第45話◇謎の覆面黒装束集団、なんだこいつら?

◇◇小人ハーフリング希少種魔性小人ブラウニー、ドリンの視点に戻ります◇◇



「水弾!」


 水の塊を高速で飛ばしてぶつけてやる。馬に乗った謎の覆面黒装束の集団が襲ってきた。その一人の顔面にぶち当てて馬から落とす。なんだこいつら?

 駆けるサーラントの背に立ち乗りして、左手で魔術触媒を取り出す。


「シャララは上から援護してくれ」

「わかった!」


 俺の上着に入って顔だけ出してたシャララが、赤い蝶の羽で上空に飛ぶ。


「るうぅあっ!」


 サーラントの両手持ちフレイルが前を走る馬に乗る黒装束をぶっ飛ばす。そいつは馬の上から落ちて転がっていく。

 追われているのは二人の子供の手を引く女、どうやら人間ヒューマンらしい。親子か?

 それを追いかける覆面の黒装束の騎馬兵集団、そいつらと遭遇して襲われた。返り討ちにして追いかければ大草原に転がる人間ヒューマンの死体。この謎の黒装束騎馬兵に殺されたらしい。虚ろな目で空を仰ぐ人間ヒューマンの死体がポツポツと草の中に倒れている。

 サーラントが駆けながら聞いてくる。


「ドリン、なんだこいつら?」

「知るか。それを知るためにも追われているのを助けるぞ」


 ドワーフ王国の街、くろがねセンドーを出てエルフ同盟の森へと移動中。大草原をサーラントの背に揺られている最中。

 悲鳴の聞こえた方に行ってみれば、覆面の黒装束の騎馬兵達が襲ってきた。こいつらが人間ヒューマンを追いかけているとこに遭遇して、目にした俺達を殺そうとしたらしい。黒い覆面で目しか見えないが、こいつら大草原で何をやっている?

 サーラントが駆け抜けて追われて逃げる3人に追いついて、


「止まれ!」


 俺はサーラントの馬体から飛び降りる。3人の人間ヒューマンの前に着地。子供ふたりの手を引いてよたよた走ってた女はべしゃりと転ぶ。


「おかあさーん!」


 子供ふたりが覆い被さるように女にしがみついている。その後ろから馬に乗り駆けてくる黒装束。その手の槍を振り上げる。俺は倒れる女と二人の人間ヒューマンの子供に叫ぶ。


「死にたくなかったらそこを動くなよ、サーラント、行け!」

「おお!」


 サーラントが謎の騎馬兵に突っ込んで行く。俺は両手に魔術触媒を構えて防衛態勢。


「分解盾!」


 倒れた3人の人間ヒューマン親子を狙って放たれた雷槍を防ぐ。サーラントを避けて回り込んできた3体の騎馬兵のひとりが撃ってきた。

 雷槍なんて珍しいもん使う魔術師だな。走る馬に乗って制御難度の高い雷系、そこそこできる奴等か?

 前に出てうずくまる3人を背に庇うように立つ。この人間ヒューマンの親子を助けて事情を聞くか。

 3人の覆面の黒装束は俺を囲んでひとりが雷槍、ひとりが火弾の魔術を放つが、その全てを分解盾で打ち消してやる。おー、驚いてる驚いてる。小人ハーフリングの魔術師を見るのは珍しいか? 俺は魔術素質特化の魔性小人ブラウニーなんだよ。

 魔術に介入する錬精魔術は他者の魔術妨害も得意だ。サーラントの方はむこうのやつらを各個撃破と疾走中。

 じゃ、こっちもさっさと片付けるか。

 魔術が効かないと見た3人は近接戦しようと近づいてくる。


「創水!」


 3人1度にかかれば、ひとりは魔術に撃たれても残りふたりでどうにかなるとでも思ったか? 錬精魔術を侮るなよ。


「水弾! 連弾12!」


 ひとりあたり水弾4つ。ひとつは馬の顔目掛けて残りの3つは乗り手の顔と胴体へと。12の水弾を1度に放つ。

 驚いた馬は2体が転倒、残りの1体も馬がパニックになってる。驚く黒装束が濡れているうちに、


「氷結!」


 身体についた水を凍らせて動きにくくしてやる。速度と効果に変化をつける錬精魔術。そして地下迷宮での対魔獣戦闘で鍛えた実戦魔術だ。俺の得意な水の系統で難度の低い魔術なら、このくらいの速射連射はお手のもの。小人ハーフリングひとりと侮ってくれるならやりやすい。

 落馬した奴が起き上がって、無理矢理、氷を引き剥がして剣を振り上げてくる。お、なかなか頑張っているがちと遅い。


「ふんっ!」


 折り返して戻ってきたサーラントのフレイルで、黒装束が冗談みたいに空高く飛ぶ。メギョとか嫌な音を立てて、とっさに身を守った腕に関節が増えている。おかしな方向に曲がったまま宙を舞う。

 俺は追われていた3人を少しの時間守っていればいいだけ。その間にサーラントが片付ける。大草原で騎馬兵が人馬セントールのサーラントに勝てるとでも? アホかこいつら。

 ひゅるると地面に落ちる黒装束がごしゃっと嫌な感じの激突音を響かせる。ここしばらくいい天気で雨が降らなかったとはいえ、おかしなものを降らす必要は無いんだけどな。雨と違って血ヘドじゃあ草原の植物も喜ばんだろ。

 残った黒装束はやっと不利と感じたか、逃走していく。


「逃がさん!」

「サーラント! できれば生け捕りに!」

「わかっている!」


 追いかけて行くサーラントを見送りながら周囲を警戒。親子らしい3人は無事のようだ。子供の手を引いてた女はうつ伏せに倒れたまま、ぜぇぜぇと荒く呼吸している。


「氷盾!」


 嫌な気配を感じて振り向きながら、とっさに水の膜を氷結させた盾を作る。

 地面に倒れている黒装束が吹き矢を構えていた。死んだフリでもしてたか。

 だがその黒装束はあさっての方向に狙いをつけて吹き矢を飛ばした。寝転んで上半身を片手で支えたまま。俺から見て左の草原を睨んでいる。視線の先を追って見れば、そこには俺そっくりの小人ハーフリングがいる。喉に吹き矢を射たれて目を見開いて驚いている。苦しそうにバタバタともがくもうひとりの俺。あ、バタリと倒れた。

 黒装束の男はうつ伏せのまま満足そうに呟く。


「よし」

「何が、『よし』か」

「な? げはぁっ!?」


 俺は吹き矢を構えて勝ち誇る男の顎を思いっきり蹴り飛ばす。


「水球、氷結、と」


 黒装束の男の両手と両足に水の球をまとわりつかせて凍らせる。吹き矢をくらった俺とそっくりの小人ハーフリングは、風に吹かれる蝋燭の火のように消えていく。

 頭の上から、ふふんと自慢気なシャララの声。


「ドリン、油断した?」

「気を抜いてたつもりは無いけどな」


 シャララの作った幻覚に吹き矢を飛ばした黒装束の男は白目を剥いて気絶中。


「俺が喉に吹き矢をくらってるとこなんて初めて見た。表情とか悲鳴とか、シャララの幻覚は作りが細かいな」

「えへーん!」


 シャララの得意な幻覚系の魔術。黒装束はシャララの作った幻影に吹き矢を打って喜んでいたわけだ。


「それで上から見たところ、もう安心みたい。ここでのびてるの以外はみんな逃げたよ。私の作った幻影のサーラントを追いかけた騎馬兵6体はあっちの方に」

「ぎゃああああ!」


 シャララの指差す方から魂消る悲鳴。続いて馬の足音。見渡す限りの大草原だが、小高い丘の向こうで何があったか解らない。

 サーラントの行った方向では無いから、シャララの幻覚に気づいた黒装束が戻ってきたか? なんで悲鳴?


「シャララは下がってろ」

「見くびらないでよ、ドリン」


 腰の後ろのメイスを確認してから、両手に魔術触媒を構える。いつでも水弾、氷槍を撃てる準備をして待ち構える。

 シャララも俺の隣で宙に浮いたまま、両手を開きいつでも対応できる構え。


「早く早く、急いで急いで、捕まえて」


 シャララの支援魔術が俺の反応速度を強化する。幻覚系が得意と言いつつ、シャララは支援もこなす。40層級は伊達じゃない。

 何が来るかと待っていると、現れたのは4人の兵士。人馬セントールが3人。鎧を見るとドルフ帝国の兵士のようだ。

 その真ん中にいるのは、黒い大蜘蛛に乗った黒い鎧の女騎士?

 その女が近づいてハルバードの切っ先を俺にビッと向ける。


「何故、小人ハーフリング人間ヒューマンといる? お前はこの人間ヒューマンの一味か!」


 なんか言ってるが、俺は初めて見る種族への興味でついその女をジロジロ見てしまう。

 黒い鎧に身を包んだカッコいい女騎士といった感じ。ゴツいハルバードを持ってるあたり、見かけより筋力があるんだろうか。赤い目で俺を睨みつけている。青い髪は後頭部でポニーテールに結んでいる。

 頭の無い大きな黒い蜘蛛に人間ヒューマンの女のような上半身が乗っている種族。

 これが蛇女ラミア亜種蜘蛛女アラクネか。

 白蛇女メリュジンのように下半身が異形で女しかいないという種族。肉食でもと異種族喰い。

 前に黒浮種フロートがサーラントをかっこいい合体生物って言ってたけど、蜘蛛女アラクネもカッコいい。黒い大蜘蛛に黒い鎧もちょいワルって感じ。


「答えろ! 小人ハーフリング小妖精ピクシー! ここで何をしている!」


 厳しい目つきの蜘蛛女アラクネが聞いてくる。回りも人馬セントールの兵士にザッと囲まれた。

「ちょっと、ドリン」


 シャララにつつかれて我に帰る。


「あぁ、すまん。蜘蛛女アラクネを見るのが初めてで、そのカッコ良さに見惚れてた。ジロジロ見て悪かった。噂に聞いて想像してたよりも美しい種族なんだな」

「な、お世辞で誤魔化すつもりか? あの方と同じことを口にする者がいるとは。ここで何をしているか答えろ、小人ハーフリング!」

「そっちこそ何をしている? 見たところドルフ帝国の草原巡回の部隊のようだが?」

「聞いているのはこちらだ。なぜ人間ヒューマンと共にいる? あの覆面連中は何だ?」

「それはこっちが知りたい。お互いに落ち着いて話をする必要がありそうだ。武器を下ろしてくれないか」

「怪しいな、このまま捕縛する。連れ帰って全て吐かせてやる」


 乱暴なことを言う。さっさとエルフの森に行きたいところで、ここで足止めされたくは無いんだがな。

 さて、どう説得するかと考えているとサーラントが戻ってきた。肩に黒装束をひとり担いでいる。


「む、ドルフの兵士か?」

「サーラント、お前から説明してやってくれ。俺たちは人間ヒューマンの一味じゃ無いってな」


 サーラントならドルフ帝国の人馬セントール兵士に知ってる奴とかいるかもしれんし。あれでもドルフ帝国の王子様だからな。

 目の前の蜘蛛女アラクネに視線を戻すと、ん? なんかサーラントをビックリした顔で見てる。ぷるぷると震えて、ハルバードをぽいっと捨てて両手を組んで、


「あぁ、サーラント様~ん」


 上半身をくねくねさせながらサーラントに近づいていく。

 なんだ、またサーラントのファンか?

 あいつほんとに女にモテるなぁ。それを見てたシャララが呆れたように口にする。


「ねぇ、触るな凸凹って異種族の女にモテるのを競ってたりするの? それとも只の趣味なの?」

「サーラントは昔から女にモテるが、それで俺をあいつと一緒にするのが理解できん」

「シャララ、俺はドリンと違って女をたらしこんだりしたことは無い。女の方から寄ってくるだけだ」

「サーラント、その発言はモテたい三傑衆に聞かれたら殺されるぞ。あと俺を軟弱ナンパ野郎みたいに言うな。俺は相手の好意に正直に応えているだけだ。お前と一緒にするな」

「節操の無いドリンには言われたくは無い。俺はドリンと違って勇者では無い」


 ムッツリが何を言ってんだか。俺は好奇心もあるが、求められたら素直に応えているだけだ。口説いてたらした憶えは無い。シャララは俺とサーラントを比べるように見下ろして言う。


「ふたりとも背中から刺されないように気をつけてね」


 呆れたように言われた。解せん。

 サーラントは気をつけた方がいいな。俺は大丈夫だ。割りきった大人の付き合いをしているだけで、たまにグランシアに首を締められる程度だから。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る