第57話 ホワイトデーと体調不良

「ロールケーキがいい!」


美哉のホワイトデーのリクエストだ。


「分かったにゃ。世界一のロールケーキを用意するにゃ。文治郎、まずはリサーチにゃ!」

「任せてくれ。何から調べる?」


ホワイトデーに向けて正宗と文治郎が張り切り出した。この2人が本気になったら間違いなく美味しいものを作ってくれるだろう。



*******


「それで今日は浮かれているのね」

「うん、パパと文ちゃんのロールケーキ楽しみだなあ」


ここ数日、正宗と文治郎は美味しいと評判のお取り寄せロールケーキを検索しては原材料と食べたユーザーのコメントを調べていた。取り寄せず、食べず、表示された原材料と感想からレシピを推測しているらしい。なかなか高度だ。



「美哉、帰るぞ」

「文ちゃん、迎えに来てくれたの?」

「ああ、今日はロールケーキを作るから早く帰らないとな」


「じゃあね、美哉」

「うん、また明日ね」


ロールケーキで頭がいっぱいの文治郎が1年の教室まで美哉を迎えに来た。結果的に美哉のことを、ちょっといいなーと思っていた男子生徒への牽制もバッチリだ。



「今日の晩飯とロールケーキをおじさんと2人で作るから、悪いけど美哉はゲームでもしててくれ」

「うん。ありがとう」


「文治郎、最高の材料を揃えたにゃ。美哉ちゃんは、今日はお手伝い禁止にゃ」

「わ、分かった」

キリッとしたエプロン姿の2人が超やる気だ。



制服から着替えてテレビをつけるが、キッチンが気になって内容が全然入ってこない。


「ね、ねえ。側で見ててもいいかな」

「見てるだけならいいにゃ」

「でも、もう終わりだぞ」


ロールケーキは巻き終わって冷蔵庫の中、今は最高の晩ご飯の最終工程だ。

「あとは美哉ちゃんの好きなエビフライと蟹クリームコロッケを揚げるだけにゃ」

「タルタルソースと味噌汁とサラダと野菜のの出汁浸しも出来上がってる」


いくら見ても飽きないと思いながら、正宗が揚げ物をして文治郎が盛り付ける様子を眺めた。


サクッ!

「美味しい!」

「うん。サクサクに揚がってる、美味い。さすがおじさんだな」

「うんうん。蟹クリームコロッケもサクサクでトロトロにできたにゃ」

「出汁浸しやサラダも美味しいよ、揚げ物がコッテリだからサッパリが美味しいね」

「この後ロールケーキもあるにゃ、お腹に余裕を残してにゃ」


スイーツは別腹だから問題ない。


文治郎によってシンプルなロールケーキとコーヒーがサーブされた。

「ふわふわ! クリームが美味しい!美味しい!」

「ふふふ、よく分かったにゃ。クリームに秘密があるにゃ」

「クリームが美味いという噂のレシピや有名店の原材料を比較して研究したからな」


「研究だけで、いきなりこんなに美味しく作れるなんてすごいよ!」

「…うん、美味しいにゃ」

「ぶっつけ本番だったが、上手くいってよかった」

……なかなかの冒険だったようだ。


食後の美哉がコタツで満足そうにウトウトしていた。

「美哉ちゃん、ここで寝ちゃダメにゃ」

「うん…」

ウトウトしながらお風呂を済ませてベッドに向かった。

「こんなに早く美哉が眠くなるなんて珍しいな」

「疲れる授業でもあったかにゃ?」


── そうやってコタツで呑気に構えていた時もありました。


翌朝、正宗がお弁当と朝食の準備をしているが、いつも一人で起きてくる美哉が今日は遅い。

「美哉ちゃーん、そろそろ起きるにゃー!」


─── しーん。


「……返事がないにゃ。美哉ちゃんたら昨日は早く寝たのに。よっぽど疲れているにゃあ」

コンコン

「美哉ちゃん、起きるにゃ? ………入るにゃよ」

カチャリ。


「美哉ちゃん?」

こんもりと盛り上がった布団に手を掛ける。


「にゃ! にゃにゃにゃにゃー! 美哉ちゃーーーーーん!!!!」


正宗の尻尾がぽんぽこに膨れ上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る