第64話◇隠れ里への帰還、ちょっと休息
久しぶりに戻ってきた隠れ里。
来た、というよりは、お帰りなさいと出迎えられるとなんだか帰って来た気分になる。
対
俺は体力も精神力もけっこう限界に近くて、グランシアにおんぶしてもらって帰還。その途中に気絶するように寝てしまったのが、ちょっと情けない。
丸1日寝込んで、魔力酔いをアムレイヤの治癒魔術とガディルンノの治癒の加護で癒してもらった。
久しぶりに見る隠れ里はいつの間にか設備が増えて建物が増えて、何より探索者がやたらと増えていた。マルーン西区の賑やかさがそのまま移ってきたように。
久しぶりに会う
「ボランギとルノスの連れて来たドワーフの職人達が、
お、
そのシノスハーティルは、なぜかカゲンのそばに寄り添うようにいる。
「私は探索者をまとめるとか、できません。探索者の皆さんが私達のお願いを聞いてくれるのでなんとかなっているだけ。いつも助けられてます。それにカゲンがアドバイスをしてくれるので」
んー? なんだか目隠しで解りにくいがシノスハーティルのカゲンを見る表情が、あれはただの尊敬だけじゃ無いな。
「流石はカゲン。なかなかやるな」
「なんのことだ?」
そこでとぼけるところが天然モテ男という奴だ。カゲンも勇者の仲間入りをしたのか?
ふらついて戻ってきたせいか、今は宿屋のベッドで寝かされている。ベッドに上半身を起こして話をしている。俺の叔母さんのミュクレイルが腰にしがみついて離してくれないが、そのままにして話を続ける。
部屋にいるのは
皆にエルフ同盟からのトンネル工事が上手くいきそうだ、と伝えてから、
「
「
「カゲン、やってみて解ったけどな、
グランシアが頷いて、
「そうだね。見かけたときは地下迷宮走って逃げて、迷宮の灰色熊と大カマキリけしかけて、迷宮のトラップに嵌めて逃げたし。あいつらが隠れ里に来るには、隠しエリアに繋がる壁を壊さなきゃいけない。そこに気がつかないうちに、
サーラントが持ってきたということを、ノスフィールゼロが秘密にしたい、ということで。金属筒には
その金属筒はすでに
「
俺が聞いてみるとカゲンが腰の武器を俺に見せて、
「この新しい剣、ドスを試してみたところ、
「金粒銀粒集めのついでだよ。カゲンとヤーゲンもザクザク斬りまくってたじゃない。でもこれで切断特化武器、ドスの操方もだいたい解ってきた。クセがあるけど強いよ、この新型剣は」
グランシアがニヤリと笑う。いつの間にそんなドスなんて剣ができてたのやら。
ドスを見せてもらうと、これまで見たことも無いような輝きの片刃の剣。黒と銀の2色、その境目がグラデーションになって波のような模様になってる。
「なんだこの剣は。このまま美術品とか言っても通用しそうだ」
それぐらい綺麗というか美しいというか。刀身は濡れたように光を反射している。銀色の薄い刃先なんてその部分が光を放っているようだ。カゲンとグランシアが教えてくれる。
「トリオナインとボランギの自慢の一品で、1本作るのにドワーフの職人でもかなり時間がかかるところが、唯一の欠点か」
「欠点というなら切れ味良すぎて下手くそが使うと自分を切ってケガするっていうのも欠点かな。上級者向けと言うところ」
「はー、そのドスって剣と新しい鎧で調子に乗った探索者が狩りまくってたのか? 預かり所の外まで財宝と武器が溢れていたぞ。ミスリルの武器が草の上にゴロゴロ転がってる光景なんて初めて見た」
「そりゃ
グランシアが得意気に言うのにカゲンが補足する。
「あぁ、
カゲンの視線にシノスハーティルが、目隠しの下の頬を少し赤くして、
「それも兄先生と弟先生のおかげです。何より魔術先生がいろいろ丁寧に指導してくれましたし」
兄先生はカゲンで弟先生はヤーゲン。魔術先生はスーノサッドの呼び名。スーノサッドは教えるのが苦手とか言ってたわりに、ちゃんと先生できてたみたいじゃないか。
で、問題は、
「その預かり所で見たんだが、いつの間にかノクラーソンがいて鑑定の仕方を
「ノクラーソンが頑張っているし、それを理解してる探索者も多い。まぁ、それでも
「あの、そのことですが」
シノスハーティルがおずおずと手を上げる。
「ロスシングに相談されたんですけど、ノクラーソンが思い詰めてるみたいで。昼は財宝鑑定とか魔術の解析を
「ふーむ。どーするかな。1度ノクラーソンと話してみるか。ノクラーソンも俺に文句言ったらスッキリするかもしれんし」
まったくあのカイゼル髭は、もっと人生を楽しめよ。こんなにおもしろいところ他に無いだろうに。
グランシアがミュクレイルの尻尾をくすぐりながら言う。
「ノクラーソンはけっこうここの生活には慣れたよ。気分転換になるかなって、紫のじいさんのとこに引っ張っていって戦盤の相手をさせたりとか。ただ、ここにいるたったひとりの
「あいつそんなこと悩んでんのか? まったく。なんかこう、ノクラーソンが他の種族と協力してする仕事とかやらせてみたらどうだ? 酒が好きならバングラゥと一緒に酒でも作らせてみたら?」
「それでノクラーソンには、
「頭を使って思い悩むなら、ちょっとは身体を動かして発散させてやれば? まぁノクラーソンのことは後回しだ。先にやりたいことがある」
話を続けようとすると、立ち上がったグランシアが俺の頭を押さえて強引に押さえ込む。バフンと音を立ててベッドに倒れる。
「なんだよグランシア?」
「ドリンは今日は1日寝てるのが仕事。アムレイヤが言ってたろ? 魔力の補充回路かなんか知らないけど、体内魔力の流れが乱れてグチャグチャだって。あとでまたアムレイヤが来るから大人しく寝てな。ミュクレイルはドリンがフラフラしないように見張ってて」
「まかせて」
それでミュクレイルはずっとしがみついていたっていうのか。いや、まだ俺の調子が悪いってのは本当だけど。
魔力補充回路のグローブも1回調整しなおさないとな。じとっと俺を見るミュクレイルに、降参したと俺は両手を上げる。
「解った、今日は大人しくする。だが俺のいない間のこと、秘密兵器開発状況とか、隠れ里に増えた施設とか聞きたいことがある」
カゲンが椅子から立ち上がる。
「じゃ、それぞれの班長にここに順番に来てもらうようにするか。シノスハーティル、連絡を回してくれ」
「では、そのように。ドリン、トンネル工事など班長が変わっているところも多いので、シュドバイルにリストを用意させますね」
お、いつの間にかシノスハーティルがしっかりしてる? もう泣いたりはしないのか。
カゲンとシノスハーティルが連れ立って部屋の外に出る。ふたりを見送ったあとにグランシアに聞く。
「あのふたりなんかあったのか?」
「シュドバイルに聞いたんだけど、シノスハーティルって予想外の事態には頭がテンパりやすいんだってね。それが
ミュクレイルが続けて、
「族長、わかりやすすぎる。でも探索者の中の族長ファンクラブがカゲンこのやろーとか、カゲンを目標に頑張ろうって言ってた」
けっこう長い期間いなかったから、いろいろあったってことか。族長ファンクラブとか聞き憶えの無い単語が出たけど。
グランシアがベッドに腰掛けて俺の頭を撫でる。子供じゃ無いんだが。
「探索者にはいくつか派閥みたいのができたよ。族長シノちゃん派とかシュドお姉さま派とかミュクたんを妹に派とか」
なんだそれは。探索者にノリのいい奴等が揃ってるのは知ってるけど。
「
ミュクレイルが教えてくれる。楽しんでんなぁ。
グランシアに隠れ里のことを聞いてみたとこ。
「小さいトラブルはあったけど、そこはカゲン、ヤーゲン、ガディルンノがなんとかしてくれた。ドリンのいない間に来た
「理想は地上の戦争前に開通させたかったんだが、それは流石に無理だったか」
「欲張りすぎじゃない? あとあの青い
「30層転送部屋で合流できたのは幸運だったな」
「幸運じゃ無いよ。30層ボス部屋は
グランシアの野生のカンって、もしかして希少種獅子種独自の神の加護だったりするのか?
ミュクレイルが這い上がってグランシアと一緒に俺の頭をなでる。対抗してんのかふたりで俺の頭をクシャクシャにしてる。
「
「これで第3の秘密兵器開発が大きく進みマスってセプーテンが言ってた」
第3? なんだそりゃ? 秘密兵器はその1とその2までしかやってなかったハズ。
なんか新しいこと思いついたのか?
やっぱり寝てられないと起き上がろうとしたら、グランシアとミュクレイルのふたりがかりで押さえ込まれた。
「ドリンは1日大人しくしてな。ミュクレイル、巻きつけ」
「任せてグランシア」
その後、ミュクレイルの蛇体にぐるぐる巻きにされたまま、シュドバイルにセプーテンやパルカレムの各班長に笑われながら話を聞くことになった。
探索者には
計画首謀者としてカッコがつかないので、ミュクレイルに解放してくれと頼んでも離してくれない。
相当おもしろい絵面だったらしい。最後に来たノクラーソンは俺を指差して大笑いしやがった。このやろう。
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