第17話
もうすぐ期末試験が始まるからか、普段より教室は静かで、みんなは真剣な目を黒板に向けている。
そんな中、朝から
ずっと机の上を睨み付けるように見て、時おり
目が合った。
何故か俺まで睨まれる。
これはきっと、石上さんが机に書いた答が、水瀬にとって腹立たしいものだったからだろう。
果たして石上さんは、水瀬の質問に何と答えたのか。
俺の主観で言えば、美少女レベルなら二人いる。
兄バカと言われそうだが
でも、可愛いレベルなら
ぽっちゃり好きだとクジラちゃんもエントリーされそうだし、確か他にもそこそこ可愛い子がいたような。
定時制は意外と女子のレベルが高い。
まあ化粧をしてる子が多いっていうのもあるだろうけど。
「ヒナちゃん」
昼休みに入るや否や、水瀬の厳しい声が飛んできた。
せめて弁当を食べてからにしてほしいが、目は廊下へ出ろと言っているので、俺は黙って水瀬の後に付いていく。
水瀬は後ろ姿も美人で、真っ直ぐ伸びた背筋や、
正直、お前ほどの女性が機嫌を損ねるのは
「敵は二人よ」
廊下の窓枠に
恋は盲目と言うが、コイツはバカなんじゃないかと俺は思った。
いや、水瀬が机に書いた内容は知ってるけど、俺が知ってることを水瀬は知らない
なのにいきなり、敵は二人?
ていうか、敵って何?
「お前さあ」
「何よ?」
「意外と嫉妬深いんだな」
「……そう、みたい」
自分で知らなかった一面、といったところか。
「一般人からすれば、お前ほどのスペックがあれば嫉妬なんて馬鹿げてるって思うけどな」
「だって……相手は年上だし、社会人だし、勝手が違うし、中学のときから……好きだったし……」
女っていうのは、変身能力でも持っているのだろうか。
さっきまでツンツンしてたくせに、いじらしくてか弱い女性に
「ていうか、中学のときからって、いつ知り合ったんだよ」
石上さんは二つ年上だから、同じ中学だったなら、水瀬が一年のときには三年生ということになるが。
「知り合ったのは最近で、知ったのは中学のとき。その……通学路に、あの人の職場があって……」
なるほど、毎日通る通学路に自動車整備工場があって、ひたむきに働く石上さんを見ているうちにいつの間にか、ってとこか。
「最近知り合ったってことは、最近まで同じ高校って知らなかったのか?」
口惜しそうに
「つまり、何となく想いを寄せていた人に、偶然ここで出会った、と?」
顔を真っ赤にしてこくこくと頷く。
「で、あっけなく恋に落ちたのか」
言い方が気に入らないのか、真っ赤な顔でキッと睨んでくる。
「そうか、頑張れ」
俺は飯が食いたいのだ。
「ちょっと待ってよ!」
教室に戻ろうとした俺の腕を掴む。
別に鬱陶しくは無いし、水瀬の百面相は見ていて楽しい。
勿論、応援もしているけれど、実際のところ、そんな必要も無いんじゃないかと思う。
石上さんは、真面目に誠実に水瀬の質問に答えた。
ただ誠実なだけじゃなく、彼の目は机の文字を愛おしむように見ていた。
昨夜の石上さんの様子を見ていたから、それは間違いない。
人によっては
「大丈夫だよ」
「慰め? 気休め?」
「慰めでも気休めでも無く、本気でそう思ってる」
「どうして自信満々にそんなことが言えるの?」
「お前が水瀬だからだ」
「じゃあ、もし私がヒナちゃんに付き合ってって言ったら、ヒナちゃんは受け入れるの?」
「断る!」
「……言ってることが矛盾してる」
うわぁ、睨むと言うより、刺すような視線だ。
「いや、俺は石上さんじゃ無いからな」
「石上さんは、クラスに可愛い子が二人いるって言ってた」
「それがどうした。男は可愛ければ何でもいいわけじゃ無いぞ」
「それはそうだけど……ヒナちゃんも言ってたじゃない。学校一の可愛い子がいるって」
スミちゃんは水瀬より子供っぽい。
たぶん、石上さんのタイプじゃ無いだろう。
「大丈夫だ」
「またそれ? 根拠は?」
「根拠は──」
ん?
廊下がざわめく。
「誰だ、あれ」
「あんな子、いたっけ?」
「やべー」
「ちょっと、凄くない?」
「わぁ」
ざわめきは男子だけにとどまらない。
女子も巻き込んで、感嘆、羨望の声が上がる。
「俺、あの子知ってる。確か定時制の──」
その視線の先には、制服姿のスミちゃんがいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます