第21話 2人の学園祭

いよいよ美哉と文治郎が通う県立高校の学園祭だ。

金曜日は生徒と生徒の家族のみ。土曜日は一般公開。


「文ちゃんのクラスはプロジェクションマッピングをやるんだっけ?」

「ああ簡単なものならフリーソフトで作れるから。プロジェクターは学校の備品を使えるし。美哉のクラスはリアル脱出ゲームだっけ?」

「うん、カップルで参加向けと友情で脱出系と二つのシナリオがあるんだ」


「スタッフとして参加する時間を合わせることが出来たから良かった。俺が迎えに行くから美哉は教室で待ってて」

「うん。勝ち抜きクイズ大会も楽しみだね!」


高校生クイズのように全校生徒が予選に参加する生徒会主催のクイズは、この学校の学園祭で人気の企画だ。参加はソロでもカップルでもグループでも良く、美哉と文治郎はカップルで参加する予定だ。

予選を通過した6組が最終日に決勝を戦う。

「どうせ今年も決勝はクイズ部が独占だろうなあ」

「予選も楽しそうだよ」


「そうだな。段ボール迷路は今年もやるらしいから、一緒に挑戦しような」

「リアル・ウォーリーを探せと宝探しゲームも楽しみだね」

「プラネタリウムをやるクラスがあるらしい。これも一緒に回ろう。あと、美哉は会ってるよな」

「何?」


「夏の県大会、決勝で当たったチームを招待してるんだ。うちの部長のクラスでストラックアウトをやるから」

「ストラックアウトって9つの的にボールを当てて競うやつだっけ?」

「そう、野球とかサッカーとかバレーとか何種類かの球技がモチーフだって。サッカーのストラックアウトで対戦する事になってる。」

「近くで応援してて良い?」

「ああ当日は彼女席があるから。美哉が応援してくれたら負けられないな」

「えへへ」

相変わらずのリア充ぶりだ。


*******

「パパ!いらっしゃい」

金曜日、正宗が遊びに来た。

「美哉ちゃんは仮装してても可愛いにゃあ〜」

正宗の目とヒゲが波型に崩れる。


美哉達の学校の学園祭では学生が好きな仮装を楽しむ。学園祭とハロウィンを一緒にやるようなものだ。

美哉の仮装は猫つながりでドラミちゃんだ。

腰の両サイドに白地に赤いチェックのポケットが付いた黄色いワンピース姿で、頭に大きな赤いリボンを付けている。金色の鈴がワンポイントの水色のチョーカーも似合っている。


基本的に正宗は美哉にしか関心がない。クラスの出し物などはスルーで美哉だけを激写して帰るつもりだ。


「文治郎は美哉を迎えにきたのかにゃ?」

「ああ、うちのクラスの出し物の俺の当番は終わった」

「しっかり美哉ちゃんをガードするにゃよ」

「分かってる」

「文治郎は話が早いにゃあ。にゃっ、にゃっ、にゃっ!」

正宗が満足そうに帰っていった。



「文ちゃんの仮装、似合ってるね」

今日の文治郎は海賊だ。

普通のシャツとパンツに父親のアクセサリーをつけて、両親のサロンで借りたエクステを付けただけの簡単な仮装だがスタイルが良いので、さまになっている。


勝ち抜きクイズ大会は、やはり予選落ちだった。ちなみにクイズ部が存在する進学校のクイズは難問揃いだった。



*******

「昨日は残念だったけど楽しかったね」

「ああ、やっぱり決勝の問題は難しいな」


一般公開日の午前中はは勝ち抜きクイズの決勝を見にきた。“海賊に拐われたドラミちゃん”チームは昨日の予選を5問目で脱落した。


「そろそろ約束の時間だな」

「勝てるといいね!」

勝ち抜きクイズ大会の決勝を観戦した後はストラックアウトの会場に向かう。



「ここで応援してるね」

「ああ。」


─ 花火大会で会ったイケメンだ!

─ めちゃ可愛かわな彼女もいるぞ!

─ くそう…なんでうちは男子校なんだよ…


今日もジャージ軍団の心の声がうるさい。


「今日は夏の県大会で我が校のサッカー部を準決勝で破り、そのまま優勝した栄光学園のサッカー部の皆さんが対戦に来てくれました! 拍手ー!!」


─ すげえ盛り上がり

─ この司会、うま過ぎねえ?

─ アナウンス部ってあるらしいぜ。

─ さすが進学校だな

─ アナウンサーって大抵、高学歴だもんな


「コイントスで先攻と後攻を決めます!…栄光学園が先攻、我が校が後攻です」


─ うちの部長、コイントス弱いよな

─ 俺も後攻が良かった


「不公平のないように、両チームとも事前に練習してもらっていますので、両チームとも競技の感覚はバッチリです!」


─ れ、練習させてもらったし、先攻でも後攻でもいいだろ!


「両チーム、5人ずつ、先鋒 → 次鋒 → 中堅 → 副将 → 大将の順で挑戦していただきます。1人あたりの持ち時間は2分。5人全員が的を抜いた数の合計を競います!当たっただけではダメです。数字のボードを抜いた数の合計です。中途半端に引っかかっているボードはカウントになりません!」

両チームのメンバーがうなずく。


「ボードを枠に嵌めるのは対戦チームです。お手数ですが、公正な競技のためにご協力ください。両チームともルールは良いですか? 皆さんうなずいています。それでは競技を始めます!」


まずは栄光学園の先鋒が4枚抜き、県立高校の先鋒も4枚だった。栄光学園の次鋒が3枚、県立高校の次鋒も3枚。同点で中堅に回ってきた。


栄光学園の中堅が3枚に終わり、いよいよ文治郎の番だ。


「我が校の中堅は2年のイケメン海賊の文治郎!彼女席で恋人が応援してます!」


チーム戦では彼女席というものが用意されていて、他の部員も彼女を連れて来ていた。

もちろん栄光学園にも彼女席を用意しているが、そこに座っているのは引率の監督とコーチの中年男性だ。


─ くそう…。彼女持ちには負けたくない


栄光学園の部員全員が、そう思っていた。

それなのに文治郎は6枚抜いた。


─ 俺たちの手でガチガチにボードを嵌めたのに!

栄光学園の部員が涙目だ。


「文治郎! 今日初めての6枚抜きだけど?」

「練習の時よりもボードが固かったので蹴る力を調整した。物理の湯川先生のアドバイス通りの計算で間違いなかった」


客席で白衣姿の湯川先生が満足そうにうなずいている。


「湯川先生、栄光学園の皆さんにも同じアドバイスをお願いします」


「みんなも知っているように、力学的エネルギーとは、運動エネルギーと位置エネルギー、つまりポテンシャルの和のことを指すよね?だから、この競技の場合は…。」


─ やべえ…

─ 何を言っているのか全然分からねえ…

─ 監督たちも真っ青だぜ…

─ 嘘だろ…県立高の生徒たち、うなずいているぜ…


「なるほど! とても分かりやすい解説をありがとうございました!」


─ 分かりやすくねえよ!


結局、スタミナ勝負でない競技は勝てないと自信喪失した栄光学園は敗北したが、パワーで2枚抜きなど、強豪校のレギュラーらしい底力を見せつけて会場を盛り上げ、挽回したが惜しくも1枚差での敗北だった。


「アウェーという不利な状況での健闘、素晴らしかったです! 特に2枚抜きはすごいパワーで、ここに立っていても揺れを感じるほどでした! 準決勝でも我が校のサッカー部をスタミナやパワーで圧倒した栄光学園の皆さんに盛大な拍手をお願いします!」


─ めっちゃ拍手されてる

─ 最初から大歓迎してくれてたしな

─ 進学校の生徒っていい奴ばっかだよな


「おい! 文治郎!」

両チームが健闘を称えあっている時、なんか足りなくね?と思ったら文治郎がいなかった。彼女席で美哉のリボンを結び直していた。


「悪い、美哉のリボンを直してた」

「すまん、こいつはこういう奴なんだ」

「い、いや。仲がいいのはいい事だなー」

─ 棒読みだった。


「それはそうと、せっかく来てくれたんだから他の出し物も楽しんでってくれ」

「体育館で段ボールの巨大迷路やろうぜ!フェアに楽しみたいから俺たちもまだ行ってないんだ」

「レゴ部とピタゴラスイッチ部とトリックアート部は凄いから見て行ってくれよ」

「うちのクラスのプロジェクションマッピングもな」


─ 進学校、ぱねえ…

─ クラスの出し物がプロジェクションなんちゃらってマジか

── ピタゴラスイッチ部って何だよ!


偏差値の高そうな出し物に圧倒され、やはり自分たちにはサッカーしかないと決意を新たにした栄光学園の部員達は、さらに強くなった。

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