第114話◇次の策の準備
この結論を言ってみたところ。
何人かチラチラと気遣うようにノクラーソンを見る。
ノクラーソンは手を振る。
「私は
ノクラーソンがゴホンと咳払いする。
「私も概ね、ドリンの考えに賛同します。ただ、これは今の状況のことであり、未来に置いては違う形になることを期待して、というものですが」
ノスフィールゼロも、
「私もドリンの考えには全面的に賛成ではありまセン。私は
まぁ、ノクラーソンとノスフィールゼロの言いたいことも解る。未来においては全ての可能性はゼロじゃ無いからな。
ソミファーラが困ったように。
「
「イイエ、そんなことはありませンノ。
シュトール王子は、うむぅ、と唸る。
「
「俺たちが奴らに合わせる必要は無い。これは以前にサーラントがセルバンと激突戦をした時に言ってたんだがな。『相手の奇策も卑劣も思惑も全て知って見切った上で
サーラントを見る。
「あぁ、セルバンにそんなことを言ったか」
「そういうことだ。
「
「実際、奴らは害悪だ。その害悪から身を守ることで今の俺達の強さがある。他の種族との協調がある。奴らが襲うなら返り討ちにする。奴らが騙すならその嘘を見抜く知恵を育てる。奴らが盗むなら、盗まれないように見張って守る工夫を凝らす。奴らが拐うなら、誘拐対策をして注意するし取り返す。そして、対
「そうして鍛えた先に、
これが俺の考えた
何をするか解らん奴ら、だからこそこちらも様々なやり口について学ぶことができる。
そこで俺達が全滅しないように気をつけなければならないが。
「俺の考えは今、言ったとおりだ。それでも現状で増えすぎた
俺は青いケースをテーブルの上に出して開く。
「正確には次の策の準備というところか。これを持ってきてくれたのは、
青いケースの中から出るのは
神聖王国ロードクルス発行貨幣〈リーフ〉。
シードに似た丸い貨幣で葉っぱが繋がり輪となった絵が彫られている。
そのリーフの金貨、銀貨、銅貨を並べる。
「この貨幣リーフもシードと同じで中に含む金や銀の量は少ない。そしてシード暴落から西方領域の商人が、シードをリーフへと変えている。今の中央領域でも価値の落ちたシードを掴まされた者や、西方領域にリーフを持ってかれて中央領域で貨幣が少し足りない状態で、少しではあるけどシード暴落のパニックの影響が中央に出ている」
次に俺は赤いケースをテーブルの上に置く。中から出すのは同じリーフの金貨、銀貨、銅貨。
「こっちがその策になる訳なんだけど」
見てる皆は首を捻る。
そりゃそうか。見て簡単に解る訳が無い。
説明しようとしたとき、
「お待ちになって!」
ディレンドン王女に止められた。
え? もしかして一目で解った?
ディレンドン王女は机の上の2枚の
テーブルにコンコンと当てて音を聞いたり、金貨同士をカチカチと当てたりして、
「こちらが本物、こちらがニセ物、ですわね?」
「流石はドワーフ王国の王女でスノ!」
「ふふん。ただ、私から見ればどちらもニセ物ですが。こちらは僅かですが金が入っています。片やこちらは金はまったく入っていない」
「こんなにあっさり見破られるとは思わなかった」
「かつての
他の皆も真贋当てゲームに挑戦したが、ディレンドン王女以外に解るのはいなかった。
「このニセ貨幣で今度は
「その予定だ。ただしそれは何年か先の話になる」
「すぐにかかる訳じゃ無いんですの?」
「今のところシード暴落で
俺は
「
ディストレックが首を捻る。
「新貨幣って、どういうことだ?」
リアードが説明を続ける。
「十数年おきに偽造貨幣対策と、貨幣の総量の管理のために貨幣のデザインを変更するんだ。偽造貨幣作戦を起こすなら、新貨幣が発行された直後が狙い目だろう。大量の偽造貨幣で
俺はちょっと考える。
「新貨幣発行から使ってる奴らが新貨幣に慣れたところが、タイミングとしていいかな。それまでに西方領域経済圏をスケイルで再生させて、アルムス教に取り込む
シュトール王子が笑う。
「かつての
ディストレックが手を上げる。
「偽造貨幣を大量に出すとどうなるか、具体的に教えてくれないか?」
ノスフィールゼロが説明する。
「必要以上に大量にあるものはその価値を下げまスノ。ドワーフで無ければ本物と見分けがつかない貨幣が大量に出回レバ、貨幣はその価値を落としまスノ。昨日までは銅貨で買えたパンが、今日は銀貨で無ければ買えなくナリ、明日には金貨で無ければ買えなくナル、という事態になりまスノ」
レスティル=サハが納得したように頷く。
「次はこの偽造貨幣作戦で
「偽造貨幣作戦はかなり先のことになるが、これで中央領域が弱体すれば、中央と西方の対立が完成するんじゃないか」
俺はテーブルの上の金貨を1つ手にとる。
「俺としてはこの策は、中央領域の混乱はついでで、
金貨を指で弾いて真上に飛ばす。
「やっぱりおかしいだろ? こんな金属の欠片が同族の子供よりも大事で大切なんていうのは。俺はそういうのは気持ち悪い」
クルクル回る金貨はテクノロジスの白いあかりでキラキラ光る。
落ちてくる金貨を受け止めて。
「だったらまだ子供を守って戦って死ぬ方が、スッキリしてまともな気がする。こんなものが種族の未来よりも、同族の誇りよりも、子供の命よりも、大切大事なお宝か? そこを
親指と人指し指で摘まんだ貨幣を見る。
そんなことはもう知ったことじゃ無い。
気色悪いものは気持ち悪い。
気分悪いものは気に入らない。
同族を仲間を大事に思えない奴らというのは、カンに触る。
「
パチリと音を立てて金貨をテーブルに置く。
「これに賛同してくれるなら、協力して欲しい」
こうして偽造貨幣作戦は
この後は貨幣のことでちょっと話し合い。
「交換レートが同じになるように、金貨、銀貨、銅貨はその含有量をオーバルとヘキサに合わせて見たのでスガ」
「
「可愛い貨幣なんて初めてだから、そこでもドルフ帝国で人気がありそうだ。使わずにしまってしまうかもしれん」
「その付加価値は予定外だ。上手く落ち着いてくれるといいけど」
加えて
「
「
「金属の塊の奇妙な種族と見られるだろうが、あの
「支援というのは、中に
「それもありますガ、可動するための魔晶石の補充についても協力して欲しいのでスノ」
「それト、
「そこは闇牙が相手をしようか。しかし、
「「解る!」」
「これまでのアルムスオンには無いカッコ良さですよね」
「ズションズションと動いて目がポウッと光ると、おおお! となる」
「シュトール兄貴、
今後の国家間の外交とか、それぞれの協力体制なんかも話し合い。
とは言ってもここで慌てて決めることでも無く、ディレンドン王女もシュトール王子も国に帰ってそれぞれの国の首脳部に話してからなんだろうけど。
それでみんなが、こうなったらいいなって言うのを好き放題口にしてた。
中の幾つかは出来そうなんでメモしておく。
チラッと見るとシュトール王子とサーラントが話している。
シュトール王子が俺を見てサーラントと話してるから、コンビの相方の俺についてなんか言ってんのかな。
「あれが、サーラントの相方か?」
「あぁ、いつの間にかコンビと呼ばれるようになった」
「あれならば
なんか楽しそうだ、シュトール王子は。
サーラントは苦いものでも噛んだような顔で言う。
「あのひねくれた
だから、サーラント、お前が言うなと。
シュトール王子がサーラントと俺を交互に見る。
「かつては俺と兄上とミトルが、サーラントが何をするか解らんから目が離せん、と思ってたのだが。サーラントがそれを口にするのを聞くことになるとは」
ほらな。解る奴には解るんだよ。
「ドリンの発想と思惑には妙に惹かれるものがある。だが、確かに大概ではある」
どうして皆、俺を非常識な狂人のように扱うんだ? それなのに大概とか酷いとかやり過ぎとか言いながら、みんなで俺の策に乗ってくるし。
そうやって乗った奴らが調子にも乗って、予定より規模が大きくなったりするんだからな。
思い付いた俺ひとりのせいにするのもどうかと思うんだが。
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