第76話◇グランシア主役回◇新たな戦武衣、新たな戦場
◇◇
シャララが目を輝かせてる。
「グラ
「
久しぶりに
なんでも
「ちょっと派手過ぎるかな?」
シャララに聞いてみる。
「うん。キンキラキンだから目立つね。それで隠れたりするのは無理だけど、これからやることには派手な方がいいんじゃない?」
前はスリットが開いているので足さばきの邪魔にはならないね。
他の種族には、
だけどそれは表の理由。裏の理由を隠す為。裏の理由は隠す為。
個人の武勇に定評のある
そして感情に合わせてつい動いてしまう
戦闘技術、いわゆる武術の話になるけど、相手の動きを読む上でこの爪先と膝の向き、そして尻尾の動きは重要なもの。立ち姿と合わせれば重心の位置に次の動作もバレバレになってしまう。
私やゼラファ程度になれば、戦闘中に相手が想うことも動作と姿勢から見透かせる。
身体を動かす前に想いが身体を動かそうとして、身体より先に想いが動く。その想いの動きを読み取り、機の起こりを捉えて先を取るのが
相手が斬ろうとするより前の、斬ろうと想ったところを相手よりも先に捉える。
どんなに素早い種族でも、その機の起こりを捉えて動作に入る前に把握する。把握して先を取る。先の先を取り、後の先を取る。
どんな生物でも心の動きが身体に現れる。視線、動悸、呼吸、筋肉の動き、関節の軋み、瞳孔の開き。
更に熟練した私の師匠なら己の動作で相手の想いを誘導して操作する。それを武の技術として極めようっていうんだから
実際、長距離なら
だが、闘いの速さなら
だからこそ、立ち姿から相手に己の身体情報を隠して教えないようにするために
爪先の向きと膝の向きと尻尾を隠す為の
地下迷宮探索では着ないけどね。魔獣相手にはあまり意味が無い。
その
「うん、久しぶりに着ると気が引き締まるね」
剣帯をギュッと絞め直す。
セラミクスで補強したグローブにブーツ。頭にはシャララが乗るヘッドギア。
腰の後ろにバッテンにドスを2本剣帯で着けて戦闘準備完了。
ゼラファにネスファにカームも
カームは
カームはもっと自分の魅力に自信を持てばいいのにね。
「それじゃ、カームとネスファはローゼットと協力して
「なぜ、私が
「まぁまぁカーム。私達でグランシアとゼラファの戦場に邪魔が入らないようにしよ」
文句を言うカームをネスファが引っ張っていく。
「そっちはグランシアとシャララとゼラファの3人でいいのか?」
「ローゼットは
不安げなローゼットに手を振って送り出す。
百でも千でもあしらえる。万は流石に体力が持たないかな?
「ゼラファは回り込もうとするのがいたら潰して」
「任せてくれ、グラ
ゼラファが肩に長ドスを乗せて応える。すっかり長ドスが気に入ってるみたい。足の速い速度特化希少種、豹種のゼラファには取りこぼしを相手にしてもらって、と。
ローゼットの部隊の
「さーて、なんのためにこの集落の
私が聞いてみると、私の後頭部、ヘッドギアに座ってベルトを締めながらシャララが応える。
「悪魔界の障気にあてられて凶暴化してる? それとも襲って食料取りに行くつもりかな? 捕まえて聞いてみようか」
「そうしよっか」
「幻想戦士グランス=シャララの初陣だね!」
「シャララ、今後もそのコンビ名で行くつもり?」
「グラ
「んー、ちょっと考えてみる」
そういう渾名は自分で考えるものでは無く、闘いぶりを見た奴等がつけるもんだけどね。
私だと捻りも無く『最強の双剣』、ゼラファは『最速の槍』って呼ばれてる。
カゲンとヤーゲンの兄弟は挟まれたら逃げられないって『大狼の
パリオーの『褐色の閃光』はなかなかいいよね。
で、ドリンとサーラントは『触るな凸凹』
……触るなと言われると触りたくなるよねぇ。迂闊に触って悲惨なメにあった奴らも多いけど。
私にこんな戦場を用意するなんて、ドリンに感謝だ。
本来の私の役目を放り出した故郷の皆には悪いけど、この戦場を選んだことに後悔はない。
一族に危機が迫るとき、
戦闘特化希少種の獅子種が産まれても、大きな事件が起きなかったこともあるけれど、私の場合は違っていた。
私の産まれた翌年に速度特化希少種の豹種、ゼラファが産まれた。
2年続けての希少種の誕生、そして私とゼラファが一人前になる頃には周期的に戦争の時期になる。
次の戦争には何かがある、と年寄り連中は尻尾の毛を逆立てた。それで師匠連は競って私とゼラファに
そのおかげで私とゼラファはけっこう強いと自慢できるぐらいにはなった。技を鍛えて強くなることはおもしろく、私がどこまでの高みに行けるかは楽しみで、師匠連には感謝している。
ただ私が強くなったことで、
質のいい武器や防具も作れない。いいものを揃えようとすればドワーフに頼るしかない。
次の戦争の為にもそのあたりに備えないと、
なので、私はゼラファとネスファを連れて武術修行と称して探索者となった。
ここだけの話、実は私とゼラファは戦闘技術の修練ばっかりしてて、料理とか裁縫とかぜんぜんダメダメ。そこはいつもネスファに面倒を見てもらってる。
しょうがないなぁ、と言いつつも世話をしてくれるネスファに、私もゼラファも甘えてしまってるのだけどね。
探索者として地下迷宮に挑みながら、他の探索者の異種族に手合わせを頼んだりして、種族ごとの得手不得手も掴んできた。
何度も負けて学んだ。1対1なら最強の双剣とか呼ばれても勝てない相手がいる。悔しいことに。おもしろいことに。
私とゼラファの2人組では
足を止めての殴り合いとなれば
平原で弓矢を装備した
ランスを装備した
あのガタイであの突進。ランス以外にもシールドも脚甲をつけた前足も、あれは全身が当たれば致命の走る凶器じゃないか。
アルムスオンには他にもまだまだおもしろいのがいるんだろうね。
他の種族と話をして、探索者を引退しようっていうのを見つけてはお願いした。
エルフ、
私とゼラファとネスファでは交渉なんて上手くいかない。だけど猫娘衆には
私は本当に仲間に恵まれているね。
次の戦争のために故郷の一族の強化と準備を整えて、あとは私が率いてドルフ帝国の多種族連合軍に参加する、はずだったんだけどね。
万全の備えで故郷の一族率いて戦う予定だったんだけどね。
触るな凸凹に触れてしまった。触ってしまったのなら仕方無い。
より大きな戦場がそこにあるなら仕方無い。
そして百年おきの
挑むしか無いよねえ。
まったく、ドリンとサーラント、あのふたりは言い出すこともやることもどこかなにかおかしい。だが、そこに妙に惹かれる。気になって気になってしょうがない。
あのふたりは見てるところが何か違う。
サーラントは目指す闘う相手が遥か遠いのだろう。目前の敵を道の上の邪魔な障害物のように見ることがある。だからか、見てるとなんだか危なっかしい。
それでもサーラントの正義に共感してしまうとこがあるから、手を出したくなる。ほっとけなくなる。
大角軍団のときも私とカゲンでそろそろどうにかしよっか、と話をしてたところを先に触るな凸凹から持ちかけられた。
ドリンはドリンであれは世界をナメている。相手の用意した戦場が気に入らなければ、戦場そのものをひっくり返す。世界の方を変えようとする。
だが、それがいい。そっちの方がおもしろいし気分がいい。
その方が未来はおもしろそうだ。
今、その対極にあるのが
数の力で世界を飲もうとする
同じ種族の同じ仲間を大事にできない種族。
自分達が生きる為には、他の種族に、世界に、何をしてもいいと考えて、それを恥とも思わない、なんだか気持ち悪い種族。
言葉を口にしても会話が、交渉が通用しない、増えすぎたイナゴの群れのような種族。
百年先の自分達の同族の未来を考えることもできず、ただ目の前のものを食い漁る姿は、野の獣や虫よりも愚かでおぞましい。
確かにその理屈なら
まぁ、それでも数を減らしてもらわないとならない。せめて自分達で人口を調整できるようにはなってもらわないと。
「グラ
「ん? この先の事。だけどそれも悪魔と悪魔王をどうにかしてからだね」
「そのためにも先ずは
「もとエルフもどきのとこにさっさと集まってくれると楽なんだけど。あとは悪魔王がどこにいるか」
悪魔王が出てこないかと期待している。一目見ることはできないかな、と。
あの紫のじいさんと闘りあうような奴に私では勝てないだろうけど、その姿を1度見ておきたい。
剣帯にくくりつけた紫のじいさんの贈り物、
誘い出せたらラァちゃんのとこにさっさと逃げるけどね。
「グラ
「いや、流石にそれは無い。今の私じゃどうにもならないだろうし」
やがては悪魔王相手に、サシで勝てるようになりたいけどね。
「こっちは邪魔な
「新コンビネーションの初陣だね!」
「相手が馬に乗った
ドスを鞘から抜いて右手と左手に1本ずつ持つ。
背が黒く刃が銀の2色の剣。これまでとは違う新しい闘いの時流の予感に、身も心も震える。
シャララとの連携、一流の幻覚系統魔術師とのコンビネーション。切断特化の新型剣ドスの為の新たな操剣技術。
そして闘う敵は悪魔と来た。
下位の悪魔と存分に闘りあうためにも、まずは
ついでにその後のこと。
これからの未来に、これからの戦場の為に。
この新しい戦力で
私とシャララで新しい時代を創るのを手伝え、と。
『狂乱した
ドリンは可愛い顔してサラリとえげつない事を口にするよねえ。その発想が、いい。くく、愛してるよドリン。
触るな凸凹に触れば何が起こるか解らない。私が言い出したことだけど。
「うくくくく」
次から次へと伝説の飛び出てくるビックリ箱だ。壮大でデタラメでバカバカしくって笑いが出る。
「グラ
「そりゃあそうさ。あぁ、世界は、アルムスオンは、最高に楽しくておもしろい!」
気まぐれものの母神よ、私はこのアルムスオンに獅子種と産まれたことを感謝する。
草原の向こうから馬に乗った
シャララが私に支援の魔術をかける。シャララの魔術構成の呪文はいつも気分でコロコロ変わる。
そして気分がノッている時ほど、効果は高い。
「華麗に優雅に、美しく勇ましく、風のように! 蝶のように!」
「シャララもご機嫌じゃあないか、さぁて行こうか」
両手のドスを持ち上げて、翼のように広げて待ち構える。ネオールに聞いた、ここに向かう
「対悪魔戦の準備運動に、軽く蹂躙しよう」
「ふふーん、幻想の花園へようこそ! だね!」
さぁ、ドリン、
次は何を見せてくれるんだい?
さぁ、アルムスオン、
私にどんな戦場を見せてくれるんだい?
更なる戦場を駆けて抜けて越えて打ち克って、更なる高みを、更なる戦闘技術を、更なる強さを、更なるお楽しみを。
やがては
まだまだ先は遠いねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます