第43話◇シュドバイル主役回◇それでは報告会を始めます、前編

◇◇白蛇女メリュジン神官、先代族長、現族長の叔母、シュドバイルの視点になります◇◇



 明るい空、緑の草原、五千年変わることのなかった小さな平和な世界。

 それが私たち蛇女ラミア亜種、白蛇女メリュジンの住む隠れ里。

 優しいおじいちゃん、紫色の古代種エンシェントドラゴンに見守られて。

 可愛い黒浮種フロートを友にして。

 歌い踊り、刺繍を競い、いちおう魔術と戦闘の訓練もしたりして。

 いつまでも続く、平和で穏やかな日々。


 それがまぁ、あっという間に変わってしまった。白蛇女メリュジンみんなにこれからの不安と怖れはあっても、興味と期待と喜びと楽しみと嬉しさで毎日笑顔。毎日が新しい発見と変化と出会い。ワクワクすることばかり。

 白蛇女メリュジンが望んだ小さな世界の大きな変化。


 これは私がグリンとイチャイチャしてミュクレイルを産んだことにも原因があったりするんだけど。

 だってグリンって優しくてカッコ良くて抱き心地最高なんですもの。いろんなこと知ってて話しててもおもしろいし。

 女しかいない白蛇女メリュジンは女同士で子供を作るのが当たり前になってたけど。

 グリンと子作りするのがあんなに気持ちいいなんて知らなかったんだもの。女同士も気持ちのいいものだけど、グリンはすごく良かった。いろんな種族に可愛がられる小人ハーフリングでテクニシャン。

 ドリンもなかなか良かったけど、グリンと比べちゃうとテクニックと強引さがもうちょっとあるといいかな。

 そんな私とグリンとミュクレイルを、他の白蛇女メリュジンがうらやましそうに見てて、あの頃はみんな遊者の集いに甘えていたっけ。


 そんな探索者がたくさん増えて、初めて見る異種族もいる。みんな優しくて楽しい方ばかり。白蛇女メリュジンは探索者にちやほやされて、外の世界の話には興味津々。まだ外の世界はちょっと怖いけど、それもなんとかなりそうな気がしてる。

 白蛇女メリュジンの視線の魅了チャームを抑える目隠し用の布も、ドリン発案で黒浮種フロートが作ってくれたから、私たちの心配も無い。

 片方の面からは透けて見える目隠し。

 視線の魅了チャームが抑えられるなら、他の種族とちゃんと話ができる。

 私たちが相手を魅了して相手の本心を歪ませているわけでは無い。

 エルカポラで試させてもらって蟲人バグディスには魅了チャームの効果は無いということも解った。他には異種族の女性には効果が減少することも新発見。

 遊者の集いのみんなは抵抗レジストしてくれたけど、目隠しがあればお互いに自然に話せる。

 そして、そんな話し合いの場に、


白蛇女メリュジンが進行役をするの?」


 場所は紫のおじいさんの前。

 集まったのは白蛇女メリュジン黒浮種フロート、探索者。かなりの人数がいて賑やか。

 というか、今この隠れ里にいる人達がほとんど集まって来てるんじゃない?

 ずいぶんと増えたのねー、ここの住人。


「ドリンとサーラントがいない間はカゲンが仕切るんじゃないの?」


 狼の顔を持つ頼りがいのある種族、狼面ウルフフェイスのカゲンに聞いてみる。


「確かに触るな凸凹がいない間は俺に任されてはいる。だがな、俺達探索者はここを拠点に使いたいとお願いしてる立場だ。この先のためにもこの地でなにかを取り仕切るのは、もともとこの隠れ里に住んでいる者に任せたい」


 カゲンの弟のヤーゲンが続けて説明。


「触るな凸凹主導で探索者が好きにやらせてもらってるが、俺達はここを乗っ取るつもりは無いんだ。そこをちゃんとしようかってことなんだ」


 いろいろ考えてくれているのね。それならと白蛇女メリュジン族長のシノスハーティルを見ると、


「それではシュドバイル、お願いします」


 あ、うん。これはダメね。

 シノスハーティルは赤い目隠しで、肩から赤い飾り布を下げて銀の杖を持っている。族長らしくキリッとした顔でとぐろを巻いて座ってるけど。

 何事も無ければシノスハーティルはちゃんと族長ができる。だけどまじめに考えすぎるところのあるシノスハーティルは突発的な出来事に弱くて、アドリブが効かないの。

 今も余裕のある態度を崩さないようにするのが精一杯で、すでに頭の中はいっぱいいっぱいになっている。

 探索者のいろんな種族が集まってわいわいがやがや。

 シノスハーティルを見ると、


(これを仕切るの? ムリムリムリムリ! シュドバイルお願い、助けてー!)


 と、顔に書いてある。

 これで進行役とかやらせたら泣いちゃうかも。このあたりは娘のミュクレイルをちょっと見習ってほしい。

 そのミュクレイルは集まった探索者の中をチョロチョロして、頭を撫でられたりしてる。

 ミュクレイルが白蛇女メリュジンの中で1番幼いけど、若い白蛇女メリュジンは物怖じしないで探索者の中に入っていく。

 今では探索者の部隊パーティと一緒に地下迷宮に潜ったり、踊る子馬亭で接客をするようにもなった。


 猫の耳に猫の尻尾の種族、猫尾キャットテイル。その希少種獅子種で友人になったグランシアが私の肩を抱く。


「この先、白蛇女メリュジンもエルフ同盟とかと交渉することもあるかもしれないから、こういうのに慣れといてってこと」


 どんなことでも楽しむグランシアのにやにや笑いを間近に見る。このグランシアが探索者の中で最強の女戦士って後で知って驚いた。

 今ではドリンが帰ってきたら3人でいいことしようと約束する仲に。


「まぁ、難しく考えるようなことは無いって。フォローするから」


 仕方ない。私は自分の目隠しの位置を直して、肩にかけた黒い飾り布の端を左手に絡めて立ち上がる。右手の杖を一振りして集まった皆に注目してもらう。


「それでは報告会を始めます」


 パチパチパチパチ。

 なんで拍手なの? あと、お姉様とか聞こえたけど。だれ?


「まず始めに、皆さんもう知っているかもしれませんが、里に来た新しい客人をご紹介します」

「ソレガシ、パルカレムと申します。種族は蟲人バグディス。エルカポラとは同じ巣の一族。どうぞお見知り置きください」


 パチパチと拍手の音。

 蟻のような顔をした4本腕の蟲人バグディス。灰剣狼のトンネル工事班長エルカポラが立ち上がる。


「パルカレム殿は我が巣の誇る土系統魔術師ですぞ。我らが巣の増築改築修繕を行う、言わば地下都市設計のエキスパートですぞ」


 蟲人バグディスの大きな蟻のような顔は初めて見たときは驚いたけれど、エルカポラで見慣れると目とか可愛いかも。

 そのパルカレムが四本の腕を開いて、


「この場を借りて我らが女王の意思を伝えます。『このパルカレムを好きに使って下さい。代わりに我らが巣の同胞に百層大迷宮への探索拠点を使わせて下さい』以上です」

「わっかりやすいなー。ぶっちゃけたなー」


 灰剣狼の邪妖精インプ、お人形のように可愛らしいパリオーが声を上げる。パルカレムは、


「ソレガシ、人間ヒューマンレッド種としか交流したことは無いので。女王の側近として巣から出るのも初めてのこと。異種族と言葉を交わすことに不慣れゆえ、無礼、失礼などあれば平にご容赦願います」


 畏まり過ぎるような気がしたので、何か言った方がいいわよね。


「パルカレム、白蛇女メリュジンを代表して歓迎します。ようこそ我らが里に。蟲人バグディスの方々は他の探索者と同じようにこの地へ迎えますわ。我らの方こそ蟲人バグディスの習慣に疎く、なにか失礼なことなどあればお許し下さい」


 にっこり笑ってご挨拶。

 パルカレムは触覚をピコピコさせて、


「力を求める者、知恵を求める者、地下迷宮へと挑むべし。しかし、我らが巣から行けるところには小迷宮しか有りませぬ。百層大迷宮への道は渇望しておりました」


 そこに住んでた私たちには分からないけど、百層大迷宮は地上でとても価値があるみたい。


「そしてソレガシ、白蛇女メリュジンに希望を見せていただきました。我ら蟲人バグディスは虫のような姿ゆえ、他の種族より不気味に感じられることも多く、巣にこもりあまり異種族と交流することの無い種族」


 なんだかちょっと共感する話ね。理由は違っても白蛇女メリュジンも他の種族と仲良くできるか不安だったもの。


「我らが女王が『我らが巣を守るために、他の種族のことも知るべき』との方針に従い、エルカポラのように巣の外を調べるハグレを増やしました。他の種族に怖れられる異種族喰いでありながら、大鬼オーガの一族などは今では上手くやっている様子」


 たくましい身体の大鬼オーガ1本角ユニ種のディグンが、いやいやと手を振る。


「いや、2本角バイ種の1部はいまだに昔の暮らし方をやめてなくて、もめることもあるぞ」


 そういうことも地上ではあるのね。智者憲章とか言うのだっけ。


「我らが蟲人バグディス、他の種族に不気味に思われていると感じ、いささか引っ込み思案なところがあります。それが同じような悩みを持っていたという白蛇女メリュジンが、これほどの数の探索者達に慕われる。見習わせていただきたい」


 他の種族に怖がられるから、喧嘩になるから引っ込んでいようって、白蛇女メリュジンだけじゃ無かったのね。


白蛇女メリュジン黒浮種フロートとの友好のため、我々蟲人バグディスが信頼を得るためにも、このパルカレム粉骨砕身の覚悟でトンネル工事、お手伝いさせていただきます。ご静聴ありがとうございまする」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 拍手、パチパチパチパチ。

 グランシアが手を上げて、


「じゃ、パルカレムを連れて来てくれたレッドから一言」

レッド代表、リアードだ。1度だけパルカレムの故郷の巣に行ったことがあるが、素晴らしいものだった。美的感覚が違うから少し不気味に感じるところもあったが、それ以上に厳かで神秘的な美しい地下都市だった。それを管理する魔術師のパルカレムは女王の側近であり、そのパルカレムを巣の外に出すのは本来ではあり得ないことだ。それだけ蟲人バグディスの女王が本気だと知っておいてほしい」


 レッド種の方々はいつも気を遣ってくれる。種族間の小さな揉め事はレッド種任せになってしまっている。ええと、


白蛇女メリュジン黒浮種フロートから蟲人バグディスの女王に、お礼の手紙とか贈り物とかした方がいいのかしら?」


 聞いてみるとパルカレムが手を上げて、


「それはソレガシとエルカポラの働きぶりを見てからにしていただきたい」


 エルカポラは十分に働いてくれてるけど、パルカレムは自信満々に言う。蟲人バグディスの土系統魔術ってそんなにすごいのかしら。土系は私も少し使えるから教えてもらおうかしら。

 トンネル工事が更に進みそうね。


「次にもう一人の客人をご紹介します」

「ノクラーソン。種族は人間ヒューマンだ。現在は軟禁中の身だが、よろしく頼む」


 ………………



 みんな静かになっちゃった。この空気、どうすればいいの?

 ちょっとグランシア、ひとりで笑ってないでフォローしてよ。フォロー。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る