第70話◇ネオール主役回◇大草原の戦争、二日目

◇◇部隊パーティ白角の一人、鷹人イーグルスネオールの視点になります◇◇



「それなら、人間ヒューマンの利点と人間ヒューマンの誇りってなんなんだろう?」


 俺の言葉に、俺の背中と足をマッサージしてる女の子達の手が一瞬止まる。明日も空を飛んで、あの戦場を見るならシュトール王子には言っておいた方がいいかな。


「正直、1日戦争を上空から見てたらけっこう気分が悪い。気が滅入った」


 あれが百年に1度の戦争。大草原の大虐殺。

 ろくに武装もしてない、戦闘経験も無さそうな人間ヒューマンの兵士。いや、あれは兵士でも戦士でも無い。戦闘訓練もしたことあるのかどうか。

 槍を持つというより持たされて、半狂乱で多種族連合軍に突撃する人間ヒューマン

 重カノンで吹き飛ばされ、弓矢で射たれ、それでも数が多いから抜けて来るのがいる。

 その人間ヒューマンを待ち受けるのは人熊グリーズ蜘蛛女アラクネ狼面ウルフフェイス猫尾キャットテイル大鬼オーガ

『草原の恐怖』の代名詞、ランスを装備した人馬セントールの兵団青。軽カノンを持った対魔術、対古代魔術鎧アンティーク・ギアの精鋭、人馬セントールの兵団赤。

 単体の戦闘力が比べることすらバカらしいくらいに強い戦闘種。槍を持っただけの人間ヒューマンが勝てるはずが無い。


 それでも向かってくる人間ヒューマンの群れ。それもそのはず、逃げようとする人間ヒューマンは背後にいる人間ヒューマンから矢で射られ魔術で撃たれる。

 逃げようとすれば背後の同族に殺されて、逃げずに突撃すれば前方の多種族連合軍に殺される。

 泣き叫んで同族に射たれて殺される人間ヒューマン

 味方に刺されるよりは、と前に突っ込んで、人熊グリーズの熊の前足のひと振りで頭を飛ばして無くす人間ヒューマン

 戦場に嫌気が刺したのか自分の首をナイフで切って自死する人間ヒューマン

 多種族連合軍と人間ヒューマンの軍が挟み撃ちして、人間ヒューマンを屠殺するのが大草原の戦争だった。


「あれは戦いにもなってない、一方的な虐殺じゃ無いか」


 ついうんざりした口で言葉を吐く。総大将のシュトール王子にこんなこと言うのは良くないと解ってはいるけども。

 シュトール王子もふぅと息をついて、


人間ヒューマンの利点はその数の増え方だろう。そして人間ヒューマンもそれを理解している。ここで数を減らして人口調整しなければ人間ヒューマンの社会の危機だと。だからそのために戦争をしかけてくる。人間ヒューマンを2万から3万ほど殺せば今回の戦争は終わるだろう」

「なんでそれを俺たちがやらなきゃならないんだか」

人間ヒューマンにとっても同族殺しは禁忌なのでは無いか? 人口調整の為の理由が欲しいのだろう。あとは今のネオールのように厭戦気分にするという、精神に攻撃する戦術、という説もある」

「命を無駄にしてか? 人間ヒューマンの人口増加は人間ヒューマンの問題なんじゃ無いのか?」

「だがそれを人間ヒューマンは自力ではどうにもできん。誰かがやらなければならないことだ。我らがここで人間ヒューマンの数を減らさなければ、アルムスオンは人間ヒューマンに食い潰されることになる」


 人間ヒューマンが嫌われるのはこれでは当然だ。なんでこんなことになるのか。


人間ヒューマンが寿命が短く繁殖力旺盛とはいえ、その数の力で天敵に勝ったことが今の状態を悪化させている。俺の兄貴の話だが、人間ヒューマンが異種族喰いの豚鬼オーク蜘蛛女アラクネ人熊グリーズを追いやったことで人間ヒューマンを殺す種族が少なくなった。人間ヒューマンが彼らの土地を奪い農地にしたことで、食料の増えた人間ヒューマンの増加は加速した」

人間ヒューマンが今の状況を作って、その尻拭いを他の種族にさせてるってのか」

「大規模な戦争もまた貨幣経済と同じく、人間ヒューマンの発明という話だ。我らとて過去には縄張り争いなどあったが、負けた方が引いて終わるものだ。それを一定数の殺戮が目的という戦争は人間ヒューマン独自のものだ」


 聞いていたディストレックが口を挟む。


ダークも昔はライトと争った歴史はあるけど、こんな戦争は無い。土地を奪うというのが表の嘘の目的で、本当の裏の目的は死体を増やすこと、なんていうのは、スッキリしないしやりきれない。なにかいい解決の仕方は無いのか?」

「そんなものがあれば千年も同じことを繰り返してはいない。変化があったのは人間ヒューマンの厳格な階級社会の成立か。切り捨てるべき下の階級を明確にするのが目的という」


 ドワーフ王国やドルフ帝国にも王族、貴族というものはある。だけどそれは群れを纏める頭が誰だっていうもので、他の種族の族長とか長老なんてのとあまり変わらない。

 それを1級から8級までの階級を厳格に定めて、上の階級は下の階級を殺してもいい、なんて恐ろしいシステムを作ったのは人間ヒューマンだけだ。

 纏める上を決めるのでは無く、処分する下を決めるのが人間ヒューマンの思考とその社会。

 人間ヒューマンも個人が相手なら、ノクラーソンみたいに話ができる奴もいるのにな。なんで人間ヒューマンの集団はあんなに気持ち悪くて、理解できないんだろう?

 たとえ理解できたとしても、俺はあんなのは受け入れられない。

 死にに来るくらいならどっかに逃げろよ、とも思うが、どこにも逃げるところが無いから死にに来るのか? はー。


 ドリンとサーラントは前からこんなことを考えてたっていうのか? ただ百層大迷宮に都合のいい探索拠点を作って、ダンジョン税を無くす為に人間ヒューマンにケンカを売るってだけじゃ無かったのか?

 いや、アルマルンガ王国をどうにかしないと、白蛇女メリュジン黒浮種フロートを守ることはできないのか。


 なんで俺が人間ヒューマンの国をどうにかする、なんてことを考えるようになって、ドルフの王子と縁ができてしまったのか。

 ただの探索者のはずだったのに。

 触るな凸凹、本当に触ると何が起きるか解らないな、あいつら。


「あ、そうだ。サーラントがやってること、シュトール王子は知ってるのか?」

「ミトルから聞いた。あいつはまた妙なものを見つけたらしいな」

「それ絡みであのドリンとサーラントが言ってたんだけど、地上のくだらない戦争をどうにかできるかもしれないって」

「サーラントがそんなことを?」

「目的は違うけれど、アルマルンガ王国を引っくり返すもののついでにやってみるか、とかなんとか。ドルフ帝国も手伝ってくれないかなーって言ってた」

「ついで、で千年続いてることがどうにかなるのか。あとドルフ帝国をなんだと思っている」

「いやー、あいつらそんなノリでドワーフ王国とエルフ同盟を動かしたから」


 ほんとにあいつらなんなんだろ。皆でディストレックを見る。ドリンとサーラントに動かされたダークエルフの族長の息子。戦闘部隊、闇牙の頭。ディストレックは苦笑する。


「ドリンとサーラント、あのふたりは、あれは頭がきれる、というかぶちきれてるというか。禁忌のはずの地下迷宮改造はするし、人間ヒューマン領域に大混乱を引き起こすとか画策してるし。ドリンが、助けた人間ヒューマンの親子を『駒として使えそうだから大事に扱ってくれ』と言ったときには背筋がゾクリとした。あれが魔術に変革をもたらすと伝承される希少種魔性小人ブラウニーか。ドルフ帝国の王子というサーラントも、新種のカノン開発を黒浮種フロートと画策しているというし。エルフ同盟から見たら魔術を消すカノンが増えるなんてのは恐怖だぞ。なんとしても黒浮種フロートは敵にしたくは無い」

「まるで、ドリンとサーラントに脅されてエルフ同盟が動いたみたいじゃ無いか?」

「そこは百層大迷宮のお宝が目当てで、白蛇女メリュジン黒浮種フロートを守りふたつの種族の独立の為、という大義名文も用意してもらってる。これで動かないならエルフってなんなの? と脅されたようなもんだ。なかなかに怖い奴らだよ」


 やっぱあいつらの評価ってそうなるよな。


「トンネル開通したらあのふたりがシュトール王子に話をするんだろ。セルバンもサーラントから聞いてるんじゃないか?」

「大筋のところは。百層大迷宮をアルマルンガ王国より奪い、人間ヒューマン西方領域を弱体化させると」

「触るな凸凹が言うには、人間ヒューマンの貨幣の価値を暴落させて信用を無くして流通を退化させる予定だと。人間ヒューマンの流通と経済を崩壊させることによる国家の弱体化を狙ってるんだとか。それに合わせてエルフ同盟とドワーフ王国には、人間ヒューマンとの交易を止めてもらうって案がある」


 一部のエルフとドワーフが人間ヒューマンと交易をしている。ただ、人間ヒューマンが可哀想だからと食糧を売ってやるのが、人間ヒューマンの増加の理由のひとつだし。

 半端な親切心が人間ヒューマンを増長させているらしい。

 シュトール王子が、うむう、と唸る。


「あの二人は人間ヒューマンを徹底的にアルムスオンから切り捨てるつもりなのか?」

人間ヒューマンを全滅させた方がいいって言うのもいるけど。ドリンとサーラントはそれは不可能だろうって言ってた。数が多すぎるし増えるのが早いから。これからどうするかは戦争の結果次第でやり口を決めるんだと」


 人馬セントール流、ハーブの入った薬液マッサージのおかげで首と背中が軽くなった。あと、とても幸せな気分になれた。なかなかいいな、人馬セントールの美女のマッサージは。

 背中だけじゃなくて足の方も足の裏までやってもらったし。

 背中についた薬液を拭いてくれる女の子を見てみると、キリッとした方の美人さんが俺の翼から落ちた羽をひとつ指に摘まんで見ていた。よかったらどうぞ、というと嬉しそうに「ありがとうございます」と笑顔でお礼を言われた。

 え? 俺の羽なんてもらって嬉しいの?

 なんだろうこの幸せな気持ち。隠れ里の件に関わってから、やたらと忙しく都合よく使われてるけど、幸福体験ばかりで嬉しすぎる。

 可愛い白蛇女メリュジンにたわわなグレイエルフと仲良くなれて、美女人馬セントールにマッサージされて。


 やっぱ俺もこのままこの伝説級の1件にネオールの名を残して、他の鷹人イーグルスも故郷から引っ張ってきてやろう。

 引き込もってる同族にアルムスオンの楽しさを教えてやらないと。


「トンネルが開通したらその隠れ里に住む者に挨拶に行かねばな。そのときにサーラントから直接話を聞くとしよう」


 シュトール王子とセルバンは夜間の警備体制の確認に出て行った。


「こっちは飯にするか」

「おう」


 ディストレックとふたりでテントの外、祭りのような賑わいを見せる野営地で食事にする。

 様々な種族と杯を重ねて話をする。まともな戦いにならない不満、気分の悪い戦争、そのやりきれなさを晴らそうと盛り上がっているような宴だった。


 翌日、日が昇り大草原が明るくなって二日目の戦争の日。

 シュトール王子が2万人ほど殺せば終わると言っていたが、1日2千人殺せば10日で終わるのか?

 夜間には小規模の夜襲があったようだけど、蜘蛛女アラクネが見つけてカノン装備の人馬セントール蜘蛛女アラクネ猫尾キャットテイルがあっさりと返り討ちにしたという。

 夜の暗闇の中で蜘蛛女アラクネ猫尾キャットテイルを相手にするとか、絶望的過ぎる。


 上空へと飛び双眼鏡で人間ヒューマンの様子を見る。

 人間ヒューマンは1日に2回も3回も食事しないと身体がもたないらしい。

 朝から列に並んで食糧を受け取りスープをすすってパンを食ってるが、どいつも下を向いてて暗い顔だ。どうやら美味くないらしい。

 最後の食事になるかもしれないのに美味くも無く楽しくも無さそうだ。


 こちらが大雑把と噂の小人ハーフリングの食事の加護で、皆で笑ってたのとは随分と違う。

 小人ハーフリングの食事の加護は、草原からニョキッと生えた植物に、焼きたてパンが生ってほかほかシチュー入りの巨大な胡桃が生る。

 それができる数も大きさも毎回違うという。小人ハーフリングひとりで食べきれない量がポンポンできるのが特徴のひとつらしい。

 昨日のパンの最大記録は直径1メートル3センチ。小人ハーフリングの神様、雑過ぎるだろ。


 食事を終えた人間ヒューマンが、味方の筈の人間ヒューマンに後ろから追われて進軍する。

 多種族連合軍がそれを待ち受ける。ボロい装備で進む人間ヒューマン。立派な鎧の騎馬兵は後ろから人間ヒューマンを追い立てる係りらしい。

 多種族連合軍の方は派手な装備で士気も高い。

 もとは狼面ウルフフェイスが鎧の上に群れごとの模様をペイントしてたもの。それぞれの群れの紋様は渋くてカッコいい。それを真似しているのがいたり。

 大鬼オーガはかなり派手だ。戦いであればそれが自分の命の尽きる時となるかもしれない。ならば命を散らすそのときは派手に飾る、というのが大鬼オーガ流。

 鎧の上に絵を描いたり豪華な刺繍の入った戦衣ウォーコートをかけたりとか、派手な飾り付きの肩当てで身を飾る。

 カノンの影響で魔術が使えないので出番の無い小妖精ピクシーは、皆の鎧に絵を描いたり花を刺したり花輪を兜にかけたりするので、規律の厳しいドルフ帝国人馬セントール兵士以外は、みんなやたらと派手にお洒落になってる。

 猫尾キャットテイルの女戦士の戦舞衣ウォードレスなんて、そのまま舞踏会に行ってもおかしくないんじゃないか?


 薄汚れたボロい服で鬱々と進む人間ヒューマンとは大違いだ。

 文化の違いなんだろうけれど、俺達と人間ヒューマンでは戦いに対する思いが違い過ぎる。

 俺達と人間ヒューマンでは、もとから交渉とか交流するには無理があったのかもしれない。こんなに違うとなると。

 でも俺は俺で、翼の無い種族とも身体の大きさの違う奴等とも、足が無い種族とも、足の数の多いあいつらとも、それなりに付き合っていけるんだけど。

 なんで人間ヒューマンの集団とは上手く行かないんだろう?


 戦場は昨日と同じ。ガボン、ガボーンと鳴り響く重カノンの発射音。鋼の玉が人間ヒューマンを襲う。それを抜けた人間ヒューマンはエルフを中心とした弓隊の矢の的になる。

 軽カノンも撃ち込まれ、着弾点から周囲はしばらく魔術が使えないから魔術も無効。

 ボロボロになってカノンと矢の雨を抜けてきた人間ヒューマンを待ち構えるのは、大鬼オーガ狼面ウルフフェイス猫尾キャットテイル人熊グリーズ蜘蛛女アラクネの戦闘種に、次々ととどめを刺される。

 前線はそんな感じで何も問題なし。

 魔術と飛び道具の届かない上空から、人間ヒューマンの軍後方の騎馬兵と古代兵器武装騎士団アンティークナイツが動いたら、それを報せるのが俺の役目。

 騎馬兵がちょろちょろ出てきたら重カノン部隊に目標を伝えに地上に降りる。

 今日は昨日よりも動きが少ないような? 前線に送り込む人間ヒューマンを後ろから追い立てているだけに見える。


 ただ人間ヒューマンの後衛の辺りに小さく青い光がキラリと光る。なんだ? 気になって近づいて上空から双眼鏡で見てみる。

 人間ヒューマンの後衛で少し開けたところ、そこに巨大な魔術陣形?

 あれは、人間ヒューマンの得意な集団魔術か? 人間ヒューマンの魔術師が何人もいて、直径10メートルくらいの巨大魔術陣形を囲んで何やら呪文を唱えている。

 こんなところでいったい何の魔術を? ここから多種族連合軍まで届くような魔術は無いはずだろ。普通の攻撃魔術なら射程距離はカノン以下のはず。

 新型の防御か支援の魔術なのか?

 もしかして今までに無いような、超長射程の魔術攻撃でも開発したっていうのか?

 それだと不味い。くそ、俺は魔術師じゃ無いからこんなの解らないぞ。

 重カノンの射程距離の外だから、カノンを撃ち込んで魔術を中断させるのは無理か?


 巨大魔術陣形の中央にある青い光。あれは、魔晶石なのか? あの大きさの魔晶石なんて隠れ里でしか見たことがない。

 遠すぎて解りずらいが、あの台座に乗ってる魔晶石は、直径50センチくらいあるんじゃ無いのか?

 魔術陣形の一角には倒れたエルフと小人ハーフリング、合わせて6人ぐらい? 口枷を付けられ白目を向いて倒れてピクリともしない。おい、まさか、これは。

 そして辺りにうっすらと漂って来た匂い。枯れた草のような乾いた匂い。錆びた鉄のようなざらつく臭いは。怖気の走るこの気持ち悪い臭いは。

 憶えがある。思い出して背筋が泡立つ。


「おい、ふざけるなよ! 人間ヒューマン!」


 不味い、これは不味いぞ! 振り返って多種族連合軍へと全速で飛ぶ。

 人間ヒューマン、あいつらアルムスオンの全てを敵に回すつもりなのか? 正気なのか? 

 多種族連合軍の前線、弓矢をかわして低空飛行で叫びながら飛ぶ。


「撤退! 全員撤退しろ! ここから引け!」


 シュトール王子を探しながら俺は撤退! 撤退! と声をかける。シュトール王子のいる本陣に辿り着く。


「ネオール! 何があった!?」

「シュトール王子! すぐに全軍撤退させてくれ! 人間ヒューマンが異常な集団魔術を!」

カノンで潰せないのか?」

「無理だ! そこまで届かない! しかもその魔術でエルフと小人ハーフリングを贄にしようとしている! 早く撤退命令を! この匂いはマズい!」


 このアルムスオンで贄を使うなんて魔術の系統は、俺はひとつしか知らない。

 この匂いも昔、部隊パーティ白角でやりあった、あのときのあいつの臭いに似ている。

 振り向けば巨大魔術陣形のあった辺りの空が暗くなっていく。

 魔術に詳しく無いが、あの魔術陣形と参加する魔術師の人数の規模。戦局をひっくり返すつもりの一手なら。あの魔術が成功すれば、この戦争は俺達が負ける。

 そして人間ヒューマンが勝っても、それは人間ヒューマンが勝った後のことをまるで考えて無いということだ。

 アルムスオンの未来なんてどうでもいいっていうのか? 人間ヒューマン


 シュトール王子の指示で昨日の美女人馬セントールが空に向かって軽カノンを撃つ。上空に光る赤い信号弾。

 シュトール王子が号令する。


「全軍撤退! お前達は突出している蜘蛛女アラクネ人熊グリーズを引かせろ! 後退して再集結だ! 急げ!」


 数は少なくても圧倒的に優位だったはずの多種族連合軍が、転進撤退。

 人間ヒューマンの軍から離れる為に走る。みんな急げ! 急げ!

 数が多くても下位なら多種族連合軍でどうにかなるかもしれない。だけど上位なんて来た日には、ラァちゃんに頼んで古代種エンシェントに来て貰うしか無いだろう。

 再び上空に飛び上がり巨大魔術陣形のある辺りを見る。

 空は晴れているのにそこだけ薄暗くなっている。まるでそこだけが光を嫌って押し退けているかのように。

 多種族連合軍は急な撤退命令をいぶかしみながらも後退する。何も知らない人間ヒューマンが奇声を上げて追いかけている。


 魔術師じゃ無い俺には、どれだけの規模でどんな結果が出るのかまるで予想がつかない。ただ、ろくでもないことになることだけは俺にも解る。

 集団魔術は時間がかかって発動が遅い。多種族連合軍が退いて、少しは離れることもできるだろう。ただ、時間がかかるほどに、それはあいつらがそれだけの大物か、または数を大勢呼び出そうとしているということになるんじゃないか?

 あぁ、もう。呪われろクソ人間ヒューマン


 大草原、人間ヒューマンとの戦争2日目。

 この日、大草原に巨大な黒い影の柱が地上から天に聳え立つ。


 人間ヒューマンの集団魔術に依る大規模な、悪魔の召喚の系統の魔術。

 大草原に悪魔界との扉が開く。


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