第45話 宗平が来た

「美哉ちゃん!」


美哉の従兄弟で5歳の宗平そうへいが美哉に飛びつく。


「宗平君、明けましておめでとう」

「おめでとうにゃ。美哉ちゃんに会いたかったにゃ。美哉ちゃんは? 俺に会いたかったかにゃ?」

「うん、会いたかったよ」


宗平の顔が輝く。

「本当にゃ? じゃあ結婚するにゃ?」

「それは無い」

「美哉ちゃん、恥ずかしがら無くても良いにゃ! 俺は年上でも好きにゃ!」


「そういう意味の好きじゃないし、宗平君は恋愛の対象外だからね」

美哉が宗平を抱き上げて志津しずに渡す。


「母ちゃん! 離してにゃ! 俺は恥ずかしがりやの美哉ちゃんを口説かなければならないにゃ!」

「良いかげんにするにゃ。美哉ちゃんは恥ずかしがっていないにゃ。宗平の思い込みで迷惑をかけるなら、宗平だけ今すぐ帰るにゃ」

「…帰るのは嫌にゃ」

母の本気の言葉に大人しくなる宗平。


母が静まるまで、大人しく志津のお膝に抱かれる宗平。


── いきなり母ちゃんを怒らせたのは失敗だったにゃ。


そっと美哉の様子を伺ってみる。


── 美哉ちゃんたら時宗ときむね兄ちゃんと宗一郎そういちろう兄ちゃんと仲良くし過ぎにゃ! 浮気にゃあ。


志津のお膝に抱っこされながら、時宗や宗一郎と仲良く話し込む美哉を眺める。


しかし宗平が生まれる前から仲の良い従兄弟だったし、美哉は宗平と付き合ってもいないので浮気ではない。



「まったく…今日も宗平がごめんにゃ」

「毎日のようにメールとか送ってて迷惑だろ? 宗平はまだ自分のスマホもPCもないので、全部母さんのアカウントを使っているから俺たちに筒抜けなんだけどにゃあ…」

「あいつ懲りないからにゃあ。我儘だし」


── 時宗兄ちゃんも宗一郎兄ちゃんも美哉ちゃんに近すぎにゃ! しかも美哉ちゃんの前で俺をディスって! 許せないにゃ!


ディスっていない。事実を述べて、家族が迷惑を掛けていることを謝罪しているだけだ。



「ギャップイヤーはどう?」

高校を卒業して大学入学までの一年をギャップイヤーとして過ごしている時宗に美哉が質問する。


「楽しいにゃ。年末に台湾から戻ったんだけど、台湾は素晴らしかったにゃ。人も素晴らしいしご飯も美味しいにゃ。気温が高いのは辛いけどにゃあ」

「冬でも暖かいの?」

「台湾は北部が亜熱帯、南部が熱帯なんだにゃ。でもちゃんと冬はあるにゃ。1月と2月は台湾も本格的な冬になるから平均気温は15℃から18℃前後。人族は冬の服を着ていないと寒いんた。冬の気候が僕にはちょうど良いくらいかな。ただ冬でも暑い日が稀にあるらしいにゃあ」

「俺が行くとしたら冬だにゃ」

宗一郎も暑さに弱いらしい。


「お正月が終わったら台湾に戻るの?」

「来週から台湾の友人も一緒にカナダに行くにゃ。働いたりボランティアしながら北米から南米を回るにゃあ。獣人学校のクラスメイトたちが暮らしてる土地を回る予定にゃ。

「そういうのも良いなあ。」


「美哉ちゃんはストレートで大学に進むのかにゃ?」

「うん。もし私がギャップイヤーを取るとしたら大学を卒業した後、就職する前にインターンとかかな」

「就職しちゃうとなかなか出来ないにゃ。とはいえ一年遅れるのは良い事ばかりじゃないにゃ。デメリットもあるから手放しで勧められないにゃ」

「俺は兄ちゃんみたいに大学入学前にギャップイヤーをとりたいにゃ。兄ちゃんの話は参考になるにゃ」



── くそ。時宗兄ちゃんめ、俺にはできない歳上目線で美哉ちゃんを口説いてズルイにゃ。


時宗は美哉を口説いていないしズルくもない。宗平が子供扱いされるのも仕方のない事だったが、本人だけが気づいていなかった。


真っ白な母親に抱っこされる小さな宗平は、お人形のように可愛かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る