第54話◇シャララのおばあちゃん……古代種?
「トンネル開通から百層大迷宮を
レスティル=サハが頷きながら呟く。
「
少し眉を寄せて言う。これに
「長老会は年寄りだからな。だから若い族長会がいる。族長会から長老会に話をして貰えばいいさ」
エルフはそういう会議制なのか。寿命が400年と長い種族だからそういう形なのかな?
となると族長は若いのに任せて族長会、引退した年寄りが集まって長老会という感じだろうか。
追加でエルフたちに説明しておこうか。
「俺から補足しておくと、
これで長老会とやらに解りやすくなるだろうか。
「それほどの混乱ともなれば、またひと波乱ありそうだが」
「レスティル=サハの心配も解る。理想としては
今後、予測される事態についていくつか話をしようかというところで、
「シャーラーラー!」
と真上から声が聞こえる。だれ?
皆で見上げると空からひとりの
「ラァおばあちゃーん!」
シャララがテーブルの上から飛び上がり、降りてきた
「シャララやー。背が伸びたかや? 元気でやっておったかや?」
「もちろん! ラァおばあちゃんは相変わらず綺麗だね!」
シャララのおばあちゃんか? いや、
それに、なんだ? この存在感。妙に輪郭が濃く見えるような奇妙な感じ。その気配を隠しているみたいだが、不思議な威圧感に背筋が泡立つ。小さい姿に圧倒される。
隣ではサーラント思わず立ち上がってシャララと抱き合う
薄桃色の長い髪が足首まで伸びている。身長40センチぐらいの女の
目の前のラァおばあちゃんと呼ばれた
その羽根は他の
テーブルについている他の面子も緊張している様子。態度が変わらないのはレスティル=サハだけだ。
その8枚羽根の
「ほぉ」
と口にしながら俺とサーラントにフワフワと近づいてくる。
「なかなか鋭いのがおるのぉ」
楽しそうにニコリと笑う。濃い桃色の瞳がイタズラが成功したかのように、俺を見る。
俺は1度深呼吸してから挨拶する。
「初めまして。
「サーラント。見ての通りの
「ラァはラァじゃ。みんなはラァおばあちゃんとか、ラァちゃんと呼ぶのよ。気軽に呼んでくれると嬉しいわいな」
シャララがラァおばあちゃんに俺達のことを話す。
「ラァおばあちゃん! このふたりがね、触るな凸凹! マルーン西区の探索者の中でずば抜けてぶっ飛んだふたりなの。サーラントは酒場で
「おいシャララ、その言い方は誤解されるからやめろ。俺は実力の無い先輩に身の程を教えただけだ」
「そうだシャララ。俺は不埒な
ラァおばあちゃんはニコニコ笑って、
「これはまた面白そうなお友だちよなぁ」
ふふふ、と優しそうに笑う。やたらと威厳を感じるというか。存在感が違う。
「ラァのことは気にせずに話の続きをしぃや」
ラァおばあちゃんはテーブルの上で膝の上にシャララを乗せて撫でながら言う。
えーと、なんの話をしてたんだっけ?
レスティル=サハの顔を見ると、仕方ないという顔をして、
「ハーニー、ラァおばあちゃんにお菓子とお茶を持ってきて。さて、ドリンの話は解った。トンネルを開通させることで
「また、
しかし他の面子は、
「
「それなら
「私は
「
「ノスフィールゼロ、それにドリンとサーラントには暫くこの町に居てもらうが、いいか?」
「よろしくお願いしまスノ」
「仕方ないか。あとお願いがある。魔晶石と精石を分けて欲しいんだが」
「何に使う?」
「ノスフィールゼロの作ったトンネルポインター探知機が、魔晶石が無いと動かない。精石は俺の魔術触媒用に」
「私の部隊が持っているものをここに運ばせます。精石は水精石と木精石に光精石がありますよ」
ノスフィールゼロがフワフワとエイルトロンの前に浮く。
「研究サンプルに私にも分けて欲しいのでスノ」
「いいですよ。数はあまり無いのですが」
「これでお礼になりまスカ?」
「?なんです? この紫色の不思議な光沢の平たい……」
「
「……とんでもないものが?」
エイルトロンは鱗を手にしたまま固まってしまった。
他のエルフ達も興味を引かれてテーブルに乗り出して紫じいさんの鱗を見つめる。
そのなかで8枚羽根の
「どこぞに消えたかとうに朽ちたかと思っておったが、妙なところに隠れておったかや」
空中をゆらりと飛んで来て俺とサーラントに、
「ではこのラァをむーちゃんのとこまで
「むーちゃん?」
「紫じゃからむーちゃんじゃー」
「紫のじいさんのこと知ってるのか?」
「知っとるよ。生きておるなら会いたいわ」
「ラァちゃん? あんたいったい何者だ?」
「ラァは
そうなのか。穏やかに呑気そうなラァおばあちゃん。おいこらシャララ。お前の言うおばあちゃんが、
どうりで妙な感じの貫禄があるわけだ。
ディレンドン王女が連れてくるドワーフ職人軍団とも上手くやって欲しい。
俺達が見つけた隠しエリア、工事可能の百層大迷宮。せっかく見つけたこの幸運を無駄にしたくは無い。
これを活かすことができれば、
サーラントが言っていた、
単純な数では
人間はやたらと増えて、増えすぎて困って子供を捨てるような種族だ。逆に俺達は寿命は
戦争に関しては
画一的な魔術教育でできた
発動するまでに時間がかかるものの、複数人でひとつの大規模魔術を行使するのは戦争向けだ。
そして東方の
数は少なくとも可動中は常時魔術防壁で攻撃魔術はほとんど効果が無い。
集団魔術と
だがドルフ帝国の
それゆえにドルフ帝国とエルフ同盟とドワーフ王国の連合軍が、今では
だがこれは
もしも
その万が一が起きる前に
異種族喰いであり、
ここで考えてしまうことがある。
かつて
俺達はこのアルムスオンに生まれて、多種多様な種族がいることが当たり前。だからひとつの種族しかいない世界というものがあるなんて知らなかった。
そしてひとつの種族にはその種族に加護を与える神がいる。エルフなら五柱の兄弟姉妹の神々が
では、もしもこのアルムスオンに
仮定の話でただの想像、妄想でしか無いが。もしも
天敵がいないまま数を増やし、大規模農業という自然破壊で神の加護を受ける土地を無くし、そのあと
世界の全てを荒廃させて、共食いをしたあげくに、地上に生きるもの全てを道連れに滅ぶ未来しか想像できない。
生物として異常な自然への反逆者。
加護無き無法の知恵持つ飢えた群れ。
もしかして
または、
いずれにしても百層大迷宮を
そして
トンネルが開通した後、次の策は。
「ドリン。今度はなんの悪巧みだ?」
「なんだ? サーラント。……あれ、みんなはどこに行った?」
「ドリンが考えに沈んでる間に自分の仕事に戻って行った。ノスフィールゼロはシャララとラァちゃんといっしょに
「しまった。つい考え込んでしまった」
「トンネル開通後のことか? ドリンにひとつ聞きたいことがある」
「なんだ?」
「なぜ
「おそらくは只の名目だろう。襲われた村を
「ここにはエルフの戦闘部隊がいる。今からでもあの遊撃隊を潰しに行くか?」
「目的を達成したならもう逃げてるだろう。戻って
「ずいぶんと難しいことを言う。捕獲してどうする?」
「いろいろ調べたい。
「それはおもしろい。だが無傷で捕獲は無理だろう。
「ふーむ。
「
「今のところ
「
「
「大草原の警戒に
「どちらも気位の高い種族で、他の種族と馴れ合わないからなぁ。ネオールぐらい気安い
「高空から偵察できれば大草原を見張るのも楽になるのだが。
「とりあえず俺達はこの町での用事を済ませたら隠れ里に戻ろう」
「そうだな、どこまでトンネル工事が進んでいるかも気になるところだ」
「できたらエルフの魔術とか研究したいんだけどな。シャララのおばあちゃんともじっくり話したい」
「戦争が終わるまではゆっくりする暇も無いだろう。俺達が仕掛けたことだ」
「わかってるさ。これまでと同じ戦争では、百年後また同じことになる」
机の上に出したままの地図に手を置いて、
「あの隠れ里を起点に、これからの戦争の結末を変えてやろう」
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