第61話 今度はパパが!?

「ごめんね、文ちゃんにも迷惑かけちゃった」

「全然、迷惑なんかじゃない。小さい美哉は、すっげー可愛かった」


その日の夕食はいつも通りの食卓だった。


「本当に良かったにゃ、注射を打ったから良くなると分かっていたけど不安だったにゃ」

「パパ。」

「お薬を飲んでくれない美哉ちゃんは、もう懲り懲りにゃ」

「えへへ、ごめんね。小さくなってた時の記憶はあるんだ。でも全然、理性が仕事してくれなくて…」


「良くなってよk……」

「パパ!?」

「おじさん!?」


美哉と文治郎の目の前でシュルシュルと正宗が小さくなった。

「にゃあ…」

心配で夜も眠れず体力が落ちていたところに、患者の美哉と四六時中一緒にいたのだ。そりゃあ移るだろう。


「うわあ! パパが可愛い」

思わず正宗を抱きしめる。


「美哉、おじさんを子供用の服に着替えさせて。もう金曜日の夜だけど今から診てもらえる病院を探しておくから」

「わ、分かった」

文治郎の指示で現実に戻り、今の正宗に合いそうな服を引っ張り出す。


ちょうど良い服を着せられた正宗を文治郎がブランケットで包む。

「戸締りと元栓は確認した。美哉は保険証と財布を持って。病院は電話したからタクシーで行こう」


文治郎がテキパキと仕切り、30分後には病院にいた。


「間違いなく小児インフルエンザですね。なあに大丈夫ですよ、特効薬がありますからね。チクッとすれば大丈夫…」

「ぶみゃあ!」

注射を予感したチビ正宗が暴れ出したが、ブランケットでぐるぐる巻きにされており、足の自由がきかない。注射されているのと反対側の腕は美哉に押さえられているので無茶が出来ない。振り解いて美哉に嫌われるのは嫌だ。


── これでは逃げられないにゃ!


身動き出来ないなりにもがいていたら、ぶちゅっと刺された。


「離すにゃ!」

動けない。

めるにゃ!」

止めてくれない。


── 目の前に自分を拘束する文治郎の腕があった。


がぶり!


「…っく!」

「文ちゃん! パパ、ダメ! お口を離して!」


── 離すものかにゃ


注射を終えた医師が、チビ正宗の両頬をギュッと摘んで離させた。


「こらこらダメだよ。そのまま押さえててね」

── 何をするにゃ!?


「はい、あーん」

摘んだ口に苦い薬を流し込まれた。

「ぶみゃあ!」

チビ正宗、怒りの鳴き声が出た。



「お薬は3日分出すけど、この様子だと飲ませるのに苦労すると思うから、失敗してもいいように倍量出しておくね、ガンバ!」

軽い感じで励まされた。

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