分で何とかするんだな」


「味方がいねぇ!」


 等のやり取りがあったが、なんで二人には懐かないのか、リーダースライムに聞いてみる事に。

 すると、ある程度は予測できる答えが返ってきた。


『あの二人は喰ったよね? 女の子の方は物理的に。男?の方はもっとえげつなかった』


 どうやら、魔物の倒し方が悪かったらしい。

 ヴェルグは損傷したスライムを助けるためとはいえ、物理的にモグモグし、神喰は生命力をモグモグした。

 それが怖かったらしい。

 ただ、ヴェルグの方に関しては、助けて貰ったスライムが一生懸命に仲間のスライムを説得中らしいので、時間が欲しいらしい。

 神喰、スライムにも嫌われるとか……。


『まぁ、そこは時間が解決するとして……。問題は住処なんだが』


『候補は?』


『候補の前に、一仕事頼みたいんだが』


 本来の目的、ドリンクスライム達を招集して貰う。

 そして、全員がコップ片手に待つと、ドリンクスライム達が器用に体を変形させて、ホースみたいな形の触手?をコップの淵に置き、空だったコップを満たしていく。


『ちゃんと通じ合ったなら、こういった感じになるんだよ』


『なるほど。今までは無理矢理だったり、強制したり、信頼が築けてないから殺すしかなかったのか』


『ほんと、何様って話だよね』


 リーダースライムの言う事はもっともであった。

 そこで、あれ?と考え直す。

 何故、意思疎通をしなかったのだろうかと。

 その答えはスライム達が教えてくれた。


『あれ? リーダースライム以外だと、意思疎通しづらい』


『スライムって、個体だと思っているだろうけど、実は群体だよ。一人が死んだら、群体の中心が感じるんだよ』


『つまり、群体の中心しか意思疎通不可?』


『一部例外を除いてだね。その例外が僕』


 リーダースライムは群体の中心ではなく、スライム達の神的な存在らしい。

 では、リーダースライムが死んでしまうとどうなるのか?


『スライムの例外種が居なくなるだけだね。後さ、リーダースライムってさっきから言ってるけど、僕にはちゃんと名前があるよ』


 リーダースライムの名前はスライミーと言うらしい。

 創造者が付けてくれた名前だそうだ。

 ……安直過ぎね?

 リーダースライム曰く……。


【スライム? NO! スライミー!】


 との事だ。

 いや、気に入ってるなら文句は無いけどね。

 そして、問題は解決しないまま、換金が終わり、とりあえずスライム達は俺の屋敷の庭に仮住まいする事になった。

 ……後で陛下に相談しよう。

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