第46話 宗平の一人相撲
「
「宗平君は志津さんの言いつけを守って良い子だな」
美哉の横浜の祖父母が、お人形のような宗平にラブキュンだった。
「美哉ちゃんが生まれた時に、初めて
「宗平君、おじさんとおばさんと一緒に遊ばないか?」
猫好きな美哉の祖父母がハアハアしている。
宗平がチラリと美哉を見ると、時宗や宗一郎との会話に夢中で宗平に見向きもしない。
── 美哉ちゃんたら!
「遊ぶ!」
志津の膝から下ろしてもらって、ボールで遊んでもらう。楽しそうな姿を見せつけて美哉にヤキモチを焼かせる作戦だ。しかしボールは気に入らない。
「俺は猫じゃないにゃ! ボールくらいで喜ばないにゃ!」
しかし長年、猫を飼ってきた祖父母にとって宗平はチョロかった。チョロ平だ。
チョロ平は祖父母のフェイントや、投げる速度や角度が絶妙過ぎるボールに夢中になった。
── ちょっと夢中になり過ぎたにゃ。
でも俺が見向きもしないから、きっと今ごろ美哉ちゃんは涙目にゃ。結婚してくれるなら許してあげるにゃ。
美哉のヤキモチ顔を見てやろうと、そっと美哉の方を伺うと…時宗や宗一郎と3人で、超楽しそうだった。
── どういうことにゃ! 今ごろ美哉ちゃんは嫉妬に狂っているはずにゃ! ヤキモチはどうしたにゃ!
「宗平ちゃん?」
「ほーら、ほらほらー」
カッと目を見開いて固まっていると祖父母が猫じゃらしをユラユラさせてきた。
「俺は猫じゃないにゃー!」
バカにするなという意気込みで猫じゃらしに立ち向かった。チョロ平は夢中になった。超楽しかった。
ちょっと疲れてきたので、水を飲んで休もうとした宗平の目に衝撃的な場面が飛び込んできた。
「ハハハ可愛いにゃ」
真ん中の兄の宗一郎が、美哉の祖父母が連れてきた飼い猫のツブちゃんを抱いて爽やかに笑っていた。
── 兄はいい。兄ならいい。
……どうして美哉ちゃんが子猫を抱っこしているにゃ!?
「可愛いなー、マメちゃんは小さくて可愛いなー」
美哉が子猫を抱いて頬ずりしていた。
……小さくて可愛いは、いつも俺が言われてきた褒め言葉なのに!
「美哉ちゃんは浮気者にゃ!」
宗一郎に抱かれたツブちゃんと美哉に抱かれた子猫が宗平の声に驚いて身体をびくりと跳ねさせる。
「こら、宗平! 子猫たちをびっくりさせちゃダメにゃ」
時宗が宗平のうなじを掴んで、宙にぶら下げる。
── 屈辱的にゃ…。
こうやってうなじを持ってぶら下げられるとピクリとも動けない。
「時宗兄さんの言う通りだにゃ。それに宗平は毎回、美哉ちゃんに相手にされていないんだから浮気者は違うにゃ」
── 宗一郎兄ちゃんの正論が憎いにゃ。
「宗一郎君に抱っこされているツブちゃんは、もう8歳で大人なんだよ。私が抱っこしているマメちゃんは生後3ヶ月の赤ちゃん。
生まれつき足が悪くて左の後ろ足をびっこ引いているの。もらいてが見つからなかったんだけど、お爺ちゃんとお婆ちゃんが引き取ったんだって」
「マメは良い子だにゃ」
「嫌がらずにマメの面倒をみているツブも良い子だにゃ」
兄たちはツブとマメに、すっかり感情移入している。
「私が会いたくて連れてきてもらったんだ。さっきまで眠っていたんだけど起き出してきたの。可愛いでしょ?」
「俺の方が可愛いにゃ!」
涙目で反論する宗平。
「宗平君も可愛いけど、ツブちゃんとマメちゃんも可愛いよね」
「ちっとも可愛くないにゃ!」
プイっとそっぽを向くが、宙にぶら下げられたままなのでカッコがつかない。
「宗平!」
「お前は!」
時宗と宗一郎が怒り出す。
「おやおや、宗平君はお
祖父が宗平を抱きよせて、絶妙な加減で背中をポンポンすると大人しくなり、すぐに眠ってしまった。
「はにゃにゃ…! 凄いにゃ、いつもぐずり出すと面倒なのにあっという間にスヤスヤにゃ」
1番長く一緒にいるため、宗平を嗜める機会の多い宗一郎が驚きで瞳孔を開いてしまった。いくら道理を解いても聞く耳を持たない宗平に、いつも手を焼いていたのだ。
「まだ子供だから感情のコントロールが上手に出来なくても仕方ないよね。お兄さんたちと年が離れているから大人ぶりたい宗平君は可愛いね」
「1番、手を焼いているのは宗一郎君じゃないかしら?」
「そうですにゃ。僕が長期間、家を離れているので余計に宗一郎に…」
「宗一郎君だってまだ小さいのに理不尽に感じちゃうわよねえ。三兄弟の真ん中って損な役回りね」
「そんなこと…」
── そんなことはある。思い当たることだらけだ。宗平の暴れっぷりは、かなり激しいのだ。
「宗一郎、俺はギャップイヤーの間も時々は帰ってくるから。その時は宗平のことを引き受けるし、宗平を青砥の爺ちゃんと婆ちゃんに預けて2人で出掛けるにゃ」
「いいのか?楽しみにゃ!」
宗一郎の顔が輝く。
「吉宗さんと志津さんも、あまり宗一郎君をあてにしてはダメよ。ちゃんとご両親が指導しないと」
「…はい」
「おっしゃる通りですにゃ……」
確かに面倒な宗平の相手を宗一郎に押し付けがちだった自覚はある。
宗平の暴れっぷりを思い、両親の目からハイライトが消えた。
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