第175話 あの頃のクランを取り戻せ!

 クラン職員からの悲痛な叫びを聞き、スペランザ商会で情報を集めた俺は、翌日にクランへと訪れた。

 まぁ、当然ながら護衛付きで。

 本日の護衛は、ウォルド、ヴェルグ、リュール、ナユ、イーファの5人。

 戦闘特化の護衛である。

 今回、この護衛になった理由は、トラブルホイホイだから。

 納得いかねぇ!


「ほら、ムスッとしてないで。早く中に入るよ」


「ヴェルグさん。俺はムスッとはしてませんよ」


「でも、納得いかないって顔をしてるよ」


「ナユさんや。俺はそんな顔をしてませんよ」


「ラフィ様、早く入ろう」


「リュールはブレないなぁ」


「入り口で話していても埒が明かんのじゃ。ほれ、早う入るぞ」


「イーファもブレてないねぇ」


「ラフィよ……色々思う所はあるだろうが、クラマスなんだから堂々としてりゃ良いんだよ」


「ウォルドらしいな」


 と言う訳で、いざクランへ!

 まぁ、俺を頭に置くクランだから、いざ!って感じでもないんだけどな。


「ようこそクラン……クラマスゥー!!」


「おわっ!」


「飛びついてマジ泣きとか……。しかも受付嬢でこれは……」


「ウォルドの懸念は当たっていると思うよ。あそこ見てよ」


「うわっ……。死屍累々じゃねぇか。ヴェルグは良く引かないな」


「見慣れてるから?」


「なんで疑問形なんだよ」


 ウォルドとヴェルグの会話を聞き、二人が見ている方へ視線を移す。

 うわぁ……某ゾンビ映画みたいになってるじゃねぇか。

 いや、エクソシストの方が合ってるか?

 とにかく、全てが死んでる様に見える。

 あ、やっべ!目が合っちゃったよ。


「! お前ら起きろ! クラマスのご降臨だぞ!」


 目があった冒険者がご降臨とか言っちゃってるよ。

 恥ずかしいから止めて欲しい。

 そんな願いも空しく、声に反応して起き上がる冒険者達。

 起き上がり方と歩き方が完全にゾンビで怖いんだが……。


「クラマス~」


「ク~ラ~マ~ス~」


「クラ……マス……」


「こっわ!」


「マジで逝ってるなぁ。ラフィ、状況は想像していたよりヤバいかも知んねぇぞ」


 幽鬼的な動きで手を前に出し、お前もこっちにこいよ~、と誘う動きで、クラマスと呼び続ける冒険者達。

 完全にホラー映画そのものであった。


「と、とりあえず! 状況確認する!」


「私は冒険者達のケアに行きますね」


「頼むナユ。イーファも手伝ってやってくれ。回復魔法は使えるんだろ?」


「任せよ。とは言え、精神的な治療が必要だと思うのじゃが?」


「肉体疲労の蓄積も精神的疲労に繋がるからな。とりあえず、肉体疲労をどうにかしてくれ」


「承知なのじゃ」


「残りは事務室な」


 ゾンビみたいな冒険者達はナユとイーファに任せ、俺達は事務室へと向かい入室する。

 事務室で働いている職員たちだが、冒険者達と変わらない状態だった。

 目の下に隈が出来ており、誰かが入って来ても見向きもしない。

 中にはブツブツ何かを言っていたり、書類に向かって語り掛けている者も少なくない。

 前世で聞いたブラック企業の末期社畜であった。


「「「…………」」」


 職員たちの惨状を見た俺達は絶句した。

 本当に、どう声を掛けて良いかわからなかったのだ。

 どうしようかと悩んでいると、一人の職員がこちらに気付き、声を掛けてくれた。

 いや、マジで助かったわ!


「クラマス? 今日はどうされたんですか?」


「いや、陳情が来たから手助けに来たんだが……」


「……もう一度言って貰えますか? 最近、幻聴が聞こえる様になってしまって」


 この職員も相当にやられているみたいだ。

 冒険者含め、休業手当を出して休暇を与えたが良いかな?


「いや、手助けに来たんだが……」


「……救世主が降臨した」


「はい?」


「お前らぁ! クラマスが手助けに来てくれたぞー!」


 幻聴職員の声に対して、一斉に反応する職員たち。

 その目は幻聴職員と同じ目をしていた。

『救世主、ご来訪!』と。


「ラフィ、言っちゃなんだが……こいつらヤバくないか?」


「相当追い詰められてたんだな……」


「その元凶がラフィなんだけどね」


「間違いない」


「うん。わかってるから、俺に追い打ちは止めてね」


 こうして、クランの機能改善に努めることになった。

 まずは、問題点の洗い出しだな。


「まずは、支部関連です。とにかく、各国冒険者ギルドからの陳情が凄くて……」


「次に依頼量です。もう、クランの許容量を超えています」


「後は人員不足です。以前からギリギリでしたので、もう少し増やして頂かないと」


「ふむ。因みに、出向組はどうなっている?」


「猫の手も借りたい状況ですので、手伝って貰ってます。重要部分が回せないから、焼け石に水ですが……」


「焼け石に水状態なのに、出向組も逝きかけてると」


 クラン白銀の翼の職員って超優秀だったんだな。

 流石に任せきり過ぎたか。

 しかし、問題点が多すぎるな。

 あれ?そういや、他のクランも忙しいのだろうか?


「他のクランですか? 何処も似たような物ですよ?」


「具体的には?」


「クラマスが貴族なので、貴族からの指名依頼はこっちに集中してますね。おかげで、別の指名依頼や通常依頼は受けられない状況です」


「それで?」


「対する他クランですが、こちらで受けれない指名依頼が舞い込んでいて、何処もうちと似たような状況になりつつあります」


「ギルドは?」


「通常依頼が何処も受けれませんから、クランに入ってない冒険者達が引き受けていますね。指名依頼も舞い込んでいるそうなので、ギルドもパンク寸前です」


 状況はこちらの予想以上に逼迫している状態であった。

 しかし、何故ギルド側から何も言ってこないのか?

 その辺りも聞いてみると、意外な答えが返ってきた。


「真っ先に機能不全に陥ったのがうちですからね。恐らく、配慮してくれたのだと思います」


「俺が忙しいと思われたのか?」


「クラマスは普段から忙しいお方ですから。久しぶりのお休みを邪魔しなかったのではないでしょうか?」


「ありゃ、バレてたのか」


「そりゃバレますよ。白昼堂々イチャコラしてたって有名ですよ? うちの冒険者達はマジでクラマスに殴り込みに行きかけましたから」


「来たら返り討ちだけどな」


「容易に想像できたので止めました。返り討ちにされた挙句、仕事に支障が出るとか、完全に終わるじゃないですか」


「ごもっともで」


 俺が来たことで心に余裕を取り戻したのであろうか?

 職員も毒を吐く余裕が出来たみたいだ。

 職員の精神的な疲労は少し緩和されたとみて良いだろう。

 さて、根本的解決にどこから着手するか。


「さて、どれから片付けるか……」


「依頼量に関してはどうにもなりませんし、人材も直ぐには無理でしょう」


「となると、やはり陳情からか」


「それが無難です。でも、どうされるんですか?」


「どうしようかねぇ……」


 陳情の問題点は支部の立ち上げに想定以上の応募者が来ている事とルールを守らない冒険者がいる事か。

 ランシェス内に居て、どうにかできるとは思えんよなぁ。

 一応、手はあるんだけど……。


「その方法で良いんじゃね?」


「ボクもそれが手っ取り早いと思うよ」


「クッキーさんなら乗ると思う」


「人の考えを読み過ぎ。つか、マジで言ってる?」


 俺の考えを読んだ3人は、考えた案で良いと押してきた。

 かなりの力技だと思うんだがなぁ……。


「ルールを破った冒険者は排除で良いだろう。問題は、支部を任せられる冒険者がいるかどうかだが」


「傭兵国支部は最悪、お父さんかクッキーさんに兼任して貰う」


「神聖国と皇国は大丈夫じゃない? ラフィ信者多いし」


「やめろヴェルグ! 最後のはマジでシャレにならん!」


 ヴェルグの最後の一言に、全員が大笑いする。

 笑う前に否定してくれ!

 あれ?何か悪寒が……。


「とりあえず! 各国ギルドに通達を出さないと」


「傭兵国は直接で良い。ラフィ様はEX」


「え? ここで権限使うの?」


「ん。使わないと無理」


「マジかぁ……」


 権限とか使いたくないんだよなぁ。

 後で面倒な事になりそうだし。


「使わないで出来るなら、それでも良いんじゃない?」


「傭兵国にはクッキーさんがいる。任せても良い」


「なぁ、そのクッキーって人、そんなに強いのか?」


「私とヴェルグは負けた。あれは人じゃない何か」


「リュールも言うね。でも、バレたらまずくない?」


「……今のは聞かなかったと言う事で」


「リュールでもクッキーさんは怖いか」


 これ以上クッキーさんをネタにすると、何か起こりそうな気がして止めたのだが、どうやら一足遅かったらしい。

 リュールのスマホもどきが鳴り、着信表示には傭兵王の名が表示されていた。

 まさか……と思うが、出てみるとやはりあの人であった。


『んふふ~。何か色々と言われた気がするわぁ』


「な、何の事?」


「リュール、落ち着け」


「ラフィ様、任せる」


「おい!」


『放置しないで欲しいわぁ』


 とは言え、向こうから連絡があったのは好都合である。

 クッキーさんに話を通し、協力を仰ぐことにした。


『事情は分かったわぁん。こちらとしては有難いけどぉ、そっちの管理が面倒になるわよぉん』


「何名か応援を寄こせませんか?」


『うーん……2、3名で良いなら、何とかするわよぉん』


「各国ギルドに通達できます? それも早急に」


『したとしても、全て揃うのは明日になるわよぉん?』


「この際、1日程度の誤差は問題にすらなりませんから」


『わかったわぁん。迎えは、クロノアス卿のゲートで良いのねぇん?』


「それで構いません。ゲートを開く場所は、ギルド前にしますので」


『了解よぉん。全く、貴族には本当に困るわねぇん』


「そこはノーコメントで。では、お願いします」


 クッキーさんとの通話が終わり、聞いていた職員に向かってサムズアップをする。

 それを見た職員たちは、両手を上げて大喜びだ。

 ただな、喜ぶのは良いが書類を上に放って撒き散らすな。

 余計な仕事を自ら増やすんじゃない!


「下に居た冒険者達にも話を通すのか?」


「彼らにはやってもらうことがあるから。依頼完了した冒険者達は、次の依頼を受けない様に通達を」


「直ぐに下へ連絡します」


「それと、明日にクラマスからの指名依頼が入ると伝えて待機させるように」


「わかりました」


 とりあえず、ギリギリのところで踏み止まれそうだな。

 他クランとギルドには、もう少しの間だけ辛抱して貰おう。

 ……後で挨拶には行かないと駄目だなぁ。

 と言う訳でこの日は解散し、翌日に作戦を決行する。

 護衛に関しては先日と同じである。


「さて。それじゃやりますか」


 昨日話していた作戦とは、ルール破りした冒険者を除き、支部へと応募してきた冒険者全てを本部へと招集し、試験のついでに依頼を片付けて貰う作戦だ。

 既に本部で仕事をしている冒険者に監査役をして貰い、合否の判定を出して貰う。

 それなりに長く在籍している冒険者が主流なので、我がクランの方針は間違いなく理解している。

 依頼主への態度を含めた合否判断をして貰う訳だ。

 見込みがある場合、多少の手助けは認めているが、それ以外で仲裁に入った場合は不合格となる。

 そして肝心なのが、依頼達成が合否の判断基準では無いと言う所。

 不測の事態に陥った時の対処、仲間との連携、力量の把握など、多岐に渡っての審査となる。

 監査に着くのは、同ランクの冒険者か上のランクの冒険者。

 監査役に嚙みついた場合、その理由によっては問答無用で失格。

 質問に関しては受け付けると言った形だ。

 尚、依頼遂行中の冒険者に関しては、昨日のうちに全員迎えに行き、各依頼者へは俺の名前を出しても良いと言う形で、職員に説明へと向かわせた。

 勿論、説明文も考えて渡してあるので、文句があるならクロノアス家に来い!と付け足してあった。

 結果としては、文句を言いに来た貴族はいなかったがな。


「まぁ、こんな感じで諸君には依頼を受けて貰い、合否判定を出すわけだが、何か質問がある人はいるかな?」


 クラン入り口前で大多数の冒険者が並んでいるのだが、数名の冒険者が手を上げて質問してきた。


「一つ確認をしたいのですが?」


「何でしょうか?」


「ソロで動いている冒険者はどうなるのでしょうか?」


「先程の説明した通りです。ソロだろうがパーティーだろうが、先程のルールが以上です。それ以上もそれ以下もありません」


「自分も良いか?」


「どうぞ」


「今回の試験だが、実際に依頼を受けるのだよな? その場合、依頼の報酬はどうなるんだ?」


「少しですが目減りします。監査役にも報酬は必要なので、パーティーに一人加えた状態で均等配分です」


「それって、こっちが損をするんじゃ……」


「先行投資だと思って下さい。但し投資なので、失敗するリスクもあります」


 俺の報酬への説明にざわつく冒険者達。

 所詮は売名行為目的の冒険者が多いのだろう。


「もし、今の条件で不服なら、ゲートを開くのでお帰り頂いて構いません。まぁ、口汚く言いますと――やる気のない奴は失せろ」


「何だと!」


 最後にきつく言ったせいで、怒り出す冒険者達。

 お前ら……何か勘違いしてるみたいだな。


「口調を崩して言うが、別にこっちはお願いしてる立ち場じゃないんでね。売名行為や楽をしたいと考えてる冒険者は要らないんだわ」


「てめぇ……」


「やるなら相手になるよ? でもな、うちは割とハードなクランなんだよ。俺のせいもあってクランの名前が尾ひれをついて流れている状態だ。人手は欲しいが、やる気のない奴は要らん」


「…………」


「死ぬ気で上位ランカー、若しくは特化冒険者になりたいと思ってる、やる気のある奴だけ試験を受けに来い! こっちは全力で監査してやる! 見ろ! お前達を監査する冒険者達を!」


 俺の言葉に監査に当たる冒険者達を見る受験冒険者達。

 監査冒険者達は目に隈を作り、疲れ切った状態を見せてはいるが、昨日の介護の甲斐があってか、目だけは生き返っていた。

 それは職員も同じである。

 応援に来た各国ギルド職員たちは、先に我がクランの職員たちの惨状を目の当たりにしている為、俺の言葉に賛同していた。


『これがカリスマと言う物か……』


 応援に来た誰かが言った言葉ではあるが、応援に来た全員が頷き、職員たちが肯定する様子もあったほどだ。

 俺本人としては、カリスマがあるのかは微妙ではあるが。

 ブラック企業の社長の素質はあると思う。

 ……いや、この考えは駄目だな。

 目指せ!ホワイト企業!


「さて、ここまで言われてどう動く? 帰りたい奴は、今すぐ名乗り出ろ!」


 俺の最後の言葉に、反応する冒険者はいなかった。

 ならば、次の言葉は決まっている。


「帰りたい奴はいないんだな? なら! 支部だろうが本部だろうが、本気で上を目指したい者は声を上げろ! 叫べ! 必ず受かってやると!」


「「「「おおおおおおお!!!」」」」


「てめぇらのランクは、ただの飾りか!? 違うだろう! なら、証明して見せろや!!」


「「「「やってやるぜぇぇぇぇ!!!」」」」


「その意気だ! 合格者の上限はない! 全員が同僚になる気で動けや!」


「「「「よっしゃぁぁぁぁ!!!」」」」


「助け合いも判断材料に入るからな! パーティー以外でも助け合うように!」


「「「「了解だぁぁぁ!!!」」」」


「良し! じゃあ行け!」


「「「「やぁってやるぜぇぇぇ!!!」」」」


 受験冒険者は直ぐに動き出す。

 監査冒険者も職員も受付嬢も一気に忙しくなる中、婚約者達とウォルドがこそこそ話し合っていた。


「(ねぇ、ラフィって扇動家の素質ある?)」


「(否定はしない)」


「(あれがカリスマじゃねぇの?)」


「(昔から、やる気を出させるのだけは上手かったような気が)」


「(ナユ、そこ詳しく)」


「君ら、さっきから丸聞こえ何だけど?」


「げっ!」


「あはは……」


「ラフィ様、お疲れ様」


「ラフィ、もう少し自重した方が……」


 四者四様に返事を返す。

 怒ってはいないけど、不名誉な物は言って欲しくない。

 下手な事を言えば、それがそのまま称号になりかねないのだから。


「とりあえず、数日は待ちだな」


「その間はどうするの?」


「リーゼと調べものかな?」


「もしかして……」


「ドリンクスライムの生息域を絞らんといかんからな」


「がんばって」


「応援している」


「ヴェルグもリュールも強制連行です」


「「そんなぁ……」」


 とりあえず、当面の間はどうにかなりそうなので、暫くは様子見である。

 その間に、王家の依頼を少しでも片付けないと。

 休みが明けたら、即ブラック社畜仕様は勘弁して欲しいよなぁ……。

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