第59話 美哉は薬が嫌い

── 美哉ちゃんは起きないにゃ。この隙に文治郎のお弁当を作るにゃ。


心配すぎて昨夜は小さな美哉と一緒に眠ったが、まだ起きないので、文治郎のお弁当と自分たちの朝食を作り、文治郎にはお弁当を取りに来るようLINESした。


「おはようにゃ!」

「おじさん、こんな時までお弁当はいいのに…」

「早く食べないと材料が悪くなっちゃうから持って行くにゃ」

「ありがとう。…美哉は?」

「まだ寝てるにゃ。昨日の朝と違ってスヤスヤにゃ」


心配そうな文治郎を送り出し、美哉の元へ戻るとモゾモゾと動いていた。そろそろ起きるだろうと見守っていると起きた。


「美哉ちゃん、おはようにゃ〜」

「むう…」

── 寝起きで目が開かなくて声が出ない美哉ちゃんも可愛いにゃ。


ブランケットでくるんで抱き上げ、ポンポンすると機嫌良く目覚めてきた。


朝ごはんを食べさせてから、薬を飲ませようとするとプイっとする。もう勢いで飲ませるのも騙して飲ませるのも無理そうだ。

「美哉ちゃん…。お薬を飲むにゃ」

「アイス!」

「お薬を飲んだら食べていいにゃ」

「……じゃあのむ」

いやいや飲んで、うべえーっと顔をしかめる。

「可愛いにゃ。アイスを持ってくるから待つにゃ」

アイスで機嫌が治った。


抱っこで一緒に子供向け教育番組を観ていると、また眠ってしまった。


── まだ具合が悪いにゃ。心配にゃあ。


ブランケットごと美哉を抱っこしてテレビを観ていたが、眠ってしまったので子供用布団に寝かせる。


ちょっと仕事をして、寝顔を眺める。ちょっと仕事をして、寝顔を眺める…を繰り返した。


── 今日も美哉ちゃんの寝顔を堪能して一日が終わってしまったにゃ。そろそろ文治郎が帰ってくる時間にゃ。


「おじさん。これ、頼まれてたアイス」

「助かったにゃ、もうアイスの在庫が無くなったところにゃ。朝も昼もアイスと引き換えでないと、お薬を飲まないと言い張るにゃあ」

「美哉は子供の頃から薬が嫌いだったよ」

「…そういえばそうだったにゃ。病気になると困った子供だったにゃ」


「美哉は普通のメシを食えそう?」

「昨日よりは良いけど、今日も念のために消化に良いものにするにゃ」

「じゃあ煮込みうどんを作るよ、俺たちも同じもので良い?」

「ありがとうにゃ」


暖かくした美哉も食卓について一緒に食べた。しまい込んでいた子供用の食器とカトラリーが可愛い。

小さな美哉が、ちゅるちゅると食べる姿は激可愛げきかわだ。正宗と文治郎の顔が崩れる。


しかし食後の薬のやり取りで現実に引き戻される。


「おくすりはいや! もう元気だもん!」

「ダメにゃ、まだ元気じゃないにゃ」

「いや!」

「アイスはお薬の後にゃ」

「むう…」

正宗と美哉が、しばらく睨み合った。


「美哉はお薬を飲めないくらい赤ちゃんなのか?」

文治郎が参戦した。

「赤ちゃんじゃないもん!」

「お薬を飲めないのは赤ちゃんだな」

「のめるもん!」


うべえーー。


売り言葉に買い言葉で乗せられた美哉が、勢い良く薬を飲んで顔をしかめていた。とても苦しそうだ。


正宗がアイスを差し出すと機嫌が治った。

今日も可愛い。

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