第44話◇シュドバイル主役回◇それでは報告会を始めます、後編

◇◇白蛇女メリュジン神官、シュドバイル視点になります◇◇



 なんだか微妙な空気になってしまったけど、どうすればいいのかしら?

 ノクラーソンに声をかけようとしても、言葉が出てこない。人間ヒューマンは探索者のみんなが嫌ってる種族で、私も初めてだから気後れしてしまう。

 レッド種は親切な方ばかりだけど、人間ヒューマンのことは大嫌いだというし。人間ヒューマン人間ヒューマンレッド種を違う種族と考えて欲しいって教えてもらってるし。

 そうなると人間ヒューマンノクラーソンをどう扱っていいかが解らない。

 私が困ってるとカゲンが立ち上がって話してくれる。


「ノクラーソンについては監視として白蛇女メリュジンについてもらう。ノクラーソンも不便だとは思うが、ドリンとサーラントが戻ってくるまでここにいてもらう。監視から逃げようとしなければ、好きにしてもらって構わない」


 小妖精ピクシーのひとりが飛んで来てノクラーソンの頭の上にとまる。たしか部隊パーティ小姉御ちいさなあねさん部隊長パーティリーダー

 大鬼オーガをアゴでこきつかう姉さん気質の小妖精ピクシーロスシング。


「ノクラーソンはうちの大事な部隊仲間パーティメンバーなんだからね。酷い扱いしたら許さないよ!」


 当のノクラーソンが気にするなと、


「心配はいらんよ、ロスシング。縛られてもいないし飯は踊る子馬亭で食わせてもらっている。しかし、ただ飯食らいとも呼ばれたくは無いから、預かり所の財宝鑑定などさせてはもらえないだろうか? 力仕事はさしてできんからな」

「鑑定ではマルーンの街で1番のノクラーソンにやってもらえるなら有り難い。ついでに白蛇女メリュジン黒浮種フロートに鑑定とか商取引なんてのも教えてもらえると助かる」

「引き受けよう」


 カゲンとノクラーソンが握手をする。人間ヒューマンて探索者のみんなが言うほど酷い種族じゃ無いのかも。

 そんなことを考えてたらヤーゲンが、


白蛇女メリュジン黒浮種フロートに忠告しておくが、ノクラーソンが特別なんだ。他の人間ヒューマンをノクラーソンと同じに考えない方がいい」


 と、注意された。探索者達がざわざわとして、


「確かにノクラーソンは人間ヒューマンにしては変わってるからなぁ」

「性格は狼面ウルフフェイスに近いんじゃない?」

「徴税所の奴等もノクラーソン以外はクズばっかりだし」

「ノクラーソンは査定に厳しいけど、嘘はつかないし賄賂とか要求しないしね」

「だから人間ヒューマンの群れから追い出されたんだろ?」

「私、新米探索者がノクラーソンに助けてもらった話、聞いたことある」

「私は治癒術でノクラーソンに命を助けてもらったぞ」

「本当か? やるなぁ、あのカイゼル髭」

「まったく人間ヒューマンにしておくのは惜しい奴だ」

「でも他の人間ヒューマンが気持ち悪いから、ノクラーソンのマトモさが際立つのかもよ?」


 探索者達がわいわいがやがや。ノクラーソンは、なんだか照れている? そっぽ向いてるけど耳が赤いような。


「私はノクラーソンがこの里で自由にすることには反対だ」


 猫娘衆で裸になるのを嫌がる恥ずかしがりやさんのレッド種、カームが立ち上がって発言する。


「ノクラーソンは人間ヒューマンにしては珍しくまともだ。だけど人間ヒューマンに詳しくない白蛇女メリュジン黒浮種フロートがノクラーソンを見て、これが人間ヒューマンだと勘違いすると後々困ることになるからだ。ノクラーソンは監禁して外に出さないようにした方がいい」


 ほんとに人間ヒューマンて嫌われてる。いったいこれまで何をしでかしてたの?


「私は個人的には人間ヒューマンは全滅してアルムスオンからいなくなればいいと考えている。かつて人間ヒューマン豚鬼オークを殺し尽くしように。今度は人間ヒューマン豚鬼オークのようにこの地上からいなくなればいい」


 カームの言いぐさに、さすがにちょっと心配になってノクラーソンに近づいて表情をうかがう。大丈夫?


「シュドバイル、心配してくれるのは有り難いが、人間ヒューマンは言われても仕方ないことをこれまでやってきたのだよ」


 寂しそうに言うノクラーソンがなんだか可哀想になって、ついノクラーソンの手を握って胸に抱く。他の人間ヒューマンは知らないけど、ノクラーソンは悪い人じゃ無いのでは。


「ちょっとー、シュドバイル。それ逆効果だから。ノクラーソンの敵が増えるから」


 グランシアに言われて振り向くと、探索者の男性を中心にノクラーソンに殺意の視線が飛んで来てる。あら?

 ノクラーソンも私のおっぱいに手をあてて顔が真っ赤になってる。あらー?

 えーと、私が仕切らないといけないのよね。


「私たち白蛇女メリュジンは確かに人間ヒューマンのことを知りません。それを知るためにもノクラーソンからいろいろ教えていただきたいと考えます」


 ひとりだけ監禁とか可哀想だと思うもの。灰剣狼の貫禄のあるお髭のディープドワーフ、ガディルンノさんが落ち着いた声で、


人間ヒューマンを含めて地上の種族のことはわしらが教えていくしかあるまい。ノクラーソンが特例ということも含めて。軽々しく種族全滅とか口にするもんじゃあないぞ、カーム」


 グランシアが続けて、


「そうだね。それに地上は人間ヒューマンの数が多すぎて全滅させるのはちょっと無理そうだし。それにドリンが人間ヒューマンはアルムスオンに必要だって言ってたし」

「ドリンがそんなこと言ってたの?」


 私がグランシアに聞いてみると、グランシアはうんと頷いて、


「私もカームと同じことドリンに聞いてみたことがあるんだよ。そのときにドリンが『まだ具体的に説明できるほどまとまっていなくて、ほとんどカンだけど。人間ヒューマンの存在が他の種族にとっては重要だ』って言ってたんだよ」


 ドリンが? どういうことなんだろう? 

 探索者、白蛇女メリュジン黒浮種フロートがざわざわしてる中、パンと手を打ち鳴らす音がする。みんなが両手を合わせたカゲンに注目する。


「そのドリンの話には興味があるが、今はそのドリンがここにいない。それに人間ヒューマン談義になればそれだけで日が暮れる。一旦脇に置いて他の話を進めよう。ノクラーソンの扱いについては俺とロスシングに預けてくれ。カーム、それでいいか?」


 カームは不満そうだけど、わかったと言って座り直す。

 そうね、他にもいろいろあるから。


「えーと、では次にトイレについてですが」

「トイレ班長、鷹人イーグルスのネオールだ。ボランギとルノスの連れてきてくれた職人の協力もあって、屋根つきトイレが完成した。探索者の拠点と白蛇女メリュジンの集落に黒浮種フロートの研究所前の三ヶ所。トイレの天井は黒浮種フロートの新素材なんだけど、なにか不都合あるか?」


 白蛇女メリュジン代表で私から、


「壁に囲まれたトイレには馴れないけれど、天井が透けてて空が見えるのはこれまでどおりで今のところ問題無いわ」


 探索者の方は、銀と黒の縞模様の髪が素敵な猫娘衆の猫尾キャットテイルのネスファが手を上げて。


「空が見えるトイレは落ち着かないけれど、白蛇女メリュジンの目隠しと同じで外からは見えないのは確認したわ」

「そうか。探索者拠点の建物の方にもトイレ作っていって、今ある簡易型は撤去していくので。もう空飛ぶ種族が覗き魔呼ばわりされないぞ。あと、トイレについては黒浮種フロートから一言」

黒浮種フロートのトリオナインデス。排泄物に関してでスガ、肥料にできないかとトイレ設備と合わせて研究中デス。なので林でちょっと用を足すのはやめテ、トイレを使って研究に協力してくだサイ。お願いしマス」

「で、今後はトイレ及び水回り関連はボランギに担当してもらうので」

「えー、ディープドワーフのボランギだ。俺とドワーフ職人でトイレ含めて建物、設備を充実させてゆくので要望などあれば俺のところまで。あとは全裸会なんだけどー」

「今は服着てるけど全裸会会長グランシアだ。なに?」

「全裸会の活動を北の方の林でしてくれないか? 探索者拠点からは白蛇女メリュジンの集落挟んでるから、男の探索者もそっちにはあまり行かないだろうから」

「真っで草原走るのが気持ちいいんだけど?」

「山羊の放牧に山羊の乳の加工所、武器と鎧の加工する建物作りたいんだよ。ちょっと場所譲ってくんね?」

「仕方ないね。じゃ全裸会は今後は白蛇女メリュジンの集落の北でやろう」

「次に防衛関係ですが」

「猫娘衆、猫尾キャットテイル希少種豹種のゼラファだ。人間ヒューマンのみで結成された部隊パーティが16層まで来てる。斥候というところだ。25層を越えるまではこちらから手は出さないが、地下迷宮に行く探索者は人間ヒューマンとの遭遇に気をつけてくれ」

「魔術指導員、灰剣狼のダークエルフ、スーノサッドだ。10層級と20層級の探索者は部隊パーティ編成を見直したわけだけど、新しい部隊パーティに不安があれば白蛇女メリュジンの戦闘訓練に付き合って欲しい。そのついでに部隊パーティ編成見直しとか考えてもらうと都合がいいんじゃないか?」


 進行役ってそんなに気負うことも無いわね。しっかりした方ばかりで探索者って頼れるわ。私たち白蛇女メリュジンも彼らに甘えてばかりではダメね。


「これで一通り終わったのかしら? 皆さんなにかありませんか?」


 カゲンが手を上げる。


「はい、カゲン」

「現在、対人間ヒューマン用の秘密兵器を黒浮種フロートの研究所で作っているわけだが、これに金と銀とが必要だ。地下迷宮で取れる金粒と銀粒、それを秘密兵器の材料として寄付を求めたい。それなりに量が必要らしい」

「その秘密兵器って?」

「触るな凸凹発案で詳しくは話せない。だがこの先に必要となる、ということだ」

黒浮種フロートセプーテンでス。ただ寄付を頼むのも申し訳ないノデ、鎧を売りマス。ドワーフ職人との共同研究で作った、鋼とセラミクスと強化樹脂の複合装甲鎧ハイブリッドアーマーのオーダーメイド、こちら試作になりますがいかがでスカ?」


 黒浮種フロートもいろいろ作れるようになって、すごく楽しそう。

 ドリンからは黒浮種フロートの護衛を白蛇女メリュジンに頼まれてるからそれは私達でしっかりやらないと。

 黒浮種フロートは熱中するとご飯も忘れて睡眠不足になるから、それは私たちがサポートしないとね。


「紫のおじいちゃんからは何かありますか?」


 目を細めて私達を見ていた古代種エンシェントドラゴン。紫のおじいちゃんは微笑んでいる


「んー? こんなにいろんな種族が仲良くやってるの見てるのは、おもしろいのー。そうじゃのー。酒の作り方については昔の作り方を教えたわけじゃが、うまくできたら味見させてほしいのー。で、シノスハーティル。族長なんじゃから、最後の締めくらいは族長がやったらいいんじゃないかのー」

「え? あ、はい」


 紫のおじいちゃんに呼ばれてシノスハーティルが立ち上がる。銀の杖を一振りしてキリッとして。族長、がんばって。


「皆さんこれからも密に連絡をとり協力していきましょう。トンネル工事はくれぐれもケガなど気をつけてください」


 うん、シノスハーティルもちゃんと落ち着いて見える。目隠しがあると視線がキョロキョロしてるのがバレなくていいわね。


「それでは報告会を終わりましゅ」


 最後に噛んじゃったわね。


「……おわりましゅ」


 ちょっとミュクレイル。


「おわりましゅ」

「おわりましゅ、かー」


 パリオーもグランシアも容赦無いわね。


「いや、さすが白蛇女メリュジン族長」

「癒されるなぁ」

「シノちゃん可愛いのう」

「おわりましゅ、だってー」

「よし、穴堀りがんばるか」

「こっちは地下迷宮いくぜ」

「金粒と銀粒集めてくりゃいいんだろ?」

「楽勝、任せい」

「ね、族長って天然? それとも計算?」

「狙ってたらあんなに赤くはならないんじゃない? ほら首まで真っ赤」


 みんな容赦無いわねー。でも視線の魅了無しでこんなに人気あるというのは、シノスハーティルの人徳よね。うん。

 私がしっかりもののお姉さん神官で、シノスハーティルが天然癒し系族長で、ミュクレイルが物怖じしない突撃少女で、住み分けができているとかパリオーが言ってたけど、どういう意味なのかしら?


「ふぇ、シュドバイルぅぅぅ」

「あぁ、よしよし。泣かない泣かない」


 目隠しって便利ねー。涙も隠せる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る