第50話 時宗5歳

最近、露子さんの具合が悪いらしいにゃ。


父さんと母さんが僕を連れて頻繁にお見舞いに行くにゃ。


「露子さん、早く元気になってにゃ。元気になってくれたらスーハーしても文句を言わないにゃ。たまになら肉球を触ってもいいにゃ」


顔色が悪い露子さんが心配で大サービスしたにゃ。今させてと言われてスーハーされてプニプニされたにゃ。

もう赤ちゃんじゃないから恥ずかしかったけど露子さんが嬉しそうだったからオッケーにゃ。


毎回、僕をスーハーしてプニプニして元気を貰ったよって言うのに、露子さんは会いに行く度に悪くなっていったにゃ。

大人たちで話があるからと美哉ちゃんと2人で待ってたこともあった。美哉ちゃんは1度もグズらなくて良い子だったにゃ。


── 小さいパパと呼ばれてフサフサしてくる美哉ちゃんは可愛いかったけど、僕に抱きついてスーハーしてくる美哉ちゃんは小さい露子さんみたいだったにゃ。


初めて露子さんのお見舞いに行ってから、お葬式まで半年くらいだったにゃ。最後の方は退院して家で寝たきりの露子さんに会いに行ってたけど、この頃のことはショックであんまり覚えていないにゃ。

お葬式で大好きな露子さんに、もう会えないと思ったら、悲しくて涙が止まらなかったにゃ。


あんなに悲しかったのに、幼稚園はあるし、夜になれば眠くなるし、ご飯の時間になればお腹が空くのが不思議だったにゃ。ずっと悲しんでいられないなんて残酷だと思ったにゃ。叔父さんや美哉ちゃんのことを思うと辛かったにゃ。


ちょうどその頃、うちの母さんの具合が悪くなったにゃ。怖くてものすごく泣いたけど、母さんは病気じゃなくて赤ちゃんが生まれるって教えてもらったにゃ。


赤ちゃんが無事に生まれてくるために母さんが入院することになって、大人達が僕のことを相談していたにゃ。家で大人しくしているから一人で大丈夫と言ったけど、それはダメらしいにゃ。


僕は叔父さんの家に預けられることになったにゃ。お葬式以来、1ヶ月ぶりに会った叔父さんはゲッソリとやつれていてボクの尻尾がブワッと膨らんだにゃ。



「叔父さん、迷惑かけてごめんなさいにゃ」

「ちっとも迷惑なんかじゃないにゃ。時宗が来てくれて嬉しいにゃ」


叔父さんはいつも通り優しかったけど、以前にも増して美哉ちゃんにべったり過ぎて心配になったにゃ。


叔父さんが仕事に集中できるよう、僕は出来るだけ美哉ちゃんと一緒にいたにゃ。叔父さんは仕事が終わると美哉ちゃんを抱きしめてスリスリしていたにゃ。


「叔父さんが美哉ちゃんをギュってすると叔父さんも美哉ちゃんも元気になるにゃ」

「にゃにゃ! 本当かにゃ? 美哉ちゃんが元気になるなら嬉しいにゃあ」

「美哉ちゃんは叔父さんのことが好きにゃ?」

「うん! パパだいすき」

「パパも美哉ちゃんのことが大好きにゃあ!」


美哉ちゃんと過ごすことで叔父さんは少しずつ元気になっていったにゃ。



「僕、ずっと妹が欲しかったんだけど、女の子は美哉ちゃんがいるから弟がいいにゃ」

「時宗はしっかり者だから、良いお兄さんになると思うけど、しっかり過ぎて心配にゃ」


「しっかり者だから心配にゃ? どうしてにゃ?」

「時宗は甘えたい時に我慢しちゃうから心配にゃ」

「そんなこと…。」

「そんなことあるにゃ。時宗はもっとわがままを言ってもいいにゃ。赤ちゃんが生まれたら忙しくて、そうも言っていられないと思うから、ちょくちょくうちに泊まりにきたらいいにゃ」

「ありがとうにゃ」


翌週、母さんが退院するので僕も帰ることになっていたけど、叔父さんは僕が帰った後の事を心配してくれていたにゃ。


「でも僕、赤ちゃんが生まれてくるの楽しみだから大丈夫にゃ…」

「実際に生まれてみると、くっそ大変にゃ。もし気が変わったらいつでも連絡するにゃ。メールの送り方は教えた通りにゃ。

もし時宗が望むなら、吉宗よしむね兄さんや志津しずちゃんが何を言っても迎えに行くにゃ。時宗が来てくれたら美哉ちゃんも大喜びにゃ」

「ありがとうにゃ」


── これだから僕は正宗叔父さんのことが大好きにゃ。



── 宗一郎が生まれたら、叔父さんの言う通り、くっそ大変だったけど、宗一郎は可愛くて良い子だったから、叔父さんに内緒のメールを送ることは無かったにゃ。


── もし、あの時に生まれていたのが宗一郎ではなく宗平だったら…叔父さんに助けを求めていたと思うにゃ。

宗平は可愛いけど、くっそ大変な弟だから。

あれで可愛くなかったらボートに乗せて荒川に流していたと思うにゃ。

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