第2話 異世界で就職活動3

 太陽たいよう真上まうえかり、昼食ちゅうしょく時間じかんがすぐそばまでせまる。三人さんにん日課にっか図書室としょしつがよいも佳境かきょうかっていた。

 三人さんにん図書室としょしつにある蔵書ぞうしょかずおおくないとはいえ、効率こうりつ重視じゅうしするため分担ぶんたん作業さぎょうをしていた。

 けい慎慈しんじはこの世界せかい歴史れきし慣習かんしゅうについて調しらべ、達巳たつみ魔術まじゅつ使つかえるようになるための方法ほうほうついて調しらべていた。


 その作業さぎょう一時いちじ中断ちゅうだんし、食堂しょくどうまえ慎慈しんじ情報じょうほうあらなおしをする。


「とりあえず魔術まじゅつについてわかってることといえば、世界せかいちている〈魔力まりょく〉を利用りようしてるってことだけだね」


「そうだな。この世界せかい住民じゅうみんは〈魔力まりょく〉を利用りょうして物理ぶつり現象げんしょうこしている……にわかにはしんじられないけどな」


「うん。たぶん魔力まりょくもと世界せかいでいう原子げんし役割やくわりたしているんだろうね。……原子げんしわりだから〈魔粒子まりゅうし〉?」


おれたちは文系ぶんけいだから高校こうこう卒業そつぎょう程度ていど知識ちしきしかないし、なんともえないけど粒子りゅうしかどうかもあやしいかもな……ぶっちゃけなんでもアリってことだな」


「それが厄介やっかいなんだよねー…なんでもできるぶん生活せいかつ仕事しごとなかはいんでるし」


 この世界せかい住民じゅうみんたちは魔力まりょくたくみにあやつ特異とくい技術ぎじゅつしてきたらしい。

 どうやらその技術ぎじゅつ体系たいけい全般ぜんぱん総称そうしょうして魔術まじゅつ呼称こしょうしているようだ。

 しかしなぜか技術ぎじゅつ水準すいじゅんが、もと世界せかいでいうと中世ちゅうせいわらないのである。


「それなのに技術ぎじゅつ発展はってんおくれている。その要因よういん度重たびかさなる戦争せんそう……と」


 フィーデルがっていたとおり、人間にんげんたちは獣人族じゅうじんぞくたちとながあいだ戦争せんそうひろげているらしい。

 しかも十年じゅうねん単位たんいではなく、百年ひゃくねん単位たんいでやっているようだ。

 実質的じっしつてき戦争せんとうおこなわれている期間きかん数年すうねんほどだが、間隔かんかくけて何度なんどあらそっている。

 現在は休戦中きゅうせんちゅうだが、今でも国境こっきょう沿いでは抗争こうそうえないらしい。フランスの百年ひゃくねん戦争せんそう世界せかいレベルでやったというのがちか表現ひょうげんなのだろう。

 ただえないのが人間にんげんくに同士どうしでも戦争せんそうをやっているところだ。そこらへん事情じじょうもといた世界せかい大差たいさがない。よろこぶべきか、かなしむべきか微妙びみょうなところである。


 ちなみに戦争せんそうきるたび異世界人いせかいじん召喚しょうかんしているわけではないようだ。

 なに大掛おおがかりな儀式ぎしきをする必要ひつようがあるらしいが、具体的ぐたいてき内容ないようについて図書室としょしつかれている書物しょもつなか記述きさいされたものは一冊いっさつなかった。

 不自然ふしぜんなほど記述きじゅつされておらず、筆者ひっしゃかくしたいという意図いといてしまう。とてつもない代償だいしょう支払しはらっているのは想像そうぞう容易たやすい。

 またこの世界せかいまよひとたちもいるらしく、これが世界中せかいじゅうわれている神隠かみかくしの正体しょうたいなのかもしれない。

 どうやら異世界人いせかいじんはこの世界せかい人々ひとびとにとってはあまりめずしい存在そんざいではないようだ。


魔力まりょく使つかえばなんでも出来できるのに、それをころ方法ほうほうにばかり特化とっかさせるなんてね………」


仕方しかたないさ。もと世界せかいでもたようなことはあったわけだし」


「………かなしいね」


「………そうだな」


 これ以上いじょう気不味きまず雰囲気ふんいきになるのはいやなので、話題わだいえることにした。


「しかし、これだけ調しらべてかったことがこれだけって……」


仕方しかたないよ、魔術書まじゅつしょばかりでやくちそうな文献ぶんけんすくなかったんだから」


「…………………………………………」


「タッちゃんどうしたの?」


 意見いけん交換こうかんをしているあいだずっと難〈むずか〉しいかおをしていた達巳たつみ慎慈しんじこえをかける。


「うん?……あぁ、すこになったことがあってな……ちょっとかんがんでいたんた」


になったこと?どんな?」


一応いちおうここにあるすべての魔術まじゅつ関連かんれんほんとおしてみたんだけどな?……いんだよ」


いって……なにが?」

 

 勿体もったいぶる達巳たつみかすようにたずねる。

 外見がいけんつかわしくいほど繊細せんさい性格せいかく達巳たつみになることとは?


いんだよ……


 達巳たつみげた電気でんき以外いがいにも、もと世界せかいにあってこの世界せかいにないものはたしかにあった。

 だがぎゃくもまたしかり。もと世界せかい魔力まりょくはないし、異世界人いせかいじんかんする歴史的れきしてき文化ぶんかなんてない。


電気でんきかんする魔術書まじゅつしょはないし、ねんのために調しらべた天候てんこうかんする書物しょもつには記載きさい一切いっさいないんだよ」


「それは魔力まりょく原子げんし……じゃなくて電子でんしわりをしているって仮説かせつ証拠しょうこなんじゃないの?」


「そうなんだが………なんかってな?……」


かんがえすぎじゃないか?」


「………かもな」


「とりあえず食堂しょくどうかない?おなかいちゃったよ」

 

 慎慈しんじ提案ていあん同意どういし、三人さんにん図書室としょしつあとにした。


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三英傑物語〜異世界歴程〜 甘蜘蛛 @HLofCAFL6741

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