第55話◇セプーテン主役回◇新たなテクノロジスの夜明け
◇◇
我々は、新たな物を作り出すことに喜びを感じる種族。
思い返せば、グリン=スウィートフレンドがこの地に訪れるまでは、我ら
なにかを作ろうにも、動力は手回しのハンドルとゼンマイしか無いのです。かつての
それゆえに我らの祖先の乗る星渡る船が墜落し、2度と飛び立てなくなったのですが。
魔術についても研究してみましたが、この星でいうところの魔術適性が無い我々
原始的な道具、原始的な技術に立ち返り、この地に共に住む心優しき
かつての我らの祖先がしたこと。奴隷であった祖先とその主人の種族がしたことを思えば、この地でひっそりと生きることを許して貰えるというだけでも有り難いことです。
我々はもう兵器など作ることも無く、ここで
ドラゴンの身体を洗うためのモップなどを作り、
しかし、我々はやはり
偉大なる魔術師、グリンさんとの研究。地下迷宮より出る古代魔術で造られたという武器や道具の解析。
それにより作られた、魔晶石を動力とする新たなテクノロジスが、魔晶石エンジンが、我々の創作意欲に火をつけました。
新たな物を作る喜び。その品を見て驚き喜ぶ
「うわ、なんだこれ」
剣を振り切った姿勢で
「おおっしゃあー!」
「テクノロジス! テクノロジス!」
新しい剣を共同開発していた
グランシアさんが新型剣で試し切りしたのは、鋼の長剣。真っ二つになり断面は輝いているので、折ったのでは無く切断した、という結果が出ました。
新型剣の試し切りを見た探索者の皆さんも驚いています。血走った目をしたボランギさんがグランシアさんに近づいて。
「どうだ? グランシア、この剣は」
「どうって、信じられない切れ味だ。ただ、見た目よりちょっと重いね」
「ん? そうか重量については従来の剣より重くはなっちまうが」
「両手剣でもいいけど、私は二刀流が本来のスタイルだから。少し短くしたのが2本欲しいとこ」
「作るのにドワーフの腕の立つ職人と加工に手間がかかるのが欠点だが、まずはグランシア用に2本だな。すぐにかかるぞ」
ボランギさんがグランシアさんから新型剣を受け取り見つめています。
「堅く強く、折れずに欠けず、しなやかで粘り強く、そして今までにない切れ味。その上に美しい……。最高の剣だ」
片刃の長剣は背が黒く刃は銀色に輝いています。背の黒色と刃の銀色の境目はグラデーションになっています。
従来の剣が1色なので2色の剣というのが珍しいのでしょうか。
「私は感動していマス」
共同開発したトリオナインが寝不足の少し濁った黄色い目から涙をこぼしています。
「堅さと切れ味を求めた単分子ブレードは切れ味は良いものノ、刃は欠けやすく折れやすいという欠点がありまシタ。それがドワーフの金属知識と冶金技術で合金とすることにより欠けにくく折れにくくなりまシタ」
「だが、もとの切れ味を無くしたくは無い。そこで溶かしてただ混ぜるのでは無く、粘りと柔らかさのある鋼を芯にしてそれを合金ブレードで包んでみたわけだ。その分作るのに手間がかかるんだが」
「切れ味は良くても折れやすい金属。折れにくいかわりに切れ味の悪い金属。そのふたつの金属がその長所を生かしたまま欠点を補い合イ、この新型剣は生まれまシタ。これこそ新たなテクノロジス! ドワーフの伝統技術と
「
「イイエ、ボランギサン。礼を言うのはこちらデス。この剣は新たな象徴デス。
「トリオナイン!」
「ボランギサン!」
ふたりは固く抱き合い泣いています。号泣です。徹夜明けのテンションもあるのでしょうが、幾度も失敗し何度も試作が折れたことを私は知っています。
異なる種族が協力し、ひとつの目的に向かい、挑戦し、作り上げたもの。その中で結ばれた友情を感じて、私も泣いてしまいそうです。
グランシアさんが新型剣の評価をします。
「スゴい剣なのは解った。切断に特化し過ぎてるから今までの剣と使い勝手が違うね。これは専用の操法技術が必要になる。でもこれなら鎧ごと切れそうだ。ところで、その剣。名前はなんてつけるんだい?」
「名前?」
ボランギさんとトリオナインが目を会わせて、
「あ、名前か、なんも考えて無かったなぁ」
「『ドワーフの伝統技術と
「長くて呼びにくいな、それ」
ふたりは考え込んでいます。試し切りを見ていた他の探索者も意見を出します。
「二人の名前を合わせてボランギトリオナインとかは?」
「まだ長いな」
「じゃ、ボラトリオン」
「新種の魔獣みたいだ」
「究極切断剣」
「ちょっと頭悪そう」
「ハイパーカッター」
「うーん、なんか違う」
みんなでワイワイと言ってみますが、なかなかこれと言った名称が出てきません。
今までに無いもの、だけど名称でそれと解る名前というのは難しいですね。
「なぁなぁ、『ドワーフの伝統技術と
「ドス」
「ドス……」
ボランギさんとトリオナインが、ドス、ドスと呟きながら新型剣を見つめています。
ボランギさんがカッと目を見開き、
「いいな! ドス! スパッとかサクッとか軽く無くて、ドスッ! 重い響きがあっていい!」
「呼びやすくてもとの言葉の意味が残ってるのもいいでスネ!」
「命名! この新型剣の名はドス!」
「ドス!」
「ドスだ! おおー! てくのろじす! てくのろじす!」
「ドス! テクノロジス! そしてドワーフの伝統技術!」
徹夜明けのハイテンションのまま、切断特化新型剣の名前は、ドスに決まりました。
隠れ里で作る新たな刃物、切断特化の黒と銀の2色の片刃の剣はドスと呼ばれ、また、のちに同じ刃をつけた柄の長いグレイブは長ドスと呼ばれるようになりました。
「こちらも見てくだサイ!」
ドワーフの作った武器と防具の加工施設から全高2メートル20センチの鋼の巨人が現れます。ズシン、ズシンとやってきます。
「うぉ、なんだ?」
「カッコイイ!」
「鋼のゴーレムか?」
頭から爪先までを隙間無く輝く鋼で覆われた全身鎧。額の上部にあたる部分からは真っ白い角が伸びています。
積層構造で間接部を覆いながらも、骨格の間接可動範囲に影響しないように設計された全身鎧。
磨き上げた鋼は光を浴びて輝き、間接部の隙間からは暗灰色のセラミクスが覗きます。
これまでの鎧とは構造から違う、パーツを重ねた新型全身鎧。鋼の巨人はスムーズにズシン、ズシンと足音を立てて歩いてきます。
「なかなかいいぞ、この鎧」
兜の面防を上げて
「見た目はゴツいが動きやすい。ガッチリ覆ってるのに背中に手が回せるんだ、ほら」
「この全身鎧は重量的に筋力のある
興奮冷めやらぬシュービールッツが、フワフワと浮きながら説明を続けます。
「鎧についてはこれで製造を把握しまシタ。予約順にドワーフの職人と鎧を作っていきマス。また細かい仕様の変更、ポケットやラックの取り付けなどもご相談くだサイ。いろいろできまスヨー」
鎧を着ない
ディグンさんが動きを確かめるために身体を動かしています。ジャブ、ジャブ、フック、アッパー、バックナックル、サイドキック、ハイキック、ローリングソバット。
「いや、全身鎧で側転とかできるのは、たぶん
「だがこのセラミクスの胸鎧も今までのものより動きやすい。二層構造で肩と胸と背中が自由に動かせる。窮屈さが無い」
カゲンさんが新型鎧を評価してくれます。おおむね好評のようです。
ボランギさんとボランギさんが連れてきたドワーフの職人との技術交流が、新しい武器と防具を作りました。
鍋や包丁といった日用品も、ラッパや鉄琴といった金属楽器も班ごとに別れて開発中です。
新たに開発されるテクノロジス、その中のひとつ。
出入り口は
秘密兵器研究所です。
警備の
緊急時には出入り口を封鎖する仕掛けを施した通路を進み、奥の研究室に入ります。
「進展はどうでスカ?」
「問題無く順調ですぞ」
秘密兵器開発に携わる、
ふたりで明かりを暗くした研究室の中、そこに並ぶガラスケースの中を見つめます。
「我々は恐ろしいものを作ってしまったのかもしれまセン」
「わかりますぞ。このような武器、いや兵器などこれまでのアルムスオンにはありませんから。その不安はワタシも感じていますぞ」
「防衛装備はどうでスカ?」
「それも完成しましたぞ、試してみますかな?」
「イエ、先にレポートを見せてくだサイ。テストはこの秘密兵器に関わる者を集めて、皆で見まショウ」
ガラスケースの中にはドリンさんのアイディアから作られた、
可能であれば
しかしこれは扱いを間違えれば味方に危険の及ぶ兵器。防衛装備が開発できなければ、使用すること無く闇に葬ったことでしょう。
作ってしまったことに不安を憶えます。ですが、これ以外で
「防衛装備は量産可能なのでスカ?」
「そのための材料を増やしているところですぞ。シャララの作った
「できればこの秘密兵器は使いたくないでスネ」
「最後の手段、というところですぞ。管理にも気をつけるであります」
「エルカポラさんにはトンネル工事もあって忙しいのに、スミマセン」
「トンネル工事はパルカレムが張り切っておりますから、ワタクシはこちらに集中できますぞ」
「それでは引き続きよろしくお願いしマス」
「セプーテンこそ
「アハハ、先ほど警備の
第1秘密兵器研究室は順調です。
奥の昇降機に乗り1階層下に作った第2秘密兵器研究室に向かいます。
「こちらの進行はどうでスカ?」
「今のところは問題ありまセン。材料も探索者が集めて来てくれますカラ」
ドリンさんとサーラントさんの計画に必要なもうひとつの秘密兵器。担当の班長、リーンダーキュが経過を報告します。
「自動化し量産可能になりまシタ。ですがこれは本当に役に立つのでスカ?」
「概念は理解していまスカ?」
「勿論。ただ、これは
「これはドリンさんとサーラントさんを信用するしかありませンネ」
「ですが、かつての我々の祖先を思いだしマス。我々は知らずに利用されているのではないカト、不安に感じまシタ」
「そうでスネ。我々は祖先の二の舞をしてはならないのデス」
他の種族を知らず、戦いを知らず、その結果、同族を人質に取られ道具を作り使う為の奴隷に落ちた我々の祖先。
「ドリンさんは言いまシタ。我々のテクノロジスは我々の手で守るべきものダト」
そう、問題が在れば
「サーラントさんから地上の種族間の争いの歴史を学びまシタ。そこで考えまシタ。我々はテクノロジスの信奉者にして新しいものが好きな創造者。ですが様々な種族がいる世界ではそれでは足りないのデス」
我々の作り出したテクノロジスが、不幸を作り出してはならないのです。
テクノロジスは幸福のため、未来のため、真理追及のため、
「我々はテクノロジスの守護者にして、管理者とならなければいけないのデス。かつての我々の祖先の主人のように、テクノロジスを悪用する者からは力ずくで取り上げるのが、創造者たる我々の責任なのデス」
「デスガ、セプーテン。我々にはそのような武力がありまセン。それに暴力での解決ナド」
「野蛮でスカ? ですがその野蛮に対しても我々はテクノロジスで打ち克ちまショウ」
私は図面を取り出して、第2秘密兵器研究班、班長のリーンダーキュに見せます。
「コレハ?」
「
「
「そしてこちらが探索者から聞いた
「フム、魔術攻撃に対しての自動防御システム。対物理攻撃防衛フィールド。高速移動。個体により仕様が異なる為、性能は一律に同じでは無イ。これは乗り手の防御を優先して作られているようでスネ」
「似ていませンカ?」
「データでしか見たことはありませンガ、かつての我々の祖先の主人が使っていた兵器。
「その通リ。そしてこの
今も百層大迷宮には
ですがその
死者は出てませんが、暗部商会が使うという毒矢で危険な目にあった探索者もいます。
本来、自分達を守るのは自分達の役目です。本来、ここを守るのは我々がしなければならないことなのです。
それなのに我々を守るために、探索者が危ない目にあっているのです。これはいけません。
我々
そして
戦いのための技術は探索者に教えてもらいましょう。
そのために新しい力を作りましょう。
我々の信奉するテクノロジスを守るために。
我々が我々のテクノロジスを、そして信頼し敬愛する仲間達を守るのです。
「新たな
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