第141話 戦後処理の前に……

 ジルニオラが処刑される2日前、フェリック、オーディール両国軍も帝都へと集結していた。

 驚いたのは、オーディール軍には王自らが出陣していた事だろうか?

 王自ら出陣とか、竜王国は大丈夫なのかね?


 全軍が集結した後、ゲートを使い、各国首脳陣を帝都へと呼ぶ。

 そして、各国首脳陣を含めた全軍と臣民が見る中、ジルニオラは処刑された。

 皇帝は……いや、この話はよそう。

 実の子を自らの手で処刑に追いやったのだから。

 触れないでおくのが正解だろう。


 ジルニオラが処刑されて2日後、戦後処理のために同盟会議が開かれる。

 出席者は、各国首脳陣に俺とガザライズ皇太子。

 それと、傭兵団副団長と補佐役。

 計10名で行われる。


 今回の会議に、ミリア達は留守番となっていた。

 理由はいくつかあるのだが、最大の理由は二つ。


「ラフィ様が盟主なのですから、ご自身のお言葉が必要です」


 そう言ったのはミリアだ。

 我が家の正妻候補様は時に厳しいのだ。

 だが俺も負けずに、リーゼやリリィを見て助け舟を懇願したのだが、結果は惨敗した。


「ラフィは、もう少し学ぶべきだと思います」


「毎回助けていては、成長できませんから」


 リリィからは不勉強と言われ、リーゼからは未成長と言われる。

 言葉の刃って偉大だよね。

 原初たる俺が、四つん這いになって惨敗したんだから。

 結論――原初であっても、嫁には勝てない。

 これが世界の理であった。

 世界さんが聞いたら「ソレ、チガウ」って言いそうだな。


 とまぁ、そんなわけで現在は会議の開始直前なのだが、開始前に皇帝が挙手をして、各国首脳陣へ許可を求めた。


「申し訳ないが、会議の前に話を聞いてもらいたい者がいる。この場に呼んでも良いだろうか?」


「誰を呼ぶので?」


「説明すると拒否されると思っておる。安全は約束する故、会ってはもらえないだろうか?」


 皇帝が申し訳なさそうに話し、教皇が尋ねるも、答えを濁して返答する皇帝。

 全員が俺を見て「どうする?」と尋ねてくる。

 俺がいる限り、余程のことが無ければ安全だろうし、問題ないだろうと頷いて、合意を伝える。

 それを見た皇帝は、人を招き入れた。

 年齢は様々だが、成人以上の人は全員が女性。

 成人未満は、男女混合。

 もしかして、この人達は……。


「気付いただろうが、この者達はジルニオラの元妻達と元子供達だ。話したいことがあると押し切られてな」


「反乱軍の首魁は禍根を残さないのでは?」


「ランシェス王の言い分は尤もだ。だからこの者達は、皇太子で無くなった時点で別居させている。城の奥にて生活はさせていたのは、余の償いだ」


「それで、恨み言を言いに来たのかい?」


「フェリック王、それは失礼だろう」


「オーディール王は違うと? 俺なら言いに来るがね」


「聞いてみればわかりますよ」


 最後にヴァルケノズさんが締め、沈黙が辺りを包む。

 俺は全員を見渡し、一つの決断を下した。

 これはケジメでもある。

 俺は徐に立ち上がる。


「クロノアス卿?」


 皇帝が不安な顔をしながら訪ねてきた。

 それに俺は手で返し、元家族に対して話しかける。


「同盟盟主グラフィエル・フィン・クロノアスだ。恨み節なら、俺が聞こう。各国は俺の呼び掛けに応えたに過ぎない。全ての決定は俺が下した。ただ、一つだけ言っておく。恨み節だけなら受け止めてやるが、もし俺の愛する者達、大切な者達に手を出すというのなら、容赦はしない。これが俺の決意であり、ケジメだ。そのことを加味して話すなら聞こう」


「クロノアス卿!」


「陛下、これはケジメです。俺が自分の我儘で、一つの家族を壊したことに違いありません。これは、俺が背負う罪です。だからこそ、こちらの覚悟も見せました」


「グラフィエル君、それは各国も背負うものだ」


「いいえ。ヴァルケノズさんたちが背負うべきことではありません。始まりは俺なのですから」


 そこまで言い切った後、誰も何も言わなかった。

 沈黙が辺りを支配し始め、誰もが口を紡ぐ中、一人の女性が話し始めた。


「クロノアス様のお覚悟、しかと受け止めました。ですが、何か勘違いをされているようです。私達は恨み節を言うために来たのではありません」


「では、何のために?」


「各国――と言うか、主に神聖国教皇様にお願いがあって参りました。この場での許可をお許し頂ければ」


 女性の言葉にヴァルケノズさんを見る。

 ヴァルケノズさんは頷き、俺に進行してくれと伝える。

 だが、一つ言いたい。

 勘違いした話をして、クッソ恥ずかしいんですが!

 そんな俺に進行役しろとか、どんな羞恥プレイだって言いたい。

 何事も無かったように、表情を変えずに、どうにか進行する俺。

 誰か変わって欲しいんですが……無理ですよねー。


「お話は分かりました。それで、お願いとは?」


「私達は、元夫とは言え、犯罪者の係累です。お義父――こほん、皇帝陛下の御威光があっても、最早城で匿うのは不可能です。なので、教会に身を置こうと思っているのですが」


「待ってください! まさか……全員ですか!?」


「ヴァルケノズさん?」


 ヴァルケノズさんが慌てた理由。

 それは人数もあるが、元皇太子の係累が全員となると、人員や経費の問題が出るからであった。

 身分が高かった者が、教会送りになることは珍しくない。

 但し、大半が強制的に、と言う言葉が入る。

 強制的な者達は、最低限の生活で良いが、物分かり良く自らとなると、最低限とは行かないらしい。


「趣向品も少しは必要ですから。ですが、そう言った人達は少ないのです。しかし、これだけの人数が一気にとなると……」


「申し訳ありません。他の妻や子供達も帰る場所がないのです。反乱軍に加担していましたから、領地も爵位も没収でしょう」


「そうだな。反乱に参加していた貴族は、裁判の後、然るべき刑を執行予定だ。帰る場所は、無い」


「皇帝陛下の御意志のままに。と言うわけでして、我儘は言いませんので、受け入れて頂けないかと」


 ヴァルケノズさんが頭を抱えて皇帝を睨む。

 皇帝はサッと目を逸らす。

 そして、今まで黙っていた一人の子供が口を開いた。

 年齢は12、3歳くらいの男の子。

 彼が話した内容は「反抗期だから?」と疑ずにはいられない内容だった。


「元父の子供で長男です。実は、クロノアス卿にお願いがあります。これは母の頼み事とは関係なく、個人のお願いになります」


「俺に頼み事とは?」


「自分をクロノアス卿の弟子にして頂けないでしょうか?」


「…………はい?」


 この男の子は、何を言ってるんだ?

 聞き間違いか?


「聞き直すけど、弟子になりたいって言った?」


「はい。弟子が無理なら、せめて冒険者として教育してもらえませんでしょうか!?」


 眉間を指で摘み、天を仰ぐ。

 うん、マジで何言ってんのかな?

 意図が分からん。


「なんで俺に頼むんだ?」


「個人的感情になりますが、お話しても?」


「どうぞ」


「では、失礼して。自分は父が嫌いです。正直、ザマァとしか思ってません。そんな父に引導を渡したクロノアス卿にご指導して頂きたいのです」


「なんで父親――失礼、元父親が嫌いなのかな?」


「母は、いつも泣いておりました。自分が生まれてからは、母は父に相手にしてもらえず、父は他の女をとっかえひっかえ。そして飽きたら、新しい女。ぶっちゃけ、死ね! クソ親父! と、ここ数年は思っていました。皇太子を廃嫡になった時、スカッとしましたね」


「いや……君の未来も無くなったんだけど?」


「次代皇帝ですか? そんなもの、クソくらえですね。あの父が執着した地位など、死んでもいりません」


 なんて男前な子でしょう!

 でもね、それを実祖父の前で言っても良いのかね?

 皇帝を見ると――あ、なんかバツが悪そうな顔をしてる。


「正直、爺様――失礼しました。父が皇帝陛下の子供なのか、理解に苦しみます。皇帝陛下も沢山の妻がおりますが、きちんと愛しておられます。あのクソ親父の様に、女性をアクセサリーとして見てはいません」


「いや、だから目の前に――」


「自分は平民に落ちる者です。もうすぐ、皇帝陛下の孫ではなくなります。今の内に、言いたいことは言ってしまおうかと」


「勇気があるね……君」


「お褒めに預かり、ありがとうございます!」


「いや! 褒めてないからね!」


 なんか漫才になってしまった。

 各国首脳陣を見ると、皇帝以外は笑いを堪えてる。

 あんたら、失礼じゃね?

 対する皇帝はプルプルと震えていらっしゃる。

 あれ?この子、ちょっとやばいんじゃね?

 だが、話は止まらない。


「皇帝陛下は為政者としても、男としても見習うべき所は多いと思っています。ですが、皇帝陛下に教えを賜ることは、もう不可能です。ならば、クソ親父にザマァさせたクロノアス卿にご指導して頂きたいと」


「うーん……どうしても不安がなぁ。教えて復讐されて誰かが危害に会う可能性も」


「誓約でも何でも受け入れます!」


「どうします? 皇帝陛下に一任しますよ」


 皇帝に丸投げしてみた。

 皇帝は孫に褒められて嬉しそうだったが、険しい顔に変わって考え始める。

 そこに、もう一人女の子が話に加わってきた。

 歳は男の子とほぼ変わらん位。

 そして、この女の子も父親に容赦がなかった。


「クロノアス様。私にもご指導お願いできませんか?」


「君も!?」


「私は冒険者と言うより、誰かを守れる力が欲しいだけです。あの父に私の母も心労が絶えませんでしたので」


「ああ、そっち」


「私は誰かの役に立ちたいと考えています。平民に落ちる――いえ、戻るのですし、メイドも悪くないかな? と考えています」


「ん? 君のお母さんは、元平民?」


「商家の出だと母から聞いています。あの男が母を気に入り、無理矢理手に入れたと。母には想い人が居たそうですが……」


「皇帝?」


「う……ぬ。一応調べてはいるのだが、色々とやらかしておったみたいでな。中には完全に追えぬ者もいる始末。ただ、その子の母の想い人は……」


「始末されていましたか……」


「うむ……。余がジルニオラに変わって謝罪しよう」


「おじい様、謝罪は不要です。おじい様は、私達に良くしてくださいました。教育が――と言う話ですが、良い大人が子供みたいなことをしていただけです。よって罰せられるのはあの男だけです」


「しっかりしてるなぁ……」


 さて、これでは会議が始められない。

 皇帝、ヴァルケノズさん、俺は頭を抱えて思案中。

 残る首脳陣は我関せず。

 いや……ランシェス王は、あれは楽しんでるな?

 陛下がそう言う態度なら、巻き込むとしよう。

 陛下とは私事プライベートでは友みたいな感じだ。

 きっと分かち合ってくれるだろう。


 俺は空間収納から一枚硬貨を取り出す。

 黒い硬貨を――。

 それを見た全員が驚いている。

 それを軽く弾き、ヴァルケノズさんの膝元へ落とす。

 そして、次の言葉は――。


「ヴァルケノズさん、全員を――いや、俺に意見した二人とその母親は我が家で引き受けるので、それ以外をお願いします。その金があれば、全ての子供達が成人するまでは大丈夫でしょう?」


「大丈夫どころか、お釣りが来ますよ……」


「余った分は寄付しますよ。あ、条件はありますよ?」


「成人後の監視でしょう? それと、成人前に良からぬことを企てたら、放り出すですかね」


「流石です。では、お願いしますね?」


「……わかりました。教育が必要なら、それもしますよ」


「流石、元家庭教師!」


「褒めてませんよね、それ?」


「褒めてますよ。俺の家庭教師だったのは事実ですし」


「今ここで言う事ですか!? ああ……ほら、フェリック王が睨んで」


「後で詳しくな、教・皇・猊・下・殿」


「わかりましたよ……」


 ちょっとした漫才をして、強制的に決める。

 我が陛下は……うん、やっぱり頭を抱えたな。

 狙い通り!

 お互い苦労しましょうね。


 誰に何も言わさずに独断で決めたが、ジルニオラの元正妃が意見を出してきた。

 彼女は頭を下げて礼を言ってから、提案を出してくる。


「ご英断、感謝いたします。また、クロノアス様には我が子のことまで。申し訳ありません。ですが、私がそちらに行くと要らぬ誤解を与えてしまうでしょう。私は教会でお世話になります。元とは言え、皆を統率する者は必要でしょうから」


「気にしなくても良いですよ。恐怖で黙らせますから」


「ラフィ君、言葉は選びましょうね。ですが、クロノアス卿の言う通り、気にする必要はありませんよ? 資金は潤沢ですので、人員は何が何でも揃えますし。いや、揃えないと立つ瀬が無い、が正解ですけど」


 ヴァルケノズさんは俺に突っ込みを入れた後、元正妃に問題ないと告げる。

 俺との扱いが違うのには、文句を言わせてもらいたい!

 心の中で叫びながら、行く末を見守るが、ふと嫌な疑問が浮かんだ。


(あれ? 確か、国家反逆罪に問われた場合、血縁者も含めて処刑じゃなかったっけ?)


 視線で皇帝に投げかける。

 視線だけでは気付かないだろうから、少しだけ周りが分からないようにジェスチャーも入れる。

 すると皇帝も気付き、彼女らの事を話し始めた。


「各国の皆も気付いていると思うが、彼女らの殊遇について話をしようと思う。そして、先に謝罪を。余は大罪を犯した。書類上では、ジルニオラが廃嫡された同日に彼女らは離縁したことになっておる。同時に、反乱が起こる前に実家からも絶縁されておる内容に差し替えた。もし、元妻達と孫らが何かしようものなら、余とガザライズが責任をもって始末する。どうか納得してほしい」


「俺は構いませんよ」


「グラフィエルが良いなら、余も構わん」


「私も良いですよ」


「私も構いません」


「神竜騎士様が決めたのならば」


「はぁ……納得はしてやる。心情もな。だが! 皇帝は甘いと言わざると得んな」


「甘んじて受け入れよう」


 皇帝のしたことは、苦言はあるも概ね受け入れられる。

 そして先程の話に戻るが――。


「と言うわけで、4名は我が家で。あ、働かざる者食うべからずなので、仕事はしてもらいます」


「わかりました。教皇猊下、他の者達をよろしくお願いいたします。そしてあなた達、くれぐれも余計な事は考えないように。それと、もう少し話をすれば良かったわね……。ごめんなさい」


 最後に元正妃は、側室達に謝罪した。

 彼女は、貴族派閥の反皇帝派の娘であったが、反皇帝派の考えには染まっていなかった。

 彼女自身、貴族を止めたがっていたのかもしれない。

 なんでそう思うかって?彼女の顔が、どこか晴れ晴れとしていたからだ。


 こうして会議の前の話し合いは、予定以上の時間を食ってしまい、一度休憩となる。

 それならばと、俺は各国首脳陣に休憩に入る前に提案をしてみた。


「そっちの女の子。君はメイドを目指すで良いのかな?」


「はい」


「じゃ、早速修行しようか」


「え?」


「皆さん、うちの超絶鬼完璧究極メイドを会議の配膳係にしても良いですか?」


「ほう? 余は少し気になるな。クロノアス卿がそこまで言う人物に」


「あの方ですか。私は構いませんよ」


「私も問題ありません」


「あの者か。余も気が知れておるし、問題ないな」


「ラナも将来はお世話になったりお世話したりする人物か。会ってみるべきだな」


「一部の王たちは顔見知りで、評価も高いのか。よし! 俺にも合わせろ!」


「では、休憩中に連れてきます」


「あ、あの……」


「大丈夫。厳しいけど根は優しいし、彼女に掛かれば世界最高峰のメイドに近づけるよ」


 と言うわけで、有無を言わさず女の子の強制修行が決定。

 同時にナリアのお茶係も決定した。

 そのことをナリア本人に話すと。


「お館様のお考えにお付き合いします」


 と、ただこれだけだった。

 ナリアさん、地味に怒ってらっしゃる?

 後でウォルドと言う鎮静剤を投与しないといかんな。

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