第101話◇カーム主役回◇気に入らない変装と潜入

◇◇部隊パーティ猫娘衆のひとり、人間ヒューマンレッド種、女探索者のカーム視点になります◇◇



 まったく、なんで私がこんなことを。

 口に出して呟きそうになるのを噛みしめて飲み込む。

 それはまぁ、魔術無しで人間ヒューマンに変装するのは、人間ヒューマンレッド種が1番いい、という理屈は解る。

 だけどクソ人間ヒューマンの振りをするなんていうのは腹が立つ。

 髪を染めて顔の肌の色も染めて変える。貴族の屋敷に使えるメイドの格好をして、手袋つけて赤い肌を出さないようにする。


 大鬼オーガとかドワーフとか小妖精ピクシーが変装するのはサイズが違い過ぎて無理。

 小人ハーフリング人間ヒューマンの子供の振りをするのはいけるんじゃないか、と押してみたけどちょっと無理という結論になった。

 狼面ウルフフェイスは首から上が狼だし。

 猫尾キャットテイルが耳と尻尾を隠せばいけるんじゃない? と押してみたけど、身体つきに身体の動かし方のしなやかな猫尾キャットテイルは動作でバレる。

 エルフが耳を隠してみたら? と試してみたけど、やっぱりエルフは線が細い。骨格が人間ヒューマンほどゴツく無い。

 アムレイヤなんて全体的には細いのに胸だけスゴいとか、グレイエルフはいろいろズルいと思う。

 いや、あんなに大きいと戦闘でジャマになるか。

 

 結局、私がメイドの振りなんてして、マルーンの貴族街に潜入することになった。

 人間ヒューマンの振りなんてイライラする。それも人間ヒューマン、ノクラーソンの為に。

 まぁ、ノクラーソンが人間ヒューマンと他の種族の未来の為に、マジメに本気だというのも解ったし。

 あいつが他の人間ヒューマンとは違って信頼できる、というのも、今は認めている。

 マジメに仕事してて、今も白蛇女王国メリュジーヌを国として成り立たせるための裏方をがんばっているし。


 いや、でも、あいつは最近はお目付け役だったハズの白蛇女メリュジン、フラウノイルと新婚のような空気を辺りに散らしてて、そこはなんかムカつく。

 仕事終わりで踊る子馬亭で飲み会になると、たまにポロッとのろけ話がこぼれたりする。

 朝に弱い寝起きの白蛇女メリュジンが、寝ぼけてるとこが可愛いだと?

 知ってるから、そんなことは。そんなことはノクラーソンに教えてもらわなくても、前から知ってるから。

 改めて恥ずかしそうに幸せそうに言うな、ノクラーソンのくせに。なんか腹が立つ。

 フラウノイルは幸せそうだけど。


 っと、そんなこと考えてる場合じゃ無かった。軽く俯いて歩く。こっちをチラッと見た兵士とすれ違う。

 貴族街に兵士が多い。西区の騒動が伝わればそっちに行くべきなんじゃないか?

 なんで貴族街に兵士がこんなに彷徨いている?


 サーラントと灰剣狼が百層大迷宮の出入り口に陣どって、今ごろは穴堀一徹がバリケード作成中のハズ。

 グランシアも人間ヒューマンを地上に送る作業が終われば、西区で暴れるだろう。

 マルーン街が混乱する前に、私の用事を終わらせるつもりでさっさと来てみたものの。既になにか街の中は混乱してる様子。

 あっちもこっちも騒がしくて殺気だっている。


 希望の断罪団はまだマルーン街には入って来てない。と、なればマルーン街は街壁と門の防衛に戦力が集まってるはずなのに。

 百層大迷宮を取られたくないアルマルンガ王国は、マルーン防衛に戦力を集中させてる。

 だけど今のマルーン街の騒がしさは、それとは違うような。

 

 貴族街の様子を伺いつつ、目立たないように気をつけて進む。

 何気ない様子で近づいて来る男をチラリとみる。商人の姿をした優男。

 肌と髪の色を誤魔化したレッドのルドラムだった。

 私の横を通り過ぎるときに、


(ついてきて)


 小声でポソリと告げて足早く進む。ざわざわとする貴族街の中。馬車に荷物を乗せる男達。

 そこに駆け寄って荷物を調べようとする兵士ともめている。

 傭兵を連れた貴族が屋敷の前で合図すると、その傭兵が屋敷の扉を壊して中に押し入る。

 なにが起きている? 先に街に来ているルドラムとレッドに聞けば解るか。


 ルドラムについて行くとひとつの貴族の屋敷の前に。ただ、扉は壊されて窓は割られている。

 辺りを伺い裏手に回って素早く屋敷の中に入る。

 中に入るとそこには髪と肌の色を誤魔化したレッドの同胞がふたり。

 先に入ったルドラムが、帽子をとって振り向いて、


「久しぶりカーム。メイド姿なんて初めて見たけど、似合ってるよ」

「これが似合ってても嬉しくもなんとも無い。おかしなお世辞はいらないから」

「お世辞じゃ無いんだけど。仕える職の服なのに目付きが鋭くて、誰の下にも付きそうに無い感じのギャップに、これまでに無い新しい魅力を感じるんだ」

「ルドラムの趣味は置いといて、なんで街が混乱してる?」

「その前に、西区はさりげなく見張ってたけど、カームが出て来たってことは」

白蛇女王国メリュジーヌは立ち上がった。詳しい説明はリアードと他のメンバーも集まってからにしたいところだけど」


 私達、人間ヒューマンレッド種は種族として人間ヒューマンのことが嫌いだ。憎んでいる、と言ってもいい。

 そんな人間ヒューマン嫌いの私達が人間ヒューマンの振りして潜入している。

 もともと西区にいるレッドは探索者の多いマルーン西区で、人間ヒューマンの様子を探ってはドワーフ王国と大草原の小人ハーフリングに伝えていた。

 その小人ハーフリングはエルフ同盟とドルフ王国へと伝える。


 戦争が近くなれば集まる人数、規模、どれだけの物資があるか、中央領域からなにが送られて来てるか、そんなことを調べてたりしていた。

 人間ヒューマンがおかしなことしたら、被害が出ないように近くの種族に伝えたりとか。

 とは言ってもレッドも西区に住む人間ヒューマン以外の種族のひとつ。

 他の地区のことはなかなか解らない。政治のことや亜人排斥宗教ユクロス教会の内部のことまでは解らない。


 それが今ではドワーフ王国とエルフ同盟の支援を受けて、多種族連絡網情報組織『赤鎖レッドチェイン』となってしまった。

 これにはドワーフ王国第2王女、激流姫ディレンドン王女の、なんだか素敵な謎の秘密組織にしたい、という願望に引っ張られてるような気がする。

 その趣味のおかげで支援があるのだけど。


 そんな組織として情報活動、諜報活動がんばってみようかということになった。

 トンネル開通後、エルフの森側から出て、何人か人間ヒューマンの振りをして、人間ヒューマンの国に潜入しようってことに。

 マルーン街では人間ヒューマン以外の種族はいなくなったし、人間ヒューマンで無いと街に入れないから。

 そうしてアルマルンガ王国並びに人間ヒューマン西方領域の動きを探ろうと。


 いつの間にか大量の髪染めと肌を染めるドーランを用意してて。

 ついでにドーランで肌が傷まないようにって、化粧水に皮膚の表面を守るコーティングクリームなんてものまで用意してもらった。

 私はいいって言ったのに、レッドの肌が痛むことを心配した白蛇女メリュジンが、黒浮種フロートと共同開発したという。


 エルフもどきを見た後のドリンとサーラントが、エルフもどきの逆、つまり人間ヒューマンの振りをして潜り込む方法なんてことを考えてて、ドーランと髪染めを黒浮種フロートに開発依頼して用意してた。あいつら、また碌でもないことを。

 試してみたら、潜入するのに人間ヒューマンレッド種以外は難しいという結論に。


 人間ヒューマンの商人の振りをしたルドラム達は、そうやって変装して赤鎖レッドチェインの地下通路から一足先にマルーン街に潜入していた。


「それでルドラム。なんでマルーン北区の貴族街がバタバタしてるんだ?」

「うん、それが私も驚いているんだけどね。どうもレッドがやり過ぎたらしい」

「? 意味が解らない。何をやり過ぎたって?」

「私達が人間ヒューマンの振りして潜入するってなったとき、ドリンが『じゃ、アルマルンガ王国貨幣、シードの価値が無くなるって商人とかに教えてやって』って言ってたじゃないか」

「まぁ、実際その通りにする訳だし」

「西方10王国同盟の内、主に食料面でドワーフ王国からの輸入に頼る1国と、エルフ同盟からの輸入に頼る2国の商人達にその話を教えたんだよね。ちょっと演出してみたりして」

「何をやった?」

「商会ふたつと話をして、一緒にドワーフ王国に買い付けに行ったんだよ。シードが使えなくなるタイミングでね」

「それって……」


 ルドラムが片手を振って合図すると、同じ部屋に居たレッドのふたりがいきなり小芝居を始める。

 

 テケテケテンテン、ツッテンテン。

「ドワーフさん、ドワーフさん。猪の肉を売ってください。保存のきくやつ、あるだけ全部売ってください」

人間ヒューマンさん、人間ヒューマンさん。なかなか豪気な話だね。あるだけ全部売れなんて」

「大草原で戦争中、食糧はこれから値上がりします。ドワーフさん、保存のきく、野菜の漬け物、干した果物、あるだけ買います。全部買います。これで私達、ガッポリガッポリ」

「戦争で、食べ物を高値で売るなんて、人間ヒューマンさんは、悪どいですなぁ」

「はっはっは、いやいやそれほどでも。お金はたっぷり用意しました。さあ食糧、売ってください」


「ん? この銀貨はシードだね? 人間ヒューマンさん。うちの国では一昨日から、貨幣シードは使えない」

「え? ドワーフさん? 今、なんと仰いました? シードが使えないと聞こえたような」

人間ヒューマンさん、人間ヒューマンさん。よくお聞き。今のドワーフ王国じゃあ、シードじゃ何も買えないよ。だってシードに価値は無い」

「ドワーフさん、ドワーフさん。バカなことをお言いで無いよ。銀貨もあるし、金貨もある。こんなにピカピカしてるのに、価値が無いとか言わないで」


「だけどこれは決まったこと。シードじゃ何も買えやしない。シードを欲しがるドワーフいない。ドワーフからなにか買いたけりゃ、オーバル貨幣を持ってきな」

「それでは今すぐ両替を、シードとオーバル、交換しましょう。そうしましょう」

「シードとオーバル、交換は無理。シードを欲しがるドワーフいない。シードは今じゃ、ただのゴミ」

「ああ! ああ! これはいったいどういうことだ? これはいったいなんてことだ! 私の貯めたシードがゴミに? 必死で貯めたお金がゴミに? 破産だ、破産だ、どうしよう! 私のお金がゴミになった!」


「シードはどこでも使えない。ドワーフ王国で使えない。エルフの森でも使えない。残念ながら人間ヒューマンさん。シードを欲しがる、奴はいない」

「これは困ったどうしよう? だけどこんなの知らなかった。これからいったいどうしよう? 待てよ、待て待て、ちょっと待て。他の人間ヒューマンはどうだろう? これを知ってる、人間ヒューマンは? 今のシードはただのゴミ。ドワーフ相手に使えやしない。エルフ相手に使えやしない。だけど人間ヒューマン相手なら? 未だ知らない人間ヒューマンならば? これはこうしちゃいられない!」

人間ヒューマンさん、人間ヒューマンさん。落ち込んでいたと思ったら、いきなり元気になっちゃって。いきなり慌ててどうしたの?」

「ドワーフさん、ドワーフさん。教えてくれてありがとう。さっさとシードで買い物を。ほんとのゴミになる前に。宝石、指輪、ネックレス。彫刻、金塊、なんでもいい。シードじゃ無ければなんでもいい。価値あるものと交換しないと。シードがゴミになる前に。お金がゴミになる前に」

「やれやれなんとも騒がしい。あれが欲しい、これが欲しいと大騒ぎ。あれもこれもと手を伸ばし、大事なものはポトリと落とす。金貨をくわえて、あっちにフラフラ、こっちにフラリ。カラスみたいに騒がしい」

 テケテケテンテン、ツッテンテン。


 終わるとふたり一礼して、なにかやりきった感じのいい笑顔でこっちを見る。

 ルドラムがパチパチと手を叩くので、私も軽く拍手する。

 なんだろう、この小芝居?

 ルドラムに視線を戻す。ルドラムは、


「こんなことを人間ヒューマンの前でやったわけさ。シードで買い物ができなくなるところを見せてあげたんだ」

「一足先に人間ヒューマンの商人に教えてやったと。それがやり過ぎたって?」

「商人も危機感を覚えたみたいで、このあと急いで人間ヒューマン領域に戻った。シードを手放して、財産になりそうな宝石、貴金属に換えた。それを見て疑問におもった他の商人や街の人達に、レッドが理由を教えてあげる。すると皆、慌ててシードで買い物をしようとする。これが一気に広まった。商人の情報網というのは凄いね。レッドはちょっと後押ししただけなんだけど、人間ヒューマン西方領域では既にシード暴落パニックだ」

「それをあの小芝居で広めたっていうの?」


 レッドのふたり組を見ると、なにか待ってる顔をしてる。そのひとりが、


「これは、これから情報組織赤鎖レッドチェインとして活躍するなら、解りやすい情報の伝え方としてどうかな? と試してます。小さな村で行商人がシードで気前良く買い物をした後、銀貨シルバーシードを手にして首を傾げる村人の前でやると解りやすいみたいで」


 もう一人の相方が、


「翌日、次に来た商人がシードで買い物しようとして、村人にリンチされたりということもあったね」

「その商人が買うばっかりで、銀貨シルバーシードを持って来た村人に何も売らなかったからだけど」


 私達が大草原で防衛戦したり、悪魔退治したり、人間ヒューマンの避難してるときにそんなことをやってたんだ。


「そんなわけでカーム、今の小芝居はどうでした? どうすれば良くなるか研究中で、改善点とか感想とかあれば」

「え? あ、えーと」


 それでこのふたりは何か待ち望む顔で私を見てたのか? 改善点? えーとえーと。


「解りやすくてテンポ良くて、良かったと思う。ただ、オチが弱いか。あとは楽器のできるメンバーがひとり入ればいいのかな。ふたりが会話してるときとか音楽入れて。そうすれば出だしと終わりに、テケテケテンテン、ツッテンテンって口で言わなくてもいいし」


 なんで私がダメ出ししてるんだ? 私はそういう方面よく解らないぞ。

 とりあえず思い付いたことだけ言っておく。目の前のふたりは、うんうんとなんか頷いてる。


「カームに聞いてみて良かった。オチ、オチかー。うーん」

「後は、楽器ね。そうだ、カームって笛が上手でしたよね?」

「私は人前で小芝居とか無理」


 私はやらないから、そーゆーの。できないから。これを町の酒場とかでやってるのか? それで情報を広めていこうって?

 解りやすく伝えるにはいいのかもしれないけれど。

 多種族連絡網情報組織『赤鎖レッドチェイン』は、どこに向かっているのだろうか。

 実質組織のナンバー2、ルドラムの顔を見る。これを考えたのルドラムかな。

 ルドラムは眉を片方だけ上げる。


レッドがちょっと手伝っただけ、だけど、シードの情報の広まりかたは早かったよ。こっちが驚くほどだ。この屋敷にいた貴族はさっさとシードを処分して、他の国に逃げた。出遅れた奴等はシードを人間ヒューマン中央領域の貨幣『リーフ』に替えようとしてる。財産持って首都アルマーンに逃げようとしてるのを兵士が止めたり。他には、借金を貨幣じゃ無く現物で押さえようと無茶する奴が出たりと、混乱してるね」

「それがこの慌ただしさの原因か」


「貴族街はまだマシさ。市民街では商人が物を売らなくなった。パンも芋も買えなくなった市民が、商人を襲って奪い始めた。シードを給料で貰ってた兵士は、浮き足だって逃げ出したりしてる。市民街は無法の暴徒の街になった」

「貨幣が今までのように使えなくなるのが、そんなに混乱するのか? ちょっと信じられないのだけど」

「どうも人間ヒューマンはそうらしい。私達は加護神の加護があるから、食事の加護もある。岩山が近くに無いから、ここではレッドの食事の加護は得られ無いけどね。それでもいざとなれば仲のいい他の種族に頼めば、助けてもらえる。地下迷宮洞窟内ならドワーフ、草原なら小人ハーフリング、森ならエルフ、花が咲いていれば小妖精ピクシーに」

「私達レッドと違い、他の種族に嫌われてる人間ヒューマンには、それは無理だろう。それにマルーン街にはもう人間ヒューマン以外の種族はいない」


「その上、人間ヒューマンは私達より1日で3倍の食事が必要になる。街に住む人間ヒューマンは今まで食料を貨幣で買っていた。それが当たり前になっている。貨幣で買う以外に食料を手に入れる手段が無い。それなのに、ある日突然に貨幣が使えなくなった。これは死活問題らしいよ。貨幣で食料が買えないなら、暴力で奪わないと餓死してしまう、ということらしい」

「なんというか、予想以上に人間ヒューマンは混乱してるみたいだ。貨幣の価値を無くすことにこんなに効果があるとは」

「切っ掛けひとつで簡単に壊れるものみたいだよ。マルーン街には防衛の為に軍が来てるけど、その軍の中にも貨幣パニックが広まってる。まともに戦える状態じゃ無いよ」


 うーん。シードの価値が無いということになれば、アルマルンガ王国の人間ヒューマンは困ることになる、というのはドリンの策だけど。

 どうも予想よりも酷いことになってるみたいだ。人間ヒューマン社会は。それだね貨幣に頼っていたのか。

 しかし、今さらだけど、人間ヒューマンとは。


「ルドラム、ちょっと聞きたい」

「何を?」

「右手に銀貨を乗せて、左手にパンを乗せて、どちらかを捨てないといけない。そういうときにこれまで人間ヒューマンはパンを捨てていた。食えもしない武器にもならない金属を大事に握りしめていた。それがなんで今になってあっさりと銀貨を捨てる?」

「銀貨の方が大事だと思い込んでいたからだろうね。価値があるというのも思い込みなら、価値が無いというのも思い込みだから。ただ、私も西区で道具屋やってて毎日貨幣を扱っていると、騙されそうになる。価値があると刷り込まされそうになる。人間ヒューマンにとっては、実在しない神、ユクロス神を信仰するのと同じで、みんなが在る、という間は在ることになり、みんなが無い、と言い出せば無くなる、らしい。よくそんなあやふやな物を支えにしてたものだと、驚くばかりだ」


 在れば便利、というものは、無くなると困る。

 だけどそれを無くなると死ぬ、というところまで育てたのは人間ヒューマン

 それはまるで、大きく積み木を積み上げるような。

 やがて崩すことを楽しみに、上に上に積み木を重ねていくような。

 自分達の子供や孫やひ孫の世代が、混乱して飢えて泣きわめいて奪いあい殺しあう。

 その時の悲惨と混乱を楽しみに、崩壊がより大きくなるように、積み木を高く高くと積み上げる。

 自滅する姿を嘲笑うための悪趣味な遊戯。

 人の形の黒い影が、破滅する未来を求めて、積み木を重ねる姿を想像して。

 寒気を感じた。

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