第2話 異世界で就職活動2

「ウヘェ……つかれた…………」


 正面しょうめんにいる慎慈しんじはそう言うと、テーブルにかおうずめる。


「そうだなぁ………ここまでハードなのは高校こうこう部活ぶかつ以来いらいだ」


 慎慈しんじの意見に同調どうちょうしながら、シチューをながむ。


「クソォ……またけちまった」


 右隣みぎどなり達巳たつみはパンを頬張ほおばりながら正面しょうめんにいるハロルドをつめる。


「まだわかいモンにはけられんよ!!……しかし勿体もったいないな。徒手としゅすさまじい才能さいのうってるのに、武器ぶきあつかいがなぁ……」


 ハロルドはまゆひそめ、かなしそうな表情ひょうじょうをする。


「……タッちゃんもすこしは武器ぶきあつか練習れんしゅうをしたほうがいいよ」


 慎慈しんじかおげ、達巳たつみやさしくかたりかける。達巳たつみほおすこあからめ、そっぽをく。


「それよりもタツミに武器ぶきさがした方がいいな…………大方おおかた大剣たいけんとか、戦斧せんぶ大槌おおつちといった具合ぐあいか……」


 ジトになるハロルドの視線しせんを感じ、さらに達巳たつみほおあからめた。


だれにでもき、不向ふむきはあります。重要じゅうようなのは適性てきせいにあったものを選択せんたくすることですよ」


 慎慈しんじかたがビグッとふるえた。こえこえた方をると中性的ちゅうせいてき顔立かおだちをした人物じんぶつっていた。


「シンジの指導しどう担当たんとうしている、フレッドともうします。以後いご見知みしきを」


 フレッドは微笑ほほえみを浮かべながら、懇切丁寧こんせつていねい自己紹介じこしょうかいをすると慎慈しんじよこせきすわった。

 慎慈しんじがフレッドに自分じぶんたちの自己紹介じこしょうかいしたあと慎慈しんじとたわい会話かいわはじめる。

 

 のだが慎慈しんじ様子ようすがおかしい。笑顔えがおはぎこちないし、口数くちかずすくない。

 一体いったいどうしたのだろうか?慎慈しんじ苦手にがてとするタイプとはだいぶちがうのだが………


 そのあとフレッドをまじみんな談笑だんしょうひろげていると、食堂内しょくどうない甲高かんだかこえひびいた。



「あ!ここにいた!!」



 ここ最近さいきんすっかり仲良なかよくなり、聞きれたこえみみはいってきた。

 食堂しょくどうにいた全員ぜんいん視線しせんこえのしたほうける。そこには満面まんめんみをかべたフレインと、すこおとろえた男性だんせいっていた。


図書室としょしつに行ったけど三人さんにんなかったから、手当てあたり次第しだいさがしたんだよ?」


「スマンスマン、すこ時間じかんびたんだ。それよりも、なんでロイマンと一緒いっしょにいるんだ?」


 ロイマンとばれた男性だんせいかおしかめるとハロルドにはなしかける。


「たまたま食堂前しょくどうまえ鉢合はちあわせただけだ。それよりも軍事ぐんじ予算よさんについて相談そうだんがあるのだろう?」


「おぉ、そうだったな。……ここで———」


「ダメにまっているだろ。くぞ」


 ハロルドの言葉ことばさえぎり、ロイマンは手招てまねきする。

 ハロルドとフレッドは夕食ゆうしょく一息ひといきにかきみ、手短てみじかわかれの挨拶あいさつませるとロイマンのあとった。


「あのひとは?」


「このくに宰相さいしょうで、ハロルドの親戚しんせきにあたるひとよ。たしか……従兄弟いとこだったかしら?」


 わざわざ宰相さいしょう衛兵えいへいたちが使つか食堂しょくどうるのか、すごいなこの世界せかい

 …まぁくところによると、ここの衛兵えいへいの人たちは騎士きし階級かいきゅうなかでもかなりたかほうらしい。だからこそ抵抗感ていこうかんすくないのだろうが。


「ところでフレインはなん用事ようじ?」


 ここに来た理由をフレインに質問する。


「ンー?ちょっと研究けんきゅうまったから気分転換きぶんてんかんはなし相手あいてしいなぁ、って」


「フフッ、うよ。二人ふたりともいいよな?」


 慎慈しんじ達巳たつみうなずく。


流石さすがわたしおとうとたち!さぁついてて!」


 られたのはうれしいが、何故なぜかフレインは自分じぶんたちをおとうとびする。

 ……わるはしないので、ほか二人ふたりとくなにうことはなかった。

 このけない間柄あいだがらは、いつのまにか三人さんにんにとって精神的せいしんてきささえになっていた。


            *


フレインとのお茶会ちゃかいえ、三人さんにんはベッドによこになる。二人ふたりとも余程よほどつかれていたのか、よこになったまま一言ひとことはっすることなく微睡まどろんでいた。

 

 静寂せいじゃく部屋へやつつむ。物音ものおとひとつせず、ステンドグラスかられる月光げっこう暗闇くらやみおおわれた部屋へやらす。

 永遠えいえんつづくかとおもわれたこの時間じかんが、慎慈しんじくちからポツリと言葉ことばれたことでわりをげた。



二人ふたり不安ふあんじゃないの?」



 ふたた静寂せいじゃく支配しはいする。だが先程さきほどとはことなり、部屋へやには三人さんにん緊張感きんちょうかんはしっている。

 この世界せかいでの生活せいかつはじめ、平静へいせいもどしたいまだからこそ、このいは——


「ここの生活せいかつはとても居心地いごこちがいいけど、ずっとこのままってわけにもいかない」


 めていたこころ葛藤かっとう一気いっきき放たれたのだろう。

 慎慈しんじくちからめどなく言葉ことばがあふれていく。


ぼくたちの常識じょうしきがまったく通用つうようしないこの世界せかいで、これからさきうまくやっていけるのかな?……ぼくたちはもと世界せかいかえれるのかな?二人ふたり不安ふあんじゃないの?こわくないの?」


 頬杖ほおづえをつき、こちらにける達巳たつみだまったままだった。しかしその背中せなか達巳たつみいたいことを雄弁ゆうべんかたっているがした。


「そんなの……こわいし不安ふあんまっているだろ」


 自分じぶんくちから言葉ことばをもう一度いちどあたまなか反芻はんすうさせる。

 そう、こわいのだ。つにつれ不安ふあん恐怖きょうふしていく。それにくわえて自分じぶんたちはまだこのしろから一歩いっぽていない。この世界せかい本当ほんとう姿すがたいまにしていないのだ。


「だけどな」


 うそいつわりなくいま自分じぶんおもっていることを二人ふたりけようと、言葉ことば必死ひっしつむぐ。


「それでもおれ不安ふあん恐怖きょうふつぶされないのはな、慎慈しんじ達巳たつみ。おまえたちと一緒いっしょだからだ」


 もしこの世界せかいつのが自分じぶん一人ひとりだけだったとしたら、不安ふあん恐怖きょうふ精神せいしん崩壊ほうかいしていたはずだ。

 けい言葉ことば自然しぜんねつめられる。


「この三人さんにんならどんな困難こんなんだってえていけるさ。どうせ二人ふたりおれおなかんがえだろ?」


 一人ひとりじゃない。こんな些細ささい事実じじつだけで、自分じぶんとなり親友しんゆうたちがいるという事実じじつだけで、まえいていられる。

 自分じぶんなか二人ふたり存在そんざいがどれほどこころささえになっているか再確認さいかくにんする。

 

 しばらくして達巳たつみ慎慈しんじわらした。


「……………なんだよ」


 赤裸々せきらら告白こくはくしてわらわれるとか、ちょっとずかしいんだけど。


「いや…やっぱケイはスゲェやつだなっておもってな」


「そうだね……三人さんにん一緒いっしょなら心配しんぱいない………か」


 わらいながらそうわれても………


「まぁ……その、なんだ。おれいたいのは—————」


「わかってる、ちゃんとつたわってるから」


「そうだな……くさいセリフなのがいたいがな」


 とっくによるとばりりているのに、部屋へやには三人さんにんわらごえひびいていた。

 異世界いせかいそらかぶふたつのつきかれらに闇夜やみよあたたかいひかりとどけていた。



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