重色高校の日々
浅葱がこの学校と美術部に入って、そろそろ半年になる。
この美術部がある重色(かさね)高校は、そこそこ偏差値の高い、私立の高校だ。
とはいえ、お嬢様やお坊ちゃんが通う、高級な学校などのたぐいではない。
通っているのは普通の家の子たちがほとんど。確かにお嬢様といえるようなおうちの子もいるけれど。
浅葱だって、家は庶民の庶民。お父さんは会社員で、お母さんはパートで、中学生の弟がいて……なんて、普通すぎる家だ。
公立高校だって周りにはあるけれど、単に偏差値がちょうど良くて、家からも近くて、ついでに友達も「カサネにしようかな」と言っていた子も何人かいた。そのくらいで決めてしまったのだ。
高級な学校で、めちゃくちゃ学費がかかる、とかそういうものではないので、お父さんやお母さんも「私立ならしっかり勉強もできそうだし、いいだろう」なんて、あっさり許可を出してくれた。
よって受験をして、あっさりと合格してしまった。
そこから重色高校での生活がはじまったわけである。
春に初めて制服を着たときはとても嬉しかった。私立高校らしく、とてもかわいい制服だったから。
紺色のブレザーに、スカートの色とリボンの色は学年ごとに違う。
浅葱の入学した年は、三年生が青。二年生が赤。一年生が緑。だった。
よって、浅葱の身に着けるスカートとリボンは緑色。
スカートは緑をメインにしたチェック柄。丈はあまり短くすると注意されるのでそこそこに。
リボンは無地の緑のもので、ブラウスの襟の下でぱちんと留めるタイプだ。
そんなかわいい服で毎日学校に通えるなんて。
中学は公立中学校で、割と地味なセーラー服なんてものだったので、世界が変わるようにも感じてしまった。
そして美術部に入るのもあっさり決めた。
元々、絵を描くのが好きだったし、重色高校の美術部は、割と真面目な活動をしているようだった。
部活動としてもコンスタントにあるそうで、デッサンやクロッキーなどという基礎的な練習も多い。技術を学ぶのも大事なことなのだ。好きな絵ばかりを描いているわけにはいかない。
技術がなければ、表現したいこともうまくできない。だから、基本を学ぶのはとても大事なことなのだった。
小学校では図画工作の時間が好きだったし、その中でも工作よりは、絵のほうが好きだと思っていた。
中学校では美術部に入った。そこで浅葱の絵の基盤ができたのだと思う。
少しずつ技術を習っていくのは楽しかった。小学校で図工の時間に思うがままに描いているのも楽しかったけれど、もっとうまく表現できるようになっていくのだ。楽しいに決まっていた。
とはいえ、イラストはあまり得意ではないのだけど。マンガなども、読むのは好きなので興味はあった。けれど、ちょっと描いてみたときあまり向いていないようだと思ってしまった。
かわいい女の子を描いたりするのは楽しい。けれどマンガにするためにストーリーを考えるのは自分のやりたいこととはちょっと違うと思ってしまった。
それよりは、純粋に『モノ』や『風景』を描いてみたい。それもじっくりと。そう思って、中学校の後半あたりからは、イラストはほとんど描かなくなっていた。
やりたいのはあくまで絵画。油絵やアクリル絵の具を使うポスターや……あるいは色鉛筆など。ちょっと固いといわれてしまうこともあるようなもの。
画材に特にこだわりはなかった。どれを使ってもそれぞれに楽しい。
油絵の、上へ上へと色を重ねてこってりと塗っていくのも楽しい。
アクリル絵の具の、ぱきっと場所を分けて、マットに、平面で表現するのも楽しい。
あるいは色鉛筆。さまざまな色を少しずつ塗っていって、その重なりで微妙なニュアンスを出していくのも楽しい。
そして、そういうふうに新しい画材や描きかたを知っていって、絵画の世界が広がっていくことを浅葱はとても楽しんでいた。
重色高校に入ってからは、高校生ということで余計に専門的なことも教えてもらえるようになっていって、部活動がとても楽しくなっていた。
春に入って、現在、夏休みも明けてしばらくした秋。ここまでに先生や先輩からいろいろと教わって、世界はどんどん広がっていくところ。一枚、絵が仕上がるたびに、自分の上達を感じられて、そのたびに感動してしまうのだった。
もちろん、重色高校で楽しんでいるのは、部活動と絵だけではなかった。
学校生活は当たり前のように楽しい。
中学校から一緒だった、親友の綾とは今も同じクラスで、毎日のようにおしゃべりしたりお弁当を食べたり、休日は遊びに行ったりとしていたし、それ以外にも、高校で知り合った子たちもたくさんいた。
浅葱はクラスの中心的存在なんてものではなかったけれど、少なくともクラい性格ではない。
言ってしまえば、派手でも地味でもない、普通の女子生徒なのだった。
現在はいじめなども特にない、平和な学園生活が続いていた。絵に集中して楽しめてしまうくらいには。
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