第116話◇お告げに呼ばれて試してみよう
目が覚めると周りが少し騒がしい。
なんだ? と思い目にかかってる布を取る。
プラン様が日除けにかけてくれた目隠しの布だ。『ウマウマ』と書かれている。
どんな気分のときに着けるんだろ?
バリエーション違いをいったいいくつ作ったんだ?
天井は既に明るくなっている。太陽の位置が変わらないから時間が解らないのが、ここの欠点だよな。
ラァちゃんがフワリと飛んで来る。
「よく寝てたの。今は昼を過ぎたくらいよ」
「ずいぶんと寝過ごしてしまったなぁ」
辺りを見ると、ここの住人じゃ無いのがいる。お祭りに合わせて来た招待客だ。
他には
来てくれたか。だけどなんでこっちを見て戦慄してるんだ?
「ただの探索者では無いと思っていたが、
なんか額に汗が見えるレジオンス。
「……エルカポラが『触るな凸凹は他の探索者と一緒に考えてはならない』と言っていましたが、一見して理解したのである」
触覚が細かく落ち着き無く動く
「……えーと、ようこそ
紫のじいさんを枕にしたぐらいたいしたこと無いだろう。
俺は紫のじいさんの手に寄り掛かって、足がなぜかプラン様の膝の上にあって、ふくらはぎをムニムニされてて、腹の上にラァちゃんが座ってるだけじゃないか。
客人を案内してるのは
「初めてドラゴンを見る者には、無害な
「
「だったら先に起こしてくれればいいのに」
「「できるかっ!」」
「なんでだよ、ふあぁ」
「ラァおばあちゃんに、ドリンが寝てるから静かにしてって言われたら、何も言えないでしょ!」
そんなもん今さら気にするシャララじゃ無いくせに。ぜったいにおもしろいからそのまま見せ物にしてやれってなったんだろ。
「ドリンの心臓はいったいなんでできてるんだ? ミスリルか? アダマンタイトか?」
「カームが繊細なのは知ってるけど、俺が無神経みたいに言うのは、なんか違うんじゃ無いか?」
「ドリンの常識を一般論みたいに言わないでくれ、頼むから」
寝起きから俺の常識を全否定された。どうしよう、寝直そうかな。
カームがため息をついて言う。
「ドリンが寝てる間、
「解った解った。それなら起こしてくれたらよかったのに」
今度は紫のじいさんを見ながら言う。
「すまんのー。なんだかグッスリ寝とるんでな、寝かしといてやろうかと」
「寝てるところは可愛らしいのに、これで頭の中身はなかなかに怖いのよ」
「それでも心根が奥底で真っ直ぐなところで、なんとかギリギリでバランスを保っておるゆえ」
ラァちゃんに誉められた? のか? プラン様に誉められた? のか?
「あ、ドリン、シュドバイルが呼んでたよ」
「シャララ、何の用か聞いてるか?」
「解んない。でもドリンじゃ無いとダメみたい」
なんだろ? 泉の水で顔を洗って、シュドバイルのところに行くとするか。
レジオンスとネルカーディと初対面の
俺はたいした奴じゃ無くてただの探索者だから、と改めてアピールしとく。
これ以上おかしな噂で持ち上げられてたまるか。なんかもう手遅れかもしれないけれど。
そこにはシュドバイルが居て、赤い
明日の夜には
「あ、ドリン。こっちこっち」
シュドバイルに呼ばれる。なんだか優しげに微笑んでいる。フラウノイルが姿勢を低くして、俺に勢い良く突っ込んで肩を掴まれる。
「ドリン! ドリン! あのね、あのね!」
「落ち着いてくれフラウノイル」
「あのねドリン!
「もしかして、ノクラーソンのことか?」
「解るの?」
うーわぁ、やっぱりか。
そうで無いと説明つかないし。でもなんで急ぐんだ?
もしかして、頑張った子には心置き無くお祭りを楽しんでもらおうって? 慈愛が溢れ過ぎなんじゃないか?
シュドバイルが嬉しそうに言う。
「ほんとはお祭りが終わって落ち着いてからしようと思ってたけど、我らが女神もウキウキしてるみたいなので、今晩やるわよ。ドリン」
「解った。立ち会いはどうする? 見たがるのは多そうだけど」
シュドバイルとフラウノイルと話をして、夜までに準備を整えることにする。
まさか
そして夜の
ノクラーソンには水浴びして身を清めてもらって来てもらう。
髪はいつものオールバック、カイゼル髭も整えている。
肩からはフラウノイルとお揃いの水色の飾り布をかける。
「ドリン、いったい何をするつもりなのだ?」
「ノクラーソン。緊張してるのか? それとも警戒してるのか?」
「両方だ。ここの探索者はドッキリも戦争も限度というものを知らん。娘夫婦がパニックから回復するのに、シュドバイルの治癒の加護に頼ったのを忘れたのか?」
「あー、マルーン攻略戦が無ければその、ノクラーソンの娘さんの『死んだハズのノクラーソンと再会してドッキリ』の現場を見れたのになぁ。いいとこ見逃したのは残念だ」
「ここの住人が限度を忘れたのは、ドリンの影響では無いのか?」
「もともとノリがいいのが揃ってるだけだ。ノクラーソンはこっちに来て座れ。
シュドバイルが用意した一際豪華な敷物。
銀の蛇と三日月、半月、満月が刺繍されてて、これまでの
敷物の中心にノクラーソンを座らせて、その後ろにフラウノイル。
前には俺とシュドバイルが座る。
敷物の外には不安気な顔のノクラーソン
他にはノクラーソンを
ノクラーソンとはある意味付き合いの長い
何をするか説明して無いので、ワクワクしてたり不安そうにしてたりする。
ノクラーソンの心理状態も重要なので落ち着いてもらおうと、用意した赤い酒をグラスに注いでノクラーソンに渡す。俺とシュドバイルも1杯ずつ。
瓶に入れて残しておいた、シュドバイルが
ほんのり血の味がするシュドバイルとじーちゃんが開発した大魔法、『美味しい血酒』の1品だ。
「じゃノクラーソン、かんぱーい」
「いったい何の乾杯なんだか」
「ここに来てからよく呑むようになったんだろ?」
3人でグラスをカチンと合わせる。一口含んだノクラーソンが、旨そうに目を細める。
「ほぉ、独特な風味だが、旨い。なんだかクセになりそうな味だ」
グラスに入った赤い酒を、疑似月光の月明かりに透かして見るノクラーソン。これからすることの前に話しておくか。
「説明ついでにノクラーソンに聞いて欲しい話がある」
「聞かせてもらおう」
「神の加護と、俺達の加護神のことだ」
「
「俺達にとっては種族の加護神っていうのは身近なもんなんだ。どうも
「そのようだな。フラウノイルに聞いたが、加護神とは絶対なる存在というよりは、まるで敬愛するおばあちゃんかひいおばあちゃんのような感じらしいな。
「目に見えて加護があるから、おばあちゃんにねだるような感じになるのかな? なので有り難いと感じながらも、加護神に頼りっきりになるのは申し訳無い気分になる」
「それで治癒の加護以外は、余り積極的に使おうとしないのか?」
「それもあるけど、食事の加護はいつもメニューが同じでそればっかりだと飽きる、というのもある」
「贅沢な悩みだ。そうだ、治癒の加護を使える者と使えない者がいるのは何故だ?」
シュドバイルがノクラーソンのグラスに赤い酒を注ぎながら応える。
「祈りが深い者は使えるようになるんだけど、解毒や癒病まで使えるようになるのは少ないわね。ただ、戒律を守って毎日祈ればいいってものじゃ無いのだけど。
「祈りの形も種族ごとに違う。
俺の説明にシャララとパリオーが抗議する。
「ちょっとドリン。
「そうだぞ。『好奇心が
「シャララはウケを取るために、
「思い付きで国を興したり滅ぼしたりなんて、流石の
まさかシャララとパリオーに突っ込まれるとは。
俺は俺なりにアルムスオンで皆が楽しく暮らせるようにしたかったんだけど。
えーと、気を取り直して。
「加護の形が必ず治癒の加護というふうに現れる訳じゃない。その有り様が加護神に気に入られるといろんな形で出てくる。サーラントのランス突撃の破壊力が異常なのも、たぶん神の加護だろうな。おかげでますます脳筋になる」
離れて見てるサーラントが、フンと鼻を鳴らす。
「草原を駆ける
「サーラント、そういうことを真面目に言うと、
ノクラーソンが考えながら赤い酒をチビリと呑む。
「ということは、加護の形にも種族の個性があるのか?」
「そのあたりは戦闘種に治癒の加護を使えるのが少ない理由でもある。カゲン、
「どうだ? と言われてもな。そうだな、戦闘で役に立つものが多い、これは戦闘種に共通だろう。嗅覚が鋭くなったり、耳が良くなったり、あとはケガの治りが良くなったりとかだ。あとは囁き、か」
「囁き、とはなんだ?」
ノクラーソンが問う。
「己に何が足りないのかを教えてくれるんだ。強くなるために次はどう鍛えるといいか、とか。ただ、これはどう言えばいいのか解らん」
カゲンが腕を組んで悩む。グランシアが頷いて。
「
今回、フラウノイルがそのお告げを聞いたってことなんだけど。
シノスハーティルが鏡を持って来る。俺とシュドバイルの間に立ってノクラーソンに鏡を向ける。
首を捻るノクラーソンに聞いてみるか。
「さてと、ノクラーソン。最近の身体の調子は?」
「前も聞いていたが、すこぶる良い」
「白髪が無くなって、顔の皺も少なくなったよな。娘さん夫婦が驚くくらい」
「テクノロジス食材の栄養が良いからでは無いのか? それにここに来てからは規則正しい生活で、毎日が楽しいというのもある」
「最近は昼飯を食わなくなったって聞いてるけど?」
「机仕事が多いからでは無いのか? 確かに食べる量は少し減ったが。私に神の加護など、ロスシングの冗談では無いのか?」
「俺も初めは冗談だと思ってた。あと美人の嫁さんと毎日ハッスルして若返ったんだと思ってた」
「ぐむ、いや、そんな毎日は、体力が」
「そこで照れるな。気持ち悪い」
「ドリン、貴様」
「落ち着いて鏡を見ろよ、ノクラーソン」
ノクラーソンの変化に気がついたのはフラウノイルで、その後、観察してたロスシングが言い出した。
ノクラーソンが
鏡に映る顔を見て眉を寄せるノクラーソン。
「……異種族と結婚したら、その種族の神の加護を得られるというのか? そんなの聞いたことも無い」
「俺もそんな前例は聞いたことが無い」
「
「それを言うなら、
「異種族と結婚した
「いたとしても嫌われものの
「調べるとは、どうやって?」
シノスハーティルが持ってる鏡をシュドバイルが受けとる。
シノスハーティルが笑みを浮かべて言う。
「ノクラーソン。今から食事の加護の祈りを」
ノクラーソンの前に空っぽのスープ皿を置いて、言われて混乱するノクラーソン。
「私が、加護を祈るだと?」
「まぁ、ダメ元でやってみろよノクラーソン。
ノクラーソンを囲むのはノクラーソンと一緒に仕事してる
もう手を組んで祈りの歌を歌いはじめる。
ノクラーソンはキョロキョロと見回してから、
「……やってみるか」
自信無さそうに呟いて、姿勢を直して跪いて手を組む。
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