第176話 いざ、探索へ!

 クランの件は一旦様子見するしかなくなったので、次に問題点の二つ目である依頼量の中でも、最も依頼達成が困難そうである王家の依頼を片付けるべく行動を開始した。

 王家の依頼内容は、数多くいる魔物の中でも、捕獲して調教可能だったり飼育できる魔物の捕獲。

 その数少ない捕獲可能な魔物の一つである、ドリンクスライムの捕獲だ。

 この依頼の難易度は魔物の強さでは無く、発見がしにくい故の難易度になる。

 時間ばかり浪費するのが分かっている依頼なので、誰もやりたがらない依頼なのだが、今回は複数の冒険者が挑戦していた。

 結果はお察しであるが……。

 そして現在、俺は失敗した冒険者から情報を聞いて、その情報を元にリーゼと話し合っていた。


「過去の捕獲場所ですが、やはり集中してますね」


「そうだな。この領域内で確定なのは間違いないだろうが、問題は今も生息しているのかだと思う」


「失敗した冒険者達も、記録を見て推測を立てたのですよね?」


「そう言ってたな。結果は散々だったが」


 執務室で話し合うも結論は出ない。

 ドリンクスライムの生息域であろう領域なのだが、未開地にあるので広いのだ。

 いや、正確には未開地ではない。

 一応、準男爵家が持つ領地内にあるのだが、領域が広すぎて開発できていないが正解だ。

 元は子爵家らしいが、過去に色々やらかして降爵を受け、開発出来ていた方の領地を没収され、今は慎ましく生きている貴族らしい。

 何をやらかしたのかは知らない。

 おいそれと話してはいけないと言われていたから。

 まぁ、リエル経由で調べたらわかるけどな。

 ただなぁ……本物のと言われる爵位を持つ貴族が、継承権の無い爵位まで落とされるって何をしたんだろうね。

 余程の事だと思うが、考えても仕方ないので忘れよう。


「……仮に発見、捕獲したとして、税はどうなるのでしょうか?」


「しまった……そっちの問題もあったか」


 どの国もそうだが、領内に冒険者ギルドが無い領地も珍しくはない。

 その場合、領主と話し合って【成果】に対して【上納金】を支払わなければならないのだ。

 そしてこれがまた、結構面倒になったりする。

 折り合いが付けば良いが、中には強欲な領主も居て吹っ掛けてきたりする。

 そうなると、依頼遂行時に出た成果に対して、過剰な支払いをしなければならなくなる。

 尤も、そう言った領主と領地はブラックリスト入りする事も珍しくは無いのだが。


「まともな領主であって欲しいよなぁ……」


「リリィさんにお聞きになったらどうですか?」


「あの貴族家、腫れ物に触るなって感じの貴族家なんだよ。他貴族を覚えない俺が、覚えてるくらいだぞ?」


「面倒事が必須になりそうですね」


 リーゼも俺もため息を吐き、しかし終わらせないといけない使命感から話を続け、とある地点に目星をつけた。

 過去の捕獲場所と現在の探索場所が唯一重ならない点に絞ったのだ。

 違ったら、また推測し直しだな。


 翌日、婚約者に加えウォルド、ナリア、ゼロ、ツクヨ、神喰を加えた人数で探索に向かう。

 戦闘力の無いリーゼと未成年のシアも同行するのだが、それには理由があった。


『単に学術的な調査をしたいのです』


『危険だぞ?』


『今回は護衛が付くのですよね?』


『各関係部署から流石にダメって言われたからな』


『なら問題無いですよ』


 こうと決めたら譲らないのは、皇王の血なのかねぇ。

 結局、俺が折れて同行を許可した。

 シアに至っても似たような感じだ。

 シアの父親であるドバイクス卿も、耳が良いらしい。

 夕方に訪問してきたからな。


『いきなりですまないね』


『いえ。それより、今日はどうされたのですか?』


『クロノアス卿の事は信用している。だから単刀直入に聞くが、娘はどうするつもりかね?』


『どう、とは?』


『領域に行くのだろう?』


『その事ですか。流石に、シアは連れて行けませんよ。学校在学中ですし』


『やはりか。実はな、その事で相談があるのだが』


 ドバイクス卿からの相談は、シアも連れて行ってくれと言うものだった。

 普段のドバイクス卿なら断固として止めそうであるが、一体どういった心境の変化だろうか?


『娘は帝国内乱に参加し、多くの事を学んだ。戦争の悲惨さも学んだはずだ。なら次は、領域の恐ろしさを学ばせてやりたくてな』


『必要ですか?』


『妻が言うにはな、娘と交流のある同世代には、冒険者志望の者も多数いるらしい。そう言えば、分かって貰えるか?』


『もし亡くなったと聞けば、悲しむからかもしれないからですか』


『親バカだと笑うかね?』


『いえ。自分も将来は、そうなるかもしれませんし』


『そうか。とは言え、そのまま連れて行けば面倒もあるだろう。体裁は整えさせてもらう』


『貴族の物見遊山ですか』


『指名依頼と言う形にすれば、問題無いだろう。陛下へも報告しておく』


『こちらは何もしなくて良いと?』


『ああ。全てこちらで根回しをする。それと、きちんと依頼料も支払おう』


 そう言ってドバイクス卿は前払いで白金貨1枚を出してきた。

 他の冒険者から見たら、破格の報酬である。

 前払いなのは、俺だからだろうけど。


『多過ぎますよ』


『そう言わず、受け取ってくれ。こちらの我儘を聞いてくれた礼だ』


『しかし……。あ、でしたら、依頼料の代わりに二つお願いを聞いて頂けませんか?』


『二つ……かね?』


『ええ。あ! そんな嫌そうな顔をしないでくださいよ。そこまで難しい話じゃないんで』


 ドバイクス卿にお願いした事。

 その一つは、兄達への祝儀に関して。

 もうすぐ、長兄グリオルスの結婚式があり、その後直ぐに次兄アルキオスの結婚式がある。

 金銭の準備は問題無いが、物品関係の祝儀で少し悩んでいる状況なのだ。

 内務卿曰く――。


『クロノアス卿は、良くも悪くも目立っていますから。通常の贈り物以外にも、何か目玉を考えた方が良いですよ』


 と、助言を受けたのだ。


 なんで内務卿が兄達の結婚式を知っているのか?

 実は、内務罰は在地領主の家族関係の書類も扱っているから。

 結婚して家族になるのだから、国への届け出は前以て必要なのだ。

 因みに、俺の結婚式の時は招待してくれと直球で言われてしまった。

 貴族って、もう少し回りくどく言うもんじゃね?

 まぁそんなわけで、目玉になる祝儀が決まっていなかったから、ドバイクス卿の方でもリストを作って欲しいとお願いしたのが一つ。


 もう一つのお願いは、工房に関して。

 仮に見つからなかった場合、俺が作ろうと思ったからだ。

 創造魔法で作るのではなく、自分の手で作ろうと考えていた。

 フェルに贈る拡張馬車も、一応は手作りである。

 拡張する魔道具に関してだけだが。

 ただ、我が家と言うか、スペランザ商会も大きな工房の伝手は少ないらしく、貸してもらう許可が取れずにいた。

 だが、歴史あるドバイクス家なら、大きな工房にも顔が利くはず――と考えたのだ。


 その事をドバイクス卿に伝えると、拍子抜けした顔になりはしたが、快諾して貰えた。

 これで貸し借り無しになったので、全員で領域へと向かう事になった。


 そして現在、俺達はリーゼと話していた、腫れ物貴族の屋敷で交渉の話に望んでいた。

 どんな無理難題を吹っ掛けられるのかな?なんて考えていたが、蓋を開けてみると、意外っちゃあ意外な結果になったな。


「成果と上納金ですが……」


「成果に対して、2割でお願いします」


「あくまでも、道中で倒した魔物だけに関してで良いですか?」


「それで構いません。換金となれば時間も掛かるでしょうし、物品支払いで構いません」


「わかりました。それでは」


 驚くほどにスムーズに終わったのだ。

 一悶着あると思ってたのに。

 話を終えた俺達は、この領地にある唯一の宿を貸し切って寛ぐ。

 ついでに、先程の話になった。


「何か拍子抜けだったな」


「私も意外でしたね。リリィさん、何か知っていますか?」


「5代前が結構な事をしたとしか聞いてないんですよ。他貴族との交流も過去のせいで無い様なので、村八分貴族ですね」


「拍子抜けだった理由は?」


「過去のことがあるからではないでしょうか? 欲を掻きすぎれば痛い目に合うと思っているのかもしれません」


「確かにそうかもしれません。上納金も平均的な割合でしたし」


 各領地の上納金だが、安くて1割、高くて3割が常識だ。

 その間を取って平均的な値段を言って来たのだから、リリィの言う事が正解なのかな?

 まぁ、揉めなかったのだから良しとしよう。


「さて、まだ昼前だし、探索に行きますか」


「荷物番は誰がするんだ?」


「神喰」


「おい! 護衛の意味!」


「うっさい! 嫌なら帰れ! 但し、帰ったらどうなるかは分かってるんだろうな?」


「俺の扱いよぅ……」


 神喰に荷物番を任せ、俺達は領域へと入る事にした。

 ある程度当たりを付けて来たので、まずはその場所に向かいながら探索して行く。

 まぁ、道中で魔物が出るのはご愛嬌。


「そっち行ったよー」


「任せて」


「うぅ。シアも戦いたいのです!」


「今日は駄目。危険な状態にならない限りは認めないから」


「うぅ、わかったのです。ラフィ様の判断に従うのです」


 そんな感じで、ヴェルグとリアが斥候を務め、リュールが狩って行く。

 ウォルド、ゼロ、ツクヨは、後衛職のミリアとナユ、護衛対象のリーゼとシアを守りながら進んでいく。

 俺の護衛?

 イーファ達が着かず離れず的な感じかな。

 そして、探索すること数時間、そろそろ日も暮れ始めて来た。

 まだ目的地には着いていない。


「これ以上は危険だな。しかし、領域内で夜営は危ないよなぁ」


「いったん外に出るか?」


「……ウォルド、判断を頼む」


 冒険者としての判断ならば、ゼロよりもウォルドに軍配が上がると、俺は思っている。

 理由は色々あるが、一番の理由はゼロだと参考にならんから。

 ゼロ自身が破壊兵器みたいな部分があるので、一冒険者として意見を聞くならウォルドが適任なのだ。


「流石にこの人数での夜営は推奨できねぇな。……ラフィ、ゲートはこの場所に開けるのか?」


「大丈夫だ」


「なら、一旦宿に引き返そう。もし、夜に探索を進めたいなら、人数は絞るべきだな」


 ウォルドの意見に全員が頷き、一旦宿に帰る事に。

 宿に帰ってから、女性陣は小さいがちゃんとした湯船に浸かり、男性陣は身体を拭いて終わりに。

 全員が揃ってから、宿に備え付けの食堂で夕食を取る。

 ……取る予定だった。

 うん、宿の飯なのに質素過ぎねぇ?

 パンにサラダ、スープとメイン一皿。

 これがこの宿の全てであった。


「何と言うか……」


「宿の食事としては下の上くらいだな」


「そこまであるか?」


「ゼロは下の下を知らんからそう言えるんだよ」


「ウォルドは泊ったことがあんのか?」


「あるぜ。なぁ、ナユ」


「思い出させないでください! もうあの宿には絶対に泊まりません!」


 ナユも泊ったことがあるのなら、ウォルドがパーティーを組んでいた時期になるのか。

 しかし……普段はオブラートに包むナユがあそこまで拒否るとは。

 怖いもの見たさで泊まってみたいかも。


「ラフィ! 今、泊まってみたかも? とか考えていたでしょう! 私は行きませんからね! ぜぇぇっっっったいに行きませんからね!!」


「そこまで嫌なんだ……」


 気になる……でも、これ以上はナユの精神衛生上良くないので、話は打ちきりに。

 その代わりと言うべきか、今度はヴェルグとリュールがタッグを組んで俺に直談判してきた。


「ラフィ、物足りない」


「ん。私も」


「俺も少し物足りないんだが、流石になぁ……」


「厨房を借りられるか、交渉してみたらどうだ?」


「出来んの?」


「あー、ラフィはこの辺りを知らんのか。宿によっては出来たりするぞ。後は交渉次第だな」


 ウォルドの交渉次第を聞いて、リーゼとリリィがタッグを組んだ。

 宿屋の主人、ご愁傷さまです。

 交渉の結果、厨房を貸して貰う事に成功し、ミリア達が調理をして、ナリアが運ぶ。

 満足いくまで楽しんで部屋に戻り、夜間の探索についての話になる。


「さて、夜間に探索するかしないかだが……」


「学術調査と勉強を兼ねているのなら、夜間探索は無しの方が好ましいだろうな。早く終わらせたいなら別だろうが」


「学術調査の主な部分は、ドリンクスライムに関してですので、私の方は問題ありません」


「シアも邪魔はしないのです。明日、勉強するのです」


「決まりだな」


 こうして、夜間探索隊が組まれることになった。

 女性陣は大部屋を貸し切りにしてあるので、ツクヨが護衛として残る事になった。

 夜更かしはお肌の天敵だしな。

 と言う訳で、夜間の探索は必然的に男だけのパーティーとなった。

 帰りにゲートを開いた場所へもう一度繋げ、探索を再開する。


「華がねぇ……」


「あん? 神喰、まさかお前……」


「お前の婚約者に手を出すとかじゃねぇよ! でもな! 目の保養は自由だろうが!」


「ゼロ、ウォルド、こいつどうする?」


「「ぶっ殺ギルティ!」」


 こうして、夜の探索隊は騒がしく進むのであった。

 あ、日付が変わる前には帰還したぞ。

 後、神喰はゼロとウォルドから、頭に強烈な拳骨食らって悶えてたわ。

 ……あんまり探索、進まなかったなぁ。

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