幕間 グラフィエルのいない日々 1

 私の名はミリアンヌ・フィン・ジルドーラ

 ランシェス王国の侯爵である、グラフィエル様の婚約者で正妻候補です

 今、ラフィ様は、ゼロ様に呼ばれて屋敷を空けています

 ラフィ様がお出掛けになられて、もうすぐ3日になります

 ラフィ様の事ですから、大丈夫だとは思いますが、懸念がないわけではありません


 ラフィ様は物凄くお強いですが、同時にトラブルを呼び込む体質だと思っています

 ラフィ様の前では言えませんけどね


 そして、もう一つ

 私が懸念に思っている事は、そのトラブルに巻き込まれて解決した後、新しい女性が増えるのでは?と言う事です


 やはり私も女性ですので、嫉妬はあります

 今の世の情勢が、ラフィ様を中心として大きく変化を迎えていますが、同時に妻も増えるわけなので

 貴族である以上、理解はしてますし享受もします

 でも、心は別だと思うのです


 最近になって思う事は『もう少し力があったなら』です

 ラフィ様と共に立てる場所に居たいと思うのです


『ミリアにはミリアにしか出来ない事があるんだけどなぁ』


 ラフィ様や他の皆様も同じような事を言われますが、私は、それでも!と言います

 これは我儘なのでしょうか?


「う~ん…」


「大丈夫か?」


「え、え~と…」


「ミリア嬢、今まで何やってたかわかるか?」


 目の前にいるのはウォルドさん

 私は地面に寝転がっている

 確か、ウォルドさんに修練を頼んで…


「は、はい。大丈夫です。私は気を失っていたのですね」


「その様子なら、大丈夫そうだな」


「ご心配をおかけしました」


「なぁ、やっぱり厳しいんじゃないか?」


「そんなことは…」


 ウォルドさんが心配するのは当然です

 私は剣術を学び始めましたが、最近は伸び悩んでいます

 一人では限界だと思い、ウォルドさんにお願いして稽古をつけて頂いていたのですが


「筋は悪くないんだけどな。でも、体格的な面で不利になってるんだよなぁ」


「それでも…ラフィ様の隣にいるためには!」


「気持ちはわからんでもないが……いや、筋は良いんだから、問題は武器だよな?変える気は…「無いです!」だよなぁ…」


 これだけは譲れません

 その為ならば、多少の無茶は許容します

 そんな気持ちを察したのでしょうか?

 ウォルドさんが提案をしてきました


「剣は剣でも、短剣に変える気は無いか?剣筋と身体捌きは問題無いから、軽い武器に変えてしまえば…」


「今から変えて、間に合うのでしょうか?」


「似通ったところはあるからな。ミリア嬢は飲み込みも早いし、どうにかなると思うんだが…一度、試してみないか?」


「…わかりました」


 こうして、ウォルドさんの勧めもあって、武器を変えました

 結果ですが、先の武器よりも手に馴染みました

 武器を変えてから3日後には、ウォルドさんからも驚かれる動きも出来ました

 ウォルドさん曰く『後は実戦あるのみ』との事です

 ウォルドさんの計らいもあって、クラン内で対人戦も経験させて頂きました


 クラン内での対人戦で、他の冒険者の方々は『直ぐに実戦に出れるのでは?』と仰っていたそうです

 ラフィ様がお帰りになられたら、ウォルドさんが口利きしてくれると約束してくださいました


 私は必ず、ラフィ様と共に歩みます!

 その決意を胸に、今日もウォルドさんや他の方々に教えを乞うています

 私は、守られるだけにはなりたくないのですから……




 ◇ ◇ ◇ ◇


 ランシェス王国第5王女リリアーヌ・ラグリグ・フィン・ランシェス

 彼女は幼馴染であり従妹でもあるティアンネ・フィン・ランシェスと共に訓練場にいた


 二人は近接戦闘を許してもらえなかった

 苦肉の末、弓術をどうにか許してはもらえたのだが


「駄目ね。これ以上は頭打ちだわ」


「色々とやってみたけど…」


 二人は揃って息を溢す

 弓術を始めて二年

 二人の技術は、熟練の弓兵に近いところまで来ていた

 だが、その先にはどうしても届かない

 何故か?スキルが発現しないからだ


 いや、正確にはスキル自体は発現している

 問題は、そのスキルの内容であった


 リリィに発現したスキルは魔弓

 弓矢に魔法を乗せる際、威力上昇、効果上昇、付与魔力減少と言うスキルだ

 これだけでも、一級品の弓兵になる


 対するティアに発現したのは中距離射撃

 中距離からの射撃武器の威力が上がると言うものであった

 しかしこのスキルには、隠れた能力もあった

 スキルには射撃と書かれているが、実は投擲武器用のスキルでもある

 効果は、威力上昇、身体能力向上、感知能力上昇の3つ

 どう見ても、弓ではなく、投擲用のスキルであった


「どうして、遠距離射撃が発現しないのかしら?」


「リリィはまだ良いわよ。私なんて中距離よ!弓兵が中距離って微妙じゃない…」


 二人は試行錯誤しながら、時には城にいる弓兵に師事したりながら訓練を行ってきた

 弓を使い始めて2年が経つ

 しかし、どれだけ距離を空けても、遠距離射撃は発現しなかった


「また兵に聞きに行く?」


「リリィは王女だから良いけど、私は公爵家の人間だから」


「従妹なんだから、同じでしょう」


「階位が違うの!」


 二人して言い合いをしていたが、兵士からすればしょうもない話である

 階位は違えど、王家と公爵家

 血は同じ王族なのである

 護衛の優先度は違うが、兵から見ればどちらも天上人だ


 そして、その天上人に運悪く捕まる兵士

 しかもその兵士は剣の使い手であった

 自身が使う武器とは違う武器を聞かれ、且つ天上人

 兵士の苦難は始まったばかりであった


「お二方とも、自分が近衛騎士団長を連れてきますので、しばしお待ちを!」


 兵士の苦難は、騎士団長を生贄に捧げて無事に終了した

 代わりに騎士団長の苦難が始まる?


「ふむ。スキルの発現ですか。リリアーヌ王女は遠距離で矢を放つ際に、魔法は使っておられるのですか?」


「ええ。そうしないと、届かない場合もあるから」


「でしたら、遠距離で訓練する場合には、魔法を使わない方向で行きましょう。恐らくですが、魔弓が邪魔をしてる可能性もありますので」


「…ズル、ではありませんが、魔法を使ってるから、効率的な習得が出来ないと?」


「この場合はどちらかですな。魔弓が発現したから、遠距離が出ないのか、リリアーヌ王女が言った通りか。こればかりは何とも」


「私はどうしましょう?」


「ティアンネ様は、武器自体を変えた方が良いかもしれませんな」


「どういう事でしょうか?」


「スキルとは、潜在能力とも呼ばれています。中距離が発現したのならば、ティアンネ様の得意な距離は中距離と言う事だと思います。そして、射撃がついてるとなれば、投擲武器が合っているのではないでしょうか」


「一理あるとは思いますが…」


「手先は器用な方ですかな?」


「裁縫とかは得意ですね」


「でしたら、武器を変えた方が伸びるかもしれませんな。投擲系のスキルは多種多様と聞きますので」


 こうして、騎士団長の進言通りにした二人

 その結果がわかるのは、まだ先である




 ◇ ◇ ◇ ◇


 オーディール竜王国王女シャラナ・ゴショク・フィン・オーディール

 彼女はミリアと同じく、剣技の修練をしていた

 剣筋、身体捌き共に申し分なし

 一見順調そうに見える彼女だが、当然ながら悩みがあった


「たぁっ!」


「良いですよ。ですが…ふんっ!」


「キャッ」


「大丈夫ですかな?」


 ラナの剣術指南の為に、竜王国から出てきている元騎士

 以前は竜王国の騎士総長をしていた人物であり、先代竜王国国王から絶大な信頼を寄せられた人物である


 歳はもうすぐ60近いのだが、筋骨隆々で実年齢を疑われる程

 ただ、頭頂部が寂しいので、その疑いも直ぐに晴れるらしい

 そんな元騎士だが、実は6属性持ちである

 但し、魔力が少ないせいで放出系では負ける

 故に彼が使っていたのは、付与魔法であった


 ラナは元騎士より魔力は多いが、放出系が苦手であった

 彼女もまた、付与魔法に目を付けたのであったが


「また、付与が消えました」


「シャラナ王女の弱点は、集中力と持続力ですな。付与する際の魔力が多くないですかな?」


「私の魔力は、貴殿より多いですから。細かい調整で集中力を欠くよりは、大目に使っても持続させる方を選んだんですけど」


「それでも駄目ですか。スキルに付与魔法か魔法剣と出ましたかな?」


「付与は出ましたが、魔法剣は……」


 彼女の悩みは、この付与魔法の持続化にあった

 攻撃を受け止めれるまでは問題無いのだが、吹き飛ばされたり、体勢を立て直す行動をする必要がある場合には、必ずと言って良いほど付与魔法が切れる


 付与魔法は、慣れれば慣れるだけ展開が早くなる

 しかし、再展開するにしても僅かな隙が出来る

 その僅かな隙が命取りになりかねないので、訓練をしているわけなのだが、どうにも上手く行かない


「私、才能が無いのでしょうか…」


「付与魔法が出来ているなら、才能は有りますとも。後は慣れですぞ」


 慰める元騎士であったが、ラナの懸念は消えない

 本当に才能が無いのでは?と疑っていしまっていた

 だから気付かなかった

 自身に新たなスキルが芽生え始めてることに


 彼女がその事を知るのは、もう少し先の話




 ◇ ◇ ◇ ◇


 リアーヌ・フィン・ティオール

 彼女は騎士爵家の長女であり、実家は魔闘拳流の指南役

 本人も実家の流派で戦闘を行っている


 その彼女は、何故かヴェルグを連れて冒険者ギルドに赴いていた


「さて、今日の依頼はなっにかなぁ」


「あのさぁ、どうしてボクも一緒なわけ?」


「ヴェルグは魔物狩りは嫌なの?」


「嫌ではないけど、何で二人だけで?」


 ヴェルグの疑問はもっともである

 そんなヴェルグの疑問に対し、リアの答えは


「ソロでも良かったんだけどねぇ。ヴェルグが暇そうにしてたから」


「ボクはこれでも忙しいんだけど?」


「じゃ、今日の予定を言ってごらん」


「…………」


 言えない

 ただ、惰眠を貪る予定だったなんて

 ニヤニヤ笑うリアにイラっとしたヴェルグは反撃に出る


「そう言うリアは、ここ最近ずっと魔物討伐だよねぇ?余計な筋肉ついて、ラフィに嫌われたりして」


「喧嘩売ってるんだね?買ってあげようじゃないか!」


 そして始まる悪口合戦

 チビとか貧乳とか身体的特徴の悪口を言い合うが、どっちもどっちである

 本人にもその自覚があるのだろう

 悪口合戦は5分と持たず終了する


「はぁ、はぁ、もう終わり!それより、依頼見に行くよ」


「終わりは同意するけど、さっきの質問の答えは?」


 ヴェルグはどうしても気になっているらしい

 リアは迷ったが、素直に話すことにした


「あのダンジョンでさ、ヴェルグの戦いを初めて見たよね」


「そうだね。それで何か思ったんだ」


「そうだね…あのダンジョンで二人の戦いを見たときに思ったんだ。僕はこのままだと、ずっと足手まといだなって」


「ボクはリアも人類最強格の一角にいると思うけど?」


「レベルが違うよ。それに、足手まといって言うのはそう言う意味じゃない」


「じゃ、どういう意味?」


「僕は戦える。婚約者の中で僕が唯一まともに戦える近接戦闘なのに、いつもラフィに守られてばかりだ。だからせめて、ラフィの代わりに皆を守れるくらいにはなりたい」


「そうなんだ。それで、ボクを誘った理由にどう繋がるの?」


「ヴェルグは、ラフィ並みに強いよね?つまりはそう言う事」


「ボクをラフィに見立てた戦闘方法ね。そうなると…ああ、ラフィの力を温存させる戦い方を模索したいんだ」


 リアは頷き肯定する

 ヴェルグは今までの会話から、リアの想いを正確に読み取った


(なるほどね。リアはラフィに頼られたいのか)


 ヴェルグの考えは正解ではある

 しかし、満点かと言えばそうではない

 リアもヴェルグの表情から、その考えを読み取り、ヴェルグに対して、敢えて捕捉する


「言っておくけど、皆を守るために頼られたいだから。僕は戦闘狂じゃないし、何も無ければそれが良いんだから」


「はいはい…で、その予行演習をしたいで良い?」


「うん」


 そして二人は、依頼掲示板を見ていく

 リアが真剣に探す中、ヴェルグは


(ラフィの婚約者達って、向上心が凄いよねぇ。ボクも他人ひとの事は言えないけどさ)


 なんて考えながら、自身はどうやって向上していくのかを考えるのであった

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