第100話◇準備万端、次の戦争だ
シノスハーティル女王の宣戦布告。
それを聞いて絶望の顔で立ちすくむ
こちらの
まずは
白銀の甲冑剣士、
援軍にはエルフ同盟、ドワーフ王国、ドルフ帝国。
これが地下迷宮からマルーン街を攻める用意がある。これで脅かしてやって、と。
あとは、なぜかやたらと怖れられている無限の焔。スーノサッド、何をやらかしたんだ? あとで何をやったか聞くとして。今回は出さなかったけど、噂が広まってるらしい幻花の舞闘姫、グランシアとシャララのコンビもいる。
これくらいあればいいかな、と揃えて囲んでみたら効果はあった。
防壁に閉じ込めて、
次々と強そうな怖そうなもの見せて脅してみたら、おとなしく静かになってくれたので進行はスムーズだったな。
防壁の上から見下ろせば、
52人の
シノスハーティル女王が銀の杖を下げて、赤い目隠しの顔でニッコリ。
「では、
優雅にクルリと振り返って蛇体の白い尻尾の先を振りながら、防壁の上に作った壇から下りていく。
その姿を覆うようにシャララが幻の花弁を降り注ぐ。並ぶ
追いすがるように防壁の上のシノスハーティルを見上げる
「ま、待て、待ってくれ! 戦いの前に交渉を! 話し合いを!」
と頑張るけれど、ここでこの騎士と交渉する気は無い。このあとの予定は既に決まっている。
振り返らずに
そこでフラリとシノスハーティルが身体を傾けて倒れそうになるのを、シュドバイルが受け止める。
「お疲れさま、女王様」
「ふうぅ、怖かったあー」
回りの
緊張が解けてふらついたみたいだ。他の種族に慣れてきたとはいえ、敵意のある
シュドバイルに抱かれてくったりしたシノスハーティル。囲む
「女王、素敵!」
「女王、かっこよかったー!」
うん、シノスハーティルはがんばった。なかなか神秘的に威厳のある女王ぶり、良くやった。後は俺達でやるから少し休んでてくれ。
『じゃ、
俺の言うことに何人かホッとした顔をする。
『俺達で地上まで護衛して、そこで解放する。解放された
喚いている騎士はディグンが顔面を片手で掴んだら静かになった。
それを見て次々と武装解除する
こいつらを地上に送ったらそのまま百層大迷宮入り口の防衛だ。埋め立てられたりしたら掘り返すのがめんどうだし。
そこでそのままバリケード作って、街の外の希望の断罪団と連携して中と外から攻めるとマルーン街を攻めると。
スムーズに行くなら西区は俺達で押さえたいとこだ。
シャララが飛んでくる。
「幻花の舞闘姫の出番が無かったー」
「シャララは充分楽しんだろ。俺が最初の挨拶するつもりだったのにな」
「ドリンがやると
「なんでだ? 悪の帝王ごっこをシャララがやりたかっただけなんじゃないか?」
「それもあるけど、緑の
「頭のレンズはこっちに向いてたな」
深緑色の
「では、ドリン。先に行くぞ」
サーラントが軽
サーラントを見上げて確認だ。
「おう、1層の転送部屋を確保してくれ。メンツは?」
「ローゼットの部隊と灰剣狼で充分だろう」
「あとは
「あいつが隊長なのではないか? 捕虜にしないのか?」
「その隊長がどれだけ権力持ってるか解らんけど、あいつが転送部屋の防衛してる
「うるさい奴を押しつける気か? 解った。さて、地上はどうなっているか」
俺は
「あー! お、お前お前お前はー!」
防壁の下に下りてみたらいきなり騒ぐ奴がいる。
俺を見ていきなり駆け出そうとして、ゼラファに羽交い締めにされて止まった。
「なんでいきなり興奮してるんだ、この
黒髪ポニーテールの
シャララが気がついたようで、
「この声、赤い肩の深緑色の
「あー、あいつか。あの中身か」
5機の
その内の1機は俺と地下迷宮で一戦やった、あの深緑の金属樽だった。
「あんたが緑の金属樽の中の人? 1度、顔は見たいと思ってたんだ。なんだけっこう可愛い顔してるな。ところでなんで興奮してるんだ?」
「か? お、お前が、お前、このお前、お前のせいで! この
お前、お前、と言いながら過呼吸のようになってバタバタ暴れる
俺達は反抗しません。その女とは違いますから、関係無いですから、と全身で訴えてる。で、なんで俺の顔見てそんなに興奮してんだか。この黒髪ポニーテールは?
「俺がなんかしたか?」
「なんかしたか? だと?」
そう言うとその黒髪ポニーテールの
「……なんか、したかって、お、お前に、お前に会ってから、私は散々だ。なんなんだ、お前は……」
「いや、俺もあんたに殺されそうになったんだが」
今度は虚ろな目になってブツブツ呟きだす。
「
あれはこっちもけっこう危なかったけどな。戦闘になったら仕方ないだろ。
「転送部屋を守ってたら、爆発音がして、地下迷宮入り口が瓦礫で埋まって、生き埋めになって、閉じ込められて」
フールフールが砦を壊したときか?
「必死で瓦礫を取り除いてたら、ドカーンって、瓦礫が全部吹っ飛んで、そう、そこにまたお前がいたし、そこで牡鹿頭の4本腕のバケモノに、蹴り一発で吹っ飛ばされて、なにあの怪物。そうだ、あのとき、お前、私のこと、バカって言った、私のこと、バカにした」
「いや、俺は、バカやめろって言ってあんたを止めたんだけど」
「今も30層まで下りてみたら、明らかに罠だって解るのに、隊長がズンズン突っ込んでいくし。戻ろうとしても、狭い通路をどんどん他の奴が出てきて、何故かみんな
こいつも上から見たときには、いなかった。
「すまん。罠があっても
「う、罠に誘われて、突っ込んで、
「それ、全部俺のせいか?」
なんでもかんでも俺のせいにするなよ。先に俺を殺そうとしたのはそっちだろ。
なんで俺が呪いの人形みたいに言われなきゃならないんだ。
見てると自分の肩を抱きしめて、怯えてプルプル震えてる
シャララが彼女の前にフワリと翔んで、
「彼が何者か、知りたければ教えて進ぜよう」
おいこら、ちょっと待て、と止める前に。
「そう、彼こそが全ての事件の黒幕。我らが計画の首謀者にして作戦指揮官。
「あのなぁ、シャララ。間違って無くても言い方ってものがな」
止めようとしたら今度はグランシアが続ける。
「またの名は、触るな凸凹のちっちゃい方。触るとなにが起きるか解らない埒外の探索者。あの無限の焔を顎でこき使う怖い男だよ。お嬢ちゃん、随分ヒドイ目にあったみたいだけど、あんたの災難はあんたがドリンに触れてしまったからで、これは仕方が無いこと。運が無かったねえ」
「グランシア、そのネタまだ続けるのか? 俺がなんの災いを呼び寄せてるって言うんだ?」
「ドリンの行くとこに悪魔王が呼び寄せられるって知ってたら、ずっとくっついてたんだけどねぇ」
「まだ引っ張るのかそれ。説明したろ? おしおき終わりって言ったろ?」
機嫌は治ったけれど、グランシアはいまだに根にもってる。ニヤリと笑顔のグランシア。
「お前が、全ての元凶かっ!」
「あんたもなかなかノリがいいな」
グランシアが笑う。
「くくく、元凶ね、間違って無いよ。ここを見つけたのも、ここに探索者拠点を作ろうって言い出したのも、いろんな奴等を引っ張って来たのも、ドリンだからねえ」
「元凶なんて大袈裟な呼ばれ方されることをした憶えは無い。みんなでノリノリで楽しくやってたろうが。あーっと、とりあえず落ち着け
「ひいっ! 来るなぁっ! 近づくなぁっ! やだっ! もうやだぁっ! うわあああん! いやぁっ! もういや! おねぇちゃん助けてえ! ああああああん! おねぇちゃあああん! びゃああああああ!」
うわぁ、マジ泣きだ、ガン泣きだ。
ここまで怯えられて、俺、ちょっとキズついた。うーわ、なんだこの女。
俺が何したってんだ。あー、したか? 溺れさせたりしたか? でもなー。なんだかなぁ。
「すまない、彼女に悪気は無いんだ」
そう言って頭を下げるのは、さっきこの女に謝ってた
たぶん
「彼女は以前、地下迷宮に大量に出現したという水に流されて、溺れて、発見したときには呼吸が止まっていた。発見が早くてなんとか手当てが間に合い、息は吹き返して助かったものの、それ以来ずっと情緒不安定で」
そうなのか。よく生きてたな。
なんかびゃいびゃい泣いてるけど、このひとりにいつまでもかまってられないし。
「シャララ、グランシア、ゼラファ。その
武器を捨てた
「じゃあ、まず、ふろー、じゃなくて
「オオ!」
「コレハマタ」
「分解シテ解析ニ」
「テストシタイコトモ」
「楽シミデスノ」
合成音声でいつもより低くて渋い声で返事する。
その知識とテクノロジスは
それに
そのうちドルフ帝国の
なので
全身が金属の奇妙な種族と思われるだろうけれど、自衛ができて
金属樽はこれでよしとして。
「で、次はディレンドン王女」
「準備はできてますわよ。今度こそ私がドカンと活躍できますわよね?」
「防壁の上で
「当然ですわ。なんの為に
そのまま戦闘できるドレスというのが、ディレンドン王女が気に入ったとこらしい。
もとの
「ディレンドン王女は穴堀一徹を連れて地上に。サーラントと灰剣狼とローゼットが転送部屋と出入り口を押さえに行ってる。そのサポートをして、メインは地下迷宮出入り口を守るバリケードを作って欲しい」
「バリケードでは物足りませんわね。何を建てようかしら」
「そこは任せる。転送アミュレットを持ってる探索者と組んで、30層転送陣から移動で」
「解りましたわ。余裕があれば浅い階層のビギナーゴーレムを倒して、穴堀一徹に転送アミュレットを持たせたいですわね」
「小迷宮や中迷宮のビギナーゴーレムとは違って強いから、侮るとケガをするぞ」
「気をつけますわ。では我がドワーフ王国が誇る技術者集団にして職人軍団、穴堀一徹! 出番ですわ! 行きますわよ!」
「「
これで地下迷宮出入り口は押さえて。
あとは
隣で真っ先に話を理解して表情変えた男と、隊長の耳元にコソコソと話して説明してた女、二人の副官がキレ者っぽい。
あとは1番身分階級の高いお坊っちゃまひとり、この辺りを捕虜で残しておくと。
あとは
マルーン街の防衛体勢とか聞き出すには、このくらいで。
「5、6人で班に分けて、探索者の
あとは地下迷宮の中に残る
「エイルトロン。探索者と組んで、20層と10層の転送部屋を見てきて欲しい。そこを守ってる
「え? 百層大迷宮をいきなり30層からスタートですか? これは緊張しますね」
あー、普通は地上から浅いとこから順に行くし、深いとこほど強いのがいるからそうなるか。
「エイルトロン、様子を見るついで、ぐらいの気持ちで。魔獣が出たら慣れてる探索者に任せていいから」
チラリと見ると
「ま、任せておいて。30層より上ならボス以外はたいしたこと無いから。ね、ディグン」
「そうだな。ちょっと待ってくれ、鎧を脱いでくるから」
エイルトロンが首を傾げて、
「なぜ、これから地下迷宮に行くのに、鎧を脱ぐんですか?」
「だってこの
「……余裕がありますねぇ」
「ここの探索者ってわりとこんな感じよ」
だいたいこんなとこか、さて俺も上に行くか。
「ちょっと、ドリン」
「なんだグランシア? グランシアは
「それは解ってる。だけどあれは?」
グランシアの見る先には、まだびゃいびゃい泣いてる
「あのうるさいの連れて地下迷宮行くのはヤダ」
「あー、仕方無い。あの子も捕虜組で。踊る子馬亭でなんか食べさせてやって」
「ドリンも女泣かせだねぇ。泣かせた責任とらないと」
「ちょっと待て。あれは俺の責任の範疇外だ。あんな泣かせ方は俺の趣味じゃ無いし」
何故かゼラファに抱きついて子供みたいに泣いてるのを、シャララがあやしている。幼児退行してる。
そんなの相手にしてる暇は無いんだが。
みんな、もうちょいマジメに戦争しよう?
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