第104話◇マルーン街の決戦
◇◇主人公ドリンの視点に戻ります◇◇
宣戦布告というものは、ただの脅しでもある。
相手に勝つ要素を揃えて、戦えば損害が出るだけで俺達には勝てないよ、と相手に教えてやる。
それでもやるなら相手するけど、どうする? と相手に投降か逃走を選択させる。
事実上、中身は勝利宣言。これが今回の、
それだけのものを揃えたからやったわけで。
欲を言えば
地上の希望の断罪団が動きが早いので、それに合わせて決行することに。あいつらヤル気出し過ぎだろ。
そのままさっさと西区の地下迷宮出入り口を抑えて、そこの防衛体制を作った。
砦がぶっ壊されたあとの地下迷宮出入り口。瓦礫はちょっと片付けられてはいる。
ディレンドン王女とドワーフ職人軍団『穴堀一徹』にバリケードを作ってもらう。即席の防衛拠点に。
マルーン街ではアルマルンガ王国の軍隊が街を守るために集まっていた。
そいつらは百層大迷宮を死守するつもりだったわけだが。
そいつらが警戒してたのは地上の希望の断罪団。ロウメンの街から来た希望の断罪団2万5千がマルーンの街を囲む。そこに多種族連合軍3千もいる。
希望の断罪団の残り5千はロウメンの町の防衛、というかロウメンまわりに侵略というか布教してる。
それを多種族連合軍1千が、アルムス教がやり過ぎないように見ておく。
こんな感じで親多種族連合軍の
対するマルーン街を防衛するアルマルンガ王国軍が、実は総数が解らん。
けっこう人数がいたハズが、シード暴落の貨幣パニックで混乱した状況。
混乱はするだろうと予想はしてた。
ただ、予想以上に大混乱してた。
報酬で貰う貨幣が無価値なゴミと化して、離脱する傭兵とか逃げ出す兵隊。
街の中ではいきなり商品を売らなくなった商人。さっさと逃げる貴族。
手持ちの貨幣で買い物ができなくなって、食料を求めて商人を襲う市民。それを止めようとして市民を斬る騎士と兵隊。
でも一部の兵隊も守るべき市街で略奪したりと、まったく統制がとれない軍隊。
止まらない市民の暴動、その市民と戦うアルマルンガ王国軍。
マルーン魔術研究局が悪魔崇拝者と繋がっていたという噂が流れ、それをユクロス教も知ってて後押ししてた、という話も出た。アルマルンガ王国が禁忌の悪魔の召喚をした、というのも市民が知ることに。
ユクロス教の神官などは危険を察知したのか、偉い奴からさっさと首都アルマーンに逃げていた。逃げ遅れた下っ端の神官が市民に襲われたりとか、メチャクチャになっている。
勝手にボロボロになっていくマルーン防衛軍。マルーンの町は混沌としていた。
で、そこに追い打ちをかけるように地下迷宮出入り口から俺達が出て、百層大迷宮の管理国は
慌てたマルーン防衛軍は西区に騎士と兵隊を送って来たが、突っ込んで来た
「ボロボロでスノ。できればあまり壊さない状態が望ましいでスノ」
「
西区は最強の剣士、幻花の舞闘姫の狩り場の花園へと変貌する。
頭に
幻の花弁を散らして踊るように蹂躙する、グランシアとシャララのコンビ。
「ドリンがやれって言うならやるけどさ。相手が弱すぎて、もの足りないねえ」
グランシアの相手が務まる
「ソロで10層ボスやれるくらい、手強いのいないかな?」
「無茶言うな。探索者でも少ないだろそれは」
で、そこに投入したはずのうちの最強の魔術師、無限の
「無辜の民を守るべき者が非道を行うか! 燃えろ正義の炎熱! 我、ここに焔の鉄槌を下す!」
と、叫びマルーン南区市民街にひとりで突撃した。慌てて灰剣狼が追いかけた。
市民の暴動を押さえようと戦ってた騎士と兵隊が、無限の焔の火炎の嵐に炙られて壊滅、敗走。
「
フォローしとくかー、と
「ネスファ、急で悪いけど、料理できる探索者集めて青空料理屋やってくれ。コントロールできない暴徒を減らさないと」
「うーん。まわりの防衛をキッチリしてよね」
たったひとりで南区を圧倒した無限の焔は、いろいろ噂になってるらしい。
大草原でも逃げる奴を追いかけたりはしなかったが、向かってくる奴にはキッチリ焔の鉄槌を下したらしい。
なんだ焔の鉄槌って。
「正義の怪人、無限の焔の必殺技、らしい」
「なぁカゲン、なるべく殺さないように手加減してるハズなのに、必ず殺す技ってなんだ?」
「噂とはそういうもんだ」
南区まで手を出す気は無かったんだがな。食料配布終わったら、引き上げさせて。
カームと
西区に来たとこで追っかけてきた暗部商会をディレンドン王女と穴堀一徹が撃退。そのままフォリア一家を護衛して
「あー、ノクラーソンのドッキリ現場、見たいなぁ」
「ドリン、まじめにやってよ。シャララもスッゴい見たいのガマンしてるんだからー」
「私が代わりにじっくり見物しとくから」
「カームずるいー。あとで教えてね」
死んだと思ってたノクラーソンと再会した娘さんは、どんな顔をするんだろうな?
地下迷宮出入り口を防衛しながら、西区を押さえる。
外から希望の断罪団。
中から
この状態でマルーン防衛軍は既に終わってる。
これでアルマルンガ王国軍のやれることは、ヤケクソで外の希望の断罪団に打って出て、そのまま首都アルマーンに逃げるか。
トチ狂って西区の地下迷宮出入り口に戦力を集中させて、地下迷宮1層に籠城するか。
ある程度の戦闘をして、頑張ったけど負けました、の言い訳つけてから降伏するか。
この3つのパターンで考えていた。
いずれも対策を立てて対応できるようにして。
7日と立たずに決着は着くだろう。マルーン街の中に俺達が入って、中と外から睨まれて、もはや籠城戦とも言えない状態だ。
しかし、そこは
アルマルンガ王国、マルーン街防衛軍は、俺達が地上に出た翌日に降伏した。
マルーン街の決戦は1日で終わった。
こちらの被害、ゼロ。
あ、食料がけっこう減ったか。
早かったな。拍子抜けだ。
五日後。
こちらの主要メンバーでマルーン街、東区へ。
東区はユクロス教の宗教施設と貴族議会の建物があるところ。
ユクロス教の総本山、神聖王国ロードクルスに近い方に住んでる奴が偉いという。
北区貴族街も東区に近い方が土地が高いとか。
「ドリン、難しい話は任せるからね」
「シュドバイルは解ってるって顔で微笑んでいればいい。契約とか約束とかの突っ込みどころがあればディレンドン王女、頼む」
「解りましたわ。でも私だけで無くサーラント王子も」
「いや、俺はここでは王子としてでは無く」
「それでも王族としての知識は活かせるところでは?」
正論だ。だけど脳筋突撃サーラントだから、めんどくさくなったらフレイルが出て終わりだ。交渉でサーラントは役に立たない。
シュドバイルのお付きに
ディレンドン王女は護衛のシュディナに副官メッソ
護衛には灰剣狼。ただしはっちゃけ過ぎたスーノサッドは魔力酔いで現在療養中。
ちょっとめんどうな戦後処理といくか。
何も問題無ければマルーン街の議会館を使う予定が、中の掃除が終わって無いので正面玄関で。
やたら大きく豪華な建物ばかりの東区。
議会館の正面玄関、幅が広くて5段しかない階段下。
そこには希望の断罪団のまとめ役がズラリといた。
先に来て俺達を待ってたみたいだけど、なんでみんな跪いて俺達に祈るようにしてんだか。
ひとりでみんなの前にいる、急拵えの聖職者っぽい白い服に身を包んだ男が顔を上げる。
「お待ちしておりました。お久しぶりでございます。再びお会いできた運命に、神よ感謝いたします」
「やたらと大げさだな」
「我々は覆面の仕掛け毒で死んでいた身です。我らを助けて頂き、その命の生きる正しき道を指し示してくださいました、サーラント様とドリン様は、神々の御使いに等しくあられ、」
「そういうのいいから。無駄な挨拶は省いて先に進めようか」
遮って隣を見るとサーラントが渋い顔をしてる。
自称司祭のアルムス教の教祖。希望の断罪団の精神的な支柱となってるらしい。
そしてサーラントを仰ぎ見る目には涙が浮かぶ。
なんでもサーラントに蹴り飛ばされて、そのショックで神を見たので、サーラントを見る目には宗教的情熱が燃えている。
どうやらサーラントが神に出会わせてくれた、己の使命に気づかせてくれた神の使い、になってるらしい。
(なぁ、サーラント。どういう蹴り方したらエルフもどきが教祖になるんだよ。ショックが頭に妙な入り方したか?)
(こんなめんどくさい奴に進化するくらいなら、蹴り殺しておけば良かったか)
その教祖の斜め後ろにいるのが、実務のリーダー。もとエルフもどきで、もと山賊の頭領のおっさん。こいつはこいつで俺に暑苦しい視線を送ってきてて、うっとうしい。
自称司祭の教祖が熱っぽく語る。
「地下迷宮から現れ、たった1日でマルーン防衛軍を壊滅させるとは。流石はドリン様。是非とも再び我らに、その叡知で道をお教えください」
「上手くいったのは貨幣パニックで混乱してるマルーン防衛軍を、希望の断罪団が囲んでビビらせてたからだ。俺達はちょっとダメ押ししただけだ」
「ご謙遜を。全ての絵図を描いて動かしたのはドリン様でしょう。我らがここに集ったのも、全てはドリン様の言葉より始まっております」
いや、まぁ、唆したのは俺だけど。
アルマルンガ王国のせいで住んでた村が無くなって、山賊以外で生きていけなかったとかいう、もと山賊の頭領のおっさん。
だったらアルマルンガ王国を潰して、暮らしていけそうな村か町でも奪ったら? と。
王国相手に山賊が何ができるものか、と渋っていたけど。俺達が少し手伝ってやるからやってみたら、とやらせてみた。
大草原の生き残り
数が力と考える
戦争で殺される為に集められた
悪魔騒ぎで予定より多く生き残ったのが集まった。それが希望の断罪団。
エルフに頼んで
悪魔退治で下位悪魔が
集めたついでに前からあった構想をやることにした。
親異種族派の
それをまとめるのにアルマルンガ王国に恨みのあるオッサン。
毒仕掛けの覆面でいいように使われてたもと山賊のオッサンに言ってみた。
アルマルンガ王国に復讐したくはないか? と。だけど。
「あのときは普通に話してたろ、俺に『様』とかつけずに。おかしなへりくだり方するなよな」
「あの頃は愚かな我々には解らなかったのです。ですが、人々が集まりロウメンの町を陥としたときに、やっと気がつきました。もはやドリン様の叡知に疑う者などおりません。これまで無礼な態度をとっていたことを、どうかお許しください」
ズラリ並ぶ20人くらいの希望の断罪団の幹部のような奴ら。
それがひざをついて手を組んで、俺とサーラントを拝んで祈る。
これは、やりにくい。俺はお前らの王様にも支配者にもなるつもりは無いんだ。
「なんだか、この
近づいてこそこそと囁くシュドバイル。そのシュドバイルの耳にこっちも小声で。
「だからノクラーソンがおかしいんだって。普通の
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