第117話◇白蛇女の女神、イツアムナイル


 夜の月と星と明かりの中で、白蛇女メリュジンの歌が静かに流れる中で、ノクラーソンは頭を垂れて口の中でボソボソ祈りを唱えている。

 暫く続けてみるが、まだ特に何も起きない。

 ノクラーソンに、上手くいくわけが無いと思う気持ちがある。俺も加護を得た人間ヒューマンは見たことが無い。

 これで上手くいったら奇跡だろう。

 だから上手くいったらおもしろいだろう。

 今回、シュドバイルと俺は介入しない。介入しては意味が無い。

 ノクラーソン個人が白蛇女メリュジンの加護神に繋がるかどうか、そこが肝心なところ。

 仲立ちしていいのは、ノクラーソンと結婚したフラウノイルだけだ。


 ノクラーソンを後ろから見守っていたフラウノイルが、そっとノクラーソンの背中から抱きつく。

 肩の上から首に手を回すようにして。


「ノッくん、焦らないで」

「フラウ」

「あのね、ノッくん。信じられないものを無理に信じようとしてもダメなの」

「だが、それではどうすればいいのだ?」

「信じたいから信じるとか、思い込みたいから思い込むって、まじめなノッくんには無理だから。自分を騙すようなことはキライでしょ?」

「では、祈りとは、信仰とはなんなのだ?」

「さぁ? 大げさなことも難しいことも私は知らないもの。私はお願いして、叶えられたらありがとうってお礼を言ってるだけだもの」

「それでは、ますますどう祈ればいいか解らない」

「私の願いは叶えられたみたい。ノッくんがそれを喜んでくれたなら、私と一緒に女神イツアムナイルにお礼を言って。そしていつも見ている我らが女神に、喜んでもらえるように暮らすの。我らが女神の愛し子として、恥ずかしくないように生きるの。それが祈り」

「それが祈りなのか? それにフラウの願い?」

「そう、女神にお願いしたの。ノッくんとずっと一緒にいられますようにって。せめて百年くらいはイチャイチャできますようにって」

「……百、年?」

「そう。そしたら女神は嬉しそうだったから、ノッくんの寿命は伸ばしてくれたみたいなの」

「寿命が、伸びたぁ?」

「あとはノッくんとデートしたいし、ふたりでエルフの森っていうのも行ってみたいし、だから老化も無しにしてって」

「そんな簡単に?」

「簡単じゃ無いわよ? 代わりに私の寿命が少し縮んだみたいだし」

「お、おいぃ? フラウ?」

「もともと4百年くらいあるから2、3十年くらい縮んでも大丈夫よ」


 こういうところが白蛇女メリュジンが心配になるところ。そこが魅力でもあるんだが。

 なんだか心配になってつい守ってやりたくなる。そのあたり白蛇女メリュジン小妖精ピクシーに似たところがあるか。


「わ、私がフラウの命を削って喜ぶとでも? その願いを取り消すことはできないのか?」

「このお願いを取り消されて私が喜ぶとでも? それにこれは特別なんだから」

「いや、特別なんだろうが、そんな寿命の移しかえのようなことが、まさか」

「私がノッくんのこと気に入ったんだから。そして女神もノッくんのことを気に入ったの。まじめに白蛇女メリュジンのためにがんばってくれて、たまに私達がビックリするようなおもしろいことするんだもの」

「私に何を期待しているのだ? 白蛇女メリュジンの加護神を楽しませるようなことなど、私にはできんぞ?」

「そこを狙わずにやっちゃうところを期待されてるんじゃない? それにノッくんみたいに音痴なのに味のある歌い手って、白蛇女メリュジンにはいなかったし。女神も手放したくないのよきっと」

「わ、私に何ができるというのだ?」


 混乱しているノクラーソンにフラウノイルが優しく語る。


白蛇女メリュジンが知らないこといっぱい知ってるじゃない。ノッくんがいろいろ教えてくれたから、今度は私が教えてあげる」


 フラウノイルの下半身の蛇体が動いて、ノクラーソンの下半身に巻きついていく。

 白い鱗の蛇体のとぐろからノクラーソンの上半身が見える。背中からフラウノイルに抱きつかれて、まるで捕らえられた獲物のようにも見える。

 実際にノクラーソンが捕まったんだろうけど。でもフラウノイルが着てる赤い胸隠しハイドブレストを見ると、捕まえたのはノクラーソンの方なのかもしれない。


「夜には月と星がある。本物は見たことが無いけど、あることは知ってるよ。大地からは草が生えて花が咲く。ここにはずっと紫のおじいちゃんがいて見守ってくれている。それと同じように白蛇女メリュジンには女神イツアムナイルがいる。白蛇女メリュジンの私は、今はノッくんの傍らにいる。だから女神はわたしとノッくんのことを見てる。ノッくんはこれを無理に信じようとしなくても大丈夫。だって寿命のことなら暮らしていれば、いずれ解ることだから」

「まさか、本当に私の寿命が? この若返りは、本当に女神の加護だと?」

「ゆっくりと調べてみる? 悩む時間はいっぱいあるから」


 目が泳いで震えるノクラーソンをフラウノイルが優しく包む。

 イチャついてるのはいつもと同じだけど、これは茶化す雰囲気じゃ無いな。肩から力の抜けたノクラーソンがその身をフラウノイルに預ける。


「フラウ、私を、導いてくれ」

「うん。ノッくん、私に続けて」


 明日には満月になる疑似月光の中、白い月明かりに照らされて静かに歌う白蛇女メリュジン達。

 その中央でフラウノイルとノクラーソンが祈りの言葉を囁く。


「夜の守りよ、月の女神よ」

「夜の守りよ、月の女神よ」

「我らが神イツアムナイルよ」

「我らが神イツアムナイルよ」


 雰囲気が変わった。これまでかけ違っていたものが、いいところにピタリと嵌まったような。

 夜が一段と深く柔らかくなったような。

 シノスハーティルが銀の杖をひと振りして、歌に力を込める。白蛇女メリュジン達が唱和する。


 優しき夜に包まれて進む

 月の光で鱗を洗う

 求めるものは赤い命

 されど真に求めるは

 生命の暖かさと

 心の潤いと

 寂しさを埋めるものを

 月の光でこの身を洗い

 歌を捧げて夜を進む


 白蛇女メリュジンの歌が響く夜の中。俺は隣のシュドバイルと目を合わせる。シュドバイルはひとつ頷いて、白い杖を立てて両手に握る。

 俺も様子を見るとしよう。

 両手の平を敷物に当てて、目を瞑る。

 深く深く意識を潜らせていく。

 白蛇女メリュジンの祈りを捕まえて、それに乗っかるようにして潜っていく。

 練精魔術の大魔法。だが今回は祈りに介入して変更はしない。見るだけに留める。


 俺だけとかシュドバイルだけだと、ついやらかしてしまいそうで、お互いに監視して手を出さないようにすることにした。

 深く暗い夜の奥の中へと、白蛇女メリュジンの神への祈りを知覚する。

 ぼんやりと色とか気配を探る空間。

 注意して見てみると――驚いた。

 だが、それでこそ慈愛溢れる白蛇女メリュジンの女神だ。

 今にも切れそうな細い糸、蜘蛛の糸のように細い糸。

 遥か天空から降りる糸は、確かにノクラーソンへと繋がっている。

 ノクラーソンに自覚は無くとも、女神イツアムナイルの加護はノクラーソンに届いていた。

 レッド種以外の人間ヒューマンが、初めて神の加護を得た。

 まったく、いろいろと楽しませてくれるなぁノクラーソンは。


『私に加護を』

『私に加護を』

『私の歌が明日に続くように』

『私の歌が明日に続くように』


 ノクラーソンの祈りがゆるゆると昇っていく。

 フラウノイルに導かれて。

 だけど右に左にフラフラとして迷子になりそうになってる。

 ヨロヨロとよろめいたところを、白い光が支えてもとへと戻す。

 これはシノスハーティルと白蛇女メリュジン達か。

 一族総出で支えられて、フラフラヨロヨロとしながらも、ノクラーソンの祈りは確実に昇っていく。

 白く輝く星達が歌に合わせて踊るように、弾んで揺らめく。小さくか細いノクラーソンの祈りを手を引くように誘う。

 なんとも幻想的な贅沢な光景だ。ノクラーソンは白蛇女メリュジン全員にちゃんとお礼をしないとダメだな。

 いや、ノクラーソンが法律とか内政とか整えて、白蛇女王国メリュジーヌが国っぽくなるようにがんばったことに、白蛇女メリュジンが応えているのか。


『私に糧を与えたまえ』

『私に糧を与えたまえ』

『夜の守りよ、月の女神よ』

『夜の守りよ、月の女神よ』


 あと少しで届きそうというところで動きが止まる。もうちょっとというところ。

 いっそここで俺が介入してやろうか、とウズウズするがここは我慢だ。

 ノクラーソン自身が女神イツアムナイルの加護を自覚するようになれば、やがて祈りは届きやすくなるのだろう。

 ノクラーソンも慣れて無くて初挑戦で、かなり精神力を消耗してるみたいだし。

 でも、これならあと3、4回挑戦したら上手く行くんじゃないか?

 すぐ近くでシュドバイルのヤキモキしてる気配が伝わってくるが、初めてにしては上出来なんじゃないのか?


 ……ンー、ジレッタイナァ


 ん? なんだ? 今の思念は?

 上方、聞こえた方に意識を向けると、

 いきなり白い光が破裂するように広がったぁ?

 おぉい! ちょ、待った!

 慌ててそこから離れる。散らばる光の粒子に意識を飛ばされそうになるのを必死で堪える。

 溢れた白い光の中心から、巨大な女の手が現れる。

 この空間で明確な形を持った存在?

 吹っ飛ばされそうになるのを気合いで耐える。

 その巨大な輝く女の手は、ノクラーソンの祈りをそっと摘まんで、上へ上へと、神の世界へと引っ張り上げていく。


 え? それってアリなのか? そんなことしていいのか? デタラメ過ぎないか女神イツアムナイル! 雑とか大雑把とか言われる小人ハーフリングの神様も、いい加減とか呼ばれる小妖精ピクシーの神様も、ここまでムチャしないぞ!

 つい神様に突っ込んでしまったが、クスクスと笑う楽しげな気配が返ってくるばかり。

 その笑う気配と、飛び散る光の粒子に押し出されるように、俺とシュドバイルの意識は強引に押し戻された。


 頭を抱えて敷物の上にうずくまる。


「あたたたた。なんか目の奥が痛いぞ? シュドバイル、大丈夫か?」


 仰向けに倒れて目を覆うシュドバイル。


「いったたー。流石は我らが女神。1度こうと決めたら一途なのね」

「こんな露骨に神様が手を出すとこは初めて見たぞ? 白蛇女メリュジンの神様って何を考えてんだ?」

「そう? 私はこういうのは2回目だけど?」

「はぁ?」

「1回目はミュクレイルがお腹に来たとき。グリンとの絆が形になりますようにって、お願いしたとき」

「……いいのか? それ?」

「いいんじゃないの?」


 あれが白蛇女メリュジンの女神イツアムナイルの腕か。これまで朧気に神の気配を感じることはあっても、その姿を知覚したのは初めてだ。

 圧倒された。驚いた。紫のじいさんで格上の存在感に慣れてなかったら、意識を飛ばされて気絶してたかもしれない。

 あービビった。うーわ、鳥肌が戻らない。


 祈っていた白蛇女メリュジン達もキャイキャイと騒がしい。こんなに露骨に神様がなんかするのは珍しいハズ。

 どうも白蛇女メリュジンにとっては2回目らしいけれど。

 ノクラーソンを見ると青ざめている。倒れそうになってるのをフラウノイルが支えている。


「なんだ? 今のは? まるで巨大なものに全身を包まれたような……」


 グランシアの預言どうりになっちまった。ノクラーソンよりトンデモない目に会う人間ヒューマンはまずいないだろ。

 シノスハーティルが満面の笑みで言う。


「届きましたね、ノクラーソン」


 銀の杖で空のスープ皿を示すと、皿の底から湧き出るように赤い液体が現れる。

 ゆっくりと量を増やして、スープ皿から溢れそうになったところで止まる。

 目を見開いてそれを見詰めるノクラーソン。


「本当にこれが、私の食事の加護なのか?」


 スープ皿いっぱいの赤い液体。

 喜ぶ白蛇女メリュジン、言葉を失い唖然とする探索者。


「俺とシュドバイルで確認した。間違いなくノクラーソンの祈りに応えて、女神イツアムナイルが贈った加護だ。最後の最後で強引に手を出してくるとはな」


 俺は頭を押さえながら言う。まだ目の奥がチカチカする。

 シュドバイルが眉間に手を当てている。シュドバイルもちょっと頭が痛いらしい。


「それだけノクラーソンが、これからの白蛇女メリュジンにとって必要だということなんじゃない? それとも久しぶりの楽しそうなオモチャを手離したく無いとか。さて、白蛇女メリュジンだと食事の加護は新鮮な血なんだけど、この神餐からは血の匂いはしないわね」

「味見してみろよノクラーソン。あ、スプーンが無いか? 誰か持ってないか?」


 ネスファがスプーンを持ってきてくれたが、ノクラーソンは赤い液体の入ったスープ皿に夢中だ。

 おそるおそる両手に持ち、溢さないようにゆっくりと持ち上げる。

 手が震えててスープ皿のふちから少しこぼれる。


「……信じられん」


 呟くノクラーソン。まわりで見てる探索者の顔もノクラーソンに負けず劣らず、信じられないって顔で驚いてる。

 ガディルンノとロスシングのふたりだけが、これを予想してたのか、ガディルンノは微笑んで頷いてる。

 ロスシングはホッとした顔をしてる。

 ノクラーソンがスープ皿に顔を近づけて匂いを嗅ぐ。


「血の匂いはしない。生臭くも無い。以前に見せてもらった白蛇女メリュジンの食事の加護とは違うもののようだ」

「あれだけ強引な加護の送り方だから、ノクラーソン用に手を加えてるんじゃないか?」


 ノクラーソンはゆっくりとスープ皿に口をつけて、赤い液体を口に含む。

 一口目、


「ん? これは、んー?」


 首を傾げて二口目、目を閉じて口の中で味を確かめてる。


「どうだ? ノクラーソン?」

「……トマトの、スープ?」

「は?」

「ほんのり暖かい、トマトのスープだ」


 この赤色はトマトの色なのか?

 シュドバイルがネスファからもらったスプーンを手にとって、


「ノクラーソン、一口貰うわね」


 掬って一口。


「……うん、トマトね。踊る子馬亭で味見したトマトと同じ。それに塩が効いてる」


 なんというか、自由奔放だなー白蛇女メリュジンの加護神は。色だけは血のように真っ赤なトマトのスープだって?

 それならノクラーソンも食べられるんだろうけど。


「シュドバイル、スプーン貸してくれ。ノクラーソン、俺も味見をしていいか?」

「あ、あぁ」


 まだ信じられないのかスープ皿を持ったままキョトンとしてるノクラーソン。

 スプーンでスープ皿をかき混ぜる、ん? 底に何か入ってる。

 掬ってみるとオレンジ色のものが出てきた。それごと赤い液体を俺の口の中に入れてみる。

 ほんのり暖かい。そして少し塩が効いてる。そしてオレンジ色の固形物は、もぐもぐ……。


「これ、ニンジンぽい。柔らかくなるまで煮込まれてる感じの」


 ノクラーソンの初めての食事の加護は、ニンジン入りのトマトのスープだった。

 改めて加護神の偉大さと野放図さに驚かされた。

 いや、ここまでやってくれるのは白蛇女メリュジンの加護神だからかな。


 白蛇女メリュジンが、代わる代わるスープ皿にスプーンを突っ込んで味見をする。キャイキャイと盛り上がってノクラーソンの肩を叩く。

 シノスハーティルとフラウノイルがハイタッチして笑う。

 散々ノクラーソンを驚かせて楽しませてもらったけど、ここでやり返されるとは思わんかった。


「カーム? 大丈夫?」


 アムレイヤの声がした方を見ると、カームが地面に膝と両手を着けていた。俯いている。


「ちょっと、カーム?」


 シャララがカームの顔を覗こうとする。

 ハッと我に帰ったように顔を上げるカーム。泣いている、ボロボロと涙を流している。


「……あ?」


 みんなが注目してるのに気がついたカームは、キョロキョロと周りを見回して、ノクラーソンを見て、


「うあ、あ」


 慌てて立ち上がると、振り返って走って逃げ出した。


「カーム?」


 慌てて追いかけるシャララとアムレイヤとネスファ。

 カームにしてみれば、見たくなかった光景か、それとも見てみたいと願った光景なのか。

 人間ヒューマン嫌いの、人間ヒューマンレッド種のカーム。


「ゼラファ、カームを捕まえて」

「解った、グラねぇ


 グランシアがゼラファに言うとゼラファは矢のように飛び出して行く。

 シノスハーティルが不安そうに、


「カームはどうしたの?」


 グランシアは、ウーンと唸って、


「カームのことは猫娘衆に任せて。たいした事は無いよ。……でもこれでちょっと見えてきたかな? レッド種が人間ヒューマンでありながら、加護神のいる理由が」


 一応注意しておくか。


「グランシア、レッドはそのあたりを他の種族に知られたく無いらしい。詮索はしても口にするのはナシだ」

「そう言って、ドリンはひとりでコッソリ調べるつもりなんだろ?」

「興味はある。だけど言いふらすつもりは無い」

「そこは繊細なとこか、あ、皆も心配しなくていいから。カームのことは私に任せて」


 言いながらグランシアはノクラーソンのスープ皿に指を入れて、その指をペロリと舐める。

 ニヤァと笑って、


「おめでとうノクラーソン。私を驚かせてくれるなんてやるじゃない。これからも長い付き合いになりそうだから、いろいろ期待させてもらうから」

「これ以上驚くことがあれば、私の心臓が止まってしまう。いや、今も頭が混乱している。訳が解らん」

「とりあえずは、フラウノイルと白蛇女メリュジンと加護神にお礼を言ったら?」

「そうだな」

 

 ノクラーソンがスープ皿を見る。みんなで味見をしたから残り少なくなった神餐のトマトスープをぐいと飲み干して、


「慈悲深き我らが神、女神イツアムナイルよ、感謝します」


 白蛇女メリュジンに囲まれて祈る。

 その祈りは大げさなところも無く、仰々しいことも無く、媚びへつらうでも無く、卑屈に崇め奉るでも無く。

 いつもの挨拶のひとつのように、自然と口にする。

 それはまるで俺たちのように。


 シノスハーティルが銀の杖をひと振りして、尻尾の先を踊らせて、


「カゲン! 探索者を呼んで下さい。今から前夜祭しましょう! このめでたき事を祝いましょう!」


 いきなりか? 明日が本番だってのに。

 ノクラーソンが来てから飲み会が増えたような。

 カゲンがほどほどに、と注意をしても盛り上がってる白蛇女メリュジンがほどほどで止まる訳が無い。

 いつもの如く呑んで歌って踊って騒ぐ。

 その中でノクラーソンが俺とサーラントに近づいて来た。


「みんなの期待に応えないとな」


 酔いの回った顔で俺とサーラントと握手する。


「……おい、ノクラーソン。これは何の験担ぎなんだ?」

「何を今さら、お前達が元凶だろうに。触れた私がどうなったのか、私の口から聞きたいのか?」

「言うようになったじゃないか、このやろう」


 握り潰すように力を込めてノクラーソンと握手する。サーラントが訊ねる。


「気分はどうだ? ノクラーソン?」

「気分か、私にもなんだか解らんが、初めて白蛇女王国メリュジーヌの地に足が着いたような気がする。あとは」


 カイゼル髭がニヤリと笑って、


「お前達を驚かせるのは気分がいい。ドッキリを仕掛ける気持ちが良く解った」


 俺達を驚かせるのに神様を使ったのはお前ぐらいだ。

 フラウノイルと腕を組んでにやけるノクラーソン。

 まったく、なんて奴だ。

 まったく、なんて世界だ。

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