第124話 ツクヨ=カシマが師匠になった日

 リエルからの提案を告げ、ゼロの威厳が名前通り0になった後、俺の前に光が集まる


 光が収束し、爆ぜた後、その場所にいたのは


「ジャジャーン!最凶強カワ全知全能リエルちゃん、爆誕!」


 リエル顕現

 リエルの背後からは、後光が射している

 うん…厨二病全開だな

 この場にいる全員の開いた口が塞がらない

 そんな俺達を無視して、リエルは話を続ける


「マスター、どうですか?マスターのリエルちゃんです!」


「……ああ、そうだね」


 一気に目が死んでいく俺

 まるで、俺自身が黒歴史化しているみたいだ

 ツクヨさんとゼロは、復帰した後は肩を震わせて、こみ上げる笑いを堪えていた

 あ!?何か文句あんのか!


「ぷ…良かったじゃねぇか。くく、リエルちゃん爆誕…ぷぷ」


「わ、笑ったら失礼…ぷ、ああ!もう駄目!」


「お前らぁ…」


 半眼で睨むがその視線も何のその

 ひたすらに笑う二人

 この、似たもの夫婦が!


 尚、リエルの姿は、手の平サイズの妖精だったりする

 現在は、頭の上に座って状況を観察中

 一通り状況を確認したリエルは、俺の頭の上に立って一言


「ヴァカめ!このリエルちゃんの強さが分からないとは!」


 リエル、厨二病全開中

 対する二人は未だに爆笑中

 その姿を見たリエルは、ゼロへと飛び蹴りする


 ドガン!


 笑いが声が一人消える

 ツクヨさんも俺も眼が点になっている

 …状況だけを先に言うと、リエルの蹴りがゼロに命中

 ゼロが吹っ飛び、壁に直撃

 ゼロさん、ピクピクと痙攣中


「……は?え?何が起こった?」


「……ゼロって、本当に弱くなったのね」


「見たか!これが、リエルちゃんの力だ!!」


 勝ち誇り、無い胸を前に突き出して威張るリエル

 勿論、両手は腰に当てているぞ


 あの小さな妖精の姿で、ゼロを吹き飛ばす

 蹴りの力が凄いのか?

 リエルを掴んで、足を触ってみる


「マスター、くすっぐったいです~」


 顔を赤らめて抗議するも、満更でもないリエル

 次に腕を触ってみる

 ……腕も足も華奢で、どうやってもゼロを吹っ飛ばせるとは思えない


 お?ツクヨさんもリエルを触って調べ始めたな

 リエルはツクヨさんには逆らわない方針らしい

 ツクヨさんにされるがままになっていたからな


 5分後、ツクヨさんも調べ終わったのか、首を傾げる

 俺もその反応と同じだ

 どうやってゼロを吹き飛ばせるほどの力があるのか、皆目見当がつかないからな


 二人して悩んでいると、崩れた壁の土砂から、ゼロが出てくる

 え?なんで俺を睨む?

 睨みながらこちらに戻ってくるゼロ

 ドカッ!と座って一言


「ラフィ!その馬鹿の手綱は握っとけ!」


「なんで俺が怒られなきゃならないんだよ…」


「当たり前だろうが!その馬鹿は、お前のスキルが具現化したんだから、お前の躾のせいだろうが!」


「ええ、それは無茶苦茶だろう…」


 ゼロが今まで見たことが無いほどに憤慨する

 気持ちはわからんでもないが、俺は無関係じゃね?

 そういや、なんでリエルはゼロにだけ悪態をつくんだ?


「なぁ、なんでゼロにだけ厳しいんだ?」


「マスターに余計な手間を取らせたからですね。後は……」


 そう言って、ツクヨさんを見るリエル

 ツクヨさんになんかあるの?

 だが、リエルは話す気が無い模様

 そう言えば、リエルはツクヨさんの魂のログを追ってたな

 もしかして、それに関係する事なのか?


「リエル、何を隠してるんだ?」


「隠してるわけでは無いのですが……本人が聞いても良いのかな…と。結構、大事おおごとだったので」


「そういや、俺もツクヨを救うためにログを追ったなぁ…何故か途中から追えなくなったが」


「それは処理速度のせいじゃないのか?」


「違うな。ありゃ防壁プロクテクトだ。原初が突破するのに苦労する防壁プロクテクトとなると、答えは一つだな」


「神の防壁か…」


「それも複数だな。リエルはその辺り、どうしたんだ?」


「え?苦労はしましたが、突破しましたよ。おバカ原初とは格が違うので」


「一言余計なんだよ!」


 リエルの毒舌に反論するゼロ

 だが、そこはとりあえずスルーしとこう

 それよりも重要なのは、リエルが突破した先の情報がなんなのかだ

 幾つか仮説は出来てるんだよなぁ

 それも、目を逸らしたい仮説が…


 ツクヨさんに視線を向けると、首を縦に振って頷く

 ご本人も聞きたい様だ

 ただなぁ…これ、聞かせても良いのか?

 判断に悩んでいたが、リエルもツクヨさんの事を見ていたらしく、話し始めた


「本人の同意が取れたので話しますが、マスターは気をしっかり持ってくださいね」


「え!?そんなにヤバいの!?」


「ヤバいと言うか…やらかした?」


「そっちか!俺の仮説は正しかったのね…」


 項垂れている俺の頭を撫でた後、リエルは話始める


「ツクヨ=カシマの魂ですが、初期まで追いました。始まりの魂は、肉食獣ですね。ただ、明らかに不自然なログがあったので、追おうとしたら、防壁プロクテクトにぶち当たりました。そして、突破した結果、ツクヨ=カシマの魂は複数の神の転生体である事が確認できました」


「は?お前、頭大丈夫か?」


「お黙り!このおバカ原初!マスターは気付いていましたよね?」


「仮説だったな。ただ、あのスキルを見るとなぁ」


「完全に近接戦闘に特化した、脳筋スキルですよね」


「リエルちゃん、誰が脳筋かしら?」


「ごごごごめんなさい!」


「こっわ…」


「ツクヨ、落ち着け」


「落ち着いているわよ。でも、躾は必要でしょ」


「イエス・マム!!」


 リエルのこの怯えよう

 もしかして、転生前の神も調べたのか?

 いや、単にツクヨさんが怖いだけか


「あ、転生前の神も調べましたよ」


「調べたんかい!」


 だから怖がっているのかよ!


「勿論、ツクヨ氏が怖くもあります!」


「本人の前でぶっちゃけたな」


「リエルちゃん、私もそろそろ怒るわよ?」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 リエルが頭から降りて、土下座をする

 そこまで怖いのか…


「早く続きを言えや」


「黙れ!ゴミ原初!あ、ツクヨ様は素晴らしいですよ」


「忖度がすげぇな」


「俺、泣いて良いか?」


 ゼロのメンタルは既にオーバーキルされていたようだ

 ツクヨさんに物理的にボコボコにされ、リエルには言葉でボコボコにされ、挙句にはリエルにも物理でボコボコに…

 俺はゼロの肩にそっと手を置き、静かに何度か頷く

 ゼロの目から、一筋の水滴が流れた

 もう良いんだゼロ、俺は分かっているから


「なんか向こうは、分かり合った感があるんだけど?」


「少し、弄り過ぎましたかね?では、話を戻しましょう」


 その後のリエルの話だが、結構ヤバい情報だった

 ツクヨ=カシマの魂は、初代軍神、武神、破壊神、獣神、龍神が合わさった物だった

 但し、神気などは初めから持ち合わせていないらしい

 魂の始まりが肉食獣だったのは、獣神と龍神のせいとの事


 その後、何度か肉食獣に転生を繰り返し、4つ前の転生体から人族になったらしい

 尚、スキルについても色々分かったらしい


 ツクヨ=カシマが持つ破格のスキルは、初代神々のスキルが劣化して具現化したらしい

 その話を聞いた後、可笑しいことに気付く


「ちょっと待て。ツクヨさんのスキルは、明らかに神が持っていても可笑しくない物があったんだが?」


「それは、マスターのせいですね。肉体を用意させる際、神々を納得させるために、原初の使徒化させましたよね?あれで、わざと分割させていたスキルが一つになりました。まぁ、それでも劣化はしていますが」


「…俺、かなりやらかした?」


「盛大にやらかしましたね。まぁ、あんなスキルがあるなんて想定外ですし、良いんじゃないんですか?なんせ、原初ですし」


「問題ねぇな。寧ろ、神喰戦で役に立つだろう」


「あら?私も参加決定?」


「少し位、恩返しに動いても良いだろうさ」


「そう。なら、精一杯恩返しするべきね」


 ゼロとツクヨさんの参加が何故か決まった瞬間だった

 まぁ、一応理解はしたし、理由も分かった

 …あれ?でもなんで、ゼロはあんな一方的にやられたんだ?

 確かに破格のスキルだけど、それだけであのゼロが一方的にやられるのか?

 この疑問を口にしたら、直ぐに答えが返ってきた


「技術面とかは、ツクヨが俺の師匠だからな。当時でもスキルを駆使して強かったのに、更に昇華したんなら、俺に勝ち目はねぇよ」


「魔法を使えば良いのでは?」


「付与剣で打ち消されて終了だな。寧ろ、そこから反撃してくるから、最悪の場合、隙になりかねないんだよな」


「因みに、私は放出系魔法は、ほぼ使えないわよ」


「それであの強さですか…」


「ヤバいですね、マスター」


 俺とリエルはお互いに頷く

 ツクヨ=カシマを怒らせてはならないと

 その様子を怪訝な目で見るツクヨさん

 何か言いたそうではあったが、それを飲み込んで別の事を話してきた


「グラフィエル君は、確か神々とゼロが師匠なのよね?」


「そうですが…何か問題があるんですか?」


「いえ…ただ、気になる事があってね。少し打ち合ってみないかしら?」


「模擬戦ですか?」


「ええ。私の思い過ごしなら良いのだけど」


 意味はわからないが、ツクヨさんの言う通りにしてみる

 審判はゼロが務める様だ

 リエルは俺から離れ、ゼロの肩に乗っていた

 リエルめ…逃げたな?


 お互いに一定の距離を取ってから、振り向いて構える

 実戦だとこうはならないが、今回は模擬なので試合形式と言う訳だ


 ゼロが手を振り下ろし、試合開始の合図となる

 と同時に、ツクヨさんが突っ込んでくる

 ちょ!はやっ!

 左から横薙ぎに振るわれた剣を受け止めようとして、右に衝撃が走る


「ぐふぅ!」


 そのまま吹き飛ばされるが、片手をついて、直ぐに態勢を整える

 直ぐにツクヨさんを確認するが、既に先程の位置にはいなかった

 探査魔法では間に合わないので、気配を探る

 真後ろに気配を感じたので、振り返りざまに横薙ぎ一閃


 しかし、そこには誰もおらずに、剣は空を切る

 その直後、真後ろから脳天に殺気を感じて、上段で受け止める様に構えながら振り向く

 だが、脳天にから来た剣は無く、代わりに左からの衝撃


「がはっ!」


 完全に油断した箇所への一撃に、口から息が漏れる

 ヤバい…息が!

 呼吸を整えて、体勢を立て直そうとするも、立て直しの時間すらくれないツクヨさんの猛攻


 防戦どころではなく、既にボロボロの状態だ

 あ、やべ…意識が朦朧とする

 ツクヨさんはその隙を見逃さず、俺にトドメの一撃を放つ


 …

 ……

 ………


「はっ!」


 目が覚めたら、ツクヨさんの膝に頭が乗せられていた

 あれ?どうなったんだ?今までのは夢?

 状況が理解できない

 そして辺りを見回すと…あ、ゼロが死んでる


「目が覚めたかしら?」


「えーと、状況説明プリーズ」


「模擬戦で私に負けた後、寝かせたわ。目が覚めるまでの間は、ゼロの修練ね」


「あー、それでゼロがくたばってるのか」


「手加減してもあれよ?この先が思いやられるわ」


「あはは…で、どうでしたか?」


 俺の問いにツクヨさんは考えることなく告げる


「失格。一体、何を学んだのかしら?動きも悪いし、気配察知も未熟。防戦一方で良いのは、相手が同レベルか少し上位の相手だけよ。格上に挑むときは、相応の代償を覚悟した攻撃をしないと。ああ、見極めも不十分ね」


「そ、そんなにですか…」


 ボロカスに言われた

 かなり堪えるなぁ

 手も足も出なかったのは事実だけどさ

 そこまで言わなくても良くね?


「ただ、一点だけ。直ぐに態勢を立て直そうとした点は認めましょう。問題は、立て直し方ね」


「立て直し方?」


「なんで、魔法を使わなかったのかな?」


「いや…これって、剣の模擬戦ですよね?」


「はい、失格。直接的な魔法でなくても、間接的な魔法は使うべきよ。実戦で無いからと言って、使わなかったのは大減点ね」


「模擬戦でもですか?」


「騎士道に則った相手ならそうでしょうけど、今回の模擬戦は実戦形式よ。その辺りの見極めもしないといけないわ」


「課題は山積みですか…」


 ダメ出しのオンパレードだった

 溜息を吐いてから、膝枕から脱する

 そう言えば、ちょっと前も模擬戦したよな

 あれ?もしかしてあの模擬戦って…


「もしかして、ちょっと前の模擬戦は手加減してたんですか?」


「あれ?あれは手加減に手加減を重ねたうえで、手抜きもしてたわね」


「そんなのに負けたのかよ……」


 マジで自身無くすわ

 何この人?普通に化け物やんけ

 メナトですら、勝てねぇんじゃねぇの?

 そういえば、先の模擬戦じゃ及第点だった気が


「前の模擬戦は及第点で、今回が失格の理由は何故です?」


「前も言った通り、目と勘は素晴らしいわ。剣技も普通であれば合格なのでしょうけど、私から見たら試合形式で及第点。実戦形式で失格なのよ。特に勘が良すぎて、勘に頼りきっているわ。目も良いのだから、もう少し周りを見なさい。それと、気配察知の精度を徹底的に上げなさい。私が少しスキルを使用しただけで、手も足も出なくなるのは、あまりにも酷いわ。返事は?」


「Sir・yes・Sir!!」


 ツクヨさんの最後の言葉に殺気が篭っていたので、思わず米軍式挨拶で返してしまった

 だって、怖いんだもの!!

 その様子を見ていたリエルもガクブルしていた


 ツクヨさんは溜息を吐きながら、ゼロへと近づき……あ、嘘気絶がバレて宙を舞った

 変な角度で落ちてきたゼロが、地面にぶつかると同時にグシャ!って音が鳴った

 ……現実逃避、したいなぁ……


「全く!あの宿六は!」


 オコなツクヨさんであったが、ゼロが目覚めるまでの間に料理をするらしい

 魔法は苦手と言っていたが、空間収納は使える様だ

 俺も手伝うかな


「あら?意外に上手ね」


「前世では自炊してましたからね。簡単な物だけですけど」


「偉いじゃない。それなら私が色々と教えてあげるわよ?」


「料理をですか?」


「料理もだけど、剣技もね。二人とも、ごり押し過ぎよ」


「あはは~、お手柔らかに…」


「すると思うかしら?」


「ですよね~…」


 こうして、ツクヨさんは俺の師匠にもなった

 その日から1週間、俺はかつてないほどの地獄を見るのだが、割愛させてくれ

 思い出すだけで……ぐふぅ!胃、胃がぁーーー!!


 尚、この1週間の間、ゼロは毎日宙に舞った

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