第67話◇隠れ里、俺がいない間に何が起きた?

 ◇◇隠れ里に帰還した小人ハーフリング希少種魔性小人ブラウニー、ドリンの視点に戻ります◇◇



 黒浮種フロートカノン設計図からカノンを開発する間、探索者は隠れ里に引きこもる。いや立て籠ると言うべきか?

 大迷宮から隠れ里に繋がる通路を出たところに砦を建造することに。更なる防衛の強化、そして砦には重カノンを設置する予定。カノンが完成すれば古代魔術鎧アンティーク・ギアに対抗できる。

 トンネル工事で出た岩盤を利用して、黒浮種フロートのテクノロジスで加工した素材を大鬼オーガが運んでドワーフが指揮してみんなで作る。


 下半身蛇体の白蛇女メリュジンが使いやすくするために、階段横にスロープでも登り降りできるようにして。

 未だに隠れ里がどこかは人間ヒューマンには見つかっていないようだ。20層から下に辺りをつけて探している。地下迷宮の壁を壊さないと、ここには辿り着けない。それ気がつかなければ簡単には見つからないだろう。


 地上の戦争と人間ヒューマンの戦略、あと50センチ魔晶石のこととか気になるところだが、こっちはこっちで戦力強化を考える。

 俺たちは人間ヒューマンほどに数が増えない種族。だから数を戦闘力にはできないし、そんな人間ヒューマンのような考えは無い。

 なので個人の戦闘力を上げることにする。

 で、ダークエルフのスーノサッドには練精魔術を教えるって約束もしてたし。俺の魔力補充回路の再調整も兼ねて。

 隠れ里の南方、戦闘訓練など行う草原でちょっと実験してみることにした。


「あななぴぴるぷぷなぺろれものけちみぺみちぱー!!」

「「あははははははは!」」


 壊れた。スーノサッドが壊れた。

 スーノサッドが奇声を上げながら、ビシッと直立して倒れてまた起立して倒れてまた立ち上がる。

 白目を剥いてこれまで、見たことも無い新たな時代の息吹を感じさせるいかれたダンスをしてる。わはははは。


「みょぺぺーぷるぱぴやとへろのもねもるー!!」


 頭を押さえてゴロゴロ転がってブリッジを決めたかと思えば、カックンカックンと首と腰を動かしてあっちこっちをビシビシと指差す。前衛的で画期的過ぎて誰もついてこれない新しいダンスの開拓か? おもしろいぞスーノサッド。

 あまりの壊れっぷりにパリオーとふたりでスーノサッドの奇態に大笑い。日頃からあまり冗談も言わずふざけたことをしない、まじめで控え目なスーノサッドだから余計に可笑しい。


 スーノサッドの手袋に繋がるコードを引っ張って外しながらも、ゲラゲラと笑ってしまう。

 すまんスーノサッド。でもこれかなりおもしろいから次の飲み会でネタにしたらどうだ?


「おぉい! しっかりしろ! スーノサッド!」


 慌てて駆け寄ったディープドワーフのガディルンノが、神に治癒の加護を祈ってスーノサッドを正常に戻す。


「ドリン、パリオー、お前らな」


 その後、怒ったガディルンノに頭に拳骨をガツンと落とされた。痛い。


「あのなドリン。スーノサッドを魔術の実験台にした挙げ句に、それを見て大笑いするなんて流石にどうかと思うぞ」

「あいたたた。いや、悪い。あまりにも予想外のはじけっぷりでツボに刺さった。スーノサッド、頭は大丈夫か?」


 スーノサッドは草原に座ったまま両手で頭を抱えている。片手で手を振って、ちょっと待ってと言う。

 パリオーはガディルンノに怒られる前に素早く走って逃げやがった。あのやろう。

 スーノサッドは軽く頭を振って顔を上げる。目を見ればどうやら正気に帰ったようだ。


「あー。まだちょっと頭がクラクラする。ガディルンノ、ありがとう。助かった。ふー、よし。ドリン続けてくれ」

「お、根性あるなスーノサッド」


 俺は魔術回路を刻んだ水盆に水を足して計測の準備をする。心配顔のガディルンノがスーノサッドを気遣う。


「大丈夫なのかそれは? 練精魔術の特訓かもしれんが、危険な人体実験をしとるようにしか見えんぞ」

「うーん。スーノサッドが火系が得意ってことでじーちゃんと同じパターンでいけるかと試してみたけど、無理だったか。スーノサッド、この水盆に手を入れてくれ。体内魔力の波長を調べなおすから」

「これでいいか? 無限の魔術師の秘奥を伝授するための試練だというなら、どんなことでも耐えてみせる」


 魔術に関してはまじめ熱心な奴。スーノサッドにとってはじーちゃんは憧れの魔術師だって言ってたっけ。


「すまんスーノサッド。横着して悪かった。ちゃんとスーノサッド用に調整したのを作るから」


 魔力補充回路を試しにスーノサッドに繋げてみたところ、魔晶石からの魔力の回ったスーノサッドがいきなり奇声を上げておかしな挙動をした。いわば強烈な酒精で酔っぱらった状態に近い。

 やっぱり体内魔力の波長は個人ごとに性質の違いが大きい。同じ火系が得意でも、じーちゃんの使ってた魔力補充回路のパターンをスーノサッドがそのまま使うのは無理だったか。右手を水盆に入れたスーノサッドを見ながら水盆に繋がる銀線を握る。


「スーノサッド、なんでもいいからそのまま魔術を使ってくれ。それで調べるから」


 スーノサッドが右手を水盆に、空いた左手の上に火の玉を出す。魔術を使うスーノサッドの体内魔力の波長を調べる。水盆の底面には銀線で作った魔術回路が煌めいて、その光の動きと水面の波紋の形を読み取ってメモに書く。手に握る銀線から伝わる余剰魔力を関知しながら、調整パターンを見直す。

 魔晶石の魔力波形をこのスーノサッド用に調整する補充回路を新たに作ることにする。


「できた魔力補充回路は何度か試しながら調整する必要がある。そのときはガディルンノ、立ち会ってくれ。また治癒の加護を頼むことになるかもしれん」

「解った。しかしずいぶんと危険なものだの」

「キッチリ調整できれば危険は減るけど、それが難しくてな。スーノサッドはこの補充回路は他の奴等に広めないで欲しい。俺とじーちゃんの奥の手のひとつで、まだ研究中だし」

「いや、俺がこの魔術回路を作ろうとしたら、もっと刻印系を勉強しないと無理だ。だからドリン。いろいろ教えてくれ」

「じーちゃんの練精魔術は黒浮種フロートとの研究でできたから、本来の刻印系から見たら邪道なんだろうけどな。これが使えればじーちゃんと同じ火系のスーノサッドなら、43層からの雪原が攻略できるかも」

「そのためにも使い方と調整の仕方を、俺が憶えないと」


 スーノサッドは水盆の底の魔術回路を真剣に見てるけど、


「スーノサッド、さっきの魔力酔いが残ってるだろうから少し休んでいいぞ。これから計算して回路を作るし。あぁ、白蛇女メリュジンに頼んでグローブも新しく作ってもらうか」

「どうやって作るか見せてくれないか? 秘密は守るし手伝えることがあれば」

「じゃ、頼むか。でも無理はするなよ。俺も昔は調整が甘い補充回路で気持ち悪くなって何度も吐いたから」

「ドリン、あんなのを何度もやってたっていうのか?」

「やらないと研究できないだろ? 俺とじーちゃんで交代しながらやってたもんだ。じーちゃんも自分の身体を実験台にして研究してたし」

「……さすがは無限の魔術師、グリン=スウィートフレンド。そんな危険な実験が練精魔術の裏にあったのか」

「その実験結果があるから、あとは測定と調整が上手くいけばいい。これでスーノサッド専用の魔力補充回路を仕上げよう」


 小人ハーフリングには魔術が使えないのが多い。その中で希少種魔性小人ブラウニーとして産まれると、周りには魔術の参考になるものが少ない。

 じーちゃんはエルフに魔術の基礎を教えてもらって、自己流にアレンジするまで苦労したって聞いてる。

 そのじーちゃんの魔術をエルフのスーノサッドとアムレイヤに教えるってのも、不思議な話だ。これもじーちゃんと俺の恩返しってことになるのかね?


 秘密兵器開発の方は順調と。

 秘密兵器その1の方は蟲人バグディスエルカポラと黒浮種フロートセプーテンが進めて完成していた。

 使用について不安のあった味方への被害も、それを防ぐための防衛装備ができていた。

 黒浮種フロートの研究施設の奥、秘密兵器開発所でその完成品を見せてもらう。


「これなら問題無く使えるんじゃないか?」


 秘密兵器開発班、班長の蟲人バグディスエルカポラに聞いてみる。薄暗い黒浮種フロートの秘密兵器研究所の中、ガラスケースの中を見詰めるエルカポラは大きなアリの頭を傾げる。


「使うにはこれの性質を把握している者で無ければ、危険ですぞ」

「そうなるとこれはエルカポラ専用兵器ってことになるのか?」

「ふむ、黒浮種フロートは前線で戦う種族ではありませんからな。ワタクシ以外ではこれを知るのはパリオーとガディルンノ。効果的に使うとなればワタクシでありますか」

「パリオーじゃ運びにくいし、ガディルンノは髭がもっさもさだしなぁ」


 ということで秘密兵器その1はエルカポラに使ってもらうことにする。


 秘密兵器その2の方は探索者の協力もあってかなりの量ができていた。これについてはエルフ同盟と話を通す必要がある。こいつの出番はトンネル開通してからが本番。


 で、俺が知らない間に進んでいた秘密兵器その3なんてものがある。うお、かっこいい。なんだコレ?


「そういう発想で来たかー」

「我々なりに考えた、その結果デス」


 セプーテンが応えるのを聞きながら見るのは、開発中の黒浮種フロート強化装甲殻パワードシェル

 大鬼オーガのディグンの全身鎧がベースということだが、見た感じ金属で作るスマートな大鬼オーガ? ゴチャゴチャとよく解らない怪塊のかたまり。大きな金属製の戦士の人形、の作りかけというところ?


「いいと思うぞ。最後に自分達を守るのは自分達だから。見かけもかなりカッコ良くて強そうだ」

「その見かけというのも必要でスカ?」

「もちろん。見た目で、こりゃ敵わんって思わせることができたら、戦闘を減らすこともできるだろ。うん、見た目の仕上げにはセンスのあるドワーフと白蛇女メリュジンに聞いてみようか?」

「なるホド、では他の探索者にも強そうに見える姿についてアンケートをとってみマス」

「それにこの秘密兵器、古代魔術鎧アンティーク・ギアと同等の性能って本当か?」

「ハイ、捕獲した青い古代魔術鎧アンティーク・ギアを分析し開発した関節駆動などを組み込んでいマス。黒浮種フロート人間ヒューマンより小さいのでその分、様々な機構が組み込めマス。なので駆動に関しては古代魔術鎧アンティーク・ギア以上デス。ですガ、乗り込む我々には戦闘の為の知識、技術、経験がありまセン」

「それについては訓練しか無いだろう。サイズ的には大鬼オーガに近いから、完成したらディグンと探索者の大鬼オーガに頼んでみよう。大鬼オーガの戦闘技術を教えてもらって黒浮種フロート流にアレンジするんだ」

「やってみマス。現在、精神メンタルチェックを行い操縦者の選定を行っていマス。我々の1番の問題点は戦闘への心構えになりまスネ」

「そのあたりは実戦経験とかいるのか。探索者についてって地下迷宮の魔獣との戦闘は見たんだろ?」

「ハイ、ですが狂暴な野獣との戦闘と言葉の通じる相手との戦争は違いマス」

「言葉が通じたところで会話と交渉ができるかは別の話になる。残念ながらアルムスオンに黒浮種フロートほど賢く理性的な種族はいないんだ」

「未来に期待しマス。そのために今はこの地を守らなけレバ」


 俺は黒浮種フロートに、黒浮種フロート自身の手で自分達のテクノロジスを守って欲しいと言った。これが黒浮種フロートが考えて作った、新たな防衛手段。それがこんなにカッコ良くなるとは思わなかった。

 これが完成すれば黒浮種フロートは、安心して更なるテクノロジスの研究ができるのかもしれない。かつてのように他の種族の奴隷となることも無く、自分達で自分達を守れるようになる。


「それでセプーテン、カノンの方はどうだ?」

「水精石、氷精石で代用することは可能デス。火精石より威力は一段下がりますガ、カノンの特性は持っていマス。魔術への妨害については仮説のもと検証していマス」

「え? 魔術を打ち消す理論が解ったっていうのか?」

「精石の力場が原因と考えられマス。検証結果が出たらまとめて報告しマス」

「それは楽しみだ。あと魔術を使えない黒浮種フロートの魔術対策として、この黒浮種フロート強化装甲殻パワードシェルカノンを装備させてみたらどうだ?」

「そうでスネ。でもその前に本体を完成させなイト」


 自分達を自力で守る。そのための方法を模索するようになったというのは、黒浮種フロートには大きな変化なんだろう。


 探索者の方は新型剣のドスに新型鎧の複合装甲鎧ハイブリッドアーマーを装備するのが増えた。

 地下迷宮ダンジョン税が無いことを喜んで、新装備を試そうと浮かれた探索者が、30層から下へとガンガンに探索をしたという。預かり所に入りきらないミスリルの武器に、古代の遺産アンティークがゴロゴロある。文字通り預かり所の外の地面に転がっている。

 いや、ここは地下で雨も降らないから、野ざらしでも問題無いのかもしれないが。なんだこの量。

 自力で手に入れたミスリルの武器を持ってたら一流の探索者、というのが以前のマルーン西区の話だったんだが。余ってるってどういうことだ。

 かつての10層級、20層級も部隊パーティ編成を見直して、白蛇女メリュジンの戦闘訓練に参加。狼面ウルフフェイス兄弟の40層級部隊パーティ灰剣狼式の戦闘訓練で、ほぼ全員が30層級に。

 なんだこの装備の充実と戦力の上がり方は。白蛇女メリュジンもカゲンとヤーゲンに鍛えられてるし。 


 あとは強化計画のひとつとして、ラァちゃんと話をしていたシャララの魔術の特訓もするか。ちょっと試してみたいし。

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