第51話◇灰エルフの族長とその旦那ちゃん?

◇◇小人ハーフリング希少種魔性小人ブラウニー、ドリン視点に戻ります◇◇



 目が覚める。ベッドに身を起こす。あくびひとつして回りを見る。木で作られた家の中、久しぶりにベッドで寝た。

 大草原を通り西のエルフの森の中。ここは灰エルフの集落の中。


 枕の横の、クッションの入ったかごの中では蝶妖精フェアリーのシャララが寝ている。布団を蹴っ飛ばしてヘソを出して足を開いて、なんて寝相だ。

 赤い蝶の羽も曲がってる。繊細に見える蝶妖精フェアリーの羽は意外に丈夫で、ちょっとくらい曲がったり折れたりしてもすぐに治るとい。破れると飛ぶのに支障があるが治癒するのも早い。そういう加護があるとシャララが言っていた。


(おはようございまスノ)


 シャララと一緒に寝ていたノスフィールゼロが、閉じた窓の近くでふわふわと浮いている。シャララを起こさないように小声で朝の挨拶。


(おはよー)


 かごの外に落ちてた小さなシャララ用の布団を手にとって、シャララのおなかに掛けなおす。

 ノスフィールゼロを指で招いて、


(外に出るか)

(はいでスノ)


 エルフの森、大草原に近い森の外縁部。ポッカリと開いた原っぱには丸太を組んで作った家がポツポツとある。

 グレイエルフの町。

 夜明けから薄く霧が出るというのが、この町のいつもの光景だという。

 深呼吸すればエルフの森特有の濃い空気を鼻を通して全身で感じる。

 森を見るのが初めての黒浮種フロートノスフィールゼロはウキウキと森の木々を眺める。


「こんなに巨大な木々に囲まれた景色は初めてでスノ。空気もなんだか違いまスノ。香りがあるというカ、味を感じるというのでスカ? 草原とは違う緑の香りでスノ」

「そうだな。ところでサーラントはどこにいった?」


 家に入れないガタイのでかいサーラントは、家の前のテントで野宿してたはず。

 見回していると森の木々の中から背中にグレイエルフの女を乗せたサーラントがやってきた。


「ドリンも起きたか。早いな」

「サーラントこそ早いな。起きるのも女に手を出すのも。朝デートか?」

「ただの散歩だ。おかしな言い方をするな」

 

 サーラントの背に乗るグレイエルフ、アムレイヤのおねーちゃんのリムレイルが笑顔で挨拶。


「おはよ、ドリン、ノスフィールゼロ」


 サーラントの馬体の上に立ってサーラントの両肩に手を置いて、なんだか機嫌が良さそうだ。


「サーラントって速いのね。走る人馬セントールに乗せてもらうのって気持ちいい」

「森の中では木が邪魔で上手く走れないがな」


 応えるサーラントの頭の上にリムレイルがむにゅんと胸を置く。タユンエルフなんて呼ばれ方もするグレイエルフの女性は全員巨乳だ。アムレイヤはバスト1メートルって言ってたが、リムレイルはアムレイヤよりも大きく見える。

 サーラントは眉をしかめて、


「はしたないぞ、リムレイル」

「ネオールは喜んでたけど。ま、これはグレイエルフの挨拶みたいなものだから。あ、でも他のエルフの種族はあんまり触ったりくっつけたりはしないか」


 言いながらサーラントの頭を胸で挟むように押し付ける。子供の頭くらいありそうだ。


「リムレイル、しつこいと振り落とすぞ」

「あはは、次は草原で全速力のサーラントに乗ってみたいな。でも人馬セントールって気に入った相手しか背中に乗せないって聞いたことあるんだけど?」

「そういう気位の高い奴もいる」

「サーラントはそのあたり気にしないよな。いつだったか子供を乗せたときには、他の子供が列を作って順番待ちになってた」

「あのときは流石に疲れたな」


 サーラントが手を伸ばしてリムレイルが馬体の背から降りるのを手伝う。降りたリムレイルは俺の頭に乗ってるノスフィールゼロを持ち上げて胸に抱く。


「ふかふかでスノー」

「じゃ、お茶でも飲んでから昨日の続きね」


 昨日の朝、ドルフ帝国の部隊と夜営していた俺たちのところに来たのは、この町のグレイエルフの女達とダークエルフの男達。

 その中にアムレイヤの手紙を届けに行ったシャララとネオールと面識のあるグレイエルフがいたので話は早い。

 その場でエルフもどきの黒装束の死体を見せて事情を説明。黒装束の遺体のひとつはドルフ帝国に。もうひとつの遺体はエルフ同盟に、と話をつけた。


 人間の親子3人は一旦、グレイエルフの町で預かることになった。隊長さんが早く本隊に連絡したいということで。


『ドルフ帝国でその3人を引き取るつもりだったが、その3人の証言が必要なのはエルフだ。まずはエルフ同盟の方に話をしておくべきだろう。対人間ヒューマンについてドルフ帝国とエルフ同盟で共闘するから、近いうちにその町にドルフの部隊が行くことになる。その親子3人とエルフもどきについてはその部隊とエルフで話し合ってもらおう』


 隊長さんと大草原巡回部隊はドルフ帝国の本隊に。蜘蛛女アラクネのネイディーがなかなかサーラントから離れようとしない以外は問題無く。

 俺たちはグレイエルフの町へと。

 森に不馴れな俺とサーラントでは、エルフのように木から木に飛び移るようなことはできないので、町に着くころには夜になっていた。

 アムレイヤのおねーちゃん、リムレイルとグレイエルフの族長に挨拶して、ノスフィールゼロを紹介して、エルフもどきの黒装束の騎馬兵をざっくりと説明。詳しい話は明日にしようとなって、その後、飯を食わせてもらってリムレイルの家で1泊。

 トンネル工事の話をするだけのはずが、なんかややこしいことに巻き込まれたな。人間ヒューマンのおかしな工作のせいで。


 リムレイルの家に戻ってシャララを起こしてからグレイエルフの町の中央、開けたところに行く。サーラントがグレイエルフの家の中に入れないため、外で会談することになった。

 森の中にも家が在り、この木の無い空間はグレイエルフにとっては他の種族を招くところでもあるらしい。

 いくつか白いテントがポツポツとある。

 外に出てきたグレイエルフと朝の挨拶などする。友好的というか、シャララとネオールが触るな凸凹についてなにか言ったのか、俺とサーラントは妙に注目されている。

 まぁ、エルフと小妖精ピクシー以外の客人がここでは珍しいというのもあるんだろうが。

 ネオールがたわわな果実に囲まれて立てなくなった、とか言ってニヤケていたが、それもちょっとは理解できる。


 グレイエルフの身長は170センチ前後、名前のとおりの灰色の髪とエルフ特徴の長い耳がある。肌の色はライトエルフほど白くも無くダークエルフほど浅黒くも無い。小人ハーフリング南方スパイシー種に近い色。

 エルフが寿命が長く美しい種族でグレイエルフも美人さん揃い。

 そしてタユンエルフとも呼ばれる種族特徴の巨大な胸。誰もがみんなバスト1メートル前後。

 薄着で姿勢が良くその胸を誇らしげに突きだしてくるのは、圧巻の一言。ぽむんぽむんだ。

 シャララがグレイエルフのひとりに挨拶ついでに胸に抱かれているのだが。


「パリオーが『おっぱいは神が俺のために用意した最高級のベッド』とかバカなこと言ってたけど、アムレイヤといいグレイエルフに抱かれると納得しちゃう」


 言いながら両手でその弾力をむにむにと確かめている。

 広場に用意されたテーブルに近づくと、アムレイヤの姉のリムレイル、それとグレイエルフの族長、レスティル=サハが席に着いて話をしていた。

 族長レスティル=サハと朝の挨拶。


「おはよう。他の面子が揃うまで座って待っててくれ。昨晩は眠れたかい?」

「俺は良く眠れて疲れもとれた。グレイエルフのポプリか? 枕から花の香りがして気持ちが落ち着くのはいいな」

「サーラントには寝床を用意できなくて、すまなかった。この町に人馬セントールのサイズに合わせたものは無くてな。鼻の調子はどうだ?」

「空気の濃いのに慣れなくて、昨日はくしゃみが出たがもう大丈夫だ。テントを借りたから寝てる間に夜露朝霧で濡れることも無かった。シャララとノスフィールゼロは?」

「ばっちり」

「元気でスノ」



 シャララは心配してないが、ノスフィールゼロは初めての旅になるから体調を崩さないか心配してたが、今のところ大丈夫のようだ。

 シャララとノスフィールゼロはテーブルの上にあるクッションに座る。

 俺も椅子に座る。高さを合わせるためにクッション四段重ねにして。サーラントはいつものように地面に座る。

 テーブルの上にあるプラムを貰ってかじってると、


「どうぞ」


 とハーブティーが出される。持ってきてくれたグレイエルフをまじまじと見てしまう。

 グレイエルフの子供か、身長は150センチくらい。長い灰色のサラサラの髪が背中に流れている。グレイエルフはみんなズボンを履いてるのにこの子はスカートだ。

 そして胸はぺったんこ。どうも子供の頃から巨乳、というわけでは無いのか。

 目が合うとにっこりと笑う。笑顔になるだけで回りがキラキラして見えるような、目の覚めるような美少女だ。


「なにまじまじと見てるのー? ドリン」


 シャララがニヤニヤ笑いながら。


「可愛い子だな、と。ちょっとミュクレイルに似ているから見いってしまった」


 サーラントも気になったのかスカートの美少女グレイエルフを見て、


「確かに目元がミュクレイルに似ている、か」


 俺とサーラントが見てると、恥ずかしいのか持ってるお盆で顔の下半分を隠してもじもじしている。

 ん? 恥ずかしがる?

 グレイエルフのアムレイヤもリムレイルも、胸を押し付けて相手の反応を見たりからかったりで、恥ずかしがってるとこなんて見たことないんだが。

 族長レスティル=サハに向き直って、


「ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「なにかな?」

「この町に来てからグレイエルフの女ばかりで男の姿を見ない。ドワーフみたいに男女の比率が違って、グレイエルフは男が少ないと聞いたことはあるんだが、男はどこにいるのか気になった。種族的なことで話せないならいいけれど」


 俺が言った直後にテーブルの上でシャララが腹を抱えて笑い出す。なんだ?

 族長レスティル=サハもリムレイルも苦笑している。


「他の種族から見るとそうなるのか」


 族長レスティル=サハが俺の隣の美少女を指差す。


「私の旦那様よ」


 は? 改めて隣に立つグレイエルフ、族長レスティル=サハの旦那様? を見る。

 どう見ても華奢な美少女にしか見えないのだが? 俺の無遠慮な視線に、足をもじもじと擦り合わせながら、


「やん」 


 と言ってお盆で顔を全部隠す。

 これがグレイエルフの男?


「この町でスカート履いてるのは男だから」


 リムレイルが教えてくれる。俺はスカートを履いてるのは子供だと思っていた。どうやら男がスカートで女がズボンという習慣らしい。ツボに刺さったのかシャララはまだテーブルの上で笑い転げている。

 族長レスティル=サハが、


「別に秘密でもなんでも無い。私たちには当たり前でわざわざ説明するようなことでも無かったし。グレイエルフの男女比率は3対7。女は身長は170センチ前後で男は150センチ前後。女より男のほうが華奢で小柄な種族だよ。で、男はだいたいスカートだ」


 リムレイルが続けて、


「男が家の中のことをして、女が狩りに出て男を守る。これが他の種族とは逆みたいね」

「それは初めて聞いた。どうりでグレイエルフの男の探索者を見たことが無いわけだ。他のエルフはどうなんだ?」


 族長レスティル=サハが眉を寄せて、


「それについては、ダークエルフはデリケートだから聞いちゃダメだよ。親しくなればこっそり教えてくれるかもしれないけれど」

「そうなのか? ダークエルフの女は、探索者には数は少ないが会ったことはあるんだが」

ダークグレイの過去の話になるけど、そこはちょっと詮索はしないであげて欲しいかな」

「エルフ同盟もいろいろあるんだな。仲悪いのか?」

「逆だよ。今ではダークグレイは仲良しだ。こっちに婿入りして住んでるのもいるよ」

「ふーむ。興味はあるが詮索しないで欲しいということなら聞かないことにする。思い返せば虫とか魚にはオスの方がメスより小さいのもいるわけだしな」

「アルムスオンの種族では珍しい方ということは知ってる。エルフ同盟でも小妖精ピクシー蝶妖精フェアリーも女の方が多いけれど、そっちは男と女で身長と体格の差は無いし。海の方のシーエルフも女が多いと聞いたことはあるけど、私も会ったことが無いからわからない。じゃ、ハーニー、ちゃんと挨拶して」

「ハーニーフートです。族長レスティル=サハの夫です。他に妻がふたりいます。シャララちゃんから聞いて、歴戦の探索者、触るな凸凹のおふたりにお逢いできてとっても嬉しいです。是非、冒険談を聞かせて欲しいのですが、いいですか?」


 上目遣いで可愛くお願いされた。声も高くてどう見ても華奢な美少女にしか見えない。これで妻が3人いるのか。いや、男女比率から見ると男は女の共有財産というところか?


「時間がとれたら、話をするぐらいなら」

「ほんとですか? ありがとうございます。楽しみです」


 バックに花が見えるような輝く笑顔。首も手足も細くて筋肉も無さそう。これがグレイエルフの男かー。しかも妻帯者。

 シャララが笑いすぎて出た涙を拭きながら、


「これはグランシアに言ってやろー。ドリンとサーラントが妻が3人いる旦那さんにポーっと見蕩れてたって」


 こいつ知ってて黙ってたな。サーラントも驚いている。


「むぅ。俺の今までの習慣のせいだろうが、どこから見ても女の子にしか見えん。歳はいくつだ?」

「240歳になります」


 ノスフィールゼロがふむふむと、


「エルフにもいろいろあるのでスネ。もっと教えていただきたいでスノ」


 族長レスティル=サハがハーブティーを一口飲んで、


「そのあたりの話は本題を終わらせてからにしようか」


 族長の視線の先を見れば、他のエルフがテーブルに近づいて来るところだった。


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