第16話 サロンでバイト

お盆が終わって、いよいよ地元の花火大会だ。


文治郎の両親が経営するサロンも、今日は浴衣の着付けやセットの予約が多く、文治郎と美哉もアルバイトで入っている。


文治郎はタオルの洗濯や掃除など裏方が中心で数は少ないが男性の着付けもやる。美哉は着付けのアシスタントだ。浴衣や着付けに必要な紐などを専用のハンガーにセットして回ったり片付けたり案内をしたり。

浴衣はさっと着られるので成人式よりも回転率が高く、かなり忙しい。


花火大会は19時30分から始まるので19時ごろまでのバイトだが終わる頃にはクタクタだ。



「美哉ちゃん、お疲れさま」

「今年も助かったよ」

「おじさん、おばさん、お疲れさまです」


「レンタルの浴衣が余っているから着てみない?」

「うちの文治郎をボディーガードにして楽しんでおいで」

「着付けは私に任せてね」


抵抗する間も無くスルスルと着付けされてしまった。ヘアメイクは健太郎だ。美哉の髪をクルクルっとカールさせていつもと違う魅力を引き出してしまった。


「うん、似合うよ」

「可愛いわね」

「えへへ、ありがとう。おじさん、おばさん」


「文治郎ー! 文治郎ー! あんたも支度できたー?」

「出来たよ……やべえ! ちょ! 親父も母ちゃんもやり過ぎだろ! ちょっと控えろよ! 美哉は普通にしてても可愛いのに、こんなに可愛くしたらヤバいだろ!」

「文治郎?」


「ああ……もう…」

頭を抱える文治郎。

「えっと…私、元の服に着替えた方がいいかな?」


「ええっ!」

「こんなに似合うのに!?」

サロンのスタッフが猛反発だ。


「……いや…いつも以上に可愛い美哉を見せびらかしたい。でもこのまま連れて帰って正宗おじさんと一緒に超可愛い美哉を愛でたい…」


「見せたいのか、隠しておきたいのか、どっちだよ!」


「美哉。手、繋いで。家に帰るまで離さないで」

美哉の手を握った文治郎が色っぽい表情で美哉の顔を覗き込む。

「邪悪な目で美哉を見る男がいたら…俺キレるかも。ほんと可愛い。すっげー可愛い」

「ありがと、文ちゃん」


がっちりと恋人つなぎで出掛けていった。



「……重くね?」

「私もちょっと…」

「あそこまでしたら普通は振られるよな」

「あいつストーカーになるぞ」

「美哉ちゃん、たまには1人になりたいとか思わないのかな」

サロンのスタッフがドン引きだった。


「私たちがお店のことばっかりだったのが悪かったのね…」

「店を潰さないよう必死だったけど、…後悔してるよ。店は潰れてもやり直せるけど息子の教育はやり直せないんだよな……」

文治郎の両親が唇を噛んで下を向く。握り締めた2人の拳がプルプルと震えていた。



*******

「………だから、今日も目を離せなくて」

「文治郎、グッジョブにゃ!」

「可愛い過ぎてヤバいよ」

「うむ。今日の美哉ちゃんはいつもにも増して可愛いにゃ。文治郎は分かっているにゃ」


早めに帰宅して正宗と文治郎がしみじみと語り合った。

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