ゲーセンにて
一階のクレーンゲームコーナーで、蘇芳先輩は浅葱にぬいぐるみを取ってくれた。
それは片手の大きさほどのうさぎのぬいぐるみだった。ふわふわとした素材でできていて、手触りがとてもいい。首元にはリボンが結んであった。
「わぁ、取れました!」
百円玉、三枚ほどでうさぎはクレーンに掴まれて、そのまま落ちてきた。取れたとき、浅葱はつい声をあげてはしゃいでしまったものだ。
「運が良かっただけだよ」
取り出し口に落ちたうさぎを取り上げて、「ほら、プレゼントだ」と渡してくれた蘇芳先輩。ちょっとはにかんだように笑った。
「いえ、すごいです! ……ありがとうございます!」
いいんですか、と言おうとしてやめておいた。
あまり遠慮するのも、彼女としてどうかと思ってしまったのだ。それより素直に喜んだほうがいいかもしれない。
そしてそれは多分間違っていなかった。
蘇芳先輩は照れたように頭に手をやって「かわいがってくれると嬉しいよ」と言ってくれた。
浅葱はうさぎの顔をじっと見つめた。くりっとした目がかわいらしい。
大事にしよう、と思った。彼氏になってくれたひとからもらった子だ。ベッドにでもおいておいたら、蘇芳先輩の夢が見られるかも。
思ってしまって恥ずかしくなったけれど、それはふわっと心があたたかくなるような感覚だった。
そのあとは二階や三階にあがっていって、別のゲームをした。
メインでプレイしている音楽ゲームは違うものだったけれど、お互いのものも少しはプレイしていることが判明して、浅葱は嬉しくなってしまったものだ。
一曲ずつ、それぞれのゲームで対戦して、ほかのゲームもした。
太鼓を叩くやら、シューティングをするやらだ。
太鼓はたまにやるのだが、シューティングは初めてだったので、蘇芳先輩が教えてくれた。
「銃を固定させて打つんだよ。そうすると軌道が安定する」
うしろから手をそえるように教えてくれたので距離が近くて、うっすらと伝わってくる体温に浅葱はどきどきとしてしまった。
こんなこと、恋人同士じゃなければ絶対にしない、と思ってしまって。
どきどきしつつも蘇芳先輩のアドバイスどおりに何発も打ってみて。
はじめは外れてばかりだったけれど、そのうち当たるようになってきた。
最後のほうにはクリティカルヒットも出せて、蘇芳先輩に「なかなかすじがいいじゃないか」とまで褒められた。
これはただのゲームだけど、手を抜くことなくていねいに教えて、おまけにほめてくれるのだ。
対戦は当たり前のように蘇芳先輩が大差で勝ちだったけれど、「またやろうな」と言われて浅葱はうなずいていた。
一緒に遊べるのも嬉しかったが、このゲームの楽しさを蘇芳先輩が教えてくれたから。
またやりたい、と純粋に思ってしまったのだ。
そう思わせるように体験させてくれた蘇芳先輩は、やっぱりすごいひとなんだなぁ。浅葱はもう何度目かもわからない感動を覚えてしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます