第62話 チビ正宗 vs お薬

「ごめんね文ちゃん」

「これくらい大丈夫だから、気にすんな」


文治郎の腕にチビ正宗の歯形がついた。ちょっと空いてしまった穴は病院で薬を塗ってもらったが、今日のお風呂は染みそうだ。


「それより子供の頃のおじさんに、どうやって薬を飲ませていたか返事きた?」

吉宗おじさんと祖父母に薬の飲ませ方を質問していたのだ。


「……返事きた」

「何だって?」

「大人が2〜3人で押さえつけて無理矢理飲ませてたって」


ふうー。

2人で同時にため息をついた。


「それは無理だな…」

「何で粉薬なんだろうね…」

「明日が土曜日でよかったよ。薬、半分かして」


チビ正宗に処方された薬は、飲ませるのに失敗することを想定して6日分だった。


「このまま飲ませるのは絶望的だと思うから、とりあえず一回分を工夫してみる。その反応を見て、その次の分の飲ませ方を考えよう」

「ありがとう、文ちゃん」


さっきまでぐずっていたチビ正宗は美哉の抱っこで眠ってしまった。とても可愛い。



*******


「文ちゃん! お休みなのに朝からありがとう」

「いいって。おじさん、朝メシは食った?」

「うん、一応食べたよ」

「ゼリーにしてみた」


文治郎が持つタッパーに入っているのはタピオカのような粒状のミルクゼリーだ。

「ゼリー自体を練乳でかなり甘くした。ミルクティーに入れてみよう。固めに作ったし噛まずに丸呑みしてくれるといいんだが…」



2人でチラリとチビ正宗を見る。

演技力が試される。

「わあ! ありがとう文ちゃん! 可愛いゼリーだね!」

チビ正宗が振り返る。


「パパ、文ちゃんが病気の時もツルツル飲めるようにってを作ってきてくれたよ! 飲んでみようか?」

「このゼリーは喉越しを楽しむものだから、噛まないのが通なんだぜ。やっぱり大人は喉越しだよな」

「のむにゃ!」


美哉のお膝に抱っこされ、太めのストローから、ちゅーと吸引するチビ正宗。

「面白いにゃ。喉越しがいいにゃ」

「パパのために作ってくれたんだよ」

「全部つるっと、いっちゃってよ」


── チビ正宗は全部飲んだ。


「美味しかった?」

「まあまあにゃ」

「じゃ、味を変えてまた作るよ。リンゴとか桃もいいな」

「嬉しいにゃ」


「パパ、お薬を飲もうか?」

「飲まないにゃ」

チビ正宗がプイっとする。


「どうしても?」

「嫌にゃ」

「おじさん…美哉が、こんなに頼んでも?」

「注射されたから、お薬はいらないにゃ」

「パパったら…じゃあ、お昼は飲めるように頑張ろうね」

プイッ。


美哉と文治郎が目を合わせた。チビ正宗はお薬を回避できたと思い込んでいる。


── 大勝利じゃん!


「じゃ、じゃあ俺はゼリーを作ってこようかな?」

「ありがとう文ちゃん!」


チビ正宗はチョロ正宗だった。

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