第22話 ママの親友、京子さん
「美哉ちゃん、来週の土曜日に京子が来るにゃ」
「京子さんて、ママのお友達の?」
「その京子だにゃあ」
「久しぶりだね!嬉しいなあ」
*******
「いらっしゃい! 京子さん、お久しぶりです!」
「美哉ちゃんたら、ますます可愛くなって!露子に似てるわあ」
「えへへ、嬉しいなあ」
「美哉ちゃんは京子が来るのを楽しみにしていたにゃ」
「それは嬉しいよ、私も美哉ちゃんに会いたかったんだ。息子もいいんだけど、私も女の子が欲しかったなあ」
「京子の生意気な息子は元気か?」
「うちの生意気なクソガキなら大学を中退して寿司職人に弟子入りしたわ。……ちょ!2人とも瞳孔が開いてる!尻尾も膨らませ過ぎ!まるでタヌキ!」
正宗と美哉が猫目で京子を見つめていた。
「東大を中退したのか?
「卒業したくなったら、また受験して入学からやり直すって言って…。うちはシングルマザーでしょ? 冬夜は小さな頃から自主的に家事もよく手伝ってくれていたんだけど、中でも特に料理が好きだったの。いずれはフレンチとか他のジャンルも修行したいらしいんだけど、まずは寿司だって」
「はにゃあ…」
正宗が溜息をつく。
「
「……もし美哉ちゃんが他にやりたい事が出来たならパパは応援するにゃ。大学中退も受け入れるにゃあ。でも高校は卒業して欲しいにゃ」
正宗がプニプニの肉球で美哉の頭を撫でる。
「私も同じよ。冬夜から相談されて…1ヶ月くらい話し合って、あの子の決意が変わらなかったから応援することにしたの。とりあえず料理に今は興味が向かっているけど、いつまで続くやら…」
「そうにゃの?」
「冬夜は子供の頃から自主的に家事を手伝ってくれて、とても楽しそうで…“料理って化学だね!” が口癖だったの。メイラード反応… アミノ酸と糖を加熱すると褐色に変わって風味が増すとか、バターの18%は水だからどうだとか、そんなことに夢中になってて」
「私は、料理にそういう視点無かったなあ」
「美哉ちゃん、それが普通なのよ」
「美哉ちゃんのご飯は何でも美味しいにゃ」
「でね、あの子の口癖はもう一つあって“掃除って化学だね”って。過炭酸ナトリウムを使えば、汚れ落としと除菌が一度にできるとか、市販の合成洗剤を使わない掃除は環境にも優しいとか」
「…大学の研究室に残って料理と掃除を両方、研究した方が楽しくて幸せなんじゃないかにゃ?」
「私もそう言ったんだけど、それを実践した結果、料理に進みたいってなったらしいわ」
「はにゃあ…」
「でも冬夜君なら、またいつでも東大に合格出来そうだね」
「でも本人はそういう気にならないだろうなあ」
「そうなの?」
「でも、いったん卒業してからでもよかったんじゃにゃいか?京子は冬夜を説得したり怒ったりしにゃかったのか?」
「…冬夜の情熱を尊重しようと思えたのは正宗の影響だよ。おかげで冬夜との関係がギスギスせずに済んだ」
「どうしてにゃ?」
首を傾げる正宗が可愛い。中身は中年のオッサンなのに、くっそ可愛い。
「露子と結婚した時も、露子が美哉ちゃんを身ごもっていた間も、美哉ちゃんが生まれたばかりの時も非常識なほど自分の欲望に忠実で、一片の後悔も見られず楽しそうだったじゃないか」
「僕の幸せライフがどうしたにゃ?」
「露子が妊娠した途端に残業を拒否して定時退勤を徹底して、美哉ちゃんが生まれたら育休を取った上に、育休明けの初日に辞表を提出して、そのままフリーランスになって。
どうしてこのタイミングで? 何のため? 子供が生まれたんだから、なおさら会社勤めの方がいいのに! って思ったんだよ。
会社を辞めて家事と育児を全部引き受けて露子をひたすら休ませてその合間に仕事して。ろくに眠らずに仕事と家事と育児を1人で引き受けていたけど幸せそうだったじゃないか」
「それがどうしたにゃ?」
「当時は非常識って思われていたんだよ。今でも正宗みたいな男は少ないよ。正宗みたいに家事や育児に積極的な男を探すなんて、砂漠で一粒の砂金を探すようなものだよ」
「そうにゃの?」
「世間の目を一切気にせず欲望のままに行動した正宗が、とても幸せそうだったことを思い出してね、冬夜もそうなのかなって。だから応援することにした」
「パパ、ありがとう。パパが家で仕事してくれて良かった、ママがいなくてもパパがいつも一緒だから寂しく無かったよ」
「美哉ちゃんと、毎日一緒にいられて幸せにゃあ」
正宗の目とヒゲが波型に崩れた。
美哉がパパ大好きと甘えてきて、京子を招待してよかったと喉を鳴らして喜ぶ正宗だった。
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