第60話 ご心配をお掛けしました。
その日の夜も小さな美哉と一緒に眠った正宗だったが、翌朝目覚めると、美哉は小さなままだった。
── だいぶ良くなったように見えるけど、まだまだってことにゃ。
いつ大きくなっても良いように、マキシ丈のワンピース型パジャマを着せている。これならば、いつ元に戻っても美哉の尊厳は守られるはずだ。
── でも、お薬は今日の分まで。たぶん今日で大人に戻る見込みなのにゃ。
「おじさん、弁当ありがとう。これはプリン、
「プリン?」
「うん、子供の頃の美哉は3日目くらいになるとアイスに飽きて薬を飲まなくなってたから。今日あたりご褒美を変えないと手こずると思う」
「そうだったにゃ…」
回復期、元気になってきた美哉が力いっぱいグズるのを思い出して正宗のヒゲが下を向く。
アイスと薬を天秤に掛けて、渋々お薬を飲むのは2日目までだった。
3日目以降のグズる美哉に手を焼いたものだ。
「プリンでダメそうだったら連絡して?何か珍しいものを探してくる。」
「助かるにゃ〜。」
玄関で手を振って文治郎を見送る。
そろそろ美哉も目が覚めるだろう。
── 文治郎の予想通りだった。
朝食の後、お薬もアイスも要らないとグズった。
「みやちゃん、もうびょうきじゃないから! おくすりのまない!」
元気になった美哉が逃げ回って手に負えない。アワアワと追いかけ回すが、ちょこまかと逃げ回って捕まえられない。
美哉と正宗が疲れ果て、睨み合い……、プリンのことを思い出した。
「じゃあ美哉ちゃんだけプリンは無しにゃ」
美哉がピクリと反応した。
「美哉ちゃんがお薬を飲まないなら、パパは1人でプリンを食べるにゃあ」
「……プリン」
美哉と正宗が睨み合う。
「お薬を飲んでプリンを食べるかにゃ?お薬が先にゃ。飲むかにゃ?」
「………のむ」
うべえーーー。
急いで飲んでも薬は薬だった。
味わわなければオッケーかも…という想像は裏切られた。
「美哉ちゃん、プリンをどうぞにゃ」
「いただきます」
たどたどしくスプーンを使ってプリンを食べる美哉は可愛い。ちょっと手が掛かるけど可愛い。
だいぶ元気になった美哉は寝込むことを拒否して、仕事をする文治郎の横でお絵かきして遊んでいた。
「うっ!」
「美哉ちゃん! 美哉ちゃん?」
突然、うずくまった美哉に正宗が慌てるが、シュルシュルと大きく成長を始めたため、慌てた正宗は手近なクッションをボフっと顔に押し当てた。
年頃の一人娘との2人暮らしは気を使う。愛娘に嫌われたくない正宗は必死だ。
「美哉ちゃん! 見ていないにゃ! パパは見ていないにゃ! どこか身体におかしいところは無いかにゃ? 教えて欲しいにゃ? 美哉ちゃん! 美哉ちゃーん!」
クッションに顔を埋めたまま叫ぶ正宗。
「大丈夫だよパパ、顔を上げて?」
「本当にゃ?」
「うん、七分袖のワンピースみたいな感じ。大丈夫だから」
正宗がそっと顔を上げると、高校生の美哉がいた。
じゅわーと正宗の目に涙が溢れる。
「美哉ちゃん、身体におかしいところはないかにゃ?」
「うん大丈夫」
「良かった…良かったにゃ…」
元に戻った美哉をギュウギュウと抱きしめてポロポロと涙をこぼす正宗。
「心配かけてごめんね、着替えてくるね」
「美哉ちゃん、お医者さんに行くにゃ。外出しても大丈夫なお洋服に着替えるにゃ」
正宗に付き添われて通院し、もう大丈夫と太鼓判を押されて一安心の正宗だった。
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