第18話 パパのいない2学期

「それで文治郎さんの家で一緒に暮らしているの!?」

「うん。普段から文ちゃんは眠る時以外ずっとうちに居るから、うちが文ちゃんの家に変わっただけで似たようなものだよ」

「えー、それって旦那さんの親と同居する嫁みたいじゃん…」

「ええー、そうかな〜」

美哉の声が嬉しそうだ。


「どんな生活なの?」

「朝、起きると文ちゃんがいて、一緒に朝食を作って食べるでしょ。その後は一緒にスーパー行ってお買い物して、一緒にお昼ご飯を作ったらおじさんとおばさんを起こして、みんなでお昼を食べたら、おじさんとおばさんはお店に出勤」

「ほうほう!」


「午後は日によって違うよ。文ちゃんと一緒にママのお墓参りしたり、プールに行ったり、あとは家でゲームしたり。お店の手伝いにも行ったよ。あ、宿題は2人とも終わってたからね」

「つまりずっと一緒ってことね」


「うん。それで夕食も一緒に作って一緒に食べて。食後は一緒にテレビや映画をみることが多いかな。Netflixも契約してるし。お風呂はいつも私が先で、私の髪は文ちゃんが乾かしてくれる」

「新婚夫婦か!」


美哉と由香の会話にダメージを受ける太一。まるでしかばねのようだ。

「おい…早退するか?」

その場で崩れ落ちた太一を狼獣人の鉄平が抱きとめる。


「パパとは毎日Skypeで話しているんだけど、志賀高原は快適だって。やっぱりパパの毛皮に夏は厳しいみたい」

「そうだよねえ」


「それでもこっちに戻って来るのは9月20日でしょう?戻ってきたらまた夏バテだろうなあ」

「あー、9月下旬はまだ暑いよねえ」

「うん、ケットシー族は夏の間、南半球に移住する人も多いんだ。パパもネットさえ繋がれば基本的にどこででもできる仕事なんだけど、ママのお墓と私がいるから…」

「溺愛だもんね、美哉を置いて外国に出掛けるなんて、おじさんには無理だわ。そういえば美哉の父方の親戚は?」

「おじいちゃんとおばあちゃんはオーストラリア。おじさん一家はニュージーランド。夏だけね」


「でも、どうして志賀高原なの?東京の会社の入社前研修なんでしょ?」

「逃亡出来ないように山奥に監禁するんだって。徒歩では絶対に逃げられない場所らしいよ」

「ええー! 何そのブラック企業…。」


「人族の会社では普通じゃないの?だからパパが就職はケットシー族の会社にしなさいってよく言ってる」


ハーフとはいえケットシーの正宗に男手1つで育てられた美哉には、人族の常識に山ほどの誤解があった。

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