第3話・先生との学祭デートが完全に爆死した件(改変)

 結論から言おう。スリリングな学祭デートは、爆死の結果となった。

 2年の教室を見て回ろうとした時だ。いきなり、背後から飲み物を落としたような音が聞こえた。


 振り返ると、友人・ケイタが、わなわなと震えてこちらを指差していた。まるで殺人現場でも偶然発見してしまったかのような、絶望的な表情をしている。


「おい⋯⋯ユウスケ、お前、それは一体どういう事なんだよ⋯⋯?」


 震える指先が、俺と先生を交互に行き交う。


「は? ケイタ、どうした?」

「なんでお前が、俺のどストライクの"ロリも入ってるけどちょっと大人っぽくて可愛いオシャレな大学生風女子"と一緒に歩いてるんだよ!? そんでもって、なんで上履き交換とかしてんだよ!?」


 どうやら、先生はケイタのどストライクな女性だったようだ。まさかケイタと女子の好みが似ていると思っていなかった。そんな女性と付き合っているのが彼にとってはショックだったのだろうか。

 いや、別に俺はそういう女の子が好きなのではなく、真中ハルという一人の女性が好きなわけで……って、誰に言い訳してるんだ、俺は。


「あれだよな? ちょっと姉ちゃんとか親戚とかがいきなり遊びにきて上履きも奪われちゃって困っちゃってるぜって感じだよな⋯⋯? そうなんだよな!? おい、頼むよ! 答えてくれよ、ユウスケ!」


 まるで何かに縋るように、俺の肩を掴んでガクンガクンと前後に揺らす。

 やばい、相当キてしまっている。しかも騒動みたいになって、少しずつ人が集まって注目されてきてしまっていて、まずい。

 とりあえずケイタの言う通り、親戚の姉ちゃんという事にでもして⋯⋯


「う〜ん、ユウくんの視点で言うと、『"ロリも入ってるけどちょっと大人っぽくて可愛いオシャレな大学生の"がいきなり遊びにきて上履きも奪われちゃって困っちゃってるぜ!』って感じじゃないかなぁ?」


 すっとぼけた感じで首を傾げて、さも気持ちを代弁しましたみたいな表情で、しかもカノジョのところだけやたらと強調して言いやがったのは、紛れもなく、先生こと我が恋人・真中ハルだった。


 先生は悪戯な笑みをこちらに向けて、ぺろっと舌を出した。確信犯にもほどがあるだろう、こいつ。

 その発言を聞いたケイタは、まるで殴られたかのように一回転して血を吐きながら倒れた。なんでそこにダメージ受けてるんだよ、お前も。


「わあ、すごい倒れ方⋯⋯ユウくんのお友達、面白いね」

「俺は全く面白くない状況なんだけど」


 ケイタが騒いだせいで人が集まってきている。

 とりあえずまずはこの場を離れて⋯⋯と思った矢先である。


「あー、真中先生たちって付き合ってたんだぁ!」

「怪しいと思ってたんだよねー!」


 俺に絶望をもたらす声が、背後から聞こえてきた。

 慌ててそちらを確認すると、女生徒が二人。ネクタイの色からして、同じ3年だというのはわかったが、全く誰だか知らない。


「あー、バレちゃった? ごめん、内緒にしててね?」


 先生は、その女生徒二人にあっけらかんとして話し出している。

 え、そんな軽いノリでいいの? まずくない?


「てか先生の私服超可愛いんだけど! いつもオシャレで大人っぽいなって思ってたけど、今日は可愛い!」

「でしょ? こう見えて、ちゃんと大学生してるんだよー? 服選びが結構毎日面倒だったりするけど」

「え、いいなー。早く私も大学生になってオシャレしたい」

だよー。JKブランドには勝てないから」


 痙攣しているケイタと呆然とする俺を放置して、完全に談笑モードの三人。

 もう周りの人だかりも、俺も、この場をどう処理していいかわからない。よくわからない空気だけがその場を支配していた。


「てか真中先生、絶対大学でモテるっしょ! どうして宮崎くんなの?」


 待て。なんで俺の苗字をお前らが知ってるんだよ。俺はお前らなんてしらないぞ。

 そして、今この女生徒がさらっと訊いた事は、何気に俺が先生と付き合っている上で、気にしている事だった。チクリと魚の骨のように、胸に痛みを残す。


 この女生徒の言う通り、先生は可愛くて面白くてノリもいいのに、どうして俺みたいな冴えない高校生と付き合ってるのだろう。

 どうしてあの時、告白を承諾してくれたのだろうか。

 はっきり言って、俺の持っている大きな疑問であり、不安点だった。 


「さあ、どうしてだろうね?」


 先生がこちらを見て、意味深に微笑みかけてくる。その視線に一瞬ドキッとしてしまうが、頭をぶんぶん振る。

 待て待て、今はそんな事を考えている場合ではない。この状況から逃げ出さないと。


「先生、ちょっと」


 俺はそう短く言い、先生の手を掴んで、連れ拐うようにしてその場を離れた。その光景がまた女子たちをキャーキャー言わせたが、今は無視。


「どこ行くの?」

「うるさい」


 柄にもなく、すごくイライラしていた。

 なんで俺がこんなに不安に感じているのに『どうしてだろうね』なんて言うんだ。さっきの意味深な笑みは何なんだよ。


「ねえユウくん、どうして怒ってるの? ねえってば」


 先生の問いかけを無視して、そのまま生徒玄関に向かっていた。もう文化祭デートの継続は無理だ。完全に爆死している。それに、俺がもうそういう気分じゃなくなってしまった。


 やっぱり、文化祭なんて来るべきじゃなかった。ひとりで勉強していれば、こんな気分になんてならなかったのに。俺にはひとりがお似合いだったのに。そうすれば傷つかずに済んだのに。

 どうして、君は俺と付き合ってるんだよ。どうして君は、俺を受け入れたんだよ。

 やり場のない怒りだけが、腹の中でぐるぐると蠢いていた。

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