第56話 雛祭り

美哉のお雛様は露子のお下がりの7段飾りだ。

今年も正宗が早めに飾り付けた。


「ただいま〜、パパ」

「おかえりにゃ。今日はお雛様を出したにゃ」

「ありがとうパパ!」


「まだ少し先の話になるけど、雛祭りの日の晩ご飯は僕が作るにゃ。その日は美哉ちゃんは家事をお休みにゃ。ちょうどお休みだから文治郎と一緒にお出かけしてくるといいにゃ」


「いいの!? パパありがとう」

「いつものようにレイクタウンに行こうぜ。ついでにコストコに寄ろう。おじさん、必要なものは書き出しておいて」

「分かったにゃ、いつも助かるにゃ」



*******

「パパ、行ってくるね」

「晩ご飯までに帰るにゃ」

「…おじさん、このメモ……」


正宗が用意したコストコで買ってきて欲しいメモには『コスコの肉(2kgまで)』とだけ書いてあった。


「冷凍出来る肉ならなんでもいいにゃ、ご飯やお弁当に使える肉を買ってきて欲しいにゃ」

「この2kgまでってのは…」

「冷凍庫の空きが足りないにゃ。お弁当に入れるソーセージとか、すぐに食べ切れるものは追加で買ってきてもらって大丈夫にゃ」

「分かった」



*******


── 汁物は、はまぐりと菜の花の潮汁うしおじるで決まりにゃ。メインをちらし寿司にするか、ケーキみたいな見た目の押し寿司にするか…悩ましいにゃ。


とりあえず、はまぐりと菜の花の潮汁うしおじるの支度をするにゃ。


まずは昆布だしにゃ。

水に昆布をつけて30分ほど置いてから中火にかけるにゃ。煮立ったら弱火で7~8分煮て完成にゃ。取り出した昆布は刻んでおかか醤油で煮て美哉ちゃんと文治郎のお弁当のおむすびにするにゃ。

はまぐりは良く洗っておくにゃ。菜の花は下茹でして準備オッケーにゃ。

今はここまででいいにゃ、食べる直前に仕上げにゃ。


メインはちらし寿司にするにゃ。

椎茸煮を作るにゃ。干ししいたけを水で戻したら石突きを切って薄切りにするにゃ。鍋に調味料と戻し汁と一緒に入れて煮詰めるにゃ。

マグロは漬けにして、錦糸卵を焼いて、胡瓜は薄切りにして塩で揉んで水分がでたら洗って絞っておくにゃ。エビはボイルしておくにゃ。イクラは準備無しにゃ。炊飯の予約をして、すし酢を作って…あとは、潮汁の前に仕上げればいいにゃ。


デザートは苺のムースにゃ。苺のフルーチェに生クリームを混ぜたら勝手に固まるから1分でできるにゃ。……手抜きじゃないにゃ。雛祭りだからピンクにしたいだけにゃ。上に苺を飾って…これは冷蔵庫で冷やしておくにゃ。


文治郎はこれだけじゃ食べた気がしないだろうし冷凍庫を空けるために、後で冷凍しておいたコロッケと唐揚げを揚げるにゃ。

カプレーゼは切って並べるだけだから、これも直前でいいにゃ。

美哉ちゃんの好きなカボチャのデリ風サラダも作るにゃ。これは余るから明日のお弁当にも入れるにゃ。お弁当の彩りにもいいにゃ。


コスコを出たらLINESで知らせてくれるはずだから、そこから仕上げればいいにゃ。

それまでベランダ菜園のお手入れにゃ。


正宗はベランダで、“スーパーで買ったらちょっと高いハーブ”を育てていた。もちろん食用だ。近くで畑を借りてみたいが夏の間は手入れが出来ないので踏み出せずにいる。


── 女の子はお洋服も可愛いし、華やかなイベントが多くて良いにゃ。ホワイトデーも楽しみにゃ。まあ息子も、お腹いっぱい食べさせる楽しみがあるにゃ。今日も文治郎を満腹にさせてやるにゃ。

大食いチャレンジの店主と客のようだ。


小さな頃の美哉ちゃんは、お雛様を片付けるのを嫌がって毎年泣いたにゃ。お嫁に行けなくなるからと説得すれば…


『お嫁になんていかないもん、ずっとパパと一緒がいいもん。』て泣くにゃ。


あれは可愛い過ぎにゃ〜。

ジョウロを持ってクネクネする正宗。


まあ、美哉ちゃんが幼稚園に行っている間にサッサと片付けたけどにゃ。

さて、ベランダはこんなものにゃ。


ブルルッ!

美哉ちゃんからLINESにゃ。返信して…ご馳走を仕上げるにゃ。



雛祭りは美哉だけでなく正宗にも幸せを運んできた。

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