第53話◇地下迷宮税と貨幣の担保
「我々
ノスフィールゼロの説明にレスティル=サハが質問する。
「テクノロジスということはドルフ帝国の
「我々は未だ
「テクノロジスは魔術を打ち消すものがある。
「デスガ、テクノロジス製の工具、特に木工細工用の物はエルフの森でも人気があるとサーラントさんから聞いてまスノ。エルフにどのようなテクノロジスの品が良いか、それは我々がエルフを知ることで見つけられるでショウ。今は我々の技術を見てくだサイ」
「じゃーん! と、ちょっと重いー」
シャララが飛んでエルフの前をクルクル回る。キラキラと光る上着を身につけて。
「
シャララが着ているものは近づいて目を凝らして見ないと解らない細かい金属の鎖を編んだもの。
「これは、確かに芸術品として凄いとは思うけれど。エルフに役に立つのかと言われてもなんとも言えない」
レスティル=サハが困ったように言う。
「でも、この技術でアクセサリーが作れたら素敵ですよね」
と助け船を出してくれる。どうも反応はイマイチのようだ。
エルフの森に住むエルフに
例え
「では俺から、エルフにとって百層大迷宮に繋がるトンネルの利点を説明しようか」
テーブルの面子を見回して、
「ひとつにはここから百層大迷宮に行ける道ができるということ。この副産物として、エルフが百層大迷宮からマルーンの街に侵攻可能というものだ。
「それなら迷宮出入り口を完全に封鎖するんじゃないか?」
「それならそれで
「どんな理由だ?」
「貨幣を守るために」
百層大迷宮を
「これから話すことは
俺はテーブルの上に貨幣を並べる。アルマルンガ王国発行の丸い貨幣、金貨、銀貨、銅貨。単位はシード。ついでドワーフ王国の貨幣、楕円形で単位はオーバル。最後にドルフ帝国の貨幣。六角形で単位はヘキサ。
「貨幣と貨幣経済は
「なぜ貨幣の話になるのです?」
「貨幣と地下迷宮の関わりについての説明だから。先ず俺とサーラントが百層大迷宮、30層西側の隠しエリアを発見したときに、ここに探索者拠点を作れば
「せこい話だ」
「まぁ、確かにせこい思い付きではある。なんせ
金貨を1枚手にとって指で弾いて掌で取る。親指と人差し指で摘まんで見せる。
「エルフとドワーフは
レスティル=サハが応える。
「確かにな。エルフの森から森の果実やキノコ、森の恵みの食料を
「それは
アルマルンガ王国発行の銀貨を皆に見せるように指で持つ。
「
テーブルの上に地図を広げる。地図の上、それぞれの経済圏に合わせて、
「この
「エルフでも独自の貨幣を作ろうとしたことはありました。金属じゃなくて得意の木工で木製の貨幣を作ろうとして上手くいかなかったものです」
「その結果で伝説になる魔術道具、トレントチップなんてとんでもないものができたのは凄いけどな。今回はそれは横に置いといて」
話を戻そう。
「ドワーフ王国とドルフ帝国の貨幣には共通点がある。貨幣そのものに価値を持たせるために相応の金や銀や銅が入っている。だが、
「10分の1? それは詐欺だろ?」
「その通り。俺にも詐欺にしか見えない。だが
「なんだそりゃあ」
「だからこそドワーフ王国の貨幣とドルフ帝国の貨幣は、使う者のために相応の希少金属がしっかり入っている。
シャララがハイと手を上げる。
「私は財布が重くて持ち歩けないないから、いつもはグランシアに預けてる。今はドリンに持ってもらってるけど」
「私たちにはどの貨幣も不便よね。運ぶのも苦労します」
身体の小さい種族には貨幣も嵩張る重い荷物になる。
「話が地下迷宮から脱線していくようなのだが?」
レスティル=サハが冷静に指摘するのに応えて続けよう。
「つまりは貨幣とは、
レスティル=サハが頷く。
「
「このアルマルンガ王国貨幣。
「貨幣の担保?」
「貨幣そのものの価値が低いから、その価値を支える別のものを用意する、という理屈なんだ。『金貨1枚は3000csの価値持つ通貨として通用する。銀貨1枚は100cs の価値持つ通貨として通用する。銅貨1枚は1cs の価値持つ通貨として通用する。アルマルンガ王国内の地中に埋められたる無数の金銀財宝をその担保となす。この無尽蔵の財宝は直ちに発掘され、国家の財源として処置するものなり』これがアルマルンガ王国が貨幣の価値を保障するという過去の王令だ」
場が静かになる中、喋りすぎて乾いた喉をハーブティーで潤す。エルフの森のハーブティーは爽やかでほんのり甘い。
「ちょっと待てよ、おい」
「つまり、なんだ。
「実際にこの王令を信じた
「信じられん。地下に埋まったままでそこに現物が無いもので、そんなものを担保にして取引する行為が」
「そして王令が金貨1枚に3000csの価値を持つと保障するから、金貨からどれだけ金を抜いても金貨1枚は3000cs なんだ」
「バカバカしい。そこに存在しないもので保障するという言いぐさも、金貨1枚は金貨1枚と言い張る王令も、それを信じる
「アルマルンガ王国はその領土内、地下に埋もれるものは全て王国の国庫のものだと言ってるわけだ。だから
シャララがうーん、と首を捻る。
「ねえ、自分で掘り出してもいないのに、自分のものって、どういうこと?」
「王令にそう書いてある」
「なにそれ? 書いておけばいいの? 先に言った者勝ちなの? 頭おかしいよね?」
「なにせ
「
先を促すレスティル=サハに応えて、
「確かに狂信だよな。自分達で吊り上げた価値を信じて、今では
「冤罪で同胞を追放する、か。だがそこに冤罪というものが必要だったということか」
「そう、
俺は地図の上に銀貨を置いて場所を示す。
「
『王国の領土内に百層大迷宮があること』
貨幣の価値の担保となる、地下に埋められたる無数の金銀財宝、その象徴が百層大迷宮なんだ。百層大迷宮が
「なるほど。ようやく繋がってきた」
レスティル=サハの口元がニヤリと笑う。
「
「そのとおり。アルマルンガ王国発行貨幣はその価値を保障する担保を失い、その価値は暴落する。貨幣はその価値を内在する貴金属の分しか保てない。その価値を10分の1に落とし、商取引も徴税も混乱し、アルマルンガ王国を中心に
「俺は貨幣を使ったことは2、3回しか無くて、ちょっとついていけないんだけど。まとめるとどういうことなんだ?」
「まとめると、橋の上では
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