第66話◇サーラント主役回◇森のエルフもどき狩り、後編
◇◇エルフの森に残った
夕刻、
「サーラントお……、こほん、サーラント、お帰りなさいませ」
ドワーフ王国の第二王女、激流姫、ディレンドン王女。その後ろに控えているのが
ディレンドン王女は真っ赤なツナギの作業着に身を包み、その身体からはやる気と気合いがはみ出しているように元気に見える。
ディレンドン王女がドワーフ王国から職人の一団を連れて到着し、早々にトンネル工事に取りかかった。
ドワーフ達はトンネル工事の現場の周囲にテントを張り、この
ディレンドン王女がローゼットと俺達に駆け寄ってきて、戦果を聞く。
「首尾はいかがでしたか? その背に乗せているのが噂のエルフもどき?」
「そうだ。5人捕獲した。族長のレスティル=サハは何処にいる?」
「リムレイルとトンネル工事の現場にいますわ。呼んできましょうか?」
「いや、こちらから行こう。ノスフィールゼロは?」
「レスティル=サハかリムレイルがいつも抱いていますわ。ノスフィールゼロの護衛も兼ねて。
あの豊満な胸を押しつけて男をからかうのは、アムレイヤだけでは無かったというのが、ちょっと困る。
トンネル工事現場に向かう途中、町で遊ぶ子供を見かける。
エルフもどきに襲われているのを俺達が助けた。その親子だ。母親の方は子供達を見ながら
種族の違いなど関係無く、子供達はすぐに仲良くなったようだ。
その兄妹が俺に気がついて、手を繋いで走ってくる。
「サーラント! そいつらは?」
兄の方が俺達の背中の黒装束に気がついた。この
「森に逃げ込んでいたのを俺達で捕まえてきた。今からレスティル=サハに引き渡すところだ」
「また悪い奴等をやっつけたんだ。サーラントってやっぱりすごいんだ」
俺とドリンとシャララでこの親子を助けたからか、この兄と妹は俺をまるで英雄を見るような目で見る。
「ねぇ、サーラント。また妹を背中に乗せてやってよ」
「あとでな」
何となく兄妹ふたりの頭を右手と左手でクシャクシャと撫でる。妹の方が目を細めて、くすぐったそうな嬉しそうな顔をする。
用事が終われば遊ぶと兄妹と約束して、レスティル=サハのもとに向かう。
ローゼットが1度兄妹をチラリと見て、
「
ローゼットが俺の背でぐったりとなる黒装束を見て言う。環境が悪いのだろうか?
「しかし、サーラントは随分となつかれたもんだ」
「あの親子にとっては、俺は命の恩人ということになるらしい」
聞いたディレンドン王女が楽しそうに、少し悔しそうに言う。
「どうして私の手紙を届けてトンネル工事の話をするだけの道中が、エルフもどきという
「ディレンドン王女、俺はたまたまそういう事態に出くわしただけだ」
「いや、サーラントは出くわしたら自分から首を突っ込んで突撃して行くだろ」
ローゼットの言葉にあのときのことを思い出して少し考えてみるが、
「ローゼット、
「ん? まぁ、子供が襲われてたら助けに行くか」
「でも、私は子供が襲われているところになかなか遭遇できませんわ」
「ディレンドン王女、それはドワーフ王国が平和だということで、嘆くところでは無い」
この王女様は英雄願望が強いらしい。はなしかながらトンネル工事現場の近くへと行く。ドワーフ職人達のテントがひしめいているところ。
背中の黒装束をドサドサと地面に落として一ヶ所にまとめておく。
黒装束の様子を見ていたローゼットが言う。
「サーラント、こいつらは尋問する前になにか食わせてやった方がいいか。随分とやつれている」
「そうだな。森に逃げ込み食料が無かったのか? 痩せている。だが、その前に覆面を安全に剥がす方法か」
「そいつらがエルフの猿真似をする
声の方を向けば身長2メートル、背の高い骨太のエルフの男がいる。
嫌いな食べ物を出されたような顔で黒装束を見ている。
「5人、これで全員か?」
「いや、森に逃げ込んだのがいる。そっちはエイルトロンとネルカーディに頼んだ」
「忌々しい。いったい何人いるんだ?」
「わからん。今の
ノスフィールゼロはレスティル=サハの胸に抱かれて、リックルはリムレイルの肩に座る。
レスティル=サハが黒装束を見下ろして礼を言う。
「ネルカーディが見つけたのを捕まえてくれたか、ありがとう。本来ならエルフがしなければならないことなのだが、ドルフ帝国の協力に感謝する」
ドルフ帝国兵団黒の部隊長、ローゼットが応える。
「
「エルフの森の外に
「俺の隊で軽
俺は黒装束の5人を見る。3人は気絶してるのか眠っているのか目を閉じて動かない。ふたりは目を閉じて気絶した振りをしているが、恐怖なのか呼吸が早くなっている。
静かに大人しいと思えば狸寝入りか。
「さて、どうやって覆面を剥がしてやろうか」
無理矢理剥がせば覆面の中の仕掛けの毒針でこいつらは死んでしまう。
レスティル=サハに抱かれたままのノスフィールゼロが話す。
「前回の覆面を調べましタノ。剥がす前に仕掛けの中の毒液を抜いテ、針の作動を止めまスノ。そのための道具を作りますノデ、明日まで待ってもらえまスカ? 念のために魔術での解毒ができる方に立ち会ってもらいたいでスノ」
レスティル=サハが頷いて胸に挟んだノスフィールゼロを撫でる。
「ではノスフィールゼロ、よろしく頼む。治癒の加護で解毒のできる者を呼んでおこう。それまでこいつらを逃がさんようにクワンスロゥ、頼めるか?」
「いいだろう。
黒装束を見るエルフの目には嫌悪が浮かぶ。念のために一言。
「生かして捕らえたのだから、なるべく殺さないように」
「知っていることを吐かせた後は殺した方がめんどうが無さそうだが」
「クワンスロゥ。生かしておくことで利用もできる。ドリンが『次の策で駒として使えるかも』と言っていた」
レスティル=サハが頷く。
「あの
「こいつらは大人で男だから更に食うだろう。1日あたりエルフから見たら4倍から5倍は用意しておいた方がいい」
「
「今頃は大草原で、戦争でその
今回の
いつまで
この世界を守るためには俺達で
ローゼットがレスティル=サハに、
「この町の防衛で少し話したい」
「わかった。なにかあればローゼットの
「ありがたい。だけど部下には
「こんな機会が無いと
「ドルフの兵士の寿退職者を増やすつもりか? あぁ、サーラントこっちはもういいぞ。子供のとこに行って相手をしてくるといい」
「そうしよう。ローゼット、人妻を口説くなよ」
「俺は美しさと可愛らしさを誉め称えるだけで、口説いた憶えは無いんだけど」
テントに戻りフレイルを置いて鎧を脱ぐ。上着を変えて、一応用意するか。念のためにロープを持って子供が遊んでいるところに行く。すぐに
俺はロープをたすきがけにして背に乗せた子供がロープを掴めるようにする。落ちてケガをされては困るのでロープで輪をつくり、これを身体にかけるように子供達に注意をする。
ふたりずつ順に背に乗せて、軽く駆ければキャアキャアと騒いでやかましい。
「高い、速い、サーラント凄い」
森の中を走って木々の間をすり抜けるのがスリルを感じるのか、子供には人気だ。
1周して戻り待っている子供を順に背に乗せて走る。いつのまにか中には大人の
スカートを穿いた
男で旦那と聞いているが、どう見ても女の子にしか見えない。しかし、背中に跨がらせた感触で間違いなく男だと確認はできた。
背中にハーニーフートを乗せて駆ける俺を、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます