第41話 久しぶりのデート

「なあ美哉」

「なあに文ちゃん?」


「そろそろ美哉とデートがしたい。毎日一緒に登下校して、放課後も一緒に過ごしているけど、最近の週末は俺がうちの店の手伝いに駆り出されてたから、最近ちゃんとしてねえっていうか。恋人同士のイチャイチャなデートがしたい」


美哉の耳と尻尾がピクンと反応する。嬉しい時の動きだ。

「嬉しい! ね、今週末はお店は大丈夫なの?」

「ああ、妊娠中の陽子さんはこのまま産休に入るけど新しいスタッフが入ったから」


「えへへ。やっぱりデートはレイクタウンだよね」

「ああ、市民のデートスポットはレイクタウンだよな。歩きやすい靴で来いよ」


レイクタウンは広過ぎて、知らず知らずかなりの距離を歩かされるのでパンプスは厳禁だ。


「期間限定のスケートひろばでスケートな」

「2人でスケートって、恋人同士っぽいよね!手を繋いでキャッキャするんだよね」

「そうだな、滑った後は中華まん博覧会で飯にしよう」

「寒くなってきたから中華まんは嬉しいな」


今日も安定のバカップルだ。



*******


「じゃあ行ってくるねパパ」

「晩ご飯までに帰ってくるにゃ」

正宗が玄関で手を振る。


正宗は晩ご飯に間に合えば愛娘に虫が付かないと思い込んでいるようだが大きな間違いだ。


今日はスケートだしレイクタウンデートなので2人ともスニーカーでカジュアルなファッションだが、カジュアルなりに張りきってお洒落してきた美哉が可愛い。


「ああもう、すっげー可愛い。今日も可愛いよ美哉」

「ありがと、文ちゃん」


手は恋人つなぎだし、会話するのに顔が近すぎるし、会話しながらちょっと匂いをかいでいる。恋人同士でなければ通報案件だ。



レンタルしたスケート靴に履き替えてリンクに踏み出すが、2人ともヨロヨロだ。北国育ちの人間が見たら失笑だろうが気にしない。

滑ることよりもイチャイチャすることが目的なのだから。

ムキになって滑っているのは子供くらいだ。



「くそ…失敗だったな…」

「ファミリーとカップルしかいねえ…」

「イチャイチャしやがって…」

文治郎と県大会で対戦した栄光学園サッカー部のメンバーが3人でヨロヨロ滑っていた。

ナンパ目的でやってきたが当てが外れた。


「おい!」

「あっ!文治郎だ」

「文治郎めスケートリンクで手繋ぎデートとは…」

彼女いない歴イコール年齢のサッカートリオが文治郎と美哉を見つけた。


「あんなに密着して…」

「か、顔が近すぎる…あれはキスの距離じゃねえか…」

「俺、ああいうのがやりたくて、今日ここに来たんだよ」


今日ナンパしていきなりイチャイチャできるはずないが、彼女いない歴イコール年齢なので分からなくても仕方がない。もしナンパに成功していても手も握れないだろう。


「よお!」

「偶然だな!」

「デートか?」


しらばっくれて文治郎から見つけられるよりはと、自分たちから声を掛けた。


「お前ら! 偶然だな、今日は練習はないのか?」

「ああ今日は休みだ。俺たち寮生活だから休みの日は外の空気を吸いたくて出来るだけ外出するんだ」

「ここに来れば何かあるし1日楽しめるからな」


「そっか。気分転換とかメリハリのつけ方が上手いんだな。メンタルのコントロールってプロっぽいな!」

「そ、そんなんじゃねえよ…」


── ナンパ目的だったとは、絶対にバレたくないが文治郎の解釈が好意的過ぎて後ろめたい気持ちになる。


「うちの部長から聞いたぜ。3人ともプロから声かかってるんだろ?」

「そこからの競争がまた厳しいんだ」


「お前らなら出来るって俺たち信じてるから! うちの部長は医学部志望だけど夢はスポーツドクターだから、お前らのサポートしたいって受験、張り切ってるんだぜ」


── やべえ、友情のレベルが高すぎるよ。

── 進学校パネエ


「ぶ、文次郎も医者になるのか?」

「俺は電子工学志望。大学は好きにして良いって言われてるから」

「他に何かあるのか?」

「うちの両親は美容師でサロンをやってるんだ。俺もいずれ資格は取る。美容師を本職にするかは分からないけど両親の店は経営していくことになる。両親の店で働いてくれている皆さんの生活を守らなきゃならないし。2人で立ち上げた店だし、俺がガキの頃から2人とも働き詰めでやってきた店だから潰したくないじゃん」


── 反抗期を拗らせて家を出て寮生活している3人がモジモジする。


「えっと、あいつ! キーパーのあいつも医者になるって言ってた。あいつもスポーツドクター志望なのか?」


「いや、あいつんとこは母子家庭でいろいろ厳しっていってた。だから志望校は防衛医科大学校だって。医学部は国立でも350万から400万くらい学費がかかるけど、防衛医科大学校なら全寮制で学費は無料。しかも毎月約11万円の手当まで支給されるしな。あそこも寮だから場所や距離は、あんま関係ないけど所沢だから県内じゃん? 母親を1人にしちまうから遠くないのがいいって」


── 思った以上に重かった。

模範少年ばかりでモジモジしてしまう。

彼女いない歴イコール年齢トリオが青ざめてうつむく。


「そっか。俺たちもお前らの応援するよ。受験、頑張れよ」

「俺たち、そろそろ行くわ」

「今日のメインの目的はスポーツ用品店なんだわ」

「話し込んじゃって悪かったな。じゃあな!」

文次郎の背中に貼りついていた美哉がペコリと頭を下げる。



*******

「あいつら具体的な目標を持って勉強を頑張っているんだな」

「勉強もして部活もして彼女もいて、忙し過ぎね?」

「彼女とのデートって文治郎の言ってたアレじゃね、気分転換してメンタルコントロールってやつじゃね?」

「彼女出来たらいいな」

「ああ。気分転換したいな」

「出来たらいいな」



その後、彼女いない歴イコール年齢トリオはペアアクセサリーの店から出てくる文治郎と美哉を目撃してしまい、ちょっと荒れた。


「受け取りはイブに」とか

「最高のクリスマスプレゼント」とか

「ペアのネックレスなら、制服の下にこっそり付けていられる」とか…聞こえてしまったのだ。

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