第123話 ツクヨ=カシマは、化け物か!?

 でかい艦をどうするか?

 収納は確定なのだが、使い道があるのか?と言われたら、首を傾げると思う

 普通には使えない…と言うのは確定しているからな


 艦の外観を眺めながら一回り

 厨二心を擽る、素晴らしい作りであった

 ゼロも心の中に黒歴史を飼っていたようだ


 話し合い中の二人を放置して、艦の中へ入る

 うん……前世のアニメで見た、宇宙戦艦に良く似ている

 某〇ン〇ムの戦艦とかに凄く似ていると思う


 中央部分は、ブリッジと城っぽい建物

 そして……何故にメイドが標準装備?

 このメイドも人ではなく、艦の管理者で、ゼロが作り出したのだから、驚きである


「初めまして、マスター。私はこの艦の管理者及び守護者です。マスター不在の際は、防衛機構も担っております」


「初めまして。早速で悪いんだけど、この艦は一度、空間収納に入れる予定なんだが、君はどうする?」


「空間収納内でしたら、防衛機構も必要無いですし、マスターに着いて行こうかと」


「わかった。で、名前は?」


「マスターのお好きなように」


 名前は無いのか

 防衛機構……管理者……守護者……う~ん、良い名が思い付かない

 とここで、今まで黙っていたリエルが参加してきた


『マスター、そんなに深く考えなくても。ガーディアンなのですから、アンとかディアとか、率直で良くないですか?』


『ディアは却下。ティアと被る』


『流石はマスター!婚約者への配慮が素晴らしいです!』


 ……こんなことで褒められるのは、複雑だなぁ

 進化したリエルは、何かあれば、俺を褒めようとする

 少し、やりにくいと思うのは、俺の我儘ではないよね?


 で、結局、彼女の名前は【ディーア】にした

 語呂も悪くないし、ティアとも被らせないようにしたのだが……自分にネーミングセンスが皆無な事を、改めて知った瞬間でもあった


 ディーアを連れて、艦を探索していく

 道中、ディーアが逐一説明を入れてくれたのは助かったのだが


「この艦の動力源は、永久機関です。但し、あくまでも運用するだけならば、との条件は付きますが」


「うん…もう、お腹いっぱいです」


 超ド級武装飛空船

 武装各種はマジでヤバいレベルだった

 各属性の魔砲に通常兵器の機関銃

 極めつけは、艦首前方に内蔵された大型魔砲

 無属性の魔力を収縮と圧縮させて放つのだが、その威力はたった一発だけで、国を消滅させられると言われたのだ

 調整は可能、という言葉が、唯一の救いなのかもしれない


 30分ほどかけて、主要ヶ所を見て回り、艦を降りると、そこにはボロボロになってうつ伏せになっているゼロの姿が

 イメージや比喩表現ではなく、リアルに身体からプスプスと煙が上がっている


 ……一体何が……


 その言葉を出そうとした時、背筋に悪寒が走る

 倒れているゼロの横にツクヨさんがいたのだが、まるで認識できなかった

 更にはこちらを見ているのだが、その目の奥がちょっと怖い


「グラフィエル君、ちょっと確認なんだけど」


「は、はい!何でありましょうか!?」


 怖くて口調がおかしくなる

 だって仕方ないじゃん!

 ゼロが手も足も出ないとか、ヤバすぎるだろ!


「そんなに怯えなくても……それで聞きたい事なのだけど、グラフィエル君はゼロに剣技を習ったのよね?」


「え、ええ。ゼロにもが正解ですが」


「ゼロが言ってた神様達ね」


「あの……ゼロはどこまで話しました?」


「一通りは聞いたけど?……ああ、誰かに喋るかもしれないって警戒してるのね。安心して、これでも口は堅いから」


 ゼロよ……いくら頭が上がらないからって、人の秘密を簡単にバラすなよ!って言いたい

 でも、言えない

 だって、俺も詰め寄られたら、確実に話しゲロりそうだし

 ただツクヨさんは、何故確認をしたのだろうか?

 その真意は、身を以て体験する事となった


「じゃ、私と模擬戦しましょう。剣技と魔法の両方で。勿論、手加減はするわ」


「わ、わかりました」


 そして始まる模擬戦

 武器獲物は魔法付与可能な訓練用の木刀

 お互い一定の距離を取り、模擬戦開始となるのだが、勝負は一方的なものだった

 そう……一方的に叩きのめされました


「それじゃ、行くわよ?」


「はい!」


 その合図と共に、一気に懐に入られる

 つうか、今のは何だ!?速過ぎる!

 ツクヨさんは、横薙ぎを繰り出すが、何とか回避


 一度距離を取って態勢を立て直したいのだが、全く距離を取れず、防戦一方に

 魔法を使えば、木刀で掻き消され、そのまま連撃に繋げてくる

 しかも速いときた

 普通の人間だと、剣の軌跡すら見えないのでは?


 しかし唐突に、両手持ちに変えて、上段からの振り下ろしに変えるツクヨさん

 当然だが、大振りな動きをすれば、それだけ隙ができやすい

 ツクヨさんもそれは例外ではない模様

 何とか回避し、出来た隙を突こうとして、悪寒が走る


 戦闘時の悪寒は、これまで何度も命を救ってくれた

 と言う事は、この隙は罠なのでは?

 カウンターを止めて、距離を取る

 一定の距離が空いた後、ツクヨさんが話しかけてきた


「なんで攻撃しなかったの?」


「物凄く悪寒がしたもので。その隙は、罠ですよね?」


「バレちゃったのね。目と勘はゼロを凌ぐ…か。でも、技術はまだまだね。粗削り過ぎるわ」


「鍛錬はしていたんですけどね」


 苦笑して答える俺

 ツクヨさんはクスっと笑う

 その笑顔はとても美しかった

 うん…ゼロの惚れた意味が分かる

 あれは、ヤバい…魔性の微笑みだ

 大人の女性が醸し出す、妖艶の美であった


「見惚れてるとこ悪いんだけど、次は大技行くからね。大怪我しても知らないわよ」


 ツクヨさんの一言で我に返り、頬を叩いて気を引き締める

 こちらが構えると、ツクヨさんは先程と同じく上段に構える

 距離はあるし、一気に突っ込んできてからの振り下ろしか?


 しかし、俺の予想は外れる

 ツクヨさんは木刀に魔法を付与した

 風魔法で威力は上級かな?

 そこまで警戒するほどの物ではない

 だがこの考えは、間違いだったことを身を以て知る事になった


「剣技・嵐撃らんげき


 打ち下ろされた木刀から複数の竜巻がこちらに迫ってくる

 威力は上級

 同じ威力で打ち消せるはず

 俺も同じようにして放つが、俺の竜巻はツクヨさんの竜巻に吸収されてしまう


「え?マジで!?」


 思わず声に出してしまった俺

 その直後、竜巻によって打ち上げられて、地面に打ち付けられる

 息が外に漏れ、上手く呼吸が出来ない

 だが、ツクヨさんは距離を詰めてきている


 動け!動け!動けー!


 気合で何とか復活し、一撃を回避するも、態勢は崩れたまま

 集中力も散漫になっているので、魔法も使えない

 そして、次の一撃を回避できず、俺は意識を落とした




 ……何か、頭の下に柔らかい物が

 それに、良い香りもする

 目を開けると、間近にツクヨさんの顔ががが!


 俺が起きたことに気付いたツクヨさんは、微笑みながら


「あら、お目覚めみたいね。うちの宿六は、まだ気絶中なのに。意外とタフなのね」


「ええと、今の状況は一体……」


「見ての通り、膝枕よ。私ね、子供に膝枕してあげたかったの」


「いろんな意味で、ごちそうさまです」


「どういたしまして」


 俺は起き上がり、念の為、回復魔法をかける

 ツクヨさんは微笑みながら、俺の回復を待って、話を続ける


「模擬戦の結果を言うわね。戦闘センスは抜群。特に目と勘は良いわね。剣技も及第点だけど、赤点じゃないから。ただ、実戦だと違うのでしょうけど、突発的な事や想定外すぎる事には弱すぎるわ。もう少し、精神を鍛えなさい」


「……えっと、少し質問…と言うか、お願いなんですけど」


「なにかしら?」


「鑑定しても良いですか?」


「良いわよ。別に隠しても意味が無いしね」


 許可をもらったので、神眼で鑑定してみる

 鑑定して分かった事

 それは、前世の台詞が出てしまいそうになったほどだった


 ツクヨ=カシマのステータス

 ステータスはかなり高い

 だが、俺やゼロを上回るほどではなかった

 ツクヨさんが強い理由

 それはスキルにあった


 かなりヤバいスキルが多い



 縮地・改

 縮地の上位スキル

 身体能力のみで出せる最高峰の速さ


 常在戦場

 戦闘時に自身の能力を引き上げる

 引き上げる数値は、本人の能力に依存


 戦鬼

 敵に対して、一切の慈悲を持たずに戦闘を行うと、能力を倍に引き上げる

 代わりに、理性を失いやすくなる


 明鏡止水

 戦闘時の高揚を抑え、理性を上昇させ、冷静さを常に保てる

 思考加速付き


 流転変刃

 剣戟の軌道を任意に変えられる

 また、速さも上昇させる


 心眼

 一定範囲を知覚出来る

 目を閉じる必要は無い

 副産物として五感強化・第六感が強化される


 百華繚乱

 使用者の任意によって、最大百の剣戟が出せる

 自身を中心に一定範囲に出現

 任意の指定は不可


 桜花万刃

 桜の花が散る様に、万の刃を出せる

 百華繚乱と同時使用した場合、足すのではなく、倍率計算となる

 尚、魔法でも使用可



 何、この鬼畜スキル

 普通にバグキャラじゃねーか!

 そして何がヤバいのかって?

 全部相乗した上で、常在戦場が能力を引き上げてるんだよ


 仮に元の腕力が100としよう

 戦鬼で倍の200になった上、その上がった状態から常在戦場が発動されるわけだ

 振り幅は分からないから、何とも言えないが、ツクヨさんの強さを見るに、少なくとも3倍以上はあると思う


 そしてもう一つ

 魔法付与の剣技についてだ

 普通は、付与した剣技がスキルに現れることはない

 だが、ツクヨさんのスキルを見てみたら



 剣技・灼光

 火と光の複合魔法付与剣技

 触れた者は、焼かれるのではなく、溶ける


 剣技。氷華

 水魔法付与剣技

 範囲内の敵を氷の棺に閉じ込め、華を咲かせる

 閉じ込めた瞬間に仮死状態となり、華が咲き切った後に絶命する

 唯一、解除可能な剣技


 剣技・嵐撃

 風魔法付与剣技

 上段から下段に振り下ろした際、竜巻を発生させる

 発生する竜巻の数は、使用者の任意

 回転数や回転方向なども任意で決められる


 剣技・雷海

 水と雷の複合魔法付与剣技

 高電圧を剣に纏わせる

 触れた者は感電死する

 威力調整可能


 剣技・破魔一閃

 光魔法付与剣技

 アンデット特化

 どの様なアンデットでも、一瞬で浄化可能



 今までの常識が覆された瞬間であった

 ゼロの言ってた話と全然違うじゃねーか!

 そして極めつけは最後のスキル



 紫電光波

 全ての速さを引き上げる

 倍率は使用者の能力と習熟度に依存

 最大倍率は不明

 完全に使いこなせば、任意での強化が可能



 これはアカン

 完全にバグスキルだ

 ツクヨさんの強さは速さに依存しているが、素の能力値は高いので、普通に神殺しが可能な領域にいた

 武器を振るえる腕力さえあれば、後は剣技でどうにでもなる

 理解した瞬間に脳裏に出た言葉は


『ツクヨ=カシマの能力は、化け物か!』


 某アニメ〇ン〇ムの、3倍に動く赤い人の台詞だった

 俺のスキルもゼロのスキルも十分にバグってると思っていたが、戦闘特化のバグはもっとおかしかった


「どう?見えたかしら?」


「ひゃい!」


「え?何で怯えてるの?」


「いや…ツクヨさんのスキルって、クソヤバいので」


「そんなに?」


「正直、勝てる気がしません」


「またまた~」


「…………」


「え?ホントに?そんなにヤバいの?」


「使いこなしているなら、神すら弑逆出来るほどのスキルです」


「だから、あの宿六に勝てるのね」


「それだけではないとも思いますが」


 渇いた笑みを浮かべながら、穏やかに話す

 この人だけは、絶対に怒らせてはならない

 旧時代を壊したゼロだが、ツクヨさんも世界を壊せる力を持っているのだから

 ……この世界、セカコワ人間が多いなぁ


 少し雑談を交えて話をする中、俺は驚愕の事実を耳にした

 ゼロの剣技の師匠は、ツクヨさんだと言うのだ

 とここで、ようやくゼロが復活

 俺達の話に混じって来た


「ゼロってね、剣技と動きがちぐはぐだったのよ」


「そうだな。記録を読み込んで、模倣しただけだしな。修練した剣技には敵わなかった」


「つまり、ツクヨさんと引き分けていたのは、原初の力で押し切っていたわけだ」


「スキルってのは、使いこなしてこそだぞ。だから、今のツクヨには勝てねぇわけだが」


「さっきボロ雑巾になってたのはね、OSIOKI半分、剣技の確認半分だったの」


「それであんな感じになってた訳か。原初の残り滓みたいなゼロじゃ、以前の戦い方は無理だしな」


「うるせぇ!お前まで残り滓とか言うのかよ!?」


「いや、だってなぁ……」


『事実ですからね』


「うぉ!?びっくりしたぁ」


 いきなりのリエル乱入

 と言うか、今まで何をしていたのかな?

 人のピンチにすらだんまりしていたのに


『少し、試したいことがありまして』


『で、試したい事は成功したのか?』


『ばっちりです!ツクヨ様には、驚いて斬り掛からない様に伝えて下さい!』


『なんで、様付け?』


『何となくです。他意は無いです』


 絶対嘘である

 怖いから…と言うより、俺が鑑定した時に、解析していたのであろう

 そして解析した結果、リエルすらも滅せると言う結論が出たに違いない

 機嫌を損ねない様に、様付けするとは何とも小賢しい

 だが、責めるつもりはない

 気持ちはわかるからな…


「二人とも…主にツクヨさん。今から驚く出来事があるかもしれませんが、絶対に…ぜぇーったいに、斬り掛からないでくださいね?」


「何をするつもりなのかしら?」


「詳細は自分もわかりません。リエルが試したことがあるらしいのですが、驚かせてしまうかもと」


「それでなのね。大丈夫よ」


「本当ですか?」


「私のスキル、見たのよね?だったら、わかるんじゃないかしら?」


「…ああ、そう言えば、あれがありましたね」


「ええ。だから、大丈夫よ。問題はむしろ…」


「ゼロなら大丈夫でしょう。ツクヨさんより弱いですし」


「その納得の仕方は、非常にムカつくぞ」


「だって、事実だし」


「チクショォォォォ!!」




 ゼロの威厳は、地の底にまで落ちてしまったのだった

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