第142話 今度こそ、戦後処理!
皇帝の計らいによって、戦後処理の話し合いをする前に、多大なる精神的疲労を負わされたが、ようやく本題へと入る。
先の提案通り、ナリアとその弟子候補が会議でお茶係をしている。
俺達が席に着くと同時に、お茶の配膳を始め、手早く終わらせる。
弟子候補は見ているだけだが、ナリアの手際の良さに思わず声が出て、ナリアに叱られていた。
一口紅茶を啜り、戦後処理の話が始まる。
「さて、戦後処理とは言うが……」
「皇帝は、ある程度聞いているのでしょう?」
「何のことだ?」
「しらばっくれるなよ。どうせ小僧から聞いているんだろ?」
「皇王よ。もう少し言い方をどうにか出来んのか?」
「あの鼻たれ小僧が大きくなったな! ランシェスの席は座り心地良いか?」
「心労ばかり増えるな。たまに平民が羨ましく見えるわ」
とまぁ、和気藹々に見せた牽制が始まる。
さて、ドロドロとした騙し合いの始まりか……。
……そう思っていた時期が俺にもありました。
少し時間が経って思ったこと。
それは、この人達マジで和気藹々してるんです!
え?戦後処理はどこ行った?
シリアスなお時間じゃないんですか?
ドロドロとしたやり合いは?
そんなもの、どこにも存在してません!
何故だ……どうしてこうなった……。
いや、平和なのは良いことよ。
でもね、国の頭がこんな感じで良いのかと言われたら、絶対に良くないと思うんだよね。
そんなことを考えながら紅茶を啜り、各国の話に耳を傾ける。
ぶっちゃけ、世間話と大差ない。
あんたら……真面目にする気あるのか?
そこから更に時間が経つ。
相変わらず雑談ばかりで、今回の事に触れない。
俺は既に4回目になる紅茶のおかわりをしていた。
ティーカップ注がれた茶色い液体を啜る。
うん……美味しい。
美味しいけど、飽きた。
いつまで経っても始まらない話。
美味しいけど飽きた紅茶。
お茶請け?そんなもん、とうに無い。
イライラ……イライラ……。
「はっはっは! あの女狐も相変わらずか!」
「皇王、余の妻だぞ?」
「そう目くじら立てるな。俺とお前の仲だろうが」
「皇帝は亜人達をどうするので?」
「レラフォード代表、その話はもう決まっていてな」
「ほう、神聖国ではこのように……」
「ええ。ですが、やはり教育と言うのは難しくて」
イライラ……イライラ……。
「そういや、お前んところの息子の結婚式はどうなってるんだ? 俺も呼んでくれるんだろうな?」
「大々的な発表と内輪の二つだな。先に内輪をするから、そちらだけならば」
「まぁ、しょうがないか。国に帰ったら、祝儀の用意だな。リーゼの時は期待するぞ?」
「リーゼ殿の時は、我が娘も結婚するのだが?」
イライラ……イライラ……イライラ……イライラ……。
「獣人については?」
「あれは無理だな。臣民感情もある」
イライラ……イライラ……イライラ……イライラ……イライラ……イライラ……。
「では、竜信仰に精霊と神を混ぜれば……」
「どれも繋がりはありますが、纏め過ぎては却って危険では?」
ブチッ!!
何かが切れる音がした。
俺は後先考えず、声を大にして説教をする。
そのことを俺は覚えておらず、後でナリアから聞いて頭を抱えることになるのはこの後の話。
「てめぇらぁぁ! いい加減にしやがれぇぇ!!」
「「「「「「!!!」」」」」」
「オラ! 椅子に座ってんじゃねぇよ! そこに正座しろや!!」
「く、クロノアス卿!?」
「ああん?」
「な、なんでもない……」
「なんでもないです……だろうがぁぁ!」
「ひゃ、ひゃい!」
各国首脳陣相手にブチ切れ、正座させて大説教。
説教は1時間にも及んだと、後でナリアから聞いた。
その説教も何度か同じ言葉を繰り返していたとも言われる。
尚、声を掛けたのは皇王陛下。
彼は勇気と無謀を履き違え、恐怖を叩き込まれた。
「皇王陛下が泣いているとこなど、誰も見たことはありません。良いですか? これは墓まで持っていくのですよ?」
「わ、わかりました。ナリアお姉さん」
「今はお姉さんでも良いですが、本格的に弟子になるならば……いえ、普段はお姉さんで構いません。人前では侍女長と呼びなさい」
ナリアが女の子に色々話し、教えていたが、俺はそれどころではなかった。
現在、各国首脳陣は、1時間にも及ぶ正座の末、痺れを切らして別室で治療中。
俺は言いたいことを言い切って、我に返ったところでナリアから報告を受けて青褪めていた。
「や、やっちまった……」
後悔先に立たずとは良く言ったものだ。
やっちまってから後悔する。
正しく、先には立たんな。
って!そうじゃない!
この後どうすれば……。
答えは出ぬまま、各国首脳陣が戻ってくる。
全員が席に着き、気まずい空気が流れる。
チラッと皇王を見る。
皇王はビクッ!とする。
皇王は皇女殿下(弱)に退化してしまった。
って!ちがうだろおぉぉぉ!
心の中で一人突っ込む。
シーンとした部屋。
しかし!勇者が現れた。
勇者の名はシャリュールだ。
「貝みたいに口を噤んでいても、何も始まらない。雑談は程々に、本題を話すべき。後、グラフィエルはやりすぎ」
「はい、すいません……」
「お主、勇者か……」
「英雄だろうよ……」
皇王と皇帝がシャリュールを称える。
シャリュールのおかげで、どうにか持ち直し会議が再開される。
ただ、シャリュールの隣で補佐役でいた傭兵は気が気でなかった模様。
シャリュールの言葉に汗を拭いながら顔を青くさせていた。
補佐役の人にもごめんなさいだな。
「少し浮かれておったな。色々と厄介ごとが片付いたのもあったしの」
「口調は、多少砕けた感じで進めるか」
「ランシェス王、それは元の木阿弥では?」
「教皇殿、ある程度は砕けた方が良いと、自分も思いますな」
「オーディール王の言う通りかと。砕け過ぎは良くありませんが」
「レラフォード殿も言うな。俺も……もう少し大人しくするか」
最後の皇王の言葉に全員がジト目を向けた。
うん、皇王はもう少し自重してほしい。
俺が言えた義理ではないがな。
皆で反省し、きちんと戦後処理を始める。
勿論、ある程度は決まっているがな。
場も落ち着き、会議が再開される。
ある程度は決まっているので、齟齬が無いかともう少し細かい内容の打ち合わせだ。
決まれば、文官が正書して調印となる。
尚、進行はガザライズ皇太子が務めるようだ。
「では、再度確認を。まずは、この度の内乱平定にご助力頂き、誠にありがとうございます。進行は不肖、ガザライズが務めさせて頂きます。先に我が妹のシャルミナが皆様にご提案させて頂いていた内容について、確認をさせて頂きたく思います。確認後、齟齬がありましたら、挙手にて発言をお願い致します」
ガザライズ皇太子の言葉に全員が頷く。
全員の肯定を確認したガザライズ皇太子は、一枚の紙を手に取り、内容を語っていく。
現在決まっている内容は次の通り。
1,各国の戦費は帝国が全て負担する
2,支払いが困難な場合、各国への借金とする
3,戦費の一部は、飛空船の貸与金と相殺
4,亜人に対する奴隷廃止及び法改正
5,反乱軍及び獣人の捕虜に関しては、帝国に所有権を認める
6,傭兵団及び一部の者達は、クロノアス卿に一任する
7,上に逆らえず強制となった者には、減罰を適用
8,減罰適用者は、反乱軍に対し反乱した者達とする
9,獣人の対応に関して、帝国は各国に干渉しない
10,教会に対し、相応の金額を提供する
11,殉職した者への見舞金は、全て帝国が負担する
12,魔物の素材は帝国の所有となるが、適正価格で買い取る
13,買取金額は各国へと均等分配とする
以上である。
ガザライズ皇太子が全てを読み上げた後、質問の有無に入る。
聞いている限りでは問題無いように思えるが、各国ともに全員が手を上げ、意見を述べた。
「では、質問のある方は挙手をお願いします。……全員ですか?」
「ふむ、全員とは……」
「いくつか思うところがありまして」
「教皇殿もですか? 自分もですな」
「神樹国は人的被害は無いのですが……」
「俺もあるな。これは擦り合わせた方が良いだろう」
「では、余が代表して行おう」
皇帝が進んで擦り合わせの進行を行う。
各国ともに自身の意見を言う。
その言葉に、耳を疑うシャリュールと補佐役。
「まず、13番目の約定だが、ランシェスは辞退する。代わりに、クロノアス卿へと渡してほしい」
「神聖国も同じく。グラフィエル君は教会に多額の寄付をして赤字です。なので、その権利は譲ります」
「竜王国も同じく。どうせ、飛空船で元は取れるからな」
「神樹国は1割だけ頂きたい。代わりと言っては何ですが、その資金を元手に各国と行商を始めようと思います」
「お前ら……はぁ、皇国は3割だ。兵達へ別途で報酬を出したいからな。悪いがここは譲れん」
「各国とも、それで良いのか?」
皇帝の言葉に肯定する各国首脳陣。
この話を聞いたシャリュールは「凄い……」と一言漏らす。
補佐役?口と目を大きく開けていますけど。
そして、次の話に移る。
「亜人達について質問だ。庇護と法改正は理解した。だが、土地はどうする?」
「ランシェス王の疑問は当然ですな。彼らも、今暫くは帝国領内で過ごしたくは無いでしょうに」
「どの国で引き取るかの話になるな」
「神樹国では、いくつかの集落はありますが、帝国内で奴隷になっている者が全員となると……」
「土地はあるが、領主の問題もあるだろう」
「それについては、ランシェス王に頼みたいのだが……」
皇帝の頼みをランシェス王が聞いてみる。
話としては、ランシェス王家直轄領である聖域に住まわせてはもらえないかと言う事。
既に黒竜族が防衛として住み着いてはいるが、亜人達もそこへと頼んだのだ。
だが、ランシェス王と俺の答えは同じだった。
「無理だな。軋轢が生まれかねん。あの土地は黒竜族が取引に応じ、手に入れた土地だ」
「俺も反対ですね。少数の亜人ならともかく、全てとなると。黒竜達と少数だけなら生活できますが、一から開墾となれば、人も費用も時間も足りません。それに、黒竜族に対して不義理すぎます」
「では、他に提案が?」
皇帝の言葉に俺は口を紡ぐ。
だが、この状況を打破した人物達。
俺以外の全員が提案を出したのだが、シャリュール以外の条件はごめん被りたかった。
その話と言うのはだな――。
「クロノアス卿を領主として、各国に領地を与え、代官を置いて回せば良い」
「良い案ですな。此度の戦いで、気の合う者達がいるかもしれませんし」
「教皇殿、問題は山積みになるぞ」
「領民の数に――と言う問題でしたら、現集落から引っ越すと言う手もあるのでは?」
「神樹国の言い方だと、厄介払いにしか聞こえんな」
「皇王、喧嘩を売っているので? でしたら買いますよ?」
「二人とも落ち着け。傭兵側も提案があるようだが?」
「戦闘に適した者ならば、うちで養うことも可能。家族は、領地でも集落でも好きな方に居れば良い。その方が稼げるし、安全」
「極端な話だな。だが、それも実数の把握が済んでからだろう」
「ちょっ! 待って! 本人そっちのけで、何勝手に話を進めてるんですか!」
俺は、ヤバい!と感じて話を止める。
領地?領主?そんな面倒なのはいらん!
庇護はすると言ったが、そこまでするとは言ってない。
話が飛躍し過ぎなんだよ。
とは言え、人数が多いと集落では養いきれないのも事実。
そこは認めるが、実数の把握と食料自給率とか配給とかで行けるんじゃねぇの?
だが、皇帝の言葉は俺の希望を打ち砕く。
「帝国で奴隷になっている亜人の数は、最低でも5万人は下らん。領地1つに対し1万人と見ても、各国への分散は良い手だとは思うが」
「え? そんなにいんの?」
「クロノアス卿、口調が砕け過ぎ取るな。まぁ、気持ちはわかる。余が言った数は、最低でも5万人だ。実数は……最悪の場合、倍はおるかもな」
「なんてこった……」
「帝国臣民の中でも、帝都に住んでいるだけで軽く300万人だぞ? 帝都の広さは見たであろう?」
「オワタ……」
絶望する俺。
面倒な仕事がマジで増える。
いや、仕事は100歩譲って引き受ける。
だが、領主とか領地とか管理系統は避けたい。
失敗した場合の被害が大変になるからな。
金で解決できる失敗なら、ぶっちゃけた話、どうとでもなる。
でもな、生活基盤の話は荷が重いんだよ。
失敗したら、それこそ反乱や人死は避けられない。
そのことを話してみるのだが……。
「クロノアスなら、上手くやるであろう?」
「グラフィエル君なら、心配ないでしょう?」
「クロノアス卿なら、どうにか出来るのだろう?」
「クロノアスさんなら、発展しそうですけど?」
「お前なら、問題無いと思うが?」
「余も、皆と同じ意見だが?」
全員から過大評価のオンパレード。
はっきり言っとく。
俺は戦闘特化型で、内政向きではない!
そういうのは、父や兄の領分だと!
なので、秘儀を使うことにする。
そう……秘儀!問題の先送り!を。
「とりあえず、実数を把握してからにしません? 最終的にどうなるにしても、把握してからでないと」
「それもそうか。年代別の把握も必要か?」
「そうですね。俺のモットーは、働かざる者食うべからず、なので」
「では、そうしようか」
あれ?これ、俺が引き受ける流れになってね?
周りを見る………皆、良い笑顔だ。
チキショウ!!
この時、俺は知らなかった。
実は、ガザライズ皇太子が読み上げた約定の中に、隠された14番目の項目があったことを……。
気付いた時には、もう後の祭りだった……。
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